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本編
58話 胎動再び その2
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それから洗濯を済ませ寮に戻り掃除をしていると、
「ソフィアー」
と一階からユーリがヒョイと顔を出す、
「いるわよ、何?」
「おう、ダナと事務長が来たから顔出してー」
「ありゃ、もしかして例の件?」
「そうよー、何か朝一でアフラさんが学園に来てね、それで話しが早かったわ」
「あら・・・じゃ、下ね」
「宜しくー」
ユーリはそのまま三階へ上がり、わざわざ外から来たのかとソフィアはその背を睨みつつ掃除道具を置いて食堂へ下りる、
「おはようございます」
食堂ではダナと事務長が所在無げに佇んでおり、
「おはようございます、さっ、どうぞ座って下さい、お茶入れますね」
とソフィアは厨房へ向かい、三人はテーブルを囲むと、
「早速なんですが、アフラさんとユーリ先生から仔細は伺っています」
とダナが木簡を取り出して事務的に話し始める、
「急な話しで御免なさいね」
ソフィアは取り敢えずと申し訳ない顔をする、自分が言い出したことでもないし望んでいる事でも無いのであるが、これも社会人の礼儀というものであろう、
「いえいえ、こちらとしては予算的な部分も含めてありがたいお話しです」
事務長がニコリと微笑み、茶に手を伸ばす、
「あら、それはまた・・・」
「はい、ハッキリ言いまして若干予算が増えましてね、ついてはソフィアさんとユーリ先生のお陰と思っております」
「今回の件でですか?」
ソフィアは礼を言われるほど予算が増えたのかと疑わしく事務長へ視線を向ける、
「名目的には光柱魔法の開発協力という形ですね」
事務長はニヤリと笑い、
「であれば、それはそれであって・・・」
「いいえ、それがこちらの件も一緒に考えるようにとの指示でして」
「・・・それはまた、周到な・・・」
「まったくです、王妃様の肝いりとの事ですので、はい」
「それはそうですけど・・・偉い人達はまったく・・・お金は大事ですが、なんかこうお金でなんでも解決しようとするのはどうかしら・・・」
ソフィアはあからさまに溜息を吐き、事務長とダナも苦笑いで答えとした、
「ですので、はい、あの・・・変な言い方なんですが」
とダナが木簡を睨みながら言葉を選び、
「・・・その・・・好きにしていただくのがいいのかなと・・・」
何とも曖昧で無責任な言葉である、
「・・・好きにして・・・って・・・」
ソフィアはどう答えて良いのか眉間の皺を深くする、
「そうとしか言いようがないんですよね・・・」
「そうなんですよ」
ダナと事務長はしみじみと頷き、
「王妃様の御意向となるのですが、こちらの寮に関してはソフィアさんとユーリ先生に管理を任せる事、それから予算に関してはどれだけ使っても構わないという事、それと、学生達に関しても出来るだけ便宜を図る事、他には・・・」
「はい、人材の教育の場として協力する事が大前提ですね」
「うむ、それが一番の御要望でしたな」
「また大層な・・・」
事務長とダナの説明にソフィアは呆気にとられるしかない、
「ですので、今後の対応としましては学生達の受け入れに関してはこちらから指示ではなく要望として扱う形になりますし、予算に関してもソフィアさんから必要金額を申告してもらう形になるのかなと・・・」
「それはやり過ぎよ、今まで通りでいいんじゃないですか?別に不足はありませんよ現状でも」
「はい、それはもう、こちらで把握している状況だけですが、ソフィアさんがこちらに来られてから予算面ではまったく、薪の消費量が各段に少ないのでその分が余っているくらいですから」
「でしょー、私としては今まで通りが気楽で良いんだけどな・・・」
ソフィアは口をへの字に曲げてダナの手元の木簡へ視線を落とす、ソフィアからは何が書いてあるのかまでは分からないが、視線の置き場に困った挙句そこで落ち着いた感じである、そして事務長とダナも困った顔で首を傾げるしかない、いくら資金提供者からの要望とは言え、このような指示は初めての事であった、学園は王国立と標榜しているが基本的には自治が認められており、その予算にしろ人員配置にしろ指示された事も無ければ学園が相談した事も基本的に無い、但し学園の首脳部に関しては王国の意向に沿ったものになってはいる、
「・・・じゃ、どうしようかな、王妃様の指示なんですよね・・・」
「はい、そうなります」
ソフィアはこのまま黙っていても埒が明かないであろうと口を開き、ダナが確認するように答えた、
「うーん、いやね・・・どこまで聞いているのかは分からないのですが、昨晩の感じだとエレインさんの所と王妃様の所から一人ずつ?こちらで料理の勉強をするってだけなんですよ、あと、ニコリーネさんか、なので、単純に言えば三人分程度?食費が増える感じで、私としてはその程度の認識なんですよね、で、感覚としてはほら、何のかんので夕食の手間が減るかなーって感じで、大した事を教えられるわけではないですし・・・」
「いや、それは謙遜ですよ」
「そうですよー」
事務長とダナが同時に口を挟む、
「そんなもんですよ、だって・・・普段の料理はそれこそねぇ」
「いえ、それは聞いてます」
「はい、オリビアさんも普段の夕食も勉強になるって言ってました」
「そうなの?」
「そうですよ、それにサビナさんとかカトカさんも夕食はこちらで頂いているんでしょ、羨ましいですよ」
「それはそれでしょ」
「そうですけど、宿舎住まいとしては羨ましいですよ、心底」
「そうなのか?」
事務長がダナを伺う、
「そりゃだって、ソフィアさんの料理ですよ、私だって勉強したいです」
「それもそうか・・・」
「いや、ちょっと話しがズレてるわよ」
「でもですね」
「でももなんでもいいけど、そうね、うん、話しを戻すけど、私としては今まで通りでお願いしたいかな、変に仕事増やしたくないし、だってこっちで予算組むなんて言い出したら私が事務仕事までやる事になりそうだしね、それはまっぴらゴメンね、だから、予算に関しては増えた人数分・・・そう言えば学園的にはどうなっているの?ここで管理している人員とか?」
「どうと言われてもあれですが、食費に関してのみですが学生分が学園から・・・これも元を辿れば各生徒さんからの先払いですね、で、臨時的な扱いでエレインさんからはテラさんの分を頂いてます、それとユーリ先生からは二人分、ゾーイさんが増えて三人分ですね、ユーリ先生の分も頂いています、で、それはそのまま予算としてお渡ししている感じですね」
「そうだったんだ、それこそその管理を私がする事になるの?無理だわ、めんどくさい・・・だから、今回もほら取り敢えず三人分かな、その分の予算を増やして貰って、それで充分よ、学園からの許可を貰えれば良い程度の認識だったんだし、大事にはしないで欲しいかな、それにほら、やたらと気前の良い人達が食材くれるから、それで何とかなっているし、そっちの予算に関しては余っているくらいなんだから、うん、そういう事にしましょう」
「そう・・・ですか・・・」
ダナはゆっくりと事務長を伺い、事務長もソフィアらしい意見だと頷いている、
「うん、じゃ、そういう事で、あっ、勿論あれよね、人が増える事に関しては学園としては黙認するって事よね?」
「黙認ではないですよ、そこは公明正大に認めます」
事務長が自信満々に答え、
「であれば問題は無いですね、王妃様達に関しては適当に誤魔化しておいて下さい、私も適当に話しを合わさておきますから」
「・・・それが問題ですな・・・」
ソフィアが明るく答えるが事務長は何とも生真面目に腕を組んで首を傾げ、
「書類だけでもそれなりにする必要がありますね・・・」
ダナも難しい顔で木簡を見つめる、
「あー、御免なさいね、仕事増やしちゃって・・・」
「いえ、それはもう、これこそ私の仕事ですから」
「そうですね、やんごとなき人達の御要望です、真摯・・・には答えられませんが、納得いただくように報告致します」
三人はほぼ同時に苦笑いを浮かべて取り敢えずの打合せは終わりとなる、特に何が解決したという訳ではないが、ソフィアとしては出入りする人間が増える事が認められ、学園側としてはなんのかんので予算が増える事には違いなく、その点だけ考えても歓迎するべき事であろう、そして、若干冷めた茶を手にして、
「でも、あれですか?王城のメイドさんが来られるんですか?」
とダナが肩の荷が下りたのか軽い感じで質問する、事務長がやや眉を顰めるが、
「そうみたいねー、以前にも教えた事があったんだけど、それだけだと足りなかったみたいねー」
ソフィアがこれまた軽い感じで答える、
「いいなー、事務長、私もお金出すんで勉強に来てもいいですか?」
「ダナさんは夕食を食べたいだけでしょう」
事務長が目を細めて斜めに睨む、
「バレました?でも、あれですよ、ドーナッツとか作れるようになりますよ、学園でも作れるのになー、そうなったら毎日作ってもいいのになー」
妙に懐っこい声を出すダナである、ソフィアはこの二人はそういう関係なのかしらと訝しく思うが、恐らく事務室で女性に囲まれて仕事をしている事務長の人心掌握の一片なのであろう、事務長から見れば子供のような年齢の女性達を動かす為の宥めすかしと、その母性ならぬ娘性を刺激した甘え上手を逆手に取った周到なやり口と見える、
「ドーナッツなら明日から店舗でも販売するらしいですから、それを買いにくればいいでしょう・・・しかし、料理の勉強は面白いかもですね・・・いや、そうだ、ソフィアさん」
何かを思い出したのか事務長はニヤリと微笑み、
「私としては是非研究者としてあなたを招きたいと思うのですが、如何でしょうか」
単刀直入な物言いである、ソフィアはアラッと目を剥き、
「オホホ、また、そんな大それたことを・・・」
と誤魔化し笑いを浮かべるが、
「いえいえ、是非に、ユーリ先生も素晴らしい教師であり研究者です、私から見ればその友人であるソフィアさんも決して負けるとも劣らないとみております・・・これは誰もが認めるところでしょう」
「あー、ほら、今はまだ・・・」
とソフィアはお決まりの文句を口に出しそうになり、
「であれば、将来的に・・・ですね」
すぐさま事務長はその逃げ道を塞ぐ、子供を持つ母親はどうしても子供を理由に現状維持を選択し保守的になりがちなものである、事務長の経験上それは仕方のない事で、当然の事とも思っているが、それにより事務員が定着しない事には頭を痛めてもいる、故にソフィアの言い訳は聞かずとも分かり、さらにその先を押さえておくことが大事であるとも理解していたりもする、
「あー、アハハ・・・」
ソフィアはあからさまに誤魔化し笑いを浮かべ、事務長はしてやったりとニヤリと微笑む、
「ウフフ、そうだ、料理の授業があってもいいんじゃないかなって私思うんですけど・・・」
事務長の思惑を察したのかダナもニヤリと怪しい笑みを浮かべ、
「ほう、ダナさん、それは良い考えですな」
「ですよねー」
二人は実に楽しそうな怪しい視線をソフィアへ向けるのであった。
「ソフィアー」
と一階からユーリがヒョイと顔を出す、
「いるわよ、何?」
「おう、ダナと事務長が来たから顔出してー」
「ありゃ、もしかして例の件?」
「そうよー、何か朝一でアフラさんが学園に来てね、それで話しが早かったわ」
「あら・・・じゃ、下ね」
「宜しくー」
ユーリはそのまま三階へ上がり、わざわざ外から来たのかとソフィアはその背を睨みつつ掃除道具を置いて食堂へ下りる、
「おはようございます」
食堂ではダナと事務長が所在無げに佇んでおり、
「おはようございます、さっ、どうぞ座って下さい、お茶入れますね」
とソフィアは厨房へ向かい、三人はテーブルを囲むと、
「早速なんですが、アフラさんとユーリ先生から仔細は伺っています」
とダナが木簡を取り出して事務的に話し始める、
「急な話しで御免なさいね」
ソフィアは取り敢えずと申し訳ない顔をする、自分が言い出したことでもないし望んでいる事でも無いのであるが、これも社会人の礼儀というものであろう、
「いえいえ、こちらとしては予算的な部分も含めてありがたいお話しです」
事務長がニコリと微笑み、茶に手を伸ばす、
「あら、それはまた・・・」
「はい、ハッキリ言いまして若干予算が増えましてね、ついてはソフィアさんとユーリ先生のお陰と思っております」
「今回の件でですか?」
ソフィアは礼を言われるほど予算が増えたのかと疑わしく事務長へ視線を向ける、
「名目的には光柱魔法の開発協力という形ですね」
事務長はニヤリと笑い、
「であれば、それはそれであって・・・」
「いいえ、それがこちらの件も一緒に考えるようにとの指示でして」
「・・・それはまた、周到な・・・」
「まったくです、王妃様の肝いりとの事ですので、はい」
「それはそうですけど・・・偉い人達はまったく・・・お金は大事ですが、なんかこうお金でなんでも解決しようとするのはどうかしら・・・」
ソフィアはあからさまに溜息を吐き、事務長とダナも苦笑いで答えとした、
「ですので、はい、あの・・・変な言い方なんですが」
とダナが木簡を睨みながら言葉を選び、
「・・・その・・・好きにしていただくのがいいのかなと・・・」
何とも曖昧で無責任な言葉である、
「・・・好きにして・・・って・・・」
ソフィアはどう答えて良いのか眉間の皺を深くする、
「そうとしか言いようがないんですよね・・・」
「そうなんですよ」
ダナと事務長はしみじみと頷き、
「王妃様の御意向となるのですが、こちらの寮に関してはソフィアさんとユーリ先生に管理を任せる事、それから予算に関してはどれだけ使っても構わないという事、それと、学生達に関しても出来るだけ便宜を図る事、他には・・・」
「はい、人材の教育の場として協力する事が大前提ですね」
「うむ、それが一番の御要望でしたな」
「また大層な・・・」
事務長とダナの説明にソフィアは呆気にとられるしかない、
「ですので、今後の対応としましては学生達の受け入れに関してはこちらから指示ではなく要望として扱う形になりますし、予算に関してもソフィアさんから必要金額を申告してもらう形になるのかなと・・・」
「それはやり過ぎよ、今まで通りでいいんじゃないですか?別に不足はありませんよ現状でも」
「はい、それはもう、こちらで把握している状況だけですが、ソフィアさんがこちらに来られてから予算面ではまったく、薪の消費量が各段に少ないのでその分が余っているくらいですから」
「でしょー、私としては今まで通りが気楽で良いんだけどな・・・」
ソフィアは口をへの字に曲げてダナの手元の木簡へ視線を落とす、ソフィアからは何が書いてあるのかまでは分からないが、視線の置き場に困った挙句そこで落ち着いた感じである、そして事務長とダナも困った顔で首を傾げるしかない、いくら資金提供者からの要望とは言え、このような指示は初めての事であった、学園は王国立と標榜しているが基本的には自治が認められており、その予算にしろ人員配置にしろ指示された事も無ければ学園が相談した事も基本的に無い、但し学園の首脳部に関しては王国の意向に沿ったものになってはいる、
「・・・じゃ、どうしようかな、王妃様の指示なんですよね・・・」
「はい、そうなります」
ソフィアはこのまま黙っていても埒が明かないであろうと口を開き、ダナが確認するように答えた、
「うーん、いやね・・・どこまで聞いているのかは分からないのですが、昨晩の感じだとエレインさんの所と王妃様の所から一人ずつ?こちらで料理の勉強をするってだけなんですよ、あと、ニコリーネさんか、なので、単純に言えば三人分程度?食費が増える感じで、私としてはその程度の認識なんですよね、で、感覚としてはほら、何のかんので夕食の手間が減るかなーって感じで、大した事を教えられるわけではないですし・・・」
「いや、それは謙遜ですよ」
「そうですよー」
事務長とダナが同時に口を挟む、
「そんなもんですよ、だって・・・普段の料理はそれこそねぇ」
「いえ、それは聞いてます」
「はい、オリビアさんも普段の夕食も勉強になるって言ってました」
「そうなの?」
「そうですよ、それにサビナさんとかカトカさんも夕食はこちらで頂いているんでしょ、羨ましいですよ」
「それはそれでしょ」
「そうですけど、宿舎住まいとしては羨ましいですよ、心底」
「そうなのか?」
事務長がダナを伺う、
「そりゃだって、ソフィアさんの料理ですよ、私だって勉強したいです」
「それもそうか・・・」
「いや、ちょっと話しがズレてるわよ」
「でもですね」
「でももなんでもいいけど、そうね、うん、話しを戻すけど、私としては今まで通りでお願いしたいかな、変に仕事増やしたくないし、だってこっちで予算組むなんて言い出したら私が事務仕事までやる事になりそうだしね、それはまっぴらゴメンね、だから、予算に関しては増えた人数分・・・そう言えば学園的にはどうなっているの?ここで管理している人員とか?」
「どうと言われてもあれですが、食費に関してのみですが学生分が学園から・・・これも元を辿れば各生徒さんからの先払いですね、で、臨時的な扱いでエレインさんからはテラさんの分を頂いてます、それとユーリ先生からは二人分、ゾーイさんが増えて三人分ですね、ユーリ先生の分も頂いています、で、それはそのまま予算としてお渡ししている感じですね」
「そうだったんだ、それこそその管理を私がする事になるの?無理だわ、めんどくさい・・・だから、今回もほら取り敢えず三人分かな、その分の予算を増やして貰って、それで充分よ、学園からの許可を貰えれば良い程度の認識だったんだし、大事にはしないで欲しいかな、それにほら、やたらと気前の良い人達が食材くれるから、それで何とかなっているし、そっちの予算に関しては余っているくらいなんだから、うん、そういう事にしましょう」
「そう・・・ですか・・・」
ダナはゆっくりと事務長を伺い、事務長もソフィアらしい意見だと頷いている、
「うん、じゃ、そういう事で、あっ、勿論あれよね、人が増える事に関しては学園としては黙認するって事よね?」
「黙認ではないですよ、そこは公明正大に認めます」
事務長が自信満々に答え、
「であれば問題は無いですね、王妃様達に関しては適当に誤魔化しておいて下さい、私も適当に話しを合わさておきますから」
「・・・それが問題ですな・・・」
ソフィアが明るく答えるが事務長は何とも生真面目に腕を組んで首を傾げ、
「書類だけでもそれなりにする必要がありますね・・・」
ダナも難しい顔で木簡を見つめる、
「あー、御免なさいね、仕事増やしちゃって・・・」
「いえ、それはもう、これこそ私の仕事ですから」
「そうですね、やんごとなき人達の御要望です、真摯・・・には答えられませんが、納得いただくように報告致します」
三人はほぼ同時に苦笑いを浮かべて取り敢えずの打合せは終わりとなる、特に何が解決したという訳ではないが、ソフィアとしては出入りする人間が増える事が認められ、学園側としてはなんのかんので予算が増える事には違いなく、その点だけ考えても歓迎するべき事であろう、そして、若干冷めた茶を手にして、
「でも、あれですか?王城のメイドさんが来られるんですか?」
とダナが肩の荷が下りたのか軽い感じで質問する、事務長がやや眉を顰めるが、
「そうみたいねー、以前にも教えた事があったんだけど、それだけだと足りなかったみたいねー」
ソフィアがこれまた軽い感じで答える、
「いいなー、事務長、私もお金出すんで勉強に来てもいいですか?」
「ダナさんは夕食を食べたいだけでしょう」
事務長が目を細めて斜めに睨む、
「バレました?でも、あれですよ、ドーナッツとか作れるようになりますよ、学園でも作れるのになー、そうなったら毎日作ってもいいのになー」
妙に懐っこい声を出すダナである、ソフィアはこの二人はそういう関係なのかしらと訝しく思うが、恐らく事務室で女性に囲まれて仕事をしている事務長の人心掌握の一片なのであろう、事務長から見れば子供のような年齢の女性達を動かす為の宥めすかしと、その母性ならぬ娘性を刺激した甘え上手を逆手に取った周到なやり口と見える、
「ドーナッツなら明日から店舗でも販売するらしいですから、それを買いにくればいいでしょう・・・しかし、料理の勉強は面白いかもですね・・・いや、そうだ、ソフィアさん」
何かを思い出したのか事務長はニヤリと微笑み、
「私としては是非研究者としてあなたを招きたいと思うのですが、如何でしょうか」
単刀直入な物言いである、ソフィアはアラッと目を剥き、
「オホホ、また、そんな大それたことを・・・」
と誤魔化し笑いを浮かべるが、
「いえいえ、是非に、ユーリ先生も素晴らしい教師であり研究者です、私から見ればその友人であるソフィアさんも決して負けるとも劣らないとみております・・・これは誰もが認めるところでしょう」
「あー、ほら、今はまだ・・・」
とソフィアはお決まりの文句を口に出しそうになり、
「であれば、将来的に・・・ですね」
すぐさま事務長はその逃げ道を塞ぐ、子供を持つ母親はどうしても子供を理由に現状維持を選択し保守的になりがちなものである、事務長の経験上それは仕方のない事で、当然の事とも思っているが、それにより事務員が定着しない事には頭を痛めてもいる、故にソフィアの言い訳は聞かずとも分かり、さらにその先を押さえておくことが大事であるとも理解していたりもする、
「あー、アハハ・・・」
ソフィアはあからさまに誤魔化し笑いを浮かべ、事務長はしてやったりとニヤリと微笑む、
「ウフフ、そうだ、料理の授業があってもいいんじゃないかなって私思うんですけど・・・」
事務長の思惑を察したのかダナもニヤリと怪しい笑みを浮かべ、
「ほう、ダナさん、それは良い考えですな」
「ですよねー」
二人は実に楽しそうな怪しい視線をソフィアへ向けるのであった。
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