セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

55話 5本の光柱 その8

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翌日、ユーリはソフィアとミナとレインを連れて授業中の学園内を歩き、外れにある講堂へと足を踏み入れた、光柱魔法の実証実験の為である、

「誰もいなーい、広ーい」

伽藍とした講堂内にミナの嬌声が響き渡る、

「あら、今日は椅子もないのね」

「そうよー、いつもはこんな感じなのよ、広いでしょ」

続いてソフィアとユーリののんびりした声が木霊した、

「へー、じゃ、前もここでやれば良かったじゃない」

「あのね、天井に穴が空いて最悪燃えるわよ、場合によっては木っ端微塵ね」

「それもそうか」

ソフィアはあっはっはと笑いつつ歩を進め、ユーリも、

「天井か、一応結界張っとくか」

と自分の言葉で大事な事を思い出す、

「そうねー」

「ソフィー、いい?いい?」

ソフィアとユーリが天井を見上げているとミナがウズウズとソフィアの足に抱き着いた、

「いいって何が?」

ソフィアは不思議そうにミナを見下ろすが、ミナの目はランランと光輝くばかりで目的を告げる事は無い、つまりそんなものは無い、それを見つけるために自由にさせろとおねだりしているのである、

「あー、そうね、私達が見える所にいるのよ、それとはしゃぎ過ぎない事」

「わかったー」

ミナはソフィアの注意を最後まで聞くことなく取り敢えず振り返って走り出し、レインも取り敢えずとその背を追う、

「何が楽しいんだか・・・」

「まったくだわ」

ユーリとソフィアはその背を眺めて、

「さて、どうするか」

「下準備よね、やっぱり何があるか分らんし・・・壁と天井には結界ね、床はどうしようか・・・」

「床・・・一応やっとくか・・・うん、また何か抜けてたら学園に迷惑かけるしなー」

「あー、それ言う?」

「言うでしょ、だって、あれのお陰でこうなってるんだしさ」

「それは言うなし」

「言うわよ、間違いから学べないのは愚か者のする事でしょ」

「そうだけどさー」

ユーリはブー垂れながら、ソフィアは小さく立腹しながら講堂自体を保護する為の結界に取り掛かった、そして、取り敢えずこんなもんかなと二人が見渡していると、

「おう、早速じゃな」

学園長と事務長、それから革袋を下げたカトカが姿を現しそのまま二人の元へと歩み寄る、

「あー、ガクエンチョーセンセーだー」

ミナが早速学園長に駆け寄り、

「おう、ミナちゃん、レインちゃんもおはようじゃ」

「おはよーございます、ガクエンチョーセンセー」

「おっ、良い挨拶じゃ、ミナちゃんは元気で良いのう」

「えへへー、でしょでしょ」

ミナは三人を前にしてピョンピョン飛び跳ね、さらに、

「およ、何じゃ、結界があるのう」

ロキュスとその弟子が数名、こちらはゾーイを伴って入って来る、

「あー、えっとー、誰だっけー」

ミナが取り敢えずと駆け寄り、

「儂か?誰とは?」

ロキュスが何の事かと首を傾げる、すかさずゾーイがミナにロキュスを紹介し、ロキュスも、

「あー、ソフィアさんの娘さんじゃな、うんうん、子供は走り回るくらいが丁度いいのう」

と正に好々爺といった優しい微笑みを浮かべた、

「えへへー、褒められたー」

ミナはゾーイの足にまとわりついて恥ずかしそうに隠れ、しかし、すぐさま、

「ゾーイ、あっちー、あっち面白そー」

とその手を引く始末である、その指差すあっちの方角には演壇があるがそれだけであった、

「えっと、演壇ですか?」

「そうなの?あれー、楽しそうー」

ゾーイは子供の相手には慣れていないようで、恐らくここで一緒に走り回ればウルジュラのようにミナとの距離を一気に縮められた事であろう、しかし、そのような考えには至らず、何の事やらと不思議そうなゾーイに、

「ぶー、レインいこー」

さっさと見切りを付けて走り出すミナであった、

「えっと・・・」

ゾーイは一体なんなのかと二人の背を見送り、それよりも仕事だと意識を切り替えてロキュスと共に中央付近で話し込んでいるソフィア達の元へと向かった、

「ほう、なるほどのう」

「しかし、これは構築できるのですか?」

「理論上は・・・難しい事はやってませんね、若干複雑なだけです、学生でも可能でしょう」

「えっ、本当ですか?」

「あー、恐らくですが・・・」

「・・・ユーリ先生がそういうのであればですが・・・しかし、発動は可能でしょうが理解が・・・難しいですな」

「うむ、それに随分と変わりましたな、見る限り結界の技術は根本のみですか・・・」

「そうですね、ギルドの言う制御を考えると結界では難しいと思いまして」

どうやら既に光柱の魔法について説明が始まっているらしい、ユーリとカトカが黒板を手にして何やら説明しており、ソフィアは興味が無いのかボーッとその様子を眺めている、

「なんじゃ、もう始めているのか」

ロキュスが鼻息を荒くして割り込んだ、

「ん、なに、触りじゃよ、触り」

学園長がニヤリと振り返る、

「ふん、抜け駆けは感心せんのう」

「ほう・・・なんだ、自分のおはこを取られてお冠か?」

「むっ、どういう意味じゃ」

「そのままじゃよー」

老人の軽い口喧嘩が始まり、カトカとゾーイはこの人達もかと呆れるが顔には出さず、

「揃いましたでしょうか?」

ゾーイが進行役を買って出た、この場で全体の流れを作れるのはどうやら自分だけらしい、ユーリとソフィアはめんどくさいであろうし、カトカはどうも控えめな性格であるらしく人の前に立つのは苦手らしい、学園長とロキュスは研究者らしく自分勝手で我儘だ、事務長とロキュスの弟子達では上司を抑えることは出来ても基本的には命令される側である、自分も本来はそうなのであるが、誰かがまとめ役をしない事には話しがまるで始まらないし進まない、

「では、どうしましょう、今回の魔法についてユーリ先生から説明頂いても宜しいでしょうか」

ゾーイは事務的かつ中立の立場を心掛ける、昨夜の開発段階ではゾーイの意見も何気に多く取り入られた、ソフィアからポンポンと出て来る新しい発想の魔法とユーリの修正案に最初は驚くしかなかったが、良く聞き、黒板に書かれた式を読めばそれらは既存の魔法の延長上にあるか、その亜種と言って良いものであった、さらに付け加えれば普通はやらない若しくはやらせない術式がふんだんに使われており、教科書的ではない論理思考が根底にあった、魔法技術を普段から使い倒している者独特の実践的な思考であろう、その上新規と思われる魔法であってもユーリの解説によれば先の大戦で考案されたが効果が今一つで放棄されたものらしい、つまり、ソフィアとユーリは今回の依頼に関して既存の魔法を組み合わせて対応しようとしていたのであった、それに気付いてからはゾーイも口を出す事が出来るようになり、カトカやサビナもその得意分野で口を出し始めた、そしてこれならまぁ何とかと机上での構築は終わり、実践してみなければとなって急遽この場が設けられた、随分性急だなと思うが祭りまで日が無い、今日完成させ明日には関係者に披露しておきたいとユーリはワインを口にしながらも真面目な口調であった、

「私から?」

「勿論ですよ、ソフィアさんにします?」

「私は無理よー」

「あーはいはい、じゃ、まずは・・・」

とユーリは事の次第から説明を始めた、目的を明確にし開発意図を理解してもらう為である、学園長やロキュスはその場にも居た為うんうんと頷いており、弟子達は黒板を手にして必死に書き込んでいる、

「以上が前提であります、で、こちらとしましては、まず結界ですね、前回の光柱のように結界陣を主とした構成ですと大量の魔力が必要である事、それから発動してしまうと収束が難しい事、それと維持も難しいですね、結界の性格上致し方ないと思いますが・・・まぁ、この二点が最も難しい課題となると思われます、特に要望としてあったのが巨大なものですから、そうなると、はい、私達かそれこそ某殿下をお呼びしないととなります」

それは考えられないですねとユーリは一息吐いた、確かにと参加者は頷く、

「そこで・・・」

とユーリは黒板を掲げた、そこには光柱の図面があり、各部に細かい注意書きが見える、カトカが気を利かせてサッと動いてユーリの代わりに黒板を手にした、

「あ、ありがとう」

ユーリはニコリと微笑み、ゴホンと咳ばらいをすると、

「まずは、これが基本構築となります、実践しておりませんので調整が必要かと思いますが、こちらであればそうですね、うん、学生でも構築可能かなと思われます」

「ほう・・・」

一同の視線が黒板に集中する、ユーリは基本となる根幹部分から指差しつつ説明した、基部には結界の応用、魔力を保存する基礎概念、光柱の主要部分となる柱の発光方式、発光の根幹となる灯りの魔法の類似性を逆手に取った仕組み等々となり、それらは学園でも魔法学の基礎として教えられている事であるが、全く持って新しい視点と使い方であった、異端であるとか危険であるとしてまず用いない使い方となる、

「なるほど・・・じゃが・・・これは・・・」

「うむ、これは新鮮だな珍奇というべきか・・・いや、うん、使い方としては良いと思うが・・・」

「そうですね、なんとも言葉を選んでしまいます・・・」

しかし、学園長とロキュス、事務長が困った顔で視線を交わし、弟子達も困惑した顔で首を傾げている、皆魔法に関してはしっかりとその基本を理解し、研究している者達である、故に説明されたその魔法に関しての評価はどうやら似通ったものらしい、

「はい、皆さんの意見を代弁します、実に無駄ですね、過剰というか、うん、何とも無駄です」

ユーリは言い難そうにしている彼等の内心を口にした、昨夜ゾーイが思わず口にした一言そのままである、

「身も蓋も無い・・・」

事務長が眉根を寄せる、

「はい、身も蓋も無いです、しかし、よく考えてみて下さい、お洒落は実は無駄の固まりなのです、さらに酒も賭け事も同じです、私達が遊興として楽しんでいる事の多くは、無駄です、生きるだけなら必要無いです」

ユーリはフンスと鼻息を荒くし、

「しかし、その無駄こそが人生の楽しみなのです、それらが無ければつまらない人生でしょう、となれば・・・魔法を無駄に使う事、これもまた遊興になる・・・魔法を楽しみとして活用する、そうなるのもまた必然なのでは無いかなと思います、現在は生活のちょっとした助けや血生臭い事に使われるのが精々で、それを主として研究されておりますが・・・まぁ、今回少しばかり視点を変えてみましてね、娯楽として、遊興として魔法を行使するとなればそれもまた面白いんではないかと思った次第です」

昨夜ワイン片手に適当な風であったユーリの言葉とは思えないし随分と愚痴っていた筈であるがそんな事はおくびにも出さない、いつの間にそんな真面目な事を考えていたのかとゾーイは驚き、カトカはまた適当な事をと黒板に隠れて呆れている、ソフィアはミナとレインが何処に行ったのかしらとその姿を探してまるで無関心な様子であった、

「・・・それを言われてしまってはな・・・」

「うむ、そうじゃのう、確かに、今回の依頼を考えれば・・・うん」

学園長とロキュスは納得したらしい、それぞれに思う所もあろうが騒動の端緒から関わって来た二人としてはユーリの考えに賛同は難しいが理解せざるを得ず、上の二人が納得したのであれば事務長も弟子達も異論を挟む事は無い、

「では、実際に構築してみましょう」

ユーリはさてととソフィアへ視線を送る、

「はいはい、じゃ、基部はどうする?」

「ん、あー、鍋持ってきたわ」

カトカが下げている革袋から新品であるがどこか埃っぽい土鍋を取り出した、

「あら、いいの?立派じゃない」

「はい、倉庫にあったので、何かに使えると思って買ったはいいけど使ってなかったようですから」

「そうなんだ、じゃ、遠慮無く」

ソフィアは鍋を受け取ると講堂の中心付近に無造作に置き、

「じゃ、やりますよー」

気の抜けた声で開始を宣言した。
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