上 下
608 / 1,062
本編

58話 胎動再び その5

しおりを挟む
その日の夕食時、ソフィアはニコリーネを改めて紹介し暫く滞在する事も同時に告げる、適当に挨拶をと無茶振りされたニコリーネは、はにかみながらも何とか自己紹介を済ませ、

「絵を描きに来ましたので、描きます、以上です」

とその目的と決意を表明した、すると、

「ミナもー、ミナも描いたのー、楽しかったー」

ミナがキャッキャッと声を上げ、

「見たいなー、どんなの?」

と生徒達は囃し立てる、

「はいはい、それは後でね、お食事が終わってから、じゃ、その前に」

とソフィアは藁箱を二つ取り出すと、

「うーん、みんなの前で出すのもあれだけどね、昨日渡しそびれちゃって・・・」

ソフィアは藁箱をミナとレインの前に置くと、

「えーとね、昨日はほら神様の誕生日でしょ、で、ブノワトさんに聞いたら贈り物を贈るんだとか、で、作って用意したのはいいんだけどさ・・・」

ソフィアは額を小さく掻いて、

「忘れちゃってたのよ」

と続けてアッハッハと大きな口で誤魔化し笑いをする、

「えっと・・・えっと・・・」

ミナは突然の事に驚いているのかキョロキョロとソフィアと生徒達の顔を見比べ、

「へー、いいなー、ミナちゃん贈り物だって」

「贈り物?」

「そうよー、何が入ってるのかな?」

「わっ、でも可愛いですね、藁箱にレースか・・・」

「うん、何かワクワクしてくる」

「・・・これ良いわね」

「そうですね、これはレースの端切れですか?」

「へー、可愛いい」

「そうだねー」

中身が分からない状態であるにも関わらず、たかだかレース生地で十字に縛られた程度の藁箱が注目の的となった、

「でしょー、私もね、こりゃ発明だわって思っちゃったわ」

「ですねー、へー、これはあれですか、贈り物ですか・・・素敵です」

「いいわね・・・テラさん、オリビア、これ、いいんじゃない?」

「はい、藁箱は・・・あれ、これうちのやつですか?」

「そうよ、ロールケーキが入ってたやつ」

「えっ、そうなんだ、わっ、見違えた・・・」

「うん、へー、布で縛っただけですか?何か全然雰囲気違いますね」

「レース生地が高いからなー、でも、あれか端切れであればいいのか・・・」

「これいけるんじゃない?エレイン様ー」

「そうね・・・うん、どうしようか、レースの端切れ安く手に入るかしら?」

「ネイハウス商会に聞いてみます?」

「マフダさんの方が早いかもですよ、ネイハウス商会だと端切れまでは取扱っているかどうか・・・」

「それもそうね、マフダさんに聞いてみましょう」

と一頻り盛り上がる、しかし、ミナは困惑してどうすればいいかとキョロキョロし続け、レインもどうしたものかと首を傾げている、

「ほら、開けてみて、大丈夫よ良い物が入っているから」

ニコリと微笑むソフィアにミナはコクンと小さく頷き、恐る恐ると箱に手を伸ばす、そして、箱を開けようとするが十字に縛られている為思うように出来ず、隣りに座っているルルが、

「あー、ほら、ミナちゃん、先にレースを解かないと」

と助言し、ミナはその指差された所からレースを解くと、やっと蓋を開けた、

「わっ、何これ?かわいいー、ニャンコ?ニャンコ?」

「そうよー、ミナ好きでしょ」

「うん、好きー、えっと、何これ、どうするの?」

「何これって言われても困るけど取り出してみなさい」

ソフィアに促されミナはソロソロと中身を取り出した、それはなんて事は無いソフィアが編んでいた毛糸の靴下である、

「わっ、えっとなんだっけ、これ、アシブクロー」

「そうよー、そろそろ寒くなるからね、寝る時に使いなさい」

「わー、いいなー、ミナちゃん」

「うん、温かそうだねー」

「へー、こうなるんだー」

「これ良さそうね」

「アシブクロ?ですか?どうやって使うんです?」

「寝るときに足に着けるんだよ、手袋みたいな感じだそうです」

「えっ、それいいですね・・・」

「みんなで編んでるんですよ」

「そっかー、アシブクロか・・・なるほどなー、カトカこれ欲しいんじゃない?」

「はい、とっても欲しいです」

「じゃ、作れば?」

「そんな、簡単に・・・」

「・・・売れそうね・・・」

「会長・・・なんでもかんでもですよ、売れそうですけど」

「マフダさんに作らせようかしら・・・」

「・・・そうですね」

その毛糸の靴下にはミナの履くスリッパと同様に、しかし若干より可愛らしくなった感のある黒猫が縫い付けられており、レインが取り出したそれには白猫が縫い付けられていた、ミナは小躍りしてキャッキャッと騒いでいるがその隣りのレインは冷静なもので、しかし、それでも嬉しそうな事には変わりなく、口元を軽く痙攣させて微笑みを誤魔化しているように見える、

「ふふ、喜んでもらえたら嬉しいわね、ミナ、大事に使ってよ」

「大事にするー、今日から使うー」

「使ってもいいけど、もっと寒くなってからでいいのよ」

「やだー、使いたいー」

「はいはい、じゃ、御免ね、夕食にしましょうか」

こうして、夕食は始まったのであるが、エレインを中心とした商会組は商売の話しに華を咲かせ、グルジア達は靴下の装飾に拘りたいなと盛り上がる、その横で新参者であるゾーイとニコリーネはなるほど、この不思議な熱量が商会の基礎にあり、ソフィアが諸々の仕掛人と噂される理由を何となく理解した、そして、

「これ、ミナが描いたのー、これはレインでー、こっちがニコなのよー」

食事を終えたテーブルに何枚もの大判の上質紙が並べられ、ミナが嬉しそうに飛び跳ねる、その両手には貰ったばかりの靴下を着けており、それじゃ手袋だろーとジャネットにからかわれながらも決して外そうとはしなかった、

「そっかー、へー、やっぱり大したものねー」

「そうですね、これなんかいいなー、部屋に飾りたいですね」

「うん、違いますよねー」

女生徒たちはそれらを見下ろしてうんうんとニコリーネの画力に感心していた、やはりニコリーネの作品はまるで別次元である、絵画にそれほど触れていない生徒達でもその美しさが理解できた、

「レインちゃんのも良いよね、何か構図が違うな」

「ほう、分かるか?」

「うん、何か違う・・・感じがする・・・」

ケイスがレインの描いた一枚に惹きつけられている様子である、

「ミナのはー、ミナのもいいでしょー」

「そうだね、ミナちゃんのもいいねー、でも、裏山にニャンコっていた?」

「いないよ」

ミナは何を言っているのやらと不思議そうにルルを見上げ、

「いないのに描いたの?」

「そうだよー、ニャンコを描けば可愛くなるんだよ」

ニコニコと両手のニャンコを自分の頬に当てる、

「ミナちゃん可愛いなー、でも、それでいいのか?・・・まっ、いいか」

「いいのー、ミナがいいって言ったらいいのー」

何とも傍若無人である、

「そっかいいのか」

ルルは子供らしいなと微笑むしかなく、ミナは満足そうに、

「いいんだよー、でねでね」

と自分の作品の説明に余念が無い、その隣りでは、

「これはあれ、下書きってやつなの?」

とサビナがニコリーネに問う、

「はい、えっと、素描と呼んでます、その・・・下書きでいいというか、描く物を決めて、で、徹底的にこうその構造を描くというか、なので、はい」

ニコリーネは恥ずかしそうに適当に説明した、ニコリーネとしては素描を他人に見せる事は恥ずかしく、なによりあくまで試し書きの意味合いが強い、さらに今日は調子に乗って書きなぐってしまい、出来の良し悪しで言えば悪い方にあたる、父親に見せたら紙の無駄だとどなりつけられるであろう、

「へー、下書きでこれかー、凄いねー」

そのニコリーネの思いを知ってか知らずかサビナは素直に感心する、上質紙には主に精霊の木が様々な角度で描かれいてるが、ミナの寝顔や、レインの横顔、さらにはイフナースが精霊の木に横たわっている様子、クロノスが木剣を構えて笑っている様子等、とても一日で描いたとは思えない量である、

「・・・この絵好きだなー、幾らで売るの?」

ユーリが一枚を取り上げてしげしげと見つめている、それは精霊の木の素描の一つであった、

「そんな、売り物では無いですし、お金をとるほどのものでは・・・はい」

ニコリーネは慌てて答えるが、

「そうなの?じゃ、頂戴」

ユーリもまるで遠慮の無い人間である、ニヤリと嫌らしくニコリーネを見つめ、有無を言わさぬ圧力まで感じられる、

「えっと、はい、差し上げる分には別に・・・」

「うふ、ありがとう、じゃ、これ頂くわねー」

「マジですか所長」

「勿論よ、うーん、額装したいなー、丁度いい額無い?」

「倉庫探せば何かあるんじゃないですか?」

「そんなのあったっけ?」

「先日見かけたような?」

「じゃ、探そー」

「えー、いいなー、じゃ、私もいい?」

グルジアが上目づかいでニコリーネを伺い、

「じゃ、私も」

「なら、私だって」

と一気に姦しくなる、そこへ、

「まだやってるの?」

と片付けを終えたソフィアとオリビアが戻ってきた、

「ソフィー、見てー描いたのー」

ミナがバタバタとソフィアへ駆け寄り、

「あら、可愛い、何これ?」

「レイン、あと、ニコー、ニャンコ、イース様、クロノスー、あと、リスー」

「へー、良く描けてるじゃない」

「でしょでしょー」

と夕陽が僅かに覗く食堂は暫くの間楽し気な声に包まれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

悪行貴族のはずれ息子【第1部 魔法講師編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第2部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/450916603 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

処理中です...