セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

55話 5本の光柱 その6

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その日の夕食時、

「ゾーイさんよ、宜しくねー」

生徒達が揃っている所にユーリが所員の二人とゾーイを伴って現れ、なんとも雑にゾーイを紹介した、えっと驚く面々に、

「あー、大事なお客様だからね、失礼の無いように」

ユーリは疲れた顔でそれだけ言ってドカリと腰を下ろし、ゾーイも小さく頭を下げただけで言葉も無い、サビナがこれではいかんと間に入って生徒達とゾーイを取り持った、

「あー、どっかで見たー」

ミナが大声でピョンと飛び跳ねる、

「どっかで見たは酷いだろ」

ユーリに睨まれるも、

「どっかで見たからどっかで見たのー、ユーリうるさいー」

ユーリに対しては非常に手厳しいミナである、フンッとユーリに背を向け、

「こっち、こっち座るの、ユーリはいじめっ子だから近付いたら駄目なのー」

「何だとっ、酷い事言う子だなー、ゾーイ、こんな事言う子こそいじめっ子だからね、こっち来なさい」

「むー、ミナは違うー、優しいよー」

「なら、ユーリも違うー、優しいよー」

「ぎゃー、マネするなー」

「ぎゃー、マネするなー」

「むー、マネする方が悪いやつなのー、マネしちゃ駄目なのー」

「むー、マネする方が悪いやつなのー、マネしちゃ駄目なのー」

「ユーリのくせにー」

「ミナのくせにー」

「そこはマネしないんかい」

ジャネットが漸く突っ込みを入れて、騒ぎは唐突に収まった、ミナはムーと口をへの字に曲げ、ユーリはニヤニヤと楽しそうで、ジャネットはどうだと言わんばかりに胸を張るがミナとユーリの遣り取りにすっかりと慣れてしまっている面々は何とも素っ気ない、しかし、新参者のゾーイとしては大変に意外な事のようで、

「えっと・・・」

どういう事かと流石にその表情を変えた、光柱の一件の折にミナを見かけてはいたが王族と妙に仲の良い平民の子だなと珍しく思っていた、しかしそれだけで、まったくもってそれどころでは無かった、ユーリに関しても学園で見る普通の大人としての姿しか知らない、それは隣りで見るだけだであれば厳しくもしっかりと自立した女性の姿であり、学園長やロキュスどころか王族を相手にしてもまるで動じない様にゾーイは密かに敬意するら感じていた、それがこれである、職場と家庭で性格も態度も変わるのは理解できるが、あまりにも落差が過ぎるというものだ、

「あー、いつもの事だから」

「そうですね、ほら仲が良い程喧嘩すると言うでしょ」

サビナとカトカがヤレヤレといつもの席に腰を下ろす、

「むー、仲良くないもん、ユーリは敵だもん」

ミナがムキーっと声を張り上げる、

「なにおー、こんなに可愛いユーリ様に向かって何て言い草だー」

負けじとユーリが食ってかかり、

「可愛くない、ミナの方が可愛いもん」

「へーへー、ホントかなー、ミナのどこが可愛いのかなー」

「むかー、ユーリ可愛くない、いじめっ子だー」

一度収まったと思った水準が低過ぎる口喧嘩が再発し、ゾーイはどうしたものかとオロオロと周りを見渡すが、食堂の面々はいつもの事と関心が無さそうで、何やら図面を前にうんうんと悩んでいる者、編み物に集中している一団、木簡を手にして読み込んでいる者等様々である、そこへ、

「はいはい、うるさいわよー、何やってるのー」

ソフィアがヒョイと顔を出した、

「あっ、ソフィアさん、お邪魔します」

ゾーイが慌てて頭を下げた、再び硬い表情で畏まる、

「ゾーイさんいらっしゃい、うるさくして御免なさいね、ま、騒がしいくらいが明るくていいとは思うんだけどねー」

とソフィアは微笑み、

「さっ、準備出来たわよ、手伝ってー」

パンパンと手を叩く、それを合図として一同はテーブルを片付け始めた、なるほど寮の生活とはこんな感じかとゾーイは感心する、

「お手伝いするー」

ミナがこれ見よがしな大声を上げてソフィアの側に駆け付けた、

「あら、嬉しいけどどうしたの?」

「ユーリがいじめるのー、マネっこするしー、ユーリ嫌いー」

「そっか、ユーリー、可愛いからって虐めちゃだめよー」

「えー、虐められたのユーリの方だよー、ミナ怖いんだもん、可愛くないしー」

「虐めてない、ユーリは嘘つきだー」

「嘘ついてないでしょー、ミナの方こそ嘘つきだー」

「ニャー、ユーリのアホー」

「あー、アホーっていう方がアホなんだぞー」

「むー、ソフィー助けてー」

夕食前だというのに元気なもんだとソフィアは呆れつつ、

「はいはい、ほら、お手伝いするんでしょ、今日はレインの漬物も出すわよー」

「えっ、ホントですか?」

サレバが嬉しそうに顔を上げ、

「良い感じに漬かったからねー、美味しいわよー、でも、そんなに楽しみだった?」

「勿論ですよー、ねー」

「はい、楽しみでしたー」

ルルとコミンも笑顔を見せる、

「そっか、あっ、先に言っておくけど甘い物も用意してあるからね、食べ過ぎないようにねー」

ソフィアはサッと踵を返して厨房へ戻り、ミナはその足に引っ付くように後を追う、

「甘い物って・・・」

「うん、あれだ、蜂蜜漬けだ」

「うわー楽しみー」

食堂内は一気に姦しくなった、そして今日の夕食は宣言通りにレインの漬けた漬物が2種、それと野菜がタップリと入った煮物、獣肉のソテーとそば団子である、一同は歓声を上げて食事に取り掛かり、やはり漬物は称賛の的となった、以前食卓を飾った甘酢漬けは当然であったが、塩と薬草とワインで漬けた何と呼ぶべきか実に悩む漬物も塩味と薬草の苦味、ワイン由来の渋みと独特の甘さが絶妙に組み合わさり複雑なのに美味しいと、大人を中心に好評のようである、それはつまり子供舌であるミナやコミンには不評という事でもあった、そしてあっという間に食事が終わる、食事の分量が少ないという事では無く、恐らくその呼称に若干の難がある漬物のお陰で食が進んだのであろう、そして取り合えずと協力して皿が片付けられると、

「はい、じゃ、これも漬物よね」

ソフィアが持って来たのが干し果物と木の実の蜂蜜漬けであった、それをソフィア得意の薄パンに塗り付け、一口大に切り分ける、

「こんな感じでいいの?」

とソフィアがレインに確認する、蜂蜜漬けに関してはソフィアも初めての料理であった、予めレインにどう食するのが良いか聞き取り、大人数で食べるならとこの形を採用してみた、

「うむ、パンはあれか塩味を強めにしてあるだろうな?」

レインが嬉しそうにソフィアの手元を覗き込み、生徒達も言葉は無いがその熱い視線は薄パンに集中しソワソワと落ち着きがない、

「一応ね、御注文通りだと思うけど」

「ならばよし、美味いぞこれは」

レインがニヤリと微笑んだ、

「美味しいの?」

ミナがソフィアとレインを見比べる、先程の漬物は今一つであった為また漬物かと渋い顔であったが、レインが嬉しそうに微笑むのを見てこれはまた何かが違うと察した様子で、

「無論じゃ、香りだけでもよいじゃろう?」

ミナは素直に胸いっぱいに香りを吸い込み、

「うふふ、甘ーい匂ーい」

「じゃろう」

無邪気に微笑みあう二人であった、

「そりゃ美味しいわよ、蜂蜜に干し果物に木の実でしょ、それぞれで食べても美味しいんだもん、一緒にしたらねー、不味くなったら承知しないんだから」

ソフィアはやっかみ半分で嫌みを言うが、

「ふふん、言っておれ」

レインは余裕の笑みを浮かべ、

「えへへー、楽しみー」

ミナも瞳をランランと輝かせる、そして、

「はい、一人3つくらいかな、喧嘩しないでよー」

ソフィアは大皿に見栄えするかなと綺麗に盛り付けそれぞれのテーブルにドンと置いた、女性達のキラキラと輝く視線が自然と集まる、しかし誰も手を伸ばそうとはしない、

「ん?どうぞー」

ソフィアは何か変だったかなとうずうずと手をこまねいている一同に首を傾げた、

「では」

「うん、失礼して」

皆ゆっくりと手を伸ばした、夕陽の頼りない赤い光線が差し込んでおり、他に灯りとなるものはない、その為やや暗く感じる室内であったが、蜂蜜独特のヌラヌラとした輝きが刻まれた干し果物と、同じく刻まれた木の実を覆って大変に愛らしい、これは絶対に美味しいぞと口に入れなくても分かる艶姿である、

「んー、美味しいー」

ミナが第一声を上げた、嬉しそうに両手をバタバタと振り回し、

「甘いのに、すっぱいのーでもコリコリしてるの楽しいー、美味しいー」

どうやらその菓子の魅力を見事に一言で表したようで、続いた一同も、

「ホントだ・・・甘いのに酸っぱい」

「うん、干し果物の味ですね、スッキリした甘味になってます、蜂蜜のくどさが全然感じられない」

「それに食感もいいね、木の実かな?」

「うん、コリコリしてて楽しいねー」

「硬過ぎないからいいのかな?蜂蜜に漬けてあったのらそれで柔らかくなったのかも」

「パンの塩気が丁度いいです、甘味を引き立ててます」

「そっか、それか、うん、美味しい」

「食べやすいのもいいね」

「これなら何個でも食べれるよ」

「とっても贅沢なお菓子ですわね」

絶賛の声が響いた、

「むふふ、どうじゃ、ソフィア見直したか?」

レインがニヤリとソフィアを見上げる、

「見直すもなにも、別に見損なってはいないわよ」

「じゃ、あれだ、負けを認めるか?」

妙に突っかかって来るレインに、

「はいはい、漬物では負けたわよ、でも、これって保存食になるの?」

「なるぞ、蜂蜜は腐らんだろ、半年は持つな」

「そうなんですか?」

エレインが驚いて顔を上げた、どうやらユーリやカトカも初耳であったらしい、モゴモゴと口を動かしながらレインへ視線を送る、

「そうだぞ、ただしあれだな薄めていないしっかりとした蜂蜜であればだな、街中のは薄めているのもあるからな、そこが肝要じゃ」

レインがニヤリと答える、

「これはいいですわね・・・オリビア、テラさんどう思います」

「はい、少々お高くなるかもですが・・・」

「ええ、この大きさであればお茶請けとしても最適ですね、苦いお茶に合いそうです」

「そうですわね・・・ジャネットさんケイスさんはどうです?」

「新商品?」

ジャネットはパッと顔を上げた、

「そのつもりですわ」

「大賛成です」

ケイスが頬を緩めた、

「ですわよね」

「うん、ただレインちゃんの助言に従うなら、上質な蜂蜜が必要ですね、保存を考えなければいいのかな?」

「えー折角だからちゃんとしたの作ろうよー」

「そこが問題ね」

「フェルフーフ商会を信じるしか無いでしょうか」

「今のところは良い品を入れて貰っているでしょう?」

「蜂蜜は苦手だと先日話してましたから」

「あら、じゃ、他を探しましょうか」

商会仲間はやはりどうしてもそちらに話題が移ったようで、ソフィアは純粋に楽しめばいいのにと呆れてしまう、

「とっても、美味しいですね、ビックリです、あの・・・本当にソフィアさんて・・・寮母さんだったんですね」

結局カトカとサビナの隣りの席に座ったゾーイが呟いた、初めて食べる菓子を見つめながら何とも不思議そうである、

「そうなんですよ」

カトカは苦笑いで答え、

「はい、困ったもんです」

サビナも溜息混じりである、どう困るのかなとゾーイは思うが、例の光柱の件の真相を知る者として、

「確かに困るかも・・・私達の立つ瀬が無いですね」

小さく呟き、カトカとサビナもうんうんと頷いて皿に手を伸ばすのであった。
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