セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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57話 異名土鍋祭り その13

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ソフィアが今日は珍しいものでも作るかと厨房へ入ってガチャガチャとやっていると、

「戻ったー」

玄関先が騒がしくなり、

「ソフィー」

とミナが食堂に駆け込んできた、

「はい、おかえり、楽しかった?」

「楽しかったー、レアンお嬢様がカッコ良かったー、あと、ドーナッツ美味しかった、あと、いっぱい貰ったー」

今日の出来事を一言で報告するミナである、ソフィアはあらあらと手を止めて振り返る、ミナはドライフラワーであろうか花の冠と花の首輪、さらに見慣れない腕輪のような飾りと薄い上品なスカーフを首に巻いている、

「ありゃ、それ何?」

「えっとね、えっとね」

とミナは興奮したままに説明しようとするがそこはミナである、どれから説明すべきかワタワタと慌て、ソフィアはあーこれはゆっくり聞かないとだわねとニコリと微笑み、

「ん、食堂に行きましょうか、みんな帰ったの?」

「うん、うん、帰ってきたー」

ミナは食堂へ駆け戻り、ソフィアは前掛けで手を拭いながら食堂へ入る、食堂内では生徒達が思い思いに戦利品を広げており、

「お帰りー、どうだった?」

「ソフィアさん、こっちのお祭りって凄いですねー」

とルルは笑顔を浮かべ、

「すんごい疲れましたー」

「楽しかったでしょー」

「そうだけどー、やっぱり田舎と違うねー」

「そりゃそうだよー」

サレバとコミンはいつもの調子で、レスタとグルジアは藁箱を幾つも並べて楽しそうである、そして彼女達の共通点は祭りの為にとおめかししている点と、ミナと同じように、しかし、どうやらそれぞれに若干違う装飾品を新たに身に着けている点であった、

「ありゃ、随分可愛らしくなったわね」

「そうなんです、レアンお嬢様のお陰なんです」

グルジアが嬉しそうに報告する、曰く、広場でレアンとユーリによる光柱の儀式を見物し、ジャネット達の屋台をひやかした後で4つある神殿全て回ってきたらしい、ギルドの光柱も素晴らしいものであったが、各神殿もそれぞれに趣向を変えた光柱となっており、光柱そのものの美しさもそれぞれで別であったが、光柱の見せ方飾り方にさらなる一工夫があったらしく、豊穣の神の神殿では女神像が巨大な土鍋を手にし、全知の神の神殿では広い池の中心部に光柱が設置され、家門の神の神殿では神殿の最上部に光柱が設置され、戦神の神殿では光柱を中心に置いて大量の篝火が焚かれていたそうである、そこまでを一気にグルジアはまくし立て、時折ルルとサレバが説明を付け足し、ミナも要所要所で口を挟んだ挙句、小さな体を大きく使って説明しようと躍起になるものだから、大変に要領を得ない、その上可愛らしくなっている理由もレアンのお陰の理由も説明されず、ソフィアはまぁそういうものだわねと取り敢えずうんうんと聞いていた、

「それでね、それでね、レアンお嬢様がね、すんごいの」

「そうなの?」

「うん、パーって、よいしょって、ボーンって、で、クルクルーって、フワーってかっこよかったー」

ミナは暖炉の前でバタバタとその仕草を真似てソフィアを見上げる、

「あら、何となくわかるわね」

ソフィアはニコニコとそれを見つめ、

「分かった?分かった?すごかったー、でね、でね、それに登ってね、クルクル動くの綺麗だったー」

「クルクル動く?」

その点は良く分からないかしらとソフィアは首を傾げる、

「あれです、その舞台に乗って根本から見れたんですよ、で、舞台がグルーって回るんですよ、楽しかったですー」

ルルがこちらも大きく手を振り回して説明を加え、ソフィアはやっとへーと理解を示した、

「そうなんですよ、あれも凄かったですね、舞台を回すギルドの人達が可哀そうな感じでしたけど、楽しそうにしていたからいいのかなって」

グルジアがルルの説明を引き継ぎ、ソフィアは人力でやったの?と軽く驚いた、

「で、やっぱり領主様の御令嬢となると扱いが全然違いました、何か一緒にいて申し訳ないくらいで」

「そうだよねー、よかったのかな?」

「従者の人が大丈夫ですよーって言ってたじゃない」

「それはそうだけどー」

「従者ってライニールさん?」

「はい、ライニールさんです」

「なら、あれよ、あの人あんた達の先輩よ」

「えっ、そうなんですか?」

「らしいわよ、サビナさんと同級生って言ってたかな?ユーリも少し教えたらしいし」

「そうなんだー」

「うん、優しかったよね」

「そうなんですよ、レアンお嬢様はどの神殿に行ってもすぐに気付かれて偉い人が対応に走ってきて、で、ライニールさんがみんな一緒に見せてもらいましょうって言ってくれて」

「あら、それは良かったわね」

「そうなんです、で、光柱のすんごい近くまで入れてくれて、それで、これとかこれとか頂いてきました」

グルジアが首に下げたドライフラワーの首飾りとうす布のスカーフを持ち上げる、

「へー、あー、それって神殿で貰ったの」

「はい、何か関係者の人とか寄進?をした人だけって事らしいんですが」

ルルが若干不安そうになる、

「でも、レアンお嬢様のお友達ならって、みんなで貰ってしまいました」

「いいんですかね・・・」

レスタも冠を手にして首を傾げる、

「いいんじゃないの、向こうもあれよレアンお嬢様にだけあげて、その取り巻きにやらないではレアンお嬢様に悪いと思ったんでしょ」

「そうかもですね」

「そういうものよ、神殿連中なんて打算の固まりみたいな連中なんだから、それに神殿から何か貰えるのなんて貴重よ、人から取り上げる事ばかり考えている連中なんだから、少しは還元しないとでしょ」

ソフィアは皮肉の籠った笑顔を見せる、

「そうなんですか・・・」

「うん、何かいかにもお金持ちって感じの人しか付けてなかったよね」

「なんか申し訳ないな」

「気にしないでいいわよ、お祭りなんだし楽しんだもの勝ちよ」

ソフィアはニヤリと微笑む、

「そうですよね」

「うん、じゃ、そう考えます」

グルジアもその辺はあっさりとした性格をしている、それなりに社会人経験のあるグルジアとしては神殿の考える事もその思惑も容易に想像でき、領主の娘の手前その友人達であろう若者達を蔑ろにする事は出来なかっただけであると理解していた、

「で、これもあれだそうです、部屋の良く見える所に飾ると御利益があるとかって言ってました」

グルジアはそれでもウキウキと冠と首飾りをテーブルに並べ、

「あら、そういうもの?」

ソフィアはフーンと興味無さそうにそれらを見つめ、視界の端でレインの様子を伺う、レインはまるで無関心で皆の様子を眺めている様子で、これは御利益も何もあったものではないのであろうなとソフィアは思い、また、以前もそのような事を言っていたなと思い出す、しかし、この場合レインもまた各種の装飾品を身に着けている、それであれば何らかの御利益があっても良さそうだけどなとソフィアは詮無い事を考えてもみたりした、

「あ、そうだ、あと、これ買ってきました、ドーナッツ、みんなでゆっくりお茶にしたいなって」

「うん、だけど、これって隣りで買ったほうが早かったよね」

「コミンはもー、すぐそういう事言うんだからー」

「えー、でもさー」

「それ正しいと思います」

「うん、冷静に考えたらそうだよね」

「まったくだ」

あっはっはと少女たちは笑い、

「何でもいいから食べよー」

ミナがソワソワと藁箱に手を伸ばす、

「はいはい、じゃ、お茶にしますか、あっ・・・まっ、いいか、光柱って遅くまでやってるの?」

「遅くまでですか?えっと、真夜中で消すみたいな事は言ってたような?」

「そうですね、以前のように朝迄は照らさないって広報の人が言ってました」

「そうなんだ、ならいいか、ほら、食べ過ぎると夕飯入らなくなるでしょ」

「そうですけどお腹空きました」

「私もー」

「私もですー」

「ミナもー」

「あら、ミナはいいけど、学園行くよりも疲れた感じ?」

「はしゃぎ過ぎですね、私はもう若者についていくだけで精一杯で・・・」

「グルジアさんは若いでしょ、そういう事いったらユーリやらエレインさんやらにどやされるわよ」

「あー、それは駄目ですね」

「そうね、じゃ、お茶ね、ちょっと待っててー」

ソフィアはツイッと厨房へ戻る、

「あっ、この藁箱グルジアさんが作ったやつだ」

「えっ、レスタそんな事分かるの?」

「うん、だって、ほら、ここの端の切り方グルジアさんだけですよ、こんな汚いの」

「汚いって・・・あっ、えっ、それ私が作ったやつ?」

「そうですよ、ほら、こっちはルルさんかコミンさんが作ったやつですね」

「へー、レスタさんすごい、これは?これは誰が作ったか分かる?」

「あー、コミンさんかサレバさんかな・・・あ、これサレバさんだ、ほら、ここの処理が甘いでしょ」

レスタは藁箱の一部をチョンチョンと突く、するとホロリと藁が解れ落ちた、

「あっ・・・」

「ホントだ、駄目だね」

「ねー、言ったじゃないですかー」

「そうだっけ?」

「そうですよー、でも、まぁ、使えないわけではないから良いと思いますけどー」

「そうだよね、そうだよね」

「あー、でも、駄目よね、お金貰ってやる仕事とは言い難いかなー」

「うー、厳しいなー、自分で買ったからいいって事で良くない?」

「適当な事言ってー」

「えー、でもさー」

「そうですよ、エレインさんにお仕事貰ったから気兼ね無くお買い物できたんだからね、反省しなきゃでしょ」

「うー、コミンに怒られたー」

「あっ、嘘泣きしてる」

「・・・分かる?」

「分からいでか」

「だよねー」

「うん、分かりやすすぎー」

「むー、サレバ駄目な人?」

「ミナちゃんそれは言い過ぎだよー」

「いいや、駄目ね」

「駄目だね」

「やーい、ダメ人間」

「なにおー」

すっかりと打ち解けて遠慮なくはしゃぐ新入生の面々であった。
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