セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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56話 三つ色の樹 その11

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正午を回る頃、ミナとレインは買い出しから戻って来た、午前の早い時間でレアンが遊びに来た為、その日は日常の定型作業とはいかなくなり、レアンが去った後で落ち着きのないミナにソフィアは買い出しを頼み、自身は洗濯と掃除を済ませる、

「なんかねー、なんかねー、ごちゃごちゃしてたー」

「ごちゃごちゃ?」

「うん、あのね、あのね、なんか人がいっぱいでー、大工さんがなんかやってたー」

厨房で買い出し品を確認するソフィアにミナは嬉しそうに報告する、ソフィアは夕飯はどうしようか等と話し半分で頷きつつ、そう言えばとミナを見下ろし、

「大工さんかー、あー、お祭りの準備?」

「たぶんそー、レインが言ってたー、楽しみー」

ニパーと輝く笑顔で見上げるミナに、

「そうねー、でも朝早いって言ってたんでしょ?」

「うん、鐘の音と一緒だってー」

「そっか、ジャネットさん達も早いからな、明日は少しでも手早くやりますか」

「うん、それがいいと思うー」

ソフィアの心中を知ってか知らずかミナは御機嫌である、レアンが明日の祭りでなにやら大事な仕事を任せられたらしく、是非見に来るようにと威丈高に微笑み、午後からは打合せじゃと意気揚々と寮を後にした、ミナもソフィアも具体的に何をするかは結局分からなかったが、ミナは見物の使命感に燃えている様子であった、

「そうねー、うん、じゃ、どうしようかなもう少しゆっくり出来るかな?」

ソフィアは厨房での作業を切り上げて食堂へ入る、レインはいつも通りに書を手にして一休みしているようで、そろそろ新入生達は戻る頃合いであった、ここ数日彼女達は商会の手伝いを頑張っている、昨日は美容服飾研究会にも参加したようで、帰ってからもその話題で持ち切りであった、やわらかクリームに関しては寮に来てから皆が使っているからと使い始めその効能を理解してはいるが、研究会での発表により学問的な思考方法であったり、開発という行為にも興味が湧いてきたようで、ユーリは良い兆候だなとほくそ笑み、サビナも大した吸収力だわと舌を巻いている、

「じゃ、編み物かなー、ミナー、ちょっと足貸してー」

ソフィアは編み物籠に手を伸ばし、その側の椅子に腰を下ろす、

「あしー?」

「そうよ、足ー」

「どうやってー?外せないよー」

不思議そうな顔で可愛い事を言うミナであった、ソフィアはもぅと微笑み、少しからかうとニヤリと笑うと、

「えっ、ほんと?ミナ、足、外せないの?」

目を見開いて真顔で問いかける、

「えっ、外せるの?」

ミナは何を言い出すのかとビクリと肩を揺らした、

「みんな外せるわよー、そっかー、ミナには無理かー」

ニヤーと嫌らしい笑みを浮かべるソフィアに、

「えー、嘘だー、外せないよー」

ミナは猛然と食ってかかる、

「外せるわよー、ねー、レインー」

レインがまためんどい事をと顔を上げ、しかし、こちらも意地悪そうに微笑むと、

「まったく、ミナにはまだ教えておらんだろ、ま、ミナには無理じゃがな・・・」

「そうよねー」

「えーっ、嘘だー、絶対嘘だー」

「そうねー、嘘だわねー」

ソフィアはあっさりと認め、なんじゃ終わりかとレインはつまらなそうに溜息を吐く、

「ほらー、ソフィー嘘つきだー、嘘ついちゃ駄目って言ったのに嘘つきだー」

「そうよー、嘘は駄目よー」

「でも、嘘ついたー、駄目だー、駄目な子だー」

「でしょー、嘘つかれると嫌でしょー、だから、嘘つきは嫌われるんだからね、ミナは嘘ついちゃ駄目よ」

「うーうー、もー」

ミナはやり場のない怒りを呻き声と叫びに変え、それでも収まらずドンドンと地団駄を踏む、

「こら、暴れないの、こっちおいで」

ソフィアはミナを招き寄せて側の椅子に座らせると、

「はい、足借りるわよー」

「むー、だから外せないよー」

「外さなくても借りるからねー」

とミナの小さな足を隣りの椅子に載せ、編みかけの編み物をスッポリと被せた、

「あっ、あったかい・・・」

「でしょー、うん、大きさは丁度いいわね、なんのかんので遅くなったけどー、もう少し伸ばしてもいいかしら・・・」

「ううー、こそばいー」

「もうちょっと我慢してー」

ソフィアは具合を見る様に調整すると、スッと外して、

「うん、目測通りね、私ってば天才だわ」

ニヤリと自画自賛である、

「うー、足返してー」

「何言ってるのよ、あるでしょ」

「なんか違うー、足返せー」

「なんか違うってなによ」

「違うのー、返せー」

どうやら先程の仕返しとばかりにミナは両手両足をばたつかせる、ソフィアはまた面白い事を言い出すもんだと微笑み、

「じゃ、私の貸してあげるから、それでおあいこね」

「うー、ソフィーの足?」

「うん、どうぞー、あっ、ミナのより大きいから片方でいいわよねー」

と勝手に決めてその片足をテーブルにドスンと持ち上げた、大変にだらしない姿となる、とてもではないが生徒達の前では見せられない、

「うー、わかったー」

ミナは渋々と呟き、しかし、どうしたものかとその足を見つめ、ハッと目を見開くと、

「うふふー、ソフィー」

ガシッとその足を小脇に抱えると、コチョコチョとくすぐり始める、

「あっはっは、ミナ止めてよー」

ソフィアの楽しそうな悲鳴が響いた、

「止めないー、ミナが借りたの、ミナの好きにするのー」

「それはいいけど、くすぐったいからー」

「そうしてるのー、ソフィーめー、観念しろー」

「分かった、分かったから止めてー」

「やだー」

「レイン、助けてー」

と悲鳴を上げるソフィアであったがさしてくすぐったそうな顔ではない、それは確かにこそばゆくむず痒いが、結局はそれだけである、さらに言えば子供の時のそれよりも鈍くなっているようで、ただミナがそう思ってやっているのだから付き合っている程度であるのが丸分かりであったりする、

「何を言っている」

レインはめんどくさそうにソフィアを睨み、

「レインもー、レインもやってー」

今度はミナが助けを求めた、ミナにしてもソフィアが本気で嫌がっていないのは薄々気付いており、これでもかこれでもかと力を籠めるが、しかしそれが逆効果になっている事には気付いていない、

「まったく、どれ・・・」

レインがのそりと腰を上げる、

「あっ、まって、あんたは駄目よ」

ソフィアは本能的に危険を察知した、ミナのこれは戯れである、しかし、レインのそれは何をやりだすか分からない、相手が悪すぎる、

「何がじゃ?」

「洒落にならないでしょ」

「ほう・・・洒落とは何じゃろなー」

レインはニヤーと耳まで裂けるほどの嫌らしい笑みを浮かべ、

「ミナ、しっかりと捕まえておれ」

「わかったー」

「まって、ホントに止めて、ね」

「んー、足を借りているのはミナであろう?」

「そうだけど・・・」

「ミナー、どうしたいー」

「えっと、泣かす、嘘ついたから泣かせるー」

「そうか、それも一興」

「こら、それは謝るから、ミナ、ねぇちょっと」

実の所は本気になれば子供の一人や二人は振り払える、それは当然として、たまにはこうして戯れるのも良いであろうとソフィアは考えていたりもする、

「そのままじゃぞー」

レインはワキワキと指を蠢かして近付き、

「うふふ、ソフィー、観念しろー」

「分かった、分かったから、ごめんてばー」

レインがその足に手を伸ばし、ソフィアの悲鳴が食堂に満ちた、それはあっという間に鳴き声と嬌声に変わり、やがてゼーゼーとした嗚咽になった、そこでやっとミナは手を離し、レインもフンと満足そうに腰に手を当てる、

「ふふん、勝ったー」

「じゃのう・・・」

ミナとレインのハイタッチの小気味良い音が響く、そこへ、

「あの、大丈夫ですか?」

そろそろと階段から顔が覗いた、それも二つ、アフラとサビナである、

「あー、大丈夫よ」

ソフィアはフーフー言いながら顔を上げ、

「うふふ、ソフィーに勝ったのー」

ミナはピョンピョン飛び跳ねて勝利を喧伝し、

「まったく、ちょろいものじゃな」

レインは踏ん反り返ってフフンと鼻で笑う始末で、

「えっと・・・」

アフラとサビナは何が何やらと顔を見合わせるしかなかった。
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