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本編

54話 水銀の夢 その4

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それから3人はそのまま寮へと足を運ぶ、ソフィアへの納品と、ユーリが居れば納品と改築の打合せを目的とした訪問である、

「あら、今日は御三人さんねー」

ソフィアに迎えられ3人が用向きを伝えると、

「じゃ、ユーリ呼んでくるわ、入って待ってなさい」

ソフィアはさっさと背を向けて3階へ向かい、3人は慣れた感じで足を拭って食堂へ入った、すると、

「ねーさん、コッキー、チーッス」

ミナがいつも通りに駆け寄って来る、

「ミナちゃん元気だねー」

ブノワトが慌てて抱き止め、コッキーが明るく微笑えむ、

「元気だよー、いま、お勉強中なのー」

ミナがそれまで座っていた所には数冊の書が開かれており、その隣りではレインがめんどくさそうにこちらを眺めている、

「ありゃ、偉いねー」

「そだねー、邪魔しちゃったかなー」

「大丈夫、たぶん、丁度良かった」

「なんだそれ?」

「たぶん、丁度良いのか・・・難しい事言うなー」

「えへへ、で、どうしたのー、何しに来たのー」

「おう、これ作って来たぞ」

ブラスが布袋から洗濯バサミを幾つか取り出し、ミナにどうだと振って見せ、

「あー、ミナ、これ好きー」

「だろう?いっぱい作ってきたぞー」

ブラスがニヤニヤと微笑みテーブルにザラッと袋の中身を広げた、

「ホントだー、何する?何作る」

「何作るって言われてもなー」

ミナを中心にキャッキャッとはしゃいでる所にソフィアはユーリを伴って戻って来る、

「お疲れさん、今日は来客が多い日なのかしらー」

ユーリはボリボリと頭を掻いてレイン以上にめんどくさそうな雰囲気を漂わせていた、

「そうなんですかー、あっ、学園の件聞きましたよー、やっぱりユーリ先生は凄かったんですねー」

ブノワトがニヤニヤと微笑み、

「そうですよー、どうやったんですかあれ?とんでもないじゃないですかー」

コッキーも笑顔である、

「あー、そうだよなー、俺見れなかったんだよー」

しかし、ブラスは不満顔である、

「そんな事言ってあんた飲み歩いてじゃないさ、兄貴と一緒にー」

「そうだよー、兄さんも一緒だったて聞いたー」

「いや、そうだけどさ、学園迄は見に行かなかったんだよ」

「あっはっは、何だ、あれか、あれの恩恵は十分に活用したって感じ?」

ユーリは楽しそうに笑いつつ席に着き、3人もそれに倣う、ソフィアはお茶かしらと厨房へ向かうが、

「あっ、ソフィアさんお構いなく、エレインさんの所で十分頂きましたから」

ブノワトが慌ててソフィアに声を掛け、ソフィアはそういう事ならと踵を返して席に着いた、

「で、今日は何?」

ソフィアが問うと、ブラスが洗濯バサミを手にして、

「はい、これの納品と、研究所さんにも納品ですね、後あれです、改築工事の打合せが出来ればと」

「そっか、改築工事もあったわね」

「うん、すっかり忘れてたわ」

ソフィアとユーリは何とものんびりとしたものである、

「そんな、大工事じゃないですか、ま、じゃ、先に」

とブラスは苦笑いを浮かべつつソフィアからの注文分である洗濯バサミを袋ごと手渡し、ミナが遊んでいる分も含めて数は揃っている事を説明する、

「ありがとう、忙しかったんじゃない?」

「そうですね、でもまぁ、あれです、慣れれば慣れた感じで作れるようになりました、六花商会さんからも正式に注文頂きまして、本格的に量産していきます」

「そうですね、これならうちの本領発揮ですよ」

ブラスとブノワトは嬉しそうである、正直な所、六花商会関係ではガラス製品と髪留め等の金物が多く、家業である所の木製品は少なかったのである、木工細工はあるにはあるが、訴求力は高くない、その観点で考えれば洗濯バサミの実用性と将来性は木製品を本業とする二人にとって実に理想的なのであった、

「あら、やっぱり売るの?」

「そりゃもう、これはある意味何にでも使えますからね、他にもあれです、大きいのやバネの力を強くしたのとか開発中です」

「へー、それは楽しみ」

ソフィアはなるほどと頷きながら袋から数個取り出して手慰み、ユーリもその一つを手にすると、

「?・・・何これ?」

とこちらは初見であった為かその用途が分からず素直な疑問が口をつく、

「あー、あれ、一応洗濯バサミって呼んでるんだけどね、これでこんな感じで洗濯したものを挟むのよ」

ソフィアは何度目かになる試用を懐から出した手拭と椅子の背でユーリに披露し、

「おおっ、へーへーへー」

ユーリはこれは面白いと手拭を引っ張ったり洗濯バサミを付けたり外したりとその使い勝手を確認し、

「なるほどねー、へー、いつの間にこんなもの」

「あー、タロウさんがね作りたくて作れなかったのよ、何気に細かくて・・・ね」

「そうですね、凄い単純な構造なんですが、造作は細かいですね、このねじりばねの使い方がコツなんですよ、あと木部分も思った以上に複雑です、木質にも気を使ってますし」

ブラスが嬉しそうにその詳細を説明する、

「へー、はー、ふーん・・・」

ユーリはいちいち感心しつつ、すっかり洗濯バサミに魅入られたようで、

「あー、ソフィアこれはあれ?洗濯意外にも使えるわよね」

「そりゃまぁね、好きに使えばいいのよ所詮道具なんだし」

「はい、俺もそのつもりで商品開発してます」

「だよねー、へー・・・ソフィアこれ頂戴よ」

「いいけど、少しだけよ」

「ケチケチすんなし」

「するわよ、やっと作ってもらったんだから」

「じゃ、あれだ、追加で30個くらい注文したいな」

「また、30ですか?」

「またって、あっ、これで30個?」

ユーリがソフィアの手にした袋を覗き込む、乱雑に入れられているがミナが遊んでいる分とテーブルに広がっている分を合わせればその程度はあるのであろう、

「そうですね、エレイン会長とは10個組みにして販売しようかと相談してました」

「じゃ、それ3組み欲しいな」

「分かりました、出来しだい届けます」

「ん、お願い、しかし、器用な物作ったわねー」

「だって、タロウさんが作ったのはすぐ壊れちゃってね、一回使ったら便利でさ、ブラスさんなら作れるかなーって思ってね」

「ふーん、まぁいいや、で、こっちの納品って何だっけ?」

「あっ、それ、私です」

コッキーが木箱を取り出すと、

「サビナさんに頼まれてた品ですね」

とユーリに向けて開いて見せる、

「おおっ、これかー」

ユーリは嬉しそうに手を伸ばした、それはガラスで出来た円錐形の棒である、サビナが提示した通りの寸法と仕様となっており、パッと見た感じは小さなユニコーンの角と言われても信じてしまう造作であった、

「へー、おーいい感じ、うん、想像通りだわね、妙にかっこいいわね、うん、なるほどなるほど」

「そうですねー、飾りとして置いておいても何かそれっぽいかなって思いますけど、如何でしょう」

コッキーは若干不安そうに問いかける、何せ初めて作った代物である、用途は勿論分からないし、当然であるが用途に沿ったものに出来上がっているかも不明である、つまり製作者としては大変に不安なのであった、

「・・・そうね、いいと思うわね・・・底は平らにしなきゃだな、こっちでも出来るか・・・」

ユーリは様々な角度から念入りに視線を走らせ、底をテーブルに付けたり尖った先を撫でてみたり、掘られた溝を指でなぞったりと真剣な瞳である、そして、

「うん、これならいいわね、実際に組み込んでみないとだけど、ありがとう、これならお金を払えるわ」

ニヤリと微笑みつつ顔を上げ、コッキーは安心したのかホッとして表情が和らぐ、

「じゃ、どうしようか先にお金払っちゃうね」

「あっ、すいません、こちらになります」

コッキーが木簡を取り出してユーリに手渡し、ユーリは一瞥すると、

「あっ、ついでだ、そっちの洗濯バサミも払ってあげるわよ」

とソフィアを横目で見る、

「あら、どうしたの?随分太っ腹ね」

「まぁね、だからそうだな、半分頂戴」

「はぁ?」

「何よ、当然でしょお金払うんだから」

「半分は多いでしょ・・・うーん、10個ならいいわ」

「10個・・・まぁいいか、じゃそれで手を打とうかしら、こっちは幾ら?」

「えっと、はい、これです」

ブノワトが木簡を差し出し、ユーリは一瞥すると、

「ちょっと待ってて、お金持って来るからー」

サッと腰を上げ階段へ向かった、

「あら、いいんですか・・・ね?」

ブラスが不思議そうに問うと、

「いいんじゃない?どうせあれよ研究所の予算から出すんでしょ、ま、たまには奢られてやりますか」

ソフィアは余裕の笑みを見せる、すると、

「出来たー」

ミナが明るく叫びピョンと飛び跳ねた、見るとテーブルの上には洗濯バサミを組み合わせた何がしかが屹立し、いつの間にやらレインも洗濯バサミを手にしてうんうんと唸っている、

「何だそれ?」

ブラスが当然の疑問を口にした、その何がしかは何かである事は分かるが、何を意図したものかがまるで分からない、

「えっとー、何かー」

「何か?」

「うん、何か良く分かんないー」

あっけらかんと微笑むミナに大人達はエッと首を傾げ、

「だってー、ニャンコ作りたかったのー、でも、出来ないの、だから、何かなのー」

確かにその何かは4本足のようである、胴体となった洗濯バサミに2個の洗濯バサミで前足と後ろ足が表現され、顔の部分であろう所にも洗濯バサミが食い付いており、恐らく尻尾であろう洗濯バサミがピョンと天井を指していた、ミナの言う通りにそれは猫を作ろうとしたのであろうが、とてもそうは見えない代物であった、

「そっか・・・何かか・・・」

ブラスはそう言われてしまっては返す言葉が無いなと思い、

「うん、確かにね」

「そうだねー何かだねー」

ブノワトとコッキーも同意せざるを得ない、

「あー、まともに相手しちゃ駄目よ」

ソフィアも呆れて微笑むしかなかった。
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