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本編

53話 新学期 その4

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寮では大量のドーナッツ作りを終え、それらはユーリとソフィアによって学園へ運ばれ、それを見送った生徒達は昨日予定していた寝藁作りに取り掛かる、藁は薪と一緒に大量に運び込まれており、レインとミナが嫌そうに手伝う事になった、しかし、やはりというべきか各人でその製法には違いがあるようで、グルジアは取り敢えずソフィアが作ったものに合わせる形で指揮をとった、既に編まれた寝藁が作業場の隅に重ねられていた為それを例にとって作業は滞りなく進み、やや作り過ぎたかなといった感じであるが、足りなくなるよりは良いだろうと取り敢えず満足して腰を上げる、それから洗濯である、寮で支給された寝具類はソフィアが洗濯しているのであるが、私物はあくまで自分達で洗濯しなければならない、最も早く寮の世話になったルルはそれなりに洗濯物が溜まっており、明日からの学園生活に向けてスッキリしておきたいとの事で、どうせなら皆でやろうと作業場はワイワイと騒がしかった、洗濯もまた各人で方法が大きく違うようで、それは出身地の違いというよりも各家庭の違いであるのであろう、単純に水洗いで済ませる者もいれば、丁寧に持参した石鹸を使う者もいる、さらには川でしか洗濯した事の無い者もおり、井戸を使っての洗濯に四苦八苦していたりもする、グルジアはなるほど共同生活も面白いものだと思い、また、王国と一言で言ってもこれほどに文化が違うものかと感心してしまう、その後、基本的には部屋干しになる為各人は自室へと戻り、グルジアが食堂に戻って来るとソフィアが学園から帰ってきていた、

「お疲れ様、どんな感じ?」

「はい、寝藁は作って重ねてあります、けっこうな量作ったので暫くは使えるかと思います」

グルジアが報告すると、

「ありがとう、助かるわー」

ソフィアは心底嬉しそうに微笑み、

「あっ、そうだ、どうだろう、もう一仕事やらない?」

「もう一仕事ですか?」

「そっ、レインの漬物ね、好評なもんだから今朝食べた分で無くなっちゃったのよ、保存食のつもりだったんだけどね、ま、試しって事もあったけど」

ソフィアが嬉しそうな困ったような微妙な笑顔を浮かべ、レインがなんじゃと顔を上げた、ミナとレインは一仕事を終えたと毛皮の上でゴロゴロしている、

「あっ、それ嬉しいです、教えていただけますか?」

「勿論よ、ほら、人が多いうちにね興味ある人でやってしまおうかなって思ってたから」

「あの漬物は絶品ですよ、是非教えてください、手伝います」

「ふふん、じゃろう?」

レインが自慢気に胸を張る、そこへ、

「あっ、お帰りなさい」

他の生徒達も戻って来て漬物の件が伝えられると皆揃って志願する、レインの漬物の魅力もさることながら、結局の所暇を持て余しているだけなのである、ソフィアは新入生に対してはこんな感じで良いのかしらと訝しく感じるが、ユーリはもとよりエレイン達も特に何も言ってないところを見るとこんなものなのであろうなと納得するしかなく、明日の朝しっかりと送り出すのが取り敢えずの仕事よねと考えを切り替えて暇人達を有効活用する事にした、

「じゃ、そうね、ミナとレインはお買い物お願いね、二人くらい一緒に行ってもらえる?」

「私達行きます」

サレバが手を上げて進み出る、私達となればコミンと一緒という事であろう、

「ん、お願い、残りの人で漬物用の甕を用意しましょう、使えそうなのが二つ程あるからね、それを洗って・・・あっ、レイン、他に漬けたいものってある?」

「カブ以外でか?」

「そっ、折角だから色々漬けてみたいわね、レインの好きな漬物でいいわよ、カブの甘酢漬けは確定で、あと二つくらい?甕は3つあるから、そんな感じで」

ソフィアはここは任せてしまった方が面白そうだと判断した、レインに漬物の才能というか経験があった事が大変に意外な事であったが、長く生きて来たのであろうからその知識量を甘く見てはいけないのだなと再認識もしている、

「そうだのう・・・市場にあればじゃな、うん、では、カブと他の野菜も物色するか、腕の見せどころじゃのう」

「そうね、任せるわ、甕はちゃんと用意しておくから、イイ感じにお願い」

「うむ」

レインは満足そうにニヤリと微笑む、

「それと、足りないものはー、あっ、油が少なくなってたわね、それと、お塩・・・お酢もか・・・あっ、漬物用のお酢とかお塩も好きなもの買ってきて、干し肉はまだあったから、それを使って貰って、あとは・・・玉子と小麦と大麦も届けてもらうようにお願いできる?小麦粉も少なかったしな、蕎麦はまだあったかな?」

「うむ、他にはあるか?」

「ちょっと待ってねー」

ソフィアはパタパタと厨房へ向かった、レインの漬物の報酬として食糧庫にはかなりの食材が並んでいるが、かと言って足りない物は発生する、特に寮生が増えたことにより調味料と主食としている麦類の減りが著しい、さらにここ数日なんやかやで買い出しも頼んでいなかった為、これも手のあるうちに買い足しておこうとの思惑である、

「んー、そういう事なら私も買い出し組に行った方がいいかな?」

ルルが状況からそう判断したようで、

「そだねー、持ちきれないかも」

「うん、こっちの準備は私とレスタさんでなんとかなるでしょ、ソフィアさーん」

グルジアがソフィアの判断を確認に厨房へ走り、ソフィアはそれもそうねとあっさりと聞き入れると、

「じゃ、そんな感じでお願い」

レインに硬貨の入った革袋を渡し、サレバ達は買い物袋をそれぞれの肩にかけて準備万端となる、そのまま買い出し組ははしゃぎながら市場へ向かい、準備組はソフィアと共に倉庫へ向かった、そして、

「わっ、えっ、凄い・・・」

「えっ、どうなっているんですか?それ?」

内庭に漬物用の甕を持ち出した3人は早速と洗浄作業に取り掛かるが、ソフィアは無色の魔法石を井戸から引き上げるとそれを使って作業を始め、小さな魔法石から止め処なく溢れる水にグリジアとレスタは驚いて手が止まる、

「ふふん、便利でしょ」

ソフィアはニヤリと微笑み、

「はい、えっと、え、水ですよね・・・水だ・・・」

「うん、その石からですか?えっ、どうなってるの?」

二人は目を白黒させて魔法石を見つめている、

「そのうちちゃんと説明するけどね、こういう便利な物も扱ってるのよ、ユーリの所の研究所でね」

ソフィアは取り敢えずとユーリの名を出す、この寮に来て冷凍箱にしろ鏡にしろ溶岩板にしろコンロにしろ、それまでの生活では触れたことのない品々ばかりを目にした二人である、そう言っておけば取り敢えずは納得するであろうとの意図であった、

「えっ・・・」

「これもですか・・・」

「そうよー、曲がりなりにも研究所だからねー、何気に凄いのがいっぱいなんだから」

ソフィアは自慢気に語りつつ、

「あっ、でも、あれよ、他の人に言ったら駄目よ、最悪寮から叩き出されちゃうからね」

釘を指す事も忘れない、

「はっ・・・はい」

「勿論です・・・」

二人は神妙な顔で頷く、学園が始まってもいないのに叩き出されるのはたまったものではないし、なにより、このような便利な上に珍奇な品々から離れるのは惜しい事である、

「えっと、もしかしてですけど、あの、改築の図面にあった貯水槽ってこれを使うんですか?」

グルジアがハッと気付いた様子である、

「あら、御名答、その予定」

「えっ、凄い・・・風車でも立てるのかと思ってました・・・」

「ふふん、そうね、ま、計画だけどね、この魔法石を上手い事使えば・・・どうだろう、日に一度か三日に一度ていどかな?石を交換すれば水を使い放題・・・ってほど使われるとあれだけど、そうなる感じ?」

「なるほど・・・」

グルジアは絶句して目を剥き、レスタも何が何やらと目を回している、

「ま、あくまで実験だから、それとあれだ、実際にやってみないと分かんないでしょ、こういうのって」

ソフィアはカラカラと笑い、

「じゃ、さっさと洗ってしまいましょうか、泥とかは大丈夫だと思うんだけど、虫と埃が酷くてねー」

ソフィアは急に庶民的な事を言い出し、グルジアとレスタはさらにクラクラと眩暈を感じるのであった。
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