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本編
54話 水銀の夢 その1
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翌日、今日は流石に慣れたのかミナは昨日のように寂しがる事は無く、朝食を終え皆が出掛けるとレインと共に昨日借りた書物に集中している、ソフィアはやっと日常に戻ったかしらと安心し、昨日サボった分もと気合いを入れて掃除にかかった、しかし、
「おはようございまーす」
来客である、2階の掃除を終えて階段の掃き掃除に取り掛かっていた時で、ミナが応対に出たようですぐに、
「ソフィー、えっと、誰だっけ」
「ミナちゃん、ひどーい」
「酷くないー、忘れただけなのー」
「それが酷いんだよー」
明るい声が玄関口に響き、ソフィアはあらあらと階段を下りて、ヒョイっと玄関を覗くと、
「おはよう、ってダナさんか、誰かと思ったわよ」
「あー、ダナだー、思い出したー」
「もう、ホントに忘れてたの?」
「うん」
元気よく満面の笑みを浮かべるミナに、ダナはもーと笑顔を見せるしかなく、
「こら、失礼よ」
ソフィアはこれは駄目だとミナを窘めた、
「えー、だってー、だってー」
「はいはい、さっ、入って、打ち合わせよね?」
「そうですね、ユーリ先生もいらっしゃいます?」
「いるんじゃないかな?学園は?」
「事務室覗いたらいなくて、こっちかなって」
「そっか、ミナ、ユーリ呼んできて」
「わかったー」
ミナはダダッと駆け出し、
「お茶入れるわねー」
とソフィアは厨房に入る、ややあって、
「レインちゃんおはよー、あー、冬支度終わりました?」
「そうねー、こんなもんかなって思うけど、どうかしら?」
茶道具一式を持ってソフィアは食堂へ戻り、ダナは食堂内を見渡してうんうんと頷いている、レインは顔を上げて小さく礼をして再び書へと向かった、
「そうですね、良いと思います・・・というか・・・」
ダナは恥ずかしそうに微笑し、
「ほら、ちゃんとした冬支度をした寮は初めて見ました、以前はあーだったので」
「そうねー、ごみ溜めだったからねー」
「はっきり言わないで下さいよー」
「他に何て言えばいいのよ、あれで火事にならなかったのは逆に大したもんだわよ」
「そう言えばそうですね」
「でしょー」
二人は適当に笑いながら手近なテーブルに着くと、
「定期打ち合わせかしら?」
「そうですね、それと新入生達の様子を聞き取りに、他にもありますね」
とダナは木簡を数枚テーブルに置いて、
「あっ、差し入れありがとうございました」
と思い出したように口に出す、
「なんだっけ?」
「ほら、あれです薄パンの肉野菜包みとか、ロールケーキとかドーナッツでしたっけ?」
「あれはだって礼を言われる筋合いは無いわよ、問題起こしたのはこっちだし、お金出したのはユーリだし」
「ですけど、嬉しいですよ、美味しかったし、薄パンのあれまた食べたいって事務所で時々話してます」
「あら、あれぐらいなら作れるでしょ」
「あの、白いソースがどうなってるんだって話題になりまして、ちょっとだけですけどね、料理好きな子でも再現できなかったって」
「あー、かもねー」
適当に雑談していると、
「早く早くー」
「待っててば、おわっ、危な・・・」
「遅いー」
「分かったからー」
階段が騒がしくなり、ミナが駆け下りてきて、ユーリも慌てて下りて来る、
「おはようございます」
「あー、おはよー」
ダナとユーリが挨拶を交わすと、
「呼んできたー」
ミナはソフィアに笑顔で報告し、ソフィアは礼を言って、
「お仕事の打ち合わせだから、静かにしててねー」
「分かったー、カトカが遊びに来てもいいよって言ってた、行っていい?」
「あー、大丈夫?」
「私が戻るまでならいいわよー」
ユーリがソフィアの隣りに座りながら答える、
「ん、じゃ、いいわよ」
「分かったー、レイン行こー」
「しょうがないのう」
ミナとレインがバタバタと研究所へ向かい、
「さて、何用じゃ」
ユーリが鼻息を荒くする、
「何よ偉そうに」
「だって、やっと本腰入れられるかなーって思って、3人で打ち合わせ中だったのよ」
「えっ、すいません、邪魔しました?」
「邪魔は邪魔だけどね、こっちの仕事も大事でしょ、ダナには迷惑掛けたしね」
「そんな、迷惑・・・は迷惑か、大騒ぎでしたからねー」
「まぁね、たまには良いかって感じの騒ぎではなかったからね、落ち着いたんでしょ、事務員さんも」
「それはもう、てんやわんやでしたけど、なんとか通常業務ですね、あっ、差し入れありがとうございます」
「それこそ別にいいわよ」
「じゃ、いつでもお待ちしてます、生ものでも受け付けてますので、どんとこいです」
「えー、そういう事言う?」
「言いますよー、学園長とか学部長とか事務長とか偉い人には贈り物はあるんですけど、私達には無いんですよ、あれです、頂いたメロンも美味しかったなー、あれは正に幻の一品でしたよ・・・」
懐かしそうに遠い目になるダナに、
「そんなのもあったわね」
とソフィアは微笑み、
「じゃ、お仕事しましょうか」
と先を促した、ダナは先に定期打ち合わせとして食費とソフィアの給与の受け渡し、寮の運営にあたっての不足品の確認等々が行われ、それは数度繰り返している為に慣れたものであっさりと終わる、冬支度に関する意見交換も行われ、それは寮内の変化もある為様子を見ながら逐次対応して行く事となった、そして、
「新入生達についてなんですが」
とダナは話題を切り替えると、
「えっと、今のところ問題はないですか?」
と実に大雑把な質問である、
「そうね・・・大丈夫と思うけど・・・」
ソフィアは一応とユーリへ意見を求め、ユーリも特にはないようで、茶を啜りながら目線で同意を伝える、
「そうですか、であればいいんです」
ダナはニコリと微笑み、一応とこの時期の寮生が発端となる問題点を口にした、曰く、やはり寮に慣れない生徒や変に張り切って虐められる事になる生徒、さらに逃げ出して衛兵に捕まる生徒、悪い仲間と仲良くなって道を踏み外す者等がいるらしく、半年毎に手を変え品を変え何らかの問題が発生するそうで、
「あれです、寮母さんや先生ではやはり気付かない事も多いです、学園では何かあれば担当事務員にも相談しろとは言ってますが、やはり、一緒に生活する御二人には落ち着くまで、というか本当の意味でこちらの生活に馴染むまでは注意して欲しいかなと・・・」
笑顔で語られたが中々の重大事であった、
「確かにそうね、いつの間にか顔を見なくなった生徒とかいるからねー」
「えっ、そんな子いるの?」
「男だけどね、ほら、親元を離れちゃって浮かれるのよ、で、夜の生活に惹かれちゃうんだわね・・・ま、そういう子は大人になってもね、どうしてもなんやかんやでそっち側にいっちゃうでしょうけど」
「あー、そういう事か・・・都会だしね、そういう事もあるわよね」
「そうですね、真面目な子はどこまでも真面目なんですけど、そうでない子はどこまでもそうではないですから・・・難しい所ですね」
ダナがしみじみと呟く、
「ん、まぁ、そうね、ここの子達は今の所は大丈夫かな?ジャネットさんとケイスさんが上手い事中心になってるみたいね、エレインさんは仕事が忙しいからね、あの子は半分卒業したようなもんだし、オリビアさんも真面目な子だしね、少なくとも見えている場所では問題は無いように思うけど・・・」
「見えてないとなると各個人部屋かしら、食堂で屯ってる時間が長いからな、あの子達、良い事か悪い事かは分からないけど」
「良い事だと思いますよ、あれです、集団に背を向けるようになると鬱屈している証拠ですから、そうなるとほら、地方出身者はどうしても相談相手もいないから一人で抱え込んで、どんどんドツボに嵌って、いよいよ宜しくない事になります」
なるほどとソフィアは頷き、ケイスの事を思い出す、確かソフィアが来る迄はこの寮もあまり良い雰囲気では無かったと聞いている、それで自身の過失が大きいとはいえ珍しい事故に見舞われたのだ、よくもまあ長い時間を孤独の中で耐えたものである、
「そうね、そういう事もあるわね」
ユーリもうんうんと納得し、
「私からも何かあればダナに相談するように話しておくわ、みんな、ちゃんと目的があって来てるからね、その意思は尊重しないとね」
「そうですね」
ダナはニコリと受け取り、
「で、何ですが、こちらをユーリ先生から渡して欲しいのですね」
ダナは革袋から布袋を二つ、それと木簡を二つ取り出す、
「何?」
ユーリが率直に問い、ソフィアも小首を傾げた、
「はい、ルルさんとレスタさんですね、お二人には別途生活費が支給されています」
エッとソフィアとユーリは同時に驚いた、
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
「聞いてないわね」
「うん、私も・・・」
「あー、すいません、実はですね」
とダナの説明によると、レスタに関しては特待生である為授業料及び寮費を学園で負担し、さらに生活費として助成金が出る事になっており、ルルに関しては上からの指示で特待生待遇とする事となっているとの事である、
「あら・・・」
「へー、レスタさん凄いのね、女の子で特待生って珍しいんじゃない?」
「そうですね、珍しいですね、女性で特待生となるとカトカさんかな?近い所だと、確かそう聞いてます、あっ、これは秘密でお願いします」
ダナは思わず個人情報を口にしてしまい慌てて口留めを頼んだ、
「えっ、カトカさん?」
「へー、あの子そんなに凄かったんだー」
「らしいですね、当時はまったく知らなかったですけど、事務員になって初めて知りました」
ダナとカトカは半期違いの同窓生である、学科が違う為顔見知り程度の関係でしかなかったが、
「そっかー、ルルさんは・・・そういう事よね」
「うん、やっぱりあれよ、権力者の友人は握って離しては駄目よね」
「あはは・・・そうですねー」
ソフィアとユーリはうんうんと頷き、ダナは苦笑いである、ダナは王族と眼前の二人の関係は良く分かっていない、先日の騒動もあった為いよいよ何者なのかと事務員の間で噂になるほどである、しかし、事務長曰く、知らなくて良い事は知るべきではないとの事で、事務員達は背筋に冷や汗を感じて黙るしかなかった、
「で、こちらこの金額なんですね」
木簡をユーリの前に滑らせ、ユーリはそれを手にすると、
「あらっ、結構な額ね」
「はい、三カ月分になります、次回は二カ月分ですね、季節の変わりですし入用であろうとの事でこの金額です」
「はえー、若者には結構な額じゃない」
ソフィアも木簡を覗き込む、
「はい、なので、先生から直接手渡して頂いて、木簡に記名をお願いしたいです、それとお金なので、問題が起きないように配慮もお願いしたいです」
「配慮って・・・そっか、そうよね、いろいろ考えられるわよね」
「はい、女の子なので男性的な問題は無いでしょうけど、子供にしたら大金です、この額を自由に出来るとなれば問題しかないですよ、特に慣れない環境ですからね、ま、他の点で言えばこの寮はほら皆さんちゃんと稼いでますからね、そういう意味での問題は無さそうですが・・・こればかりは分かりませんね」
「そう言えばそうだわ・・・あの子達結構持ってるはずよね・・・何気に危ないかしら・・・」
「そうね、お金関係の問題はちょっと難しくなるわよね」
「はい、で、先生に頼むのは寮母さん経由で支給した時に問題があった事がありまして・・・」
「あー、そういう事・・・」
「はい、ソフィアさんを信用してない訳ではないのですが、学園の方針としてそうして貰ってます、結局問題ってやつは、人間関係とお金関係なので、学園としてはかなり気を使っています・・・はい・・・」
ダナが申し訳なさそうに上目遣いでソフィアへ視線を送り、
「ん?あー、大丈夫よ気にしてないわ、そういう事もあるでしょうね」
「はい、すいません、御理解下さい」
ソフィアが機嫌を損ねていない事を確認してホッと一息吐いた。
「おはようございまーす」
来客である、2階の掃除を終えて階段の掃き掃除に取り掛かっていた時で、ミナが応対に出たようですぐに、
「ソフィー、えっと、誰だっけ」
「ミナちゃん、ひどーい」
「酷くないー、忘れただけなのー」
「それが酷いんだよー」
明るい声が玄関口に響き、ソフィアはあらあらと階段を下りて、ヒョイっと玄関を覗くと、
「おはよう、ってダナさんか、誰かと思ったわよ」
「あー、ダナだー、思い出したー」
「もう、ホントに忘れてたの?」
「うん」
元気よく満面の笑みを浮かべるミナに、ダナはもーと笑顔を見せるしかなく、
「こら、失礼よ」
ソフィアはこれは駄目だとミナを窘めた、
「えー、だってー、だってー」
「はいはい、さっ、入って、打ち合わせよね?」
「そうですね、ユーリ先生もいらっしゃいます?」
「いるんじゃないかな?学園は?」
「事務室覗いたらいなくて、こっちかなって」
「そっか、ミナ、ユーリ呼んできて」
「わかったー」
ミナはダダッと駆け出し、
「お茶入れるわねー」
とソフィアは厨房に入る、ややあって、
「レインちゃんおはよー、あー、冬支度終わりました?」
「そうねー、こんなもんかなって思うけど、どうかしら?」
茶道具一式を持ってソフィアは食堂へ戻り、ダナは食堂内を見渡してうんうんと頷いている、レインは顔を上げて小さく礼をして再び書へと向かった、
「そうですね、良いと思います・・・というか・・・」
ダナは恥ずかしそうに微笑し、
「ほら、ちゃんとした冬支度をした寮は初めて見ました、以前はあーだったので」
「そうねー、ごみ溜めだったからねー」
「はっきり言わないで下さいよー」
「他に何て言えばいいのよ、あれで火事にならなかったのは逆に大したもんだわよ」
「そう言えばそうですね」
「でしょー」
二人は適当に笑いながら手近なテーブルに着くと、
「定期打ち合わせかしら?」
「そうですね、それと新入生達の様子を聞き取りに、他にもありますね」
とダナは木簡を数枚テーブルに置いて、
「あっ、差し入れありがとうございました」
と思い出したように口に出す、
「なんだっけ?」
「ほら、あれです薄パンの肉野菜包みとか、ロールケーキとかドーナッツでしたっけ?」
「あれはだって礼を言われる筋合いは無いわよ、問題起こしたのはこっちだし、お金出したのはユーリだし」
「ですけど、嬉しいですよ、美味しかったし、薄パンのあれまた食べたいって事務所で時々話してます」
「あら、あれぐらいなら作れるでしょ」
「あの、白いソースがどうなってるんだって話題になりまして、ちょっとだけですけどね、料理好きな子でも再現できなかったって」
「あー、かもねー」
適当に雑談していると、
「早く早くー」
「待っててば、おわっ、危な・・・」
「遅いー」
「分かったからー」
階段が騒がしくなり、ミナが駆け下りてきて、ユーリも慌てて下りて来る、
「おはようございます」
「あー、おはよー」
ダナとユーリが挨拶を交わすと、
「呼んできたー」
ミナはソフィアに笑顔で報告し、ソフィアは礼を言って、
「お仕事の打ち合わせだから、静かにしててねー」
「分かったー、カトカが遊びに来てもいいよって言ってた、行っていい?」
「あー、大丈夫?」
「私が戻るまでならいいわよー」
ユーリがソフィアの隣りに座りながら答える、
「ん、じゃ、いいわよ」
「分かったー、レイン行こー」
「しょうがないのう」
ミナとレインがバタバタと研究所へ向かい、
「さて、何用じゃ」
ユーリが鼻息を荒くする、
「何よ偉そうに」
「だって、やっと本腰入れられるかなーって思って、3人で打ち合わせ中だったのよ」
「えっ、すいません、邪魔しました?」
「邪魔は邪魔だけどね、こっちの仕事も大事でしょ、ダナには迷惑掛けたしね」
「そんな、迷惑・・・は迷惑か、大騒ぎでしたからねー」
「まぁね、たまには良いかって感じの騒ぎではなかったからね、落ち着いたんでしょ、事務員さんも」
「それはもう、てんやわんやでしたけど、なんとか通常業務ですね、あっ、差し入れありがとうございます」
「それこそ別にいいわよ」
「じゃ、いつでもお待ちしてます、生ものでも受け付けてますので、どんとこいです」
「えー、そういう事言う?」
「言いますよー、学園長とか学部長とか事務長とか偉い人には贈り物はあるんですけど、私達には無いんですよ、あれです、頂いたメロンも美味しかったなー、あれは正に幻の一品でしたよ・・・」
懐かしそうに遠い目になるダナに、
「そんなのもあったわね」
とソフィアは微笑み、
「じゃ、お仕事しましょうか」
と先を促した、ダナは先に定期打ち合わせとして食費とソフィアの給与の受け渡し、寮の運営にあたっての不足品の確認等々が行われ、それは数度繰り返している為に慣れたものであっさりと終わる、冬支度に関する意見交換も行われ、それは寮内の変化もある為様子を見ながら逐次対応して行く事となった、そして、
「新入生達についてなんですが」
とダナは話題を切り替えると、
「えっと、今のところ問題はないですか?」
と実に大雑把な質問である、
「そうね・・・大丈夫と思うけど・・・」
ソフィアは一応とユーリへ意見を求め、ユーリも特にはないようで、茶を啜りながら目線で同意を伝える、
「そうですか、であればいいんです」
ダナはニコリと微笑み、一応とこの時期の寮生が発端となる問題点を口にした、曰く、やはり寮に慣れない生徒や変に張り切って虐められる事になる生徒、さらに逃げ出して衛兵に捕まる生徒、悪い仲間と仲良くなって道を踏み外す者等がいるらしく、半年毎に手を変え品を変え何らかの問題が発生するそうで、
「あれです、寮母さんや先生ではやはり気付かない事も多いです、学園では何かあれば担当事務員にも相談しろとは言ってますが、やはり、一緒に生活する御二人には落ち着くまで、というか本当の意味でこちらの生活に馴染むまでは注意して欲しいかなと・・・」
笑顔で語られたが中々の重大事であった、
「確かにそうね、いつの間にか顔を見なくなった生徒とかいるからねー」
「えっ、そんな子いるの?」
「男だけどね、ほら、親元を離れちゃって浮かれるのよ、で、夜の生活に惹かれちゃうんだわね・・・ま、そういう子は大人になってもね、どうしてもなんやかんやでそっち側にいっちゃうでしょうけど」
「あー、そういう事か・・・都会だしね、そういう事もあるわよね」
「そうですね、真面目な子はどこまでも真面目なんですけど、そうでない子はどこまでもそうではないですから・・・難しい所ですね」
ダナがしみじみと呟く、
「ん、まぁ、そうね、ここの子達は今の所は大丈夫かな?ジャネットさんとケイスさんが上手い事中心になってるみたいね、エレインさんは仕事が忙しいからね、あの子は半分卒業したようなもんだし、オリビアさんも真面目な子だしね、少なくとも見えている場所では問題は無いように思うけど・・・」
「見えてないとなると各個人部屋かしら、食堂で屯ってる時間が長いからな、あの子達、良い事か悪い事かは分からないけど」
「良い事だと思いますよ、あれです、集団に背を向けるようになると鬱屈している証拠ですから、そうなるとほら、地方出身者はどうしても相談相手もいないから一人で抱え込んで、どんどんドツボに嵌って、いよいよ宜しくない事になります」
なるほどとソフィアは頷き、ケイスの事を思い出す、確かソフィアが来る迄はこの寮もあまり良い雰囲気では無かったと聞いている、それで自身の過失が大きいとはいえ珍しい事故に見舞われたのだ、よくもまあ長い時間を孤独の中で耐えたものである、
「そうね、そういう事もあるわね」
ユーリもうんうんと納得し、
「私からも何かあればダナに相談するように話しておくわ、みんな、ちゃんと目的があって来てるからね、その意思は尊重しないとね」
「そうですね」
ダナはニコリと受け取り、
「で、何ですが、こちらをユーリ先生から渡して欲しいのですね」
ダナは革袋から布袋を二つ、それと木簡を二つ取り出す、
「何?」
ユーリが率直に問い、ソフィアも小首を傾げた、
「はい、ルルさんとレスタさんですね、お二人には別途生活費が支給されています」
エッとソフィアとユーリは同時に驚いた、
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
「聞いてないわね」
「うん、私も・・・」
「あー、すいません、実はですね」
とダナの説明によると、レスタに関しては特待生である為授業料及び寮費を学園で負担し、さらに生活費として助成金が出る事になっており、ルルに関しては上からの指示で特待生待遇とする事となっているとの事である、
「あら・・・」
「へー、レスタさん凄いのね、女の子で特待生って珍しいんじゃない?」
「そうですね、珍しいですね、女性で特待生となるとカトカさんかな?近い所だと、確かそう聞いてます、あっ、これは秘密でお願いします」
ダナは思わず個人情報を口にしてしまい慌てて口留めを頼んだ、
「えっ、カトカさん?」
「へー、あの子そんなに凄かったんだー」
「らしいですね、当時はまったく知らなかったですけど、事務員になって初めて知りました」
ダナとカトカは半期違いの同窓生である、学科が違う為顔見知り程度の関係でしかなかったが、
「そっかー、ルルさんは・・・そういう事よね」
「うん、やっぱりあれよ、権力者の友人は握って離しては駄目よね」
「あはは・・・そうですねー」
ソフィアとユーリはうんうんと頷き、ダナは苦笑いである、ダナは王族と眼前の二人の関係は良く分かっていない、先日の騒動もあった為いよいよ何者なのかと事務員の間で噂になるほどである、しかし、事務長曰く、知らなくて良い事は知るべきではないとの事で、事務員達は背筋に冷や汗を感じて黙るしかなかった、
「で、こちらこの金額なんですね」
木簡をユーリの前に滑らせ、ユーリはそれを手にすると、
「あらっ、結構な額ね」
「はい、三カ月分になります、次回は二カ月分ですね、季節の変わりですし入用であろうとの事でこの金額です」
「はえー、若者には結構な額じゃない」
ソフィアも木簡を覗き込む、
「はい、なので、先生から直接手渡して頂いて、木簡に記名をお願いしたいです、それとお金なので、問題が起きないように配慮もお願いしたいです」
「配慮って・・・そっか、そうよね、いろいろ考えられるわよね」
「はい、女の子なので男性的な問題は無いでしょうけど、子供にしたら大金です、この額を自由に出来るとなれば問題しかないですよ、特に慣れない環境ですからね、ま、他の点で言えばこの寮はほら皆さんちゃんと稼いでますからね、そういう意味での問題は無さそうですが・・・こればかりは分かりませんね」
「そう言えばそうだわ・・・あの子達結構持ってるはずよね・・・何気に危ないかしら・・・」
「そうね、お金関係の問題はちょっと難しくなるわよね」
「はい、で、先生に頼むのは寮母さん経由で支給した時に問題があった事がありまして・・・」
「あー、そういう事・・・」
「はい、ソフィアさんを信用してない訳ではないのですが、学園の方針としてそうして貰ってます、結局問題ってやつは、人間関係とお金関係なので、学園としてはかなり気を使っています・・・はい・・・」
ダナが申し訳なさそうに上目遣いでソフィアへ視線を送り、
「ん?あー、大丈夫よ気にしてないわ、そういう事もあるでしょうね」
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