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本編
52話 小さな出会いはアケビと共に その9
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そして裏山での歓迎会という名の宴が始まった、今日の料理は定番となった溶岩板を使用した焼肉と焼野菜、野菜を主としたスープと、ソフィアが作る料理としては大変に珍しいミートパイである、
「それでは、どうしようかしら、やっぱり乾杯からよね」
ソフィアがそれぞれの手に杯が行き渡ったのを確認する、中身は勿論ソーダ水である、
「じゃ、ここはユーリに頼もうかしら」
と水を向けると、
「はいはい、じゃ、僭越ながらー」
とユーリはゆっくりと腰を上げて、
「えー、学園講師として新たな生徒を迎える事を大変嬉しく思います、それも5人もの美しき淑女です、男共ならほっとかないよねー」
やや嫌らしく口の端を上げ、一同もつられたようにニヤニヤと微笑む、
「もう数日ですか、同じ屋根の下で生活して、今の所は上手い事やっていると思いますが、今後色々とあるかもしれません、ほら、女同士だし、最初のうちは良いんだけどね、どうしても生活を共にしていると軋轢は生まれるものですから、でも、そうね、ここで出会ったのも一つの縁です、きっと神様が引き合わせてくれたのでしょう、そう考えてお互いを尊重しましょう、そして、良き友人、良き競争相手、良き仲間として学問に打ち込みましょう、学園として、そして寮に住む先輩として皆さんを歓迎します」
ユーリの口から神という単語が出てくる事は大変に珍しい、ユーリはソフィアに負けぬ程に信心が薄い人間である、サビナとカトカが、あれまどうしたのかしらと心配そうにユーリを見つめる、
「それと、ユスティーナ様とレアンお嬢様も御列席頂いております、お話しを聞く限りですが、もうすっかり良い関係を築いているのかなと思います、私達平民はエレインさんも含めて貴族の方々と直接お話しできる機会は思った以上に少ないです、講師として言うのであればこれもまた一つの経験として皆さんの糧となれば幸いと思います、必ず皆さんの将来に於いて貴重で大事な経験になると思います、ま・・・」
とユーリは再びニヤリと微笑み、
「そんな堅苦しい事を考えていると折角の料理が楽しめないですね、というわけで楽しくやりましょう、いい?」
一同を見渡すと、
「では、杯を掲げて、乾杯」
「乾杯」
天辺広場に女性の甲高い声が大きく反響し、続いて、気持ちよく喉の鳴る音が続く、
「ふー、美味しいー」
「うん、気持ちいいいですねー」
「先生、話し長ーい」
「あん?こんなもんでしょー」
「説教臭いですー」
「あっ、そういう事言うの?」
「ほら、年取ると話が長くなるっていうじゃんさー」
「ジャネットー」
キャッキャッと楽し気な会話が始まった、
「はい、じゃ、料理の説明しますねー」
とソフィアが立ち上がると、
「溶岩板の焼肉は知ってる人も多いわね、自分で焼いてタレを付けてお召し上がりください、スープはそちらに皿は側にあるのを使って下さい、それとやっぱりこういう場だとパイかなーという事で、ミートパイを作りました、こちらもお好きに切り分けて御賞味下さい」
「ミートパイって初めてじゃないですか?」
「そうねー、窯に火を入れるのが面倒でねー、久しぶりに窯を使ったわー」
「へーへー、美味しそうー」
「ふふ、あと、食後に甘味も用意してます、ちょっと・・・そうね、お腹に溜まる感じの甘味なので小食の方は調整しながら食事をしてねー」
「えっ、何ですか?新作ですか?」
「新作・・・まぁ、そうね、こっちでは初めて作ったかしら?」
「おおー、それは嬉しいです」
「えっと、あれですか」
エレインが目敏くも布が被せられた皿を睨みつける、
「そうね、ほら、ちゃんと食べてからよ、あくまで食後のお楽しみなんだから」
「分かりました、では、ユスティーナ様、レアン様、焼きましょう」
「そうね、頂きましょうか」
こうして、歓迎会という名の宴が始まった、二つの溶岩板で獣肉と野菜が焼かれ、なるほどこうやって食べるのかと新入生達はおっかなびっくりで手を動かしており、ユスティーナとレアンはミナの得意気な指示に素直に従っている、
「お肉はちゃんと焼くのよ、野菜は軽く茹でてあるからそのまま食べても美味しいわよ、マヨソースもあるからねー」
「レスタ、ほれ、これ焼けたよ」
「わっ、ありがとうございます」
「ほれ、コミン」
「わっ」
「はい、サレバ、ねーさんも」
「ありがとうございます」
「なるほど、溶岩板はこういう使い方も出来るのですね、楽しいですね、煙くないし、安全だし」
「あっ、そうですよね、直接火を焚かないからか、肉の煙は仕方ないですけど、全然気にならないですよねー」
「そうなんだよー、これはユーリ先生の研究室で作ったんだぜー」
「それ前にも聞きました」
「そうだっけ?」
「はい、サビナさん、これ実家にも欲しいです」
「あー、そうだよねー、私も欲しいんだけどね、一つあると楽よね」
「えっ、サビナさんがそれ言います?」
「そりゃそうでしょ、でも、そんな簡単に作れるものじゃないのよね、考えてはいるんだけどね」
「そっかー」
「うわ、このお肉美味しい・・・」
「そっか、薄く切って焼くのも美味しいんだ・・・」
「そうだね、食べやすい」
「うん、おっきい肉だと切るのが大変だもんね」
「そうそう、食べにくいしね」
「すんごい柔らかい・・・」
「うん、これは素晴らしい良い肉だ」
やはり溶岩板の有用性が話題に上がるが直ぐに肉の味へと話題は移る、そこからタレの味に変わり、やがてソフィア特性のミートパイに舌鼓を打ち、ある程度腹が満たされると、
「だっはっは、何、ソフィアあんたアケビ食べた事無かったの?」
ユーリのあからさまに小馬鹿にしたような声が響いた、
「何よ、それはもういいわよ」
「良くないわよ、大事な生徒達を困らせるんじゃないわよ」
酒も無いのにユーリは上機嫌である、
「別にそのくらいいいでしょ、何気に落ち込んだんだから」
「むー、そうなのー?」
ミナが心配そうにソフィアを見上げた、
「そうよー、ま、もういいけどねー」
ソフィアはそう言いつつも諸々の感情を思い出したのか不愉快そうにミートパイを口に入れる、
「あれ・・・でもさ、確か・・・っていうか、うん、思い出した」
ユーリが少し首を傾げて、ポンと手を打つ、
「なによ?」
「うん、子供の頃に聞いたなって、確か、伯母さんと大叔母さん、アケビ食べ過ぎて気持ち悪くなったからそれで嫌いになったんじゃなかった?」
「えっ、何それ?」
どうやら新しい事実が掘り起こされた様子である、伯母さんと大叔母さんとはソフィアの母と祖母の事であろう、ユスティーナとレアンもどういう事かと手を止めた、
「うん、そう聞いた、で、母さんがそういう事なら実だけ貰うわよって、貰ってたのよ」
「えっ・・・初耳・・・」
ソフィアは絶句してユーリを見つめる、
「でね、いっぱい貰うもんだから、それでジャムを作ってたな、うん、あれ、あんたも食べてたじゃない」
「・・・えっ・・・記憶に無い・・・」
「そう?うん、美味しいわよ、アケビのジャム」
「そうなの?」
「そうなのか?」
ミナとレアンが熱い視線をユーリに向ける、
「そうよー、アケビはほら、種が多くて食べにくいでしょ、だから、うちではジャムにして、蜂蜜とか果物を少し入れてね、甘さを調整してたなー、美味しいのよねー」
「うー、食べたいー」
「そうじゃの、美味しそうじゃの」
「あら、なら作る?」
「作れるの?」
「簡単よ、種を取るのが面倒かなー、目の細かいザルがあれば楽だけどねー」
「ソフィー、食べたい」
ミナの熱い視線がソフィアに向いた、しかし、ソフィアはやはり顔を曇らせたままで、しかし、ん?と何かを思い出してユーリを睨むと、
「もしかして、あの白いジャム?」
「そうよ、多分だけど」
「あなた、あれ、芋虫のジャムって言ってなかった?」
「・・・言ったかも・・・」
そこでユーリも何かを思い出し、
「あー、そっかー、そうだったねー、で、美味しいけどイヤーってあんた泣いたわよね」
「そうよ、思い出したわ、あれがアケビのジャムだったのね・・・」
「そうだ、そうだ、で、あんた、もう嫌ーって言って、うん、それから見るたびに嫌そうな顔してたわよね、アッハッハ、うん、そうだった」
カンラカンラと楽しそうなユーリと深刻そうに暗い顔となるソフィアである、
「そっか・・・うふふ・・・そういう事か・・・」
どうやらソフィアの人生に於いてアケビは常に隣りには在ったが大変に縁遠いものであったらしい、つまり、偶然か必然か、家族はおろか幼馴染にまで言葉巧みに騙されていたのである、実母と祖母は単に食べ過ぎて気持ち悪くなり、自分達が苦手になったものだから詭弁を弄してソフィアにも食べさせず、幼馴染であるユーリは恐らくであるが、母が作るジャムを、あの実だけを見て芋虫から作ったジャムであると、子供らしい素直な感性でソフィアに見たままを説明したのであろう、ソフィアとアケビの関係は家族愛と幼い友情が絡み合った実に偶発的な悲劇であったのである、
「ふふ・・・なるほどね・・・敵が此処にもいたわね・・・」
ソフィアは頬を引くつかせてユーリを睨み、ユスティーナとレアンは良く分からんが仲が良いなこの二人はと羨ましく感じつつも困った顔で成り行きを見つめている、
「何よ、子供の頃の話しでしょ、今更睨まないでよ」
ユーリは涼しい顔で肉を並べ、
「あっ、レアン様、これ焼けてます、レインもこれ良い感じよ」
とソフィアをほっぽって甲斐甲斐しい、
「いい・・・ミナ・・・やっぱり、ユーリは意地悪で嫌な奴だったわ」
ソフィアはゆっくりとミナへ視線を下ろして呟いた、
「でしょー、ユーリは意地悪だー、嫌な奴だー」
今度はミナが我が意を得たりと騒ぎ出す、
「ちょ、何よ、そんなに大事なの?」
「大事よ、皆して馬鹿にしてー」
「馬鹿にしてないでしょー」
「馬鹿にしてるわよー」
二人のやりとりを、あー、またなんか始まってるなとジャネット達は遠目に傍観し、新入生達もどうやら慣れてきたようで、いつもの事と食事に集中している、ユスティーナとレアンは呆気に取られて言い争いを見つめているが、
「いつもの事なので、ほら、喧嘩するほど仲が良いと言いますから」
エレインの冷静な言葉と、
「やれやれじゃ」
レインの慣れた様子、それから、
「ユスティーナ様、こちら良い感じです」
「レアン様、野菜もどうぞ」
オリビアとカトカの暗に相手をする必要は無いという視線を受けて、
「そうね、ありがとう」
「うむ、野菜も美味いな、マヨソースが欲しいな」
と、食事を楽しむ事にしたようである。
「それでは、どうしようかしら、やっぱり乾杯からよね」
ソフィアがそれぞれの手に杯が行き渡ったのを確認する、中身は勿論ソーダ水である、
「じゃ、ここはユーリに頼もうかしら」
と水を向けると、
「はいはい、じゃ、僭越ながらー」
とユーリはゆっくりと腰を上げて、
「えー、学園講師として新たな生徒を迎える事を大変嬉しく思います、それも5人もの美しき淑女です、男共ならほっとかないよねー」
やや嫌らしく口の端を上げ、一同もつられたようにニヤニヤと微笑む、
「もう数日ですか、同じ屋根の下で生活して、今の所は上手い事やっていると思いますが、今後色々とあるかもしれません、ほら、女同士だし、最初のうちは良いんだけどね、どうしても生活を共にしていると軋轢は生まれるものですから、でも、そうね、ここで出会ったのも一つの縁です、きっと神様が引き合わせてくれたのでしょう、そう考えてお互いを尊重しましょう、そして、良き友人、良き競争相手、良き仲間として学問に打ち込みましょう、学園として、そして寮に住む先輩として皆さんを歓迎します」
ユーリの口から神という単語が出てくる事は大変に珍しい、ユーリはソフィアに負けぬ程に信心が薄い人間である、サビナとカトカが、あれまどうしたのかしらと心配そうにユーリを見つめる、
「それと、ユスティーナ様とレアンお嬢様も御列席頂いております、お話しを聞く限りですが、もうすっかり良い関係を築いているのかなと思います、私達平民はエレインさんも含めて貴族の方々と直接お話しできる機会は思った以上に少ないです、講師として言うのであればこれもまた一つの経験として皆さんの糧となれば幸いと思います、必ず皆さんの将来に於いて貴重で大事な経験になると思います、ま・・・」
とユーリは再びニヤリと微笑み、
「そんな堅苦しい事を考えていると折角の料理が楽しめないですね、というわけで楽しくやりましょう、いい?」
一同を見渡すと、
「では、杯を掲げて、乾杯」
「乾杯」
天辺広場に女性の甲高い声が大きく反響し、続いて、気持ちよく喉の鳴る音が続く、
「ふー、美味しいー」
「うん、気持ちいいいですねー」
「先生、話し長ーい」
「あん?こんなもんでしょー」
「説教臭いですー」
「あっ、そういう事言うの?」
「ほら、年取ると話が長くなるっていうじゃんさー」
「ジャネットー」
キャッキャッと楽し気な会話が始まった、
「はい、じゃ、料理の説明しますねー」
とソフィアが立ち上がると、
「溶岩板の焼肉は知ってる人も多いわね、自分で焼いてタレを付けてお召し上がりください、スープはそちらに皿は側にあるのを使って下さい、それとやっぱりこういう場だとパイかなーという事で、ミートパイを作りました、こちらもお好きに切り分けて御賞味下さい」
「ミートパイって初めてじゃないですか?」
「そうねー、窯に火を入れるのが面倒でねー、久しぶりに窯を使ったわー」
「へーへー、美味しそうー」
「ふふ、あと、食後に甘味も用意してます、ちょっと・・・そうね、お腹に溜まる感じの甘味なので小食の方は調整しながら食事をしてねー」
「えっ、何ですか?新作ですか?」
「新作・・・まぁ、そうね、こっちでは初めて作ったかしら?」
「おおー、それは嬉しいです」
「えっと、あれですか」
エレインが目敏くも布が被せられた皿を睨みつける、
「そうね、ほら、ちゃんと食べてからよ、あくまで食後のお楽しみなんだから」
「分かりました、では、ユスティーナ様、レアン様、焼きましょう」
「そうね、頂きましょうか」
こうして、歓迎会という名の宴が始まった、二つの溶岩板で獣肉と野菜が焼かれ、なるほどこうやって食べるのかと新入生達はおっかなびっくりで手を動かしており、ユスティーナとレアンはミナの得意気な指示に素直に従っている、
「お肉はちゃんと焼くのよ、野菜は軽く茹でてあるからそのまま食べても美味しいわよ、マヨソースもあるからねー」
「レスタ、ほれ、これ焼けたよ」
「わっ、ありがとうございます」
「ほれ、コミン」
「わっ」
「はい、サレバ、ねーさんも」
「ありがとうございます」
「なるほど、溶岩板はこういう使い方も出来るのですね、楽しいですね、煙くないし、安全だし」
「あっ、そうですよね、直接火を焚かないからか、肉の煙は仕方ないですけど、全然気にならないですよねー」
「そうなんだよー、これはユーリ先生の研究室で作ったんだぜー」
「それ前にも聞きました」
「そうだっけ?」
「はい、サビナさん、これ実家にも欲しいです」
「あー、そうだよねー、私も欲しいんだけどね、一つあると楽よね」
「えっ、サビナさんがそれ言います?」
「そりゃそうでしょ、でも、そんな簡単に作れるものじゃないのよね、考えてはいるんだけどね」
「そっかー」
「うわ、このお肉美味しい・・・」
「そっか、薄く切って焼くのも美味しいんだ・・・」
「そうだね、食べやすい」
「うん、おっきい肉だと切るのが大変だもんね」
「そうそう、食べにくいしね」
「すんごい柔らかい・・・」
「うん、これは素晴らしい良い肉だ」
やはり溶岩板の有用性が話題に上がるが直ぐに肉の味へと話題は移る、そこからタレの味に変わり、やがてソフィア特性のミートパイに舌鼓を打ち、ある程度腹が満たされると、
「だっはっは、何、ソフィアあんたアケビ食べた事無かったの?」
ユーリのあからさまに小馬鹿にしたような声が響いた、
「何よ、それはもういいわよ」
「良くないわよ、大事な生徒達を困らせるんじゃないわよ」
酒も無いのにユーリは上機嫌である、
「別にそのくらいいいでしょ、何気に落ち込んだんだから」
「むー、そうなのー?」
ミナが心配そうにソフィアを見上げた、
「そうよー、ま、もういいけどねー」
ソフィアはそう言いつつも諸々の感情を思い出したのか不愉快そうにミートパイを口に入れる、
「あれ・・・でもさ、確か・・・っていうか、うん、思い出した」
ユーリが少し首を傾げて、ポンと手を打つ、
「なによ?」
「うん、子供の頃に聞いたなって、確か、伯母さんと大叔母さん、アケビ食べ過ぎて気持ち悪くなったからそれで嫌いになったんじゃなかった?」
「えっ、何それ?」
どうやら新しい事実が掘り起こされた様子である、伯母さんと大叔母さんとはソフィアの母と祖母の事であろう、ユスティーナとレアンもどういう事かと手を止めた、
「うん、そう聞いた、で、母さんがそういう事なら実だけ貰うわよって、貰ってたのよ」
「えっ・・・初耳・・・」
ソフィアは絶句してユーリを見つめる、
「でね、いっぱい貰うもんだから、それでジャムを作ってたな、うん、あれ、あんたも食べてたじゃない」
「・・・えっ・・・記憶に無い・・・」
「そう?うん、美味しいわよ、アケビのジャム」
「そうなの?」
「そうなのか?」
ミナとレアンが熱い視線をユーリに向ける、
「そうよー、アケビはほら、種が多くて食べにくいでしょ、だから、うちではジャムにして、蜂蜜とか果物を少し入れてね、甘さを調整してたなー、美味しいのよねー」
「うー、食べたいー」
「そうじゃの、美味しそうじゃの」
「あら、なら作る?」
「作れるの?」
「簡単よ、種を取るのが面倒かなー、目の細かいザルがあれば楽だけどねー」
「ソフィー、食べたい」
ミナの熱い視線がソフィアに向いた、しかし、ソフィアはやはり顔を曇らせたままで、しかし、ん?と何かを思い出してユーリを睨むと、
「もしかして、あの白いジャム?」
「そうよ、多分だけど」
「あなた、あれ、芋虫のジャムって言ってなかった?」
「・・・言ったかも・・・」
そこでユーリも何かを思い出し、
「あー、そっかー、そうだったねー、で、美味しいけどイヤーってあんた泣いたわよね」
「そうよ、思い出したわ、あれがアケビのジャムだったのね・・・」
「そうだ、そうだ、で、あんた、もう嫌ーって言って、うん、それから見るたびに嫌そうな顔してたわよね、アッハッハ、うん、そうだった」
カンラカンラと楽しそうなユーリと深刻そうに暗い顔となるソフィアである、
「そっか・・・うふふ・・・そういう事か・・・」
どうやらソフィアの人生に於いてアケビは常に隣りには在ったが大変に縁遠いものであったらしい、つまり、偶然か必然か、家族はおろか幼馴染にまで言葉巧みに騙されていたのである、実母と祖母は単に食べ過ぎて気持ち悪くなり、自分達が苦手になったものだから詭弁を弄してソフィアにも食べさせず、幼馴染であるユーリは恐らくであるが、母が作るジャムを、あの実だけを見て芋虫から作ったジャムであると、子供らしい素直な感性でソフィアに見たままを説明したのであろう、ソフィアとアケビの関係は家族愛と幼い友情が絡み合った実に偶発的な悲劇であったのである、
「ふふ・・・なるほどね・・・敵が此処にもいたわね・・・」
ソフィアは頬を引くつかせてユーリを睨み、ユスティーナとレアンは良く分からんが仲が良いなこの二人はと羨ましく感じつつも困った顔で成り行きを見つめている、
「何よ、子供の頃の話しでしょ、今更睨まないでよ」
ユーリは涼しい顔で肉を並べ、
「あっ、レアン様、これ焼けてます、レインもこれ良い感じよ」
とソフィアをほっぽって甲斐甲斐しい、
「いい・・・ミナ・・・やっぱり、ユーリは意地悪で嫌な奴だったわ」
ソフィアはゆっくりとミナへ視線を下ろして呟いた、
「でしょー、ユーリは意地悪だー、嫌な奴だー」
今度はミナが我が意を得たりと騒ぎ出す、
「ちょ、何よ、そんなに大事なの?」
「大事よ、皆して馬鹿にしてー」
「馬鹿にしてないでしょー」
「馬鹿にしてるわよー」
二人のやりとりを、あー、またなんか始まってるなとジャネット達は遠目に傍観し、新入生達もどうやら慣れてきたようで、いつもの事と食事に集中している、ユスティーナとレアンは呆気に取られて言い争いを見つめているが、
「いつもの事なので、ほら、喧嘩するほど仲が良いと言いますから」
エレインの冷静な言葉と、
「やれやれじゃ」
レインの慣れた様子、それから、
「ユスティーナ様、こちら良い感じです」
「レアン様、野菜もどうぞ」
オリビアとカトカの暗に相手をする必要は無いという視線を受けて、
「そうね、ありがとう」
「うむ、野菜も美味いな、マヨソースが欲しいな」
と、食事を楽しむ事にしたようである。
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