上 下
524 / 1,050
本編

52話 小さな出会いはアケビと共に その10

しおりを挟む
それから宴は一段落し、焼肉用の肉と野菜は粗方掃けてミートパイの半分程度と野菜スープば半分程度が残っている、足りないよりはマシよねとソフィアは虫が入らないように片付けはじめ、腰掛けでは、

「しかし、あの光柱は素晴らしいですね」

ユスティーナとユーリとカトカ、そこにサビナが加わって並んで座り、木々の合間に見える光柱を見上げるように視線を走らせた、

「いえいえお恥ずかしい限りです、まったくの計算違いでして・・・」

ユーリはニコヤカに謙遜した、実際には勘違いであり、計算違いとは言えないのであるが、公にはそう発言する事にしている、

「そんな、それでもあれだけの事を為したのですよ、今日、間近で見てさらに驚きました」

ユスティーナとレアンは事務所で下着を見物した後、サビナと共に学園に向かい光柱を一頻り見物して来た、現場では見ていないとの事であった為、サビナが案内した形である、学園は二晩経ったとはいえまだまだ見物客が多く、サビナが二人を関係者扱いという事にして特別扱いでの見学となった、当然であるが学園長と事務長も顔を出し、やや疲れたような様子であったが喜色満面でユスティーナとレアンを歓迎した、

「今度の祭りでも披露されるとか、大変、楽しみです」

「そうですね、ですが、あれと同一のものは難しいですし、大仰過ぎると思います、ですのでより小さく、但し、より煌びやかになればと思います」

「あら、そうなんですか・・・そうね、確かにあれがそのままだと少々怖いし、威圧感がありますわね」

ユスティーナの言葉通り、学園の光柱は見物客を畏怖させる代物であり、見物客の人並の間では常にあちらこちらで甲高い泣き声が響いていたほどである、幼子を連れ家族で見物に来た者が多い為、つまりそれは幼子の本能的な怖さの素直な表明なのであった、遠慮無く泣き叫び帰る帰ると泣きわめく幼児をその両親は宥めすかしながら困り顔で笑っている姿は、どこにでもある微笑ましい光景であり、隣りを歩く同じ見物客達もそりゃ泣くよなとその心情を理解し苦笑いで受け入れていた、

「そうですね、まず明るすぎます、防御の為の結界が無ければ眩しいでしょうね、それと5段目の結界はやり過ぎでしたね、しかし、あれがなければ下手すると・・・そうですね、10日間はあのままだったかもしれませんね」

「まぁ、5段目というと、あの回転していた黒い部分ですね」

「はい、あれは、魔力を回転運動に変える事で無駄に消費させているのです、ですので、最も大事な部分なんですが、ま、見た目は大変怖いですよね、分かります、私も実際に動くのを見たのは初めてでしたが、構想通りに動いた喜びよりも、やり過ぎたかなって感じでしたね」

「なるほど、ユーリ先生でもそう思われますか・・・そうしますと、あの虹色の部分と本体だけで良いのかしら」

ユスティーナはサビナの解説を思い出す、

「そうですね、街中で構築する場合はその2段構えで十分かと、それに虹色の部分はとても華やかですし、祭りの際には一晩で十分ですしね」

ユーリはユスティーナの理解力に大したもんだと感心しつつ構想段階の計画を口にする、実のところ今日も学園で、学園長と共に商工ギルドの関係者と打ち合わせをしたのであった、先方は領主のお墨付きも得たという事で大変に鼻息が荒く、毎日でも設置したいとの意向であったが、それでは珍しさが無くなるだろうと学園長とユーリは抑える側に回らざるを得なかった、

「楽しみですわね・・・ふふ、期待しております」

にこやかに微笑むユスティーナにユーリは礼を言いつつ頭を下げた、その隣りでは、

「イース様はどこの方なのだ?」

レアンが純粋な質問をエレインにぶつけている、

「えっ、イース様ですか、えっ、お会いになったのですか?」

エレインは目を剥いてレアンを見つめる、

「うむ、今日な、アケビを楽しんでいたらいらっしゃってな、挨拶をしたのだが、随分と高位の方と見受けられたが」

レアンの言葉にはこの時点では裏表は無い、ジャネットがエレインの縁戚であるという紹介をした為それをそのまま信じているのである、しかし、エレインはワタワタと慌ててしまい、

「えっと、そうですね、あー、少しばかりその訳ありでございまして」

何とか誤魔化そうと言葉を探すが上手い理由が出てこない、

「むっ、なんじゃそれは?」

レアンが眉間に皺を寄せる、

「えっと・・・そうですね・・・高位・・・と言えば高位です、はい、こちらにいらっしゃったのは・・・その・・・私と同じような感じでして・・・」

エレインは何とも胡乱な表現で回避する事とした、しかし、

「・・・何じゃ怪しいのう・・・」

レアンの瞳が鋭くエレインを穿つ、

「そんな、ほら、どうしても公表できない事はあるものです、私もそうですが・・・」

エレインはここは自分が身代わりになってでも話題を変えるべきと一計を案じるが、

「エレイン会長の事は聞いておる、今はイース様の件じゃ」

レアンには通用しないらしい、

「あー・・・ですから・・・そうですね、私の口からは何とも・・・その、私としてはある意味恩人に当たる方でして・・・申し訳ありません」

エレインは誤魔化すことが難しいと判断し、今度は素直に答えられぬと言い切る事にした、声を潜め深刻そうな顔を意識する、

「そうか・・・それほどに重大な事なのか・・・良い人だと感じたが・・・」

レアンはそこで何とか追及の手を止めた、エレインはドッと背中に汗を感じつつ、

「申し訳ありません、その、もう暫くはこちらに滞在される予定です、御本人から明かされる事もあるかと思いますが・・・申し訳ありません」

そのような機会は来ないであろうなと思いつつ、エレインは謝罪を口にする、

「いや、こちらこそ済まなかったな、確かに訳ありと言われればそれ以上を追及するのは無礼だな・・・うん、そうだ、それと、湯沸し器であったか、あれを販売する事は考えていないのか?」

レアンも自らの不作法を詫びて話題を変えた、エレインはホッとしつつ、

「はい、そちらであればもう暫くお待ち下さい、現在手配中です」

「そうなのか、それは良い」

笑顔を見せるレアンに、

「はい、ブノワトさんのご実家が鍛冶屋でして」

と詳細を語り出すエレインであった、そして、

「お腹いっぱい・・・」

「うん、苦しいかも・・・っていうか苦しい・・・」

「私も、こんなに食べたの初めて・・・だ・・・」

精霊の木の根本ではサレバとコミン、レスタがだらしなく寝そべっている、

「あー、なんだろ、苦しいんだけど、幸せ・・・」

「そだね、幸せー」

「お腹いっぱいになると幸せなんだね・・・」

「いいのかな、学園始まってないのに・・・」

「そうだったね、何か・・・」

「うん、遊びに来たみたい・・・」

「田舎のみんなに申し訳ない感じがする・・・」

「それね」

「分かる」

「でしょ、何かこっちに来てから夢のような感じだ・・・」

「うん、まだフワフワしてるよね」

「私、ついていけるかな?」

「そだね、何か不安・・・」

「大丈夫だよ、ジャネット先輩も気楽にやればって言ってたし」

「気楽って言われても・・・」

「ねー、どうすればいいか分かんないね」

「ですよねー」

「勉強はしっかりやれってケイス先輩は言ってたね」

「うん、ジャネット先輩を見習っちゃ駄目って」

「ケイス先輩頭よさそうだよね」

「うん、それ分かる」

「お医者さんになるんだっけか」

「凄いねー」

「ねー」

「お医者さんって怖い人だと思ってた・・・」

「そうなの?」

「うん、田舎のお医者さん、すんごい怖いお爺さんなの・・・」

「あー、こっちのお医者さんは優しかったよ」

「そだねー、でも、母さん達は藪医者って呼んでたー」

「ヤブ?イシャ?」

「うん、下手なお医者さん?って感じらしいよ」

「そうなんだー、下手なお医者さんもいるんだー」

「そうみたいよー」

「ねー」

取り留めのない上に内容の薄い会話が夕焼けと光柱に彩られた空に溶けていく、そして、

「はいはい、じゃ、締めの甘味よー」

ソフィアの楽しそうな声が響き渡り、3人は同時にガバッと起き上がると、

「なんだろ」

「甘い物よ」

「それもソフィアさんが作った」

満腹感をどこへやったのかその瞳は爛々と輝き始め、

「ミナ落ち着きなさい」

「やだー、これ、これ?」

ミナとジャネットがこれ見よがしに布で隠された皿に取り付く、

「それよ、一人二つまでね」

「分かったー、わっ、何これ可愛いー」

サッと布を取るとそこに現れたのは丸い輪っか状の菓子である、中央に穴が空いた茶色のパンのようなケーキのような物、それ以上でも以下でも無い、見た目は非常に可愛らしく、そして二人の目には大変に目新しい物に映った、

「ホントだ、ソフィアさんこれ何ていう料理ですか?」

「変な形ー、輪っかだー」

「ありゃ、ミナ覚えてない?」

「覚えてない」

「タロウさんが作ってくれたじゃない」

「そうだっけ?」

ソフィアの周りに続々と人が集まって来て、

「わっ、ホントだ、可愛い」

「うん、お洒落ですね」

「パンですか?」

「油で揚げたのですよ」

料理を手伝ったカトカが自慢気に答えた、

「油で揚げたパン?」

「そんな贅沢な・・・」

サレバはガバッと立ち上がり、

「割っか?」

「急がねば」

「うん」

コミンとレスタも立ち上がるとダダッと駆け寄る、

「そのままでも甘くて美味しいと思うけど、イチゴのソースかカスタードをつけても美味しいですよ、そちらにありますから喧嘩しないで頂きましょう」

「ま、ソフィアさんやっぱりまだ隠してたのですね」

エレインが金切り声を上げ、

「はいはい、人を悪者みたいに言わないの」

「むー、どうやって食べるの?」

「そのままかじり付きなさい」

「いいの?」

「いいわよー、美味しいんだからー」

と言うが早いかミナはパクリと齧り付き、

「んー、美味しいー、甘ーい、フワフワー」

「うん、美味しい、カリカリでフワフワだ、何だこれ?」

「初めて食べました、素晴らしい」

「うん、これは凄い」

「スポンジケーキに似てますが、あれとはまた違った感じですわね」

「はい、なんでしょう、外側が固いのでしょうか、生地も少し違うのかな?」

「そだねー、これはカスタードかなー、アンズソースも合うかも」

「うん、あれだ、蜂蜜の甘さだ・・・」

「そうだね、それに食べやすいな、あっという間に無くなっちゃう」

「真ん中の穴がなんか意味有り気でいいですね」

どうやら好評のようである、ソフィアはニヤニヤと満足そうに微笑み、

「いい、一人二つまで、食べ過ぎて苦しくなっても知らないからねー」

その忠告を聞いているのかいないのか、ジャネットは、

「これ、何ていう料理なんですか?」

単刀直入に同じ質問を繰り返す、

「えっとねー、旦那はドーナッツって呼んでたかな?」

「あの、真ん中空いてるのはどうしてなんですか?」

「あー、そういうもんなんだってー、可愛いでしょ」

「作り方、教えて下さいまし」

「はいはい、後でゆっくりね、簡単よ」

その日の歓迎会はドーナッツを中心にして笑顔と満腹感で締められたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

異世界で趣味(ハンドメイド)のお店を開きます!

ree
ファンタジー
 波乱万丈な人生を送ってきたアラフォー主婦の檜山梨沙。  生活費を切り詰めつつ、細々と趣味を矜持し、細やかなに愉しみながら過ごしていた彼女だったが、突然余命宣告を受ける。  夫や娘は全く関心を示さず、心配もされず、ヤケになった彼女は家を飛び出す。  神様の力でいつの間にか目の前に中世のような風景が広がっていて、そこには普通の人間の他に、二足歩行の耳や尻尾が生えている兎人間?鱗の生えたトカゲ人間?3メートルを超えるでかい人間?その逆の1メートルでずんぐりとした人間?達が暮らしていた。  これは不遇な境遇ながらも健気に生きてきた彼女に与えられたご褒美であり、この世界に齎された奇跡でもある。  ハンドメイドの趣味を超えて、世界に認められるアクセサリー屋になった彼女の軌跡。

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...