セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

54話 水銀の夢 その3

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午前の半ばを過ぎた頃、六花商会の貴賓室にはブノワトとブラス、コッキーの姿があった、

「お疲れ様」

エレインとテラが貴賓室に入ると、3人は妙に緊張して落ち着きがない様子である、

「あら、どうしたの?」

テラが不思議そうに問うと、

「そんな、だって、この部屋は慣れないですよー」

コッキーが悲鳴のような声を上げ、

「そうだねー、なんかほら堅苦しい感じ・・・」

「いや、この程度は慣れないと駄目だろ」

ブノワトもキョロキョロと挙動不審で、ブラスはどっしり構えているようだが、こちらもどこかぎこちない、

「あら・・・下の方が良かったかな?」

「そうですよー、私らはだってこんな扱いを受けるのは・・・」

「うん、何か違う感じです」

ブノワトとコッキーが上目遣いでエレインを見つめた、ようはそれまで打ち合わせとなれば1階の事務所で行われており、今日もそのつもりで来たのであるが、通されたのは貴族様仕様の貴賓室である、商会組織を考えればそれは至極当然の事であるが、ブラスは別にしてもブノワトとコッキーはお客様扱いに慣れていない、ブラスにしても貴族相手となると慣れているという程ではなく、つまり3人は尻の座りが非常に悪いのである、

「あら・・・でも、この程度はほら、慣れて頂かなくては、打ち合わせはこの部屋でやる事にしたんですよ」

エレインが意地悪そうに微笑み、

「そうですね、ほら、下だとどうしても人の出入りが多いですから、皆さんとの打ち合わせとなれば秘密にしたい事もありますし」

テラが真っ当な理由を口にする、

「そうですか・・・そうですね」

「確かにな、うん」

「えー、でもー」

3人は顔を見合わせつつ何とか飲み込んで茶に手を伸ばす、

「ふふ、これも勉強でしょう」

エレインとテラは腰を落ち着けると、

「さて、では簡単な方からいきますか?」

「そうですね、じゃ、コッキーからかな?」

「はい、私は納品と納期の確認です」

とコッキーが木箱を取り出し、ガラス製の爪やすりの納品からガラスペンとガラス鏡の生産状況等の報告を済ませる、

「そうなると、ガラス店舗の開店には間に合いそうね」

「そうですね、それと生産体制も整ってきてます、デニスにも二人つけてるんですよ、もう兄貴ヅラしちゃって生意気になりました」

ケタケタとコッキーが笑い、

「あら、それは凄いわね、大したものじゃない」

「そうなんです、ほら、あの子そろそろ兵役なんで、早めに対処しないとって事で」

「あー、そんな時期かー」

ブラスがそんな事もあったなと頬を掻く、

「それは、また・・・免除は出来ないんですか?確か、職人さんと認められれば特赦されるのでは?」

テラが首を捻るが、

「あー、兄貴も行ってますからね、自分も行きたいらしいんですよ」

「それは逞しいし結構な事とは思うけど」

「そうね、ちょっとあれね、時期的にも残念な感じね・・・」

「でも、本人がやる気あるもんで、それに、親父も兄貴も当然だって感じなので」

「そっか、2年だっけ?」

「はい」

「だったらあれだ・・・いや、駄目か・・・」

とブラスが何かを思い付くがすぐに言葉を飲み込んだ、

「ん、何かあるの?」

ブノワトが問うと、

「あ・・・いや、ほら、俺も兵役自体には言ってないから詳しくは知らないんだが、最初の3月は訓練と教育で、そこから現場に入るらしいんだけどさ、運が良ければ近衛とか上の人達の従者扱いって事もあるらしいんだよな・・・聞いただけだけどさ」

「へー、何かかっこいいね」

コッキーは何とも能天気に答える、しかし、エレインとテラは察して、

「・・・頼んでみます?」

「そうね、出来なくはないのかな?」

と顔を見合わせた、

「ただ・・・ほら、それはあまりにもあまりにもなんで・・・その・・・ね・・・」

ブラスは口元を微妙に動かしてモゴモゴと端切れが悪い、

「あっ、そっか、ほら、頼めるじゃない、その・・・」

とブノワトもその真意を理解してコッキーに暗に匂わせる、コッキーはエッとブノワトの顔を見て、

「あっ、えっ、でもそれは、だって、申し訳ないですよ」

とコッキーも理解したらしい、つまりブラスはクロノスなりイフナースなりに頼み込んで前線ではなく後方で勤務するように出来るのではないかと思い付いたのである、それは若い職人を守る為の思い付きであったが家族を送り出す側としては一度は誰もが思う事でもあり切実な願いでもあったりする、というのも現在の王国の情勢を考えれば、いや、考えなくてもやはり前線勤務は危険である、幸せな事に現在王国は直接的な紛争には直面していない、数年前の魔族大戦を終え、各地が疲弊しているのもそうであるが、現在の王とその先代の王によって敵対的であった国や都市は粗方取り込まれるか滅亡しており、王国の周囲を囲むのはほぼほぼ友好的な国となっている、それも一部は傀儡と呼ばれる程に王国に取り込まれており、それによって王国は直接的な紛争から一歩距離を置いた状態を維持できている、故に兵役に行ったとしても直接合戦に出る事は考えられず、そうなるとその兵役期間は訓練と土木工事に明け暮れる事となり、一際身体は逞しくなるであろうが命の危険は各段に小さい、しかし、この安定が脆いものであることもまた事実であった、まずその友好国同士が大変に険悪であり、蛮族に悩まされている国もある、魔族の再襲来も可能性として排除できない、さらに最も懸念されるのが内側に取り込んだかつて敵であった国々である、王国とヘルデル公爵家との不仲は周知の事実であり、そのヘルデル公爵は陽に陰に策謀を巡らせているとの噂もあった、つまり、その気になればいつでも爆発する火種が無数に見え隠れしているのが今この時の王国の情勢なのであった、

「そうは言うがさ、2年は長いぞ、挙句、どこで何があるか分からんからな」

「そうだけどー」

「それと・・・あー・・・ほら、そういう人達に仕えるのも立派な兵役だし、勉強にもなると思うしな、どうしても俺達では見れない物を見る事もできるだろうし・・・芸術品とか貴重品とかな、だから、経験として考えれば貴重な事だぞ、その上・・・ま、何か都合が良すぎるけどさ、デニスの事を思えばそういうのが大事かもしらんぞ、あいつは、ほら、何と言うか・・・」

「・・・芸術家気質?」

テラがニヤリと微笑む、

「あっ、それです、うん、ただのガラス職人よりもさ、芸術家は言い過ぎかもだけど、細工物とか細かい造作物とかそういう方向に進ませた方が面白いとも思うが・・・俺が口出しする事じゃないな・・・」

ブラスはボリボリと頭を掻いた、どうしてもこれは他人の家の事である、ブラスが自分で言うように助言程度は言えるだろうが、直接嘴を突っ込んで良い話題ではない、

「・・・そうかもだけど・・・兄貴も似たような事は言ってたかな?」

「そうなのか?」

「うん、まだ若いからだけど、本気でそっちをやるのであれば付き合うのはガラス職人じゃなくて細工職人とか宝石関連の方だろうなって、ガラスペンそのものは素晴らしい品だけど、それをより良くするには職人の中だけでは無理じゃないかって」

「へー、なんだ、あいつも少しは考えてるんだな」

「そりゃ、あんたよりは考えてるでしょうよ、弟なんだよ」

ブノワトが眉間に皺を寄せてブラスを睨む、

「それもそうか、まぁ、そうだよな」

ブラスは何故か嬉しそうに誤魔化し笑いを浮かべた、

「そうなると・・・そうね、そうなのよね・・・」

エレインも小さく頷いて思い出す、エレインが知っている高位貴族の世界はエレインから見ても別格であった、クロノスの居城にある絵画にしろ家具にしろちょっとした調度品にしろ、大変に細かい装飾が施され美術的な価値も当然であるが、技術の高さには目を見張るものがあった、それらが所狭しと並べられているかと思いきや、全体の調和を崩さず上品に陳列されており、その優雅な様には圧倒されるしかない、クロノスの城でさえそれなのである、王国の中心となる城や本来イフナースが生活している場を想像するに、あれに負けるとは到底思えない、そしてそれらに触れる事こそがデニスのような職人には必要な刺激であり、勉強なのであろう、自身がかつて暮らしていた屋敷は勿論であるが、伯爵という高位貴族であるが奢侈を好まないクレオノート家の屋敷とは各段に違っていた事をエレインは改めて認識する、

「そうですね・・・ま、あれです、その内に話題として出すのも良いかと思いますよ」

テラが優しく口を開き、

「そういうのはほら、本人もそうですが先方もまた考える所があると思います、それと、クロノス様やパトリシア様でなくても、リンドさんやアフラさんという手もありますし、兵役に就かれてからでも遅くないと思います」

「なるほど・・・でも、あのお二人の方が厳しそうですけどね」

ブノワトがうーんと微妙な笑みを浮かべ、

「そうですね、現場はいつでも厳しいものですよ」

テラは今更何を言うのやらと涼しい顔で茶を口にした、それから、それはそれでと仕事に戻ると、ブノワトからは木工細工やら鉄製の爪やすり、髪留めやらが納品され、ブラスからはガラス店舗の改築に関する最終確認が行われた、それは先日も現場で確認され、それを書面でまとめた形になる、エレインとテラは概ね同意を示し、早速明日から作業に入る事となった、それから湯沸し器と新しい屋台の納品も明日と決まった、先日クロノスからせっつかれ、ブラスは青くなってブノワトの実家に走り、のんびりやっていたリノルトとディモの尻を叩いて急がせたのである、しかし、相手が相手である為不具合や手抜き等は当然許されず、街中が光柱で騒がしい中フローケル鍛冶屋は大わらわとなり、ブラスは当然のように手伝う破目になったのであった、

「では、こんな所ですかね」

「そうね、予定では祭り明けから本格的に忙しくなると思います、祭りまでも忙しいんですけどね」

エレインは柔らかく笑みし、

「そうですね、楽しみです」

「だねー」

「あー、でもびっくりするくらい速いよなー、普通はだって一年は係るぞ、こんな大仕事」

「今更何言ってるのよ」

「そうだよー、のんびりしすぎなんだってー」

「そうかもね、でも、なんか出来ちゃってるしね」

「そうなんですよ」

「うん、大したもんだ」

五人は何とも困った顔で微笑み合った。
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