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本編
54話 水銀の夢 その14
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そして食堂では取り敢えずと茶を片手に一服である、午前の早い時間でもある為、若干贅沢にも感じるが、一同はまったりとしたその時間を心地良く楽しむ、しかし、その場にニコリーネとミナとレインは無い、手本となった大樹を見たいとニコリーネは落ち着きが無く、そういう事ならとミナとレインが裏山に案内しているのである、故に食堂内は落ち着いて静かなのであった、
「大丈夫かしら?」
茶を手にしてソフィアは裏山の方へ視線を送る、勿論食堂内からは見えるはずもないのであるが、
「大丈夫ですよ、あーみえてちゃんとした娘ですから」
パトリシアが余裕の笑みを浮かべた、
「信頼されてますのね」
エレインが不思議そうに口を開く、ニコリーネとは数刻も一緒にしていないがその奇行ぶりには心底驚いている、初めて出会う型の人物であり、パトリシアのような高位の貴族と面識がある事自体に違和感があった、
「それはもう、子供の頃から知ってますからね、あの娘の父親がお抱えの絵師なんですよ、その父親にくっついて王城にも出入りしてましたから、そうね、レインちゃんくらいの歳の頃からかしら?その頃から落ち着きのない子でね、工房の中を走り回ってましたね」
「そんなに昔から?」
「そうですよ、王城にある祖父の肖像画もその絵師の作なのです、ところがね」
パトリシアはニヤリと思い出し笑いをして、
「その絵が完成したのは祖父が無くなってから数年経ってからで、挙句出来上がったものは絵画としては素晴らしいですし王の肖像画としては傑作と呼ばれて然るべき品なんです」
「なら、いいんじゃないの?立派な絵なんでしょ」
ソフィアはあの時見たあの絵かしらと思い出そうとするが明確な像を結ぶことが出来ない、絵やら彫刻等という物にまるで触れてこなかったが故の教養の無さを実感する、
「そうなんです、ですが、その祖父はどうみても陛下の顔なんです」
パトリシアはお披露目された瞬間の皆が呆然とした顔であった事を思い出し、一人クックックと控えめに笑う、その一件はアフラも従軍する前の事でありまるで知らなかった事で、パトリシアは思い出し笑いを必死にこらえているがソフィアとエレインは何とも反応のしようが無く、アフラもまた何の事やらと素面であり、そういう事もあるのかしらと困惑するしかなかった、
「でね、その絵師さん曰く、祖父の若い頃を活写したのですって、もう堂々と言うもんだから誰も何も言えなくなってね、でもね、その絵の顔はほくろの場所も髪の色も陛下そっくりでね、もう、皆が陛下とその絵を見比べてキョロキョロするもんだから、陛下もねやっぱり変だなって気付くのね、で、やっと口を開いたと思ったら、先代はこれほど豊かな黒髪であったかなって、そしたら・・・」
「そしたら?」
「はいって、その絵師は大声で自信満々に答えてね、若い頃に市井に忍んだ折の仮装ですって」
「それで許されるんですか?」
エレインは呆気にとられてポカンとしてしまう、話しだけを聞けば首を跳ねられても仕方のない事のように聞こえる、
「許されるんですよ、だって、その絵師さんと先代はね本当に悪友でね、若い頃から好き放題やってたから、陛下もねそれを知っているから強くも言えなくて、だって、陛下としてもその絵師さんは兄貴分みたいな人だからね、で、それ以上何か言ったら皆には言えないような悪事が出てきそうでね、それは、ほら、後から陛下が言ってたんだけど、だから、もうその絵を認めるしかなくて、みんなして、いい絵なのは分かるんだがどうしたものかなって、大人達が雁首揃えて悩んでましたからね、ふふ、子供心に可笑しくって」
「そういう事もあるんですねー」
エレインとソフィアは取り敢えずと頷くしかなく、アフラでさえどうしたものかと困り顔となる、
「そうなんですよ、ま、あの子はね、生まれた時から絵画とか彫刻とか細工物とかそういうのに囲まれて育ちましたからね、やっぱりそういうのに詳しくなっちゃって、それであの感激屋でしょ、でもね、あの子も良い絵を描くんですよ、ですが、どうしてもね、若いし、女だしね、大きい仕事に恵まれなくて、でも、全然気にしないで明るくてね、だから私とクロノスの肖像画を描かせたり、北ヘルデルに呼んでみたりね」
嬉しそうに話すパトリシアに、なるほどそれで転送陣にも動じず、ガラス鏡にも興味を示さなかったのかとエレインは納得した、恐らくであるがパトリシアはニコリーネの事を実の妹のように気にかけているのであろう、今回の壁画に関しても最初から彼女を巻き込むつもりであったのではないかとエレインは邪推する、エレインは良い作品になるのであれば誰が描こうが構わないと考えていたが、少しばかりの嫉妬を感じた、
「なるほどねー、面白い娘さんみたいですね」
ソフィアもやっと前向きに捉えたようである、ソフィアはパトリシアが連れて来る人物としては随分と毛色の異なる人間だなと感じており、またパトリシアの話しを聞く限りそういう人間関係が王族にもあるのであるなと思い知る、平民から見れば貴族はどうしても雲の上の存在であり、よく躾けられた固い人格者ばかりがその周りを囲っているものと思い込んでいた、つまりアフラのような人材である、実際に王族に名を連ねる事になったクロノスの周りにはリンドを始めとしてお堅い人物が多く、パトリシアの周りも同様である、故にクロノスにしろパトリシアにしろその自由で奔放な性格がより強調され、ソフィアの受ける印象もそれに大きく左右されている、恐らくであるが、二人がこちらに顔を出すようになってから、ソフィアはクロノスとのかつての仲をそのまま引き摺って気軽に相手をしているが、それで特に咎められることが無かったのは、ニコリーネのような存在が王族の周囲にいたお陰なのかもしれない、となると、ソフィアとニコリーネは同列の扱いなのであろうか、それもそれで心外かしら・・・とソフィアは考えてしまう、
「失礼します」
そこへ木簡の束を抱えたテラが音も無く入って来た、
「あら、ありがとう」
エレインが礼を言いつつ木簡を受け取り、
「テラさんも座りなさい」
パトリシアが機嫌良くテラを誘う、寮の食堂であり茶会というにはあまりにもお粗末な席であるが、それでも茶会には違いなく、この場合席に誘う事が許されるのはより高位な者か主催者だけである、それが貴族の礼儀であり仕来りであった、その為パトリシアはごく自然に声を掛けたのである、
「ありがとうございます」
テラは優雅に微笑み素直に空いた席に着く、これもまた礼儀の一つである、断るのは勿論遠慮の言葉も礼を欠く行為であった、
「それでそれがその木簡ですの?」
話題はあっさりと変わりパトリシアはエレインが手にする木簡を注視する、ソフィアは茶道具に手を伸ばし茶を点て始めた、
「どうぞ御覧下さい、お持ちしたのは一押しの品ばかりですね」
エレインが木簡にざっと目を通してパトリシアに手渡す、
「なるほど・・・面白い項目ですわね」
「はい、サビナさんとカトカさんにも協力頂いて作成致しました」
木簡は下着の評価に関する件の品である、パトリシアはなるほどと一枚目の木簡をじっくりと読み込み、そして流れるように次の木簡へと移っていく、アフラはパトリシアの読み終えたそれを受け取りながらこちらもまた真剣に文字を追っている様子であった、ソフィアはテラに茶を供しつつまだ見せて無かったのねとその事実に驚き、ま、忙しかったからねと他人事のように考える、
「如何でしょうか」
エレインはおずおずと問いかけた、ユスティーナには満足頂けたものであるし、学園長にも太鼓判を頂いている、内容については申し分ないと考えているが、こと服飾に関する事に対してはパトリシアは厳しい、見ればパトリシアの目は先程までの優しいそれではなくなっている、
「そうね、少し待ちなさい」
やはり厳しい言葉である、エレインは性急すぎたかと言葉を無くし、こういう時に助けになるアフラも木簡に集中している為オドオドと視線を彷徨わせてしまう、
「そう言えば、下着だけの部屋ってもう作ったの?」
ソフィアが若干ピリついた雰囲気を敏感に察してエレインに問いかけた、
「あっ、はい、出来ました、いい感じになってます、少々狭いですが」
エレインが慌てて答える、すると、
「エレインさん」
パトリシアの強い視線がエレインを正面から捉え、
「はい」
エレインは思わず背筋を伸ばして甲高い声となる、
「その部屋とは何ですの?」
パトリシアはさらにキツイ口調である、詰問とさえ思える声音に、
「はい、あの、調査として実際に購入したのですね、一枚一枚、テラさんとジャネットさんとマフダさんで、で、評価を纏めたのがその木簡、で、折角だからと購入した下着を陳列する部屋を作りまして・・・」
エレインが慌てて答えた、屋敷からの道すがら木簡の事は話したのであるが下着部屋の事は口にしていなかったのである、
「見せなさい、これは興味深いです」
有無を言わせぬ強い言葉であった、高位貴族というよりも人を使う事に慣れた者の発する強制力の滲んだ声と言葉である、
「はい、勿論です、ご案内します」
エレインはそのまま全身を強張らせて立ち上がるが、
「リシア様落ち着いて下さい」
アフラが瞬時に止めに入った、
「何ですの?」
パトリシアがキッとアフラを睨みつける、
「何ですのではありません、折角楽しくお茶を頂いているのですから、眉間に皺を寄せてはなりません、ましてエレインさんを立たせる等、大事な友人を無くすのですか?」
アフラはまったくと茶に手を伸ばし、パトリシアはハッと目を大きく見開いて、
「・・・そうね・・・御免なさいねエレインさん、この木簡素晴らしいですね、夢中になってしまいました、いけませんね」
パトリシアは落ち着きを取り戻し謝罪を口にした、
「いえ、そんな、あの・・・御満足頂けましたでしょうか?」
エレインは腰を下ろしつつ恐る恐ると上目遣いで確認する、
「勿論よ、こういう視点もあるのね、感心だわ、うん、そうね、お薦めとする要点が分かりやすいし、文言だけで商品が目に浮かぶようです、それに実際に見てみたいと思うし、使ってみたいとも思うわね・・・楽しいわ」
「はい、ずっと読んでいられますね、ふふ」
パトリシアの賛辞と、アフラの控えめな笑顔にエレインはドッと疲れを感じながらも、よかったーと内心で快哉の声を上げた。
「大丈夫かしら?」
茶を手にしてソフィアは裏山の方へ視線を送る、勿論食堂内からは見えるはずもないのであるが、
「大丈夫ですよ、あーみえてちゃんとした娘ですから」
パトリシアが余裕の笑みを浮かべた、
「信頼されてますのね」
エレインが不思議そうに口を開く、ニコリーネとは数刻も一緒にしていないがその奇行ぶりには心底驚いている、初めて出会う型の人物であり、パトリシアのような高位の貴族と面識がある事自体に違和感があった、
「それはもう、子供の頃から知ってますからね、あの娘の父親がお抱えの絵師なんですよ、その父親にくっついて王城にも出入りしてましたから、そうね、レインちゃんくらいの歳の頃からかしら?その頃から落ち着きのない子でね、工房の中を走り回ってましたね」
「そんなに昔から?」
「そうですよ、王城にある祖父の肖像画もその絵師の作なのです、ところがね」
パトリシアはニヤリと思い出し笑いをして、
「その絵が完成したのは祖父が無くなってから数年経ってからで、挙句出来上がったものは絵画としては素晴らしいですし王の肖像画としては傑作と呼ばれて然るべき品なんです」
「なら、いいんじゃないの?立派な絵なんでしょ」
ソフィアはあの時見たあの絵かしらと思い出そうとするが明確な像を結ぶことが出来ない、絵やら彫刻等という物にまるで触れてこなかったが故の教養の無さを実感する、
「そうなんです、ですが、その祖父はどうみても陛下の顔なんです」
パトリシアはお披露目された瞬間の皆が呆然とした顔であった事を思い出し、一人クックックと控えめに笑う、その一件はアフラも従軍する前の事でありまるで知らなかった事で、パトリシアは思い出し笑いを必死にこらえているがソフィアとエレインは何とも反応のしようが無く、アフラもまた何の事やらと素面であり、そういう事もあるのかしらと困惑するしかなかった、
「でね、その絵師さん曰く、祖父の若い頃を活写したのですって、もう堂々と言うもんだから誰も何も言えなくなってね、でもね、その絵の顔はほくろの場所も髪の色も陛下そっくりでね、もう、皆が陛下とその絵を見比べてキョロキョロするもんだから、陛下もねやっぱり変だなって気付くのね、で、やっと口を開いたと思ったら、先代はこれほど豊かな黒髪であったかなって、そしたら・・・」
「そしたら?」
「はいって、その絵師は大声で自信満々に答えてね、若い頃に市井に忍んだ折の仮装ですって」
「それで許されるんですか?」
エレインは呆気にとられてポカンとしてしまう、話しだけを聞けば首を跳ねられても仕方のない事のように聞こえる、
「許されるんですよ、だって、その絵師さんと先代はね本当に悪友でね、若い頃から好き放題やってたから、陛下もねそれを知っているから強くも言えなくて、だって、陛下としてもその絵師さんは兄貴分みたいな人だからね、で、それ以上何か言ったら皆には言えないような悪事が出てきそうでね、それは、ほら、後から陛下が言ってたんだけど、だから、もうその絵を認めるしかなくて、みんなして、いい絵なのは分かるんだがどうしたものかなって、大人達が雁首揃えて悩んでましたからね、ふふ、子供心に可笑しくって」
「そういう事もあるんですねー」
エレインとソフィアは取り敢えずと頷くしかなく、アフラでさえどうしたものかと困り顔となる、
「そうなんですよ、ま、あの子はね、生まれた時から絵画とか彫刻とか細工物とかそういうのに囲まれて育ちましたからね、やっぱりそういうのに詳しくなっちゃって、それであの感激屋でしょ、でもね、あの子も良い絵を描くんですよ、ですが、どうしてもね、若いし、女だしね、大きい仕事に恵まれなくて、でも、全然気にしないで明るくてね、だから私とクロノスの肖像画を描かせたり、北ヘルデルに呼んでみたりね」
嬉しそうに話すパトリシアに、なるほどそれで転送陣にも動じず、ガラス鏡にも興味を示さなかったのかとエレインは納得した、恐らくであるがパトリシアはニコリーネの事を実の妹のように気にかけているのであろう、今回の壁画に関しても最初から彼女を巻き込むつもりであったのではないかとエレインは邪推する、エレインは良い作品になるのであれば誰が描こうが構わないと考えていたが、少しばかりの嫉妬を感じた、
「なるほどねー、面白い娘さんみたいですね」
ソフィアもやっと前向きに捉えたようである、ソフィアはパトリシアが連れて来る人物としては随分と毛色の異なる人間だなと感じており、またパトリシアの話しを聞く限りそういう人間関係が王族にもあるのであるなと思い知る、平民から見れば貴族はどうしても雲の上の存在であり、よく躾けられた固い人格者ばかりがその周りを囲っているものと思い込んでいた、つまりアフラのような人材である、実際に王族に名を連ねる事になったクロノスの周りにはリンドを始めとしてお堅い人物が多く、パトリシアの周りも同様である、故にクロノスにしろパトリシアにしろその自由で奔放な性格がより強調され、ソフィアの受ける印象もそれに大きく左右されている、恐らくであるが、二人がこちらに顔を出すようになってから、ソフィアはクロノスとのかつての仲をそのまま引き摺って気軽に相手をしているが、それで特に咎められることが無かったのは、ニコリーネのような存在が王族の周囲にいたお陰なのかもしれない、となると、ソフィアとニコリーネは同列の扱いなのであろうか、それもそれで心外かしら・・・とソフィアは考えてしまう、
「失礼します」
そこへ木簡の束を抱えたテラが音も無く入って来た、
「あら、ありがとう」
エレインが礼を言いつつ木簡を受け取り、
「テラさんも座りなさい」
パトリシアが機嫌良くテラを誘う、寮の食堂であり茶会というにはあまりにもお粗末な席であるが、それでも茶会には違いなく、この場合席に誘う事が許されるのはより高位な者か主催者だけである、それが貴族の礼儀であり仕来りであった、その為パトリシアはごく自然に声を掛けたのである、
「ありがとうございます」
テラは優雅に微笑み素直に空いた席に着く、これもまた礼儀の一つである、断るのは勿論遠慮の言葉も礼を欠く行為であった、
「それでそれがその木簡ですの?」
話題はあっさりと変わりパトリシアはエレインが手にする木簡を注視する、ソフィアは茶道具に手を伸ばし茶を点て始めた、
「どうぞ御覧下さい、お持ちしたのは一押しの品ばかりですね」
エレインが木簡にざっと目を通してパトリシアに手渡す、
「なるほど・・・面白い項目ですわね」
「はい、サビナさんとカトカさんにも協力頂いて作成致しました」
木簡は下着の評価に関する件の品である、パトリシアはなるほどと一枚目の木簡をじっくりと読み込み、そして流れるように次の木簡へと移っていく、アフラはパトリシアの読み終えたそれを受け取りながらこちらもまた真剣に文字を追っている様子であった、ソフィアはテラに茶を供しつつまだ見せて無かったのねとその事実に驚き、ま、忙しかったからねと他人事のように考える、
「如何でしょうか」
エレインはおずおずと問いかけた、ユスティーナには満足頂けたものであるし、学園長にも太鼓判を頂いている、内容については申し分ないと考えているが、こと服飾に関する事に対してはパトリシアは厳しい、見ればパトリシアの目は先程までの優しいそれではなくなっている、
「そうね、少し待ちなさい」
やはり厳しい言葉である、エレインは性急すぎたかと言葉を無くし、こういう時に助けになるアフラも木簡に集中している為オドオドと視線を彷徨わせてしまう、
「そう言えば、下着だけの部屋ってもう作ったの?」
ソフィアが若干ピリついた雰囲気を敏感に察してエレインに問いかけた、
「あっ、はい、出来ました、いい感じになってます、少々狭いですが」
エレインが慌てて答える、すると、
「エレインさん」
パトリシアの強い視線がエレインを正面から捉え、
「はい」
エレインは思わず背筋を伸ばして甲高い声となる、
「その部屋とは何ですの?」
パトリシアはさらにキツイ口調である、詰問とさえ思える声音に、
「はい、あの、調査として実際に購入したのですね、一枚一枚、テラさんとジャネットさんとマフダさんで、で、評価を纏めたのがその木簡、で、折角だからと購入した下着を陳列する部屋を作りまして・・・」
エレインが慌てて答えた、屋敷からの道すがら木簡の事は話したのであるが下着部屋の事は口にしていなかったのである、
「見せなさい、これは興味深いです」
有無を言わせぬ強い言葉であった、高位貴族というよりも人を使う事に慣れた者の発する強制力の滲んだ声と言葉である、
「はい、勿論です、ご案内します」
エレインはそのまま全身を強張らせて立ち上がるが、
「リシア様落ち着いて下さい」
アフラが瞬時に止めに入った、
「何ですの?」
パトリシアがキッとアフラを睨みつける、
「何ですのではありません、折角楽しくお茶を頂いているのですから、眉間に皺を寄せてはなりません、ましてエレインさんを立たせる等、大事な友人を無くすのですか?」
アフラはまったくと茶に手を伸ばし、パトリシアはハッと目を大きく見開いて、
「・・・そうね・・・御免なさいねエレインさん、この木簡素晴らしいですね、夢中になってしまいました、いけませんね」
パトリシアは落ち着きを取り戻し謝罪を口にした、
「いえ、そんな、あの・・・御満足頂けましたでしょうか?」
エレインは腰を下ろしつつ恐る恐ると上目遣いで確認する、
「勿論よ、こういう視点もあるのね、感心だわ、うん、そうね、お薦めとする要点が分かりやすいし、文言だけで商品が目に浮かぶようです、それに実際に見てみたいと思うし、使ってみたいとも思うわね・・・楽しいわ」
「はい、ずっと読んでいられますね、ふふ」
パトリシアの賛辞と、アフラの控えめな笑顔にエレインはドッと疲れを感じながらも、よかったーと内心で快哉の声を上げた。
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