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本編
58話 胎動再び その13
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「お疲れー」
夕食時になりユーリは研究所の連中を引き連れて食堂へ入る、すると、
「お疲れ様です、ユーリ先生、今日はありがとうございました」
妙に機嫌の良いエレインがニコニコと満面の笑みで研究所組を迎える、
「ん?なに、急に、らしくない」
ユーリはまた何かあったかなとめんどくさそうにいつもの席に着き、他三人もやれやれと腰を下ろした、
「そんなー、皆さんのお陰ですよ、まずはあれです」
エレインがオリビアへ視線を向け、オリビアは隠していたのか足元の布袋をテーブルに置くとガサゴソと何やら取り出す、勿論であるが何かを始めたぞとミナと新入生達の視線が集まり、その正体を知っているジャネットとケイスは薄ら笑いを浮かべていた、
「こちらです」
オリビアはそっとガラスの小瓶を研究所組のテーブルに置く、御叮嚀に端切れの布を敷いて何とも厳かな雰囲気である、
「あら、可愛らしい」
「あー、出来たんだ」
「いい色ですねー」
「わっ、もう?」
四者それぞれの反応にエレインはニヤリと微笑むと、
「はい、サビナさんとカトカさん、ゾーイさんのお陰で完成しました、六花商会特性、高級やわらかクリームです」
どうだとばかりに踏ん反り返る、
「へー、あー、良い感じじゃない、高そうな雰囲気だわねー」
ユーリは自然と小瓶に手を伸ばし、生徒達はなんだなんだと腰を上げて覗き込む、
「で、結局どうなったの?」
オリビアがさらに数本の小瓶を取り出し、ユーリは手にしたそれをしげしげと見つめた、見た目だけではガラス小瓶に入っている事とその首にレースが巻かれている事意外に大きな変更点は見当たらない、
「はい、いろいろと検討しまして、ジャネットさん」
エレインはここは実際に作業に携わった者に発言の機会を譲ろうと振り返る、
「ふふーん、えっとですね、最初手と顔と唇でそれぞれに作ろうかと思っていたのですが、どうも手と顔用のは同じでいいんじゃないかなって事になりまして、で、ただそれだと面白くないので、柔らかいのと固いのとって感じで別ける事にしたのです」
ジャネットはエレインの目配せに流麗な説明で答えとし、
「なので」
とオリビアへ視線を送る、オリビアは小さな布の包みを取り出してテーブルに置いた、
「あら、これは?」
「はい、小瓶に入っているのが柔らかいのと固いのなんですが、こちらは唇用の棒状に形成したものです」
ジャネットは説明しつつテーブルに勿体ぶって歩み寄ると、包みを開いて見せた、
「あら、これもあれ?やわらかクリーム?」
中には三本の黄色い棒状の物体が並んでいた、子供の小指程度の大きさである、微かにリンゴの香りもする、
「そうなんです、今日はこれを作るのに苦労してまして、リーニーさんとマフダさんと一緒になって、ね」
ジャネットがケイスに目配せするとケイスは嬉しそうにコクリと頷く、
「へー、凄いね、そっか、ソフィアが何かそんな事言ってたね」
「そうなんですよ、で、出来るかなって思ったら思いの外上手く出来まして、で、持ち運べるように小さくして、使い易いように丸めてみました」
ジャネットは中々に難しい道のりだったのではないかと思われる開発経緯を端的に言葉にする、ヘーとユーリは素直に感心し、サビナとカトカは大したもんだと笑顔を浮かべ、ゾーイはこの突拍子の無さは一体なんであろうと目を丸くしている、
「どうぞ、使ってみて下さい」
オリビアはさらに四人それぞれの前に包みを置き、さらに、生徒達にも、
「皆さんは一本ずつですよ」
と配り始める、
「いいんですか?」
恐る恐ると受け取ったグルジア達はやはり遠慮気味に問い返すが、
「構いません、是非使ってみて下さい、感想とか改良点とか伺いたいですわ」
エレインの自信満々の笑顔を見て、
「わー、嬉しい」
「うん、可愛いね、良い香りだなー」
「お腹空いちゃう・・・」
「それは夕飯前だからでしょ」
「えっと、どうやって使うんです?」
「やわらかクリームと一緒?」
手にした黄色の棒を手にして早速と姦しい、さらに、
「ミナもいいの?」
オリビアはミナにも一本持たせており、ニコリーネやレインにも手渡すと、
「勿論です、でも、食べ物ではないですので、こうやって使うのですね」
とオリビアは腰に下げた木工細工を開いて自分のクリームを取り出すと、
「たぶんですけど、こんな感じです」
と唇に塗り付け軽く上唇と下唇を擦り合わせる、
「わっ、何か色っぽい」
「うん、えっちーな感じ」
「そう?時々やらない?」
「意識した事無い」
中々見ない仕草であった、オリビアは若干恥ずかしそうに苦笑すると、
「さ、どうぞ」
と一同を見渡す、生徒達と研究所組はまじまじと手にしたクリームを見つめ、若干警戒しながらも見様見真似で唇に塗り付けた、
「ふふ、どうかしら?」
エレインが感想を促すと、
「塗りやすいわね」
「うん、使い易いですね」
「指に若干付くのは仕方ないか」
「それは気にしなければ大丈夫でしょう」
「あっ、でも、良い感じね、何か唇が湿った感じ・・・」
「ホントだ、いつも以上に」
「うん、柔らかくなった感じだ」
「普段意識してないですけど、変な感じ?」
「むー、どこまで塗るの?」
ミナの困った声に皆の視線が集まる、ミナは自分の唇が認識できず口の周りをベタベタにしてしまっており、
「あー、ミナちゃん塗りすぎー」
「えー、分かんないよー」
「待って、拭いてあげるから」
オリビアが慌てて手拭いを手にして跪き、ミナの顔を清拭する、
「うー、難しいよー」
「ふふっ、大丈夫です、口元にちょっと塗るだけで大丈夫ですよ」
オリビアの優しい言葉にムーとミナは眉間に皺を寄せて唸ってしまう、そこへ、
「準備できたわよー」
とソフィアが食堂に入って来る、しかし、いつもと違って何やら集中している様子に、
「ありゃ、どうしたの?」
と首を傾げる、ミナが、
「これー、オリビアに貰ったー、けどわかんないー」
とソフィアの元へ駆け寄り、エレインがあらあらと事情を説明すると、
「へー、出来たんだー、良かったじゃない」
と素直な褒め言葉である、
「ありがとうございます、少し時間がかかりましたけど、何とか」
ニコリと微笑むエレインに、少しって三日も経ってないようなとゾーイは首を傾げ、ニコリーネも何が何やらといった顔で言葉も無い、
「あっ、ティルさん達には?」
「まだですね」
「じゃ、先に使ってみましょうか」
とソフィアは厨房に顔を突っ込んで調理中の二人を呼びつけ、改めてやわらかクリームの試用が始まる、
「へー、なるほどね、柔らかいのと固いのか、そうか成分の違いだけって言えばそうだしね」
「はい、分量的にも誤差の範疇なので、ならばもう、お好みで選んで頂くのが良いのかなと、それと香りですね」
「香油使ったの?」
「はい、えっと、赤いレースが薔薇の香りで、白いのがアイリスの香り、黄色のがジャスミンです」
「へー、なるほどねー」
ユーリが小瓶の蓋を開けるとそれだけで薔薇の香りがフワリと漂う、
「ホントだ、いい香り・・・」
「うん、薔薇だね」
「薔薇だ・・・」
「お庭の香りだー、お嬢様とリシア様のにおいー」
「そうなの?」
「そうなのよー」
「こっちがジャスミン?」
ユーリは次々と小瓶を開け、その度に別の香りが漂う、
「違うね」
「うん、違う」
「私、アイリスの香りがいいな」
「私もー」
うっとりと香りを楽しむ面々であった、以前作った香り付きのやわらかクリームは香り付きという事もあってかあっという間も無く消費されてしまっており、新参者達にとって香り付きのそれは初めて目にし且つ触れる品であった、
「これはリンゴの香りなのね」
ソフィアはミナから受け取った唇用のやわらかクリームを鼻に近付け、リンゴ特有の甘さと酸味が感じられる爽やかな香りを楽しむ、
「はい、口元ですからね、ただ、他の香りでも良いかなとは思ってます」
「そうよねー、リシア様なんか薔薇意外使わないかもよ」
「そうなんですよ、なので、逆にそれは特注にしようかななんて思ってました」
「あら、上手いわね」
「勿論です、あっ、それと先日の贈り物箱の発案を頂きました、御免なさい」
エレインは唐突に頭を下げる、
「へっ、あー、あれね、そっか、この小瓶のコレ?」
「はい、うちのリーニーが試しにやってみたら可愛らしくて、商品の仕分けも楽になりますし」
「そっかー、良いんじゃない、可愛いわね」
「ですよね」
「うん、でも、これの持ち運びって考えてる?」
「はい、それも抜かり無く」
ソフィアの疑問にエレインはニヤリと自身の腰を指差して見せた、見ると木工細工が二つぶら下がっており、一つは若干古ぼけ、もう一つは新しい、
「こんな感じで木工細工に入れて持ち運べれば良いのかなと」
エレインは新しい方の木工細工を取り外してテーブルの上で開いて見せた、中には件のやわらかクリームが三本、端切れに包まりちんまりと並んでいる、
「へー、考えたわねー、大したもんだわ」
ユーリが笑うしかないわねと褒め称え、カトカは、
「なるほどねー、私も欲しいな、店舗で売ってるよね」
「言って頂ければカトカさんには差し上げますよー」
ジャネットが慌てて口を挟む、
「そこはそれ、商いの品にはちゃんと対価を支払うのがこの寮の不文律でしょ」
どうやらソフィアの信条がそのまま不文律になったらしい、いつの間にやらと思うがそういうものであろう、
「そうですけどー」
「そうなると・・・この木工細工もあれかしら、専用のがあったら嬉しいわよね」
ソフィアは我関せずと木工細工に手を伸ばす、
「はい、そのつもりでした、既存の商品でも丁度良い大きさのものがあるんですが、やはり、こうなると専用のが欲しくなりますからね、でも、ヘッケル工務店が忙しいので、ちょっと様子を見てからかなって思ってます」
「そっか・・・抜け目ないなー」
「えへへ、ソフィアさんもユーリ先生もサビナ先生もカトカさんも、なによりみんなのお陰です」
エレインの心底嬉しそうな笑顔と奥ゆかしい言葉に、ミーンとティル、ゾーイとニコリーネの新参組達はやっぱりこの寮はというよりも、ソフィアの周りの人物がであろうか、何かが違うと心の底から思い知るのであった。
夕食時になりユーリは研究所の連中を引き連れて食堂へ入る、すると、
「お疲れ様です、ユーリ先生、今日はありがとうございました」
妙に機嫌の良いエレインがニコニコと満面の笑みで研究所組を迎える、
「ん?なに、急に、らしくない」
ユーリはまた何かあったかなとめんどくさそうにいつもの席に着き、他三人もやれやれと腰を下ろした、
「そんなー、皆さんのお陰ですよ、まずはあれです」
エレインがオリビアへ視線を向け、オリビアは隠していたのか足元の布袋をテーブルに置くとガサゴソと何やら取り出す、勿論であるが何かを始めたぞとミナと新入生達の視線が集まり、その正体を知っているジャネットとケイスは薄ら笑いを浮かべていた、
「こちらです」
オリビアはそっとガラスの小瓶を研究所組のテーブルに置く、御叮嚀に端切れの布を敷いて何とも厳かな雰囲気である、
「あら、可愛らしい」
「あー、出来たんだ」
「いい色ですねー」
「わっ、もう?」
四者それぞれの反応にエレインはニヤリと微笑むと、
「はい、サビナさんとカトカさん、ゾーイさんのお陰で完成しました、六花商会特性、高級やわらかクリームです」
どうだとばかりに踏ん反り返る、
「へー、あー、良い感じじゃない、高そうな雰囲気だわねー」
ユーリは自然と小瓶に手を伸ばし、生徒達はなんだなんだと腰を上げて覗き込む、
「で、結局どうなったの?」
オリビアがさらに数本の小瓶を取り出し、ユーリは手にしたそれをしげしげと見つめた、見た目だけではガラス小瓶に入っている事とその首にレースが巻かれている事意外に大きな変更点は見当たらない、
「はい、いろいろと検討しまして、ジャネットさん」
エレインはここは実際に作業に携わった者に発言の機会を譲ろうと振り返る、
「ふふーん、えっとですね、最初手と顔と唇でそれぞれに作ろうかと思っていたのですが、どうも手と顔用のは同じでいいんじゃないかなって事になりまして、で、ただそれだと面白くないので、柔らかいのと固いのとって感じで別ける事にしたのです」
ジャネットはエレインの目配せに流麗な説明で答えとし、
「なので」
とオリビアへ視線を送る、オリビアは小さな布の包みを取り出してテーブルに置いた、
「あら、これは?」
「はい、小瓶に入っているのが柔らかいのと固いのなんですが、こちらは唇用の棒状に形成したものです」
ジャネットは説明しつつテーブルに勿体ぶって歩み寄ると、包みを開いて見せた、
「あら、これもあれ?やわらかクリーム?」
中には三本の黄色い棒状の物体が並んでいた、子供の小指程度の大きさである、微かにリンゴの香りもする、
「そうなんです、今日はこれを作るのに苦労してまして、リーニーさんとマフダさんと一緒になって、ね」
ジャネットがケイスに目配せするとケイスは嬉しそうにコクリと頷く、
「へー、凄いね、そっか、ソフィアが何かそんな事言ってたね」
「そうなんですよ、で、出来るかなって思ったら思いの外上手く出来まして、で、持ち運べるように小さくして、使い易いように丸めてみました」
ジャネットは中々に難しい道のりだったのではないかと思われる開発経緯を端的に言葉にする、ヘーとユーリは素直に感心し、サビナとカトカは大したもんだと笑顔を浮かべ、ゾーイはこの突拍子の無さは一体なんであろうと目を丸くしている、
「どうぞ、使ってみて下さい」
オリビアはさらに四人それぞれの前に包みを置き、さらに、生徒達にも、
「皆さんは一本ずつですよ」
と配り始める、
「いいんですか?」
恐る恐ると受け取ったグルジア達はやはり遠慮気味に問い返すが、
「構いません、是非使ってみて下さい、感想とか改良点とか伺いたいですわ」
エレインの自信満々の笑顔を見て、
「わー、嬉しい」
「うん、可愛いね、良い香りだなー」
「お腹空いちゃう・・・」
「それは夕飯前だからでしょ」
「えっと、どうやって使うんです?」
「やわらかクリームと一緒?」
手にした黄色の棒を手にして早速と姦しい、さらに、
「ミナもいいの?」
オリビアはミナにも一本持たせており、ニコリーネやレインにも手渡すと、
「勿論です、でも、食べ物ではないですので、こうやって使うのですね」
とオリビアは腰に下げた木工細工を開いて自分のクリームを取り出すと、
「たぶんですけど、こんな感じです」
と唇に塗り付け軽く上唇と下唇を擦り合わせる、
「わっ、何か色っぽい」
「うん、えっちーな感じ」
「そう?時々やらない?」
「意識した事無い」
中々見ない仕草であった、オリビアは若干恥ずかしそうに苦笑すると、
「さ、どうぞ」
と一同を見渡す、生徒達と研究所組はまじまじと手にしたクリームを見つめ、若干警戒しながらも見様見真似で唇に塗り付けた、
「ふふ、どうかしら?」
エレインが感想を促すと、
「塗りやすいわね」
「うん、使い易いですね」
「指に若干付くのは仕方ないか」
「それは気にしなければ大丈夫でしょう」
「あっ、でも、良い感じね、何か唇が湿った感じ・・・」
「ホントだ、いつも以上に」
「うん、柔らかくなった感じだ」
「普段意識してないですけど、変な感じ?」
「むー、どこまで塗るの?」
ミナの困った声に皆の視線が集まる、ミナは自分の唇が認識できず口の周りをベタベタにしてしまっており、
「あー、ミナちゃん塗りすぎー」
「えー、分かんないよー」
「待って、拭いてあげるから」
オリビアが慌てて手拭いを手にして跪き、ミナの顔を清拭する、
「うー、難しいよー」
「ふふっ、大丈夫です、口元にちょっと塗るだけで大丈夫ですよ」
オリビアの優しい言葉にムーとミナは眉間に皺を寄せて唸ってしまう、そこへ、
「準備できたわよー」
とソフィアが食堂に入って来る、しかし、いつもと違って何やら集中している様子に、
「ありゃ、どうしたの?」
と首を傾げる、ミナが、
「これー、オリビアに貰ったー、けどわかんないー」
とソフィアの元へ駆け寄り、エレインがあらあらと事情を説明すると、
「へー、出来たんだー、良かったじゃない」
と素直な褒め言葉である、
「ありがとうございます、少し時間がかかりましたけど、何とか」
ニコリと微笑むエレインに、少しって三日も経ってないようなとゾーイは首を傾げ、ニコリーネも何が何やらといった顔で言葉も無い、
「あっ、ティルさん達には?」
「まだですね」
「じゃ、先に使ってみましょうか」
とソフィアは厨房に顔を突っ込んで調理中の二人を呼びつけ、改めてやわらかクリームの試用が始まる、
「へー、なるほどね、柔らかいのと固いのか、そうか成分の違いだけって言えばそうだしね」
「はい、分量的にも誤差の範疇なので、ならばもう、お好みで選んで頂くのが良いのかなと、それと香りですね」
「香油使ったの?」
「はい、えっと、赤いレースが薔薇の香りで、白いのがアイリスの香り、黄色のがジャスミンです」
「へー、なるほどねー」
ユーリが小瓶の蓋を開けるとそれだけで薔薇の香りがフワリと漂う、
「ホントだ、いい香り・・・」
「うん、薔薇だね」
「薔薇だ・・・」
「お庭の香りだー、お嬢様とリシア様のにおいー」
「そうなの?」
「そうなのよー」
「こっちがジャスミン?」
ユーリは次々と小瓶を開け、その度に別の香りが漂う、
「違うね」
「うん、違う」
「私、アイリスの香りがいいな」
「私もー」
うっとりと香りを楽しむ面々であった、以前作った香り付きのやわらかクリームは香り付きという事もあってかあっという間も無く消費されてしまっており、新参者達にとって香り付きのそれは初めて目にし且つ触れる品であった、
「これはリンゴの香りなのね」
ソフィアはミナから受け取った唇用のやわらかクリームを鼻に近付け、リンゴ特有の甘さと酸味が感じられる爽やかな香りを楽しむ、
「はい、口元ですからね、ただ、他の香りでも良いかなとは思ってます」
「そうよねー、リシア様なんか薔薇意外使わないかもよ」
「そうなんですよ、なので、逆にそれは特注にしようかななんて思ってました」
「あら、上手いわね」
「勿論です、あっ、それと先日の贈り物箱の発案を頂きました、御免なさい」
エレインは唐突に頭を下げる、
「へっ、あー、あれね、そっか、この小瓶のコレ?」
「はい、うちのリーニーが試しにやってみたら可愛らしくて、商品の仕分けも楽になりますし」
「そっかー、良いんじゃない、可愛いわね」
「ですよね」
「うん、でも、これの持ち運びって考えてる?」
「はい、それも抜かり無く」
ソフィアの疑問にエレインはニヤリと自身の腰を指差して見せた、見ると木工細工が二つぶら下がっており、一つは若干古ぼけ、もう一つは新しい、
「こんな感じで木工細工に入れて持ち運べれば良いのかなと」
エレインは新しい方の木工細工を取り外してテーブルの上で開いて見せた、中には件のやわらかクリームが三本、端切れに包まりちんまりと並んでいる、
「へー、考えたわねー、大したもんだわ」
ユーリが笑うしかないわねと褒め称え、カトカは、
「なるほどねー、私も欲しいな、店舗で売ってるよね」
「言って頂ければカトカさんには差し上げますよー」
ジャネットが慌てて口を挟む、
「そこはそれ、商いの品にはちゃんと対価を支払うのがこの寮の不文律でしょ」
どうやらソフィアの信条がそのまま不文律になったらしい、いつの間にやらと思うがそういうものであろう、
「そうですけどー」
「そうなると・・・この木工細工もあれかしら、専用のがあったら嬉しいわよね」
ソフィアは我関せずと木工細工に手を伸ばす、
「はい、そのつもりでした、既存の商品でも丁度良い大きさのものがあるんですが、やはり、こうなると専用のが欲しくなりますからね、でも、ヘッケル工務店が忙しいので、ちょっと様子を見てからかなって思ってます」
「そっか・・・抜け目ないなー」
「えへへ、ソフィアさんもユーリ先生もサビナ先生もカトカさんも、なによりみんなのお陰です」
エレインの心底嬉しそうな笑顔と奥ゆかしい言葉に、ミーンとティル、ゾーイとニコリーネの新参組達はやっぱりこの寮はというよりも、ソフィアの周りの人物がであろうか、何かが違うと心の底から思い知るのであった。
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