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52話 小さな出会いはアケビと共に その2

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来客はライニールであった、若干申し訳なさそうな笑顔を浮かべるライニールにソフィアはあーそうなるわよねーと思いつつも笑顔を浮かべ、

「どうしたんです朝から」

と取り敢えず韜晦しつつ用向きを尋ねる、

「はい、突然で申し訳ないのですが、ユーリ先生とお話しできないかと・・・」

何とも困った顔でライニールは目的を告げた、ソフィアはまた思ってもいなかった名前が出て来たわねと思いつつ、

「ユーリですか?そりゃまた・・・」

と怪訝な顔で問い返す、

「はい、実は・・・」

ライニールは下手に誤魔化すのは無駄だなと事の次第を説明する、曰く、昨日の学園長による説明会の席で、ユーリが講師職を降ろされる事を領主が耳にし、学園側の処分としては妥当なのであろうが領主本人としては些かやり過ぎであると考えたらしい、何より稀有な才能を持つ者が少々の失敗で責を取らされる事に納得がいかないのだそうで、ここはユスティーナとレアンにユーリの様子を伺って来るようにとのお達しがあったのだという、

「そんな・・・なんというか申し訳ないくらいですね」

話し難そうに語るライニールにソフィアはこれはまた随分と評価されたものだわと頬を掻いた、

「はい、なので、もしお時間があればお会い出来ればと思いまして、お邪魔した次第です、こちらよりも学園の方が宜しいでしょうか、朝なのでいらっしゃればと思いまして先にこちらへ・・・」

「そうですか・・・では、どうしましょうか・・・」

うーんとソフィアは悩む、これは自分の問題では無く、ユーリのそれである、自分がここで断る権限は無いし、そうすべきでも無い、となると、一度ユーリに相談するのが筋であるなと考え、

「わかりました、では・・・そうですね、お二方はいらっしゃっているのですか?」

「はい、馬車にてお待ちです」

「そうですよね、はい、では、食堂でお待ち頂けますか?少々騒がしいですがミナも居ります、さ、どうぞ」

と取り敢えず待ってもらう事にした、食堂内は絶賛スリッパ作成の真っ最中である、貴人を通すのはどうかなと思うが、ま、レアンは言うに及ばずユスティーナに関しても平民に対しては寛容である、なによりめんどくさいしなとソフィアは何とも雑に考え、

「ミナー、レアンお嬢様来たわよー」

「えっ、ホント」

ミナはピョンと立ち上がる、新入生達も何事かと顔を上げた、

「あっ、偉い人が来るけど気にしないでいいわよ、ミナお相手してあげて」

「うん、分かったー」

ソフィアの何とも不敬な言い草に、寮生達はえっと驚いて顔を見合わせ、ミナは満面の笑みでソフィアの隣りをすり抜けて玄関へ走る、ややあって、ミナとレアンの元気な声が響き渡った、

「で、オリビアさんはー」

とソフィアは薪を抱えて厨房から戻ってきた3人を見つけると、事の次第を説明し、

「オリビアさん、お茶の用意をお願いできる」

と接待役をオリビアに押し付けると、

「すぐ戻るからー」

と階段へ向かった、突然の事に胸に薪を抱えた3人は呆然とするが、

「でねー、スリッパ作ってたのー」

「ほう、またニャンコか?」

「ぶー、ニャンコじゃないのー、シシュウなのー」

「あら、それは楽しそうね」

レアンの意地悪そうな声とユスティーナの柔らかい笑い声が食堂へ入って来る、これはいかんとワタワタと慌てる3人であった。



「すいません、私事に心を砕いて頂いて」

「いいえ、折角お知り合いになれたのですもの、その上あれを見てしまえばどのような者でも驚嘆せざるを得ないと思います」

ユーリが神妙に言葉を選び、ユスティーナは慈愛に満ちた言葉でその成果を褒め称えた、ソフィアが研究室から学園に走り学園長と打ち合わせをしていたユーリを捕まえて事情を説明すると、ユーリは勿論だが学園長も驚き、すぐに対応するようにとの事であった、そして食堂では難しかろうという事で冬支度が終わった2階ホールにて会談となったのである、御叮嚀な事にオリビアが茶とロールケーキを手配し、ソフィアはそういう事であればと銀食器を持ち出して、テーブル上は実に華やかな様相である、

「そうですね、父上から言われて、まだすぐ側では拝見していないのですが、遠目に見ても美しいものです」

レアンが茶を片手に低く呟く、

「むー、お嬢様今日は真面目な日?」

ミナがロールケーキに銀のフォークを伸ばしつつ上目遣いでレアンに問う、

「今日もじゃろ、毎日のように遊び惚けているとでも思ったか?」

「そうじゃないけどー、じゃ、ミナも真面目な日ー」

ミナはフンスと鼻息を荒くして背を正した、内容としてはそれなりに深刻な会談のはずであるが、レアンが居るとなればミナも居り、レインも当然のように同席している、ライニールは従者然として控えていた、ユーリはあらあらと微笑し、ユスティーナもニコヤカに微笑んでいる、ソフィアは上手い事言って逃げていた、変に関わっても事態が混乱するであろうと考え、ここはユーリに一任するのが事態を鎮静化させるという点で有効であると判断したのである、

「そうしますと、カラミッド様に伺ったのですが、今度の祭りでも再現するとか」

「はい、その予定です、まだ計画段階なので詳しくは決まっていないのですが、現在のあれよりは規模が小さい物を考えております、ですので今回の実験は、実験としては成功したものと思いますが、些かやり過ぎた点は反省しておりました」

ユーリは流れるように方便を垂れた、この騒動のお陰で随分嘘が上手くなったと自分でも呆れてしまう、

「それも楽しみですが、しかし、本当に宜しいのですか、講師としての仕事にも熱心であったと聞いておりますが」

レアンが心配そうに口を挟む、

「その点は確かに残念かとも思っております、しかし、これ程に街中を騒がせたのです、誰かが何らかの責を取らねばならないですし、それが当然とも思っております、そしてそれは首謀者である私しかいないとも・・・先程お話しした通り研究者としての籍はありますし、その上で学園は当然としてこの街にも何らかの形で贖罪・・・とまではいかなくても、寄与できれば嬉しいと思います」

実に殊勝な言葉である、

「・・・確かに騒動の責は取らねばならんとは思いますが・・・」

「・・・そうね・・・ここだけの話しにして欲しいのですが」

ユスティーナは少し考えて、

「カラミッド様としては特に責を求める事は考えていなかったようなのですよ、ただ、街の治安に対して叱責程度で十分であろうと考えていたようです、これは昨日伺った事なのですが・・・恐らくなのですが、カラミッド様が何らかの処分を口にするより先に学園側でユーリ先生に責任を取らせる事、それと街への協力を表明する事が出てきたそうですから、そこで領主として変に重い罰を与えるのは・・・そうね、様々な方面を萎縮させると考えたのかもしれないですわね」

「萎縮ですか?」

「萎縮ですわね、何しろソフィアさんやエレイン会長のお陰で新たな産業が生まれかけているのですから、そうね・・・それだけじゃないわね、この銀食器にしろ、爪のお手入れから目新しい料理迄、新しい文化と言って良い物が・・・ふふ、どういうわけだかこの寮を中心にして生まれてますからね」

ユスティーナは銀のフォークを手にしてしみじみとその柄を見つめる、それは愛娘が社会勉強として熱心に取り組んでいる成果であり、結晶であった、

「そうですね、こう言っては失礼かと思いますが、ユーリ先生も一枚噛んでおられるのでしょう、その諸々に関しては、何よりソフィアさんを連れてきたのはユーリ先生と聞いております、それにソフィアさんはクレオノート家として恩人であります、その協力者であるユーリ先生に対してもクレオノート家としては友好でありたい・・・と思っているのです」

レアンがユスティーナの言葉を継いだ、ユーリは随分高く買って貰っているものだと口元を引き締め、ユスティーナの病気の件を思い出しつつ、義理堅いのだなとも感じ入り、

「ありがたいお言葉です」

ゆっくりと顔を伏せる、ユーリはユスティーナとレアンが何を意図して面談に来たのか何とも不思議に思っていた、卑俗に考えれば使える者を側において利用する為と簡単に答えが出る、恐らく今後そういう発想でもってユーリやソフィアに近付く者も多いであろう、また、学園に対しても何らかの接触もあるだろう、しかし、どうやら二人は本当の意味でユーリを心配して来たのである、カラミッドから様子を探るようにとも言われたのであろうが、それが無くても学園での顛末を聞いて足を運んだのかもしれない、たまには盛大に失敗してみるのも良いものかもしれないな等と考え、

「そうですね、お二人との御縁も中々に珍奇なものですが、大変嬉しく光栄に思います」

微笑みつつ顔を上げたユーリに、

「そうね、珍奇も珍奇ですね」

ニコリと微笑み返すユスティーナと、

「人との出会いとはそういうものかもしれません」

妙に達観した口を利くレアンであった。
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