上 下
509 / 1,062
本編

51話 宴の始末 その9

しおりを挟む
「では次にだ・・・こちらの方がより重要かと思うが」

カラミッドは視線を落として切り出すと、

「あれを任意の場所に作る事は可能なものかな?」

学園長は表情を変えずに来たかと微笑み、事務長もそうなるであろうなとこちらも表には出さずにほくそ笑む、

「・・・とおっしゃいますと?」

学園長は自然に恍けて問い返す、

「そうだな、昨日、様々な方面から魔法技術として素晴らしい旨の意見が寄せられてな、ギルドは言うに及ばず神殿からもだ・・・つまり、あれを利用したいと考えている者が多いという事だな」

「・・・なるほど、利用ですか・・・」

学園長はさらに恍けて悩む振りをする、学園長としてはさもありなんといった所であり、要望がこちらでは無く領主へ向いた辺りにギルドにしろ神殿にしろある程度の深謀遠慮があったと考えられる、単に学園との連絡役が少ない為とも解釈できるが、学園の卒業生は各職場でしっかりと活躍している筈である、要望を領主を経由させたのはこちら側よりも領主の意見を探りたいが為と、後々活用するにあたり立てるところを先に立てる為と考えられる、

「どうだろうか・・・今朝もな商工ギルドの飲食関係の者が朝一で尋ねて来てな、昨晩の売上額が平素の3倍以上であったと息巻いておってな、目を真っ赤にして興奮しているものだからサッサと追い返したのだが・・・うむ・・・」

「それはまた・・・私の立場からはなんとも言い難いですが、3倍ですか・・・」

「それも自分の店だけでだそうだ、他の店の売上も軒並み上がっているだろうとな、ま、昨晩の喧噪を思えばそれでも足りないとも考えられるが」

「しかし、留置場は満杯でしたぞ」

カロスが実直に水を指す、その言葉通り昨晩は衛兵の巡回が急遽強化され、捕縛された者の数も多かった、そちらは平素の5倍以上であり、単に呑み過ぎた者は屯所で酔いを醒まして開放されたが、喧嘩や暴れた者、無銭飲食となった者等は留置されている、その中にはユーリとソフィアらによって捕縛された学園に侵入した者もいる、しかし、窃盗や殺人等のようなより悪質な犯罪は少なかったようである、職業的犯罪者達も降って湧いたお祭り騒ぎを楽しむ方を優先したらしい、その観点で見れば穏当であったとも言えるが、今日の晩、明日の晩となればまた状況は変わるであろうとカロスは考えていた、街中は確かに明るい、しかし、建物の影になる部分は必ず発生し、身を潜める場所が無くなるわけではなく、それはより強く暗く犯罪の温床となるであろう、衛兵達もその事を危惧しカロスに進言していた、

「それもあるのだよ、報告は聞いておる、しかしなぁ、これは経過を見なければならんと思う」

「それはそうでしょうが」

「取り敢えず今日明日は、守備兵の動員も指示しておるであろう、それと広報官からも注意するように触れを出す予定だ」

「それは聞いておりますが」

「出来る事はやっておる、これ以上となると守備兵を街中のあちこちに立たせるか?出来ない事は無いであろうがこの街を戒厳令下に置くことと同義であろう」

「必要があればと思いますが」

「最後の手段であろう、さらに問題が起きるとなるとヘルデルに要請が必要となる」

「それも必要であればですな」

「儂は自分の無能を積極的に喧伝する程耄碌してはおらんぞ」

「耄碌等と、必要な措置は講じるべきと進言しているだけですぞ」

「その必要の度合いの問題だ、儂はモニケンダムの市民を信用しておる、他所に比べても犯罪は少ない、それだけ安定しているのだ」

「それは紛うことなき事実ですが」

「主の懸念も分かるのだがな、あまりに押さえ付けては逆に不満も溜まろう、市民達は単純に楽しんでいるだけだ、楽しみ過ぎている者も出ているがな」

「ですからそれが度合の問題なのでしょう、ヘルデルへの一報は送ったとの事でしたが、治安維持の助力を求める事も検討しておいて間違いは無いですぞ」

「時間的には無理であろう、今日明日の問題なのだ、問題が片付いた後で軍を寄越されても再び、より、混乱するだけだぞ」

「それもそうですな・・・」

カラミッドとカロスが堂々と言い争い、その背後に控える取り巻き達も腕を組んで難しそうに押し黙っている、モニケンダムは伝統的に弱兵であり、直接的な武力に対する予算も他所に比べ圧倒的に少ない、外敵が少なかったという要因は勿論であるが、代々の領主の方針として税金を低く抑える事で産業新興と住民の流入を画策して来たからである、他都市であれば危急の時となれば軍を動かして市民に圧を加える事も方法として選択可能なのであるが、モニケンダムでは市民の数と比べて相対的に兵士の数が少ない為に難しい、大戦後は教導団を雇い入れ実力を付けて来ているが、それでも街の要衝を守備する事は出来るであろうが、街全体を管理下に置ける程の兵力は無い、学園長と事務長もそういう観点での問題も発生しているのかと静かに事の成り行きを見守っている、昨晩この二人は呑んで気持ちよく寝てしまったのであるが、今朝方聞いた報告によればリンドの手配した近衛兵の助けがなければどうなっていたか分からないとの事であった、何を大袈裟なと二人は楽観視していたが、街中も同様の問題が発生していた様子である、

「まぁ、今晩は様子を見よう、守備兵も待機させておく、留置所も足りないのであれば軍用の幕舎を立てて対応させよう、朝になれば酒も抜けるであろうしな」

「・・・それしかないでしょうな」

「必要と思われる施設には守備兵を立たせる事も出来るであろう、貴族街と役所を中心にして巡回させよう」

「それは衛兵でも対応可能です」

「なら、そうしよう、リシャルトが屯所で打ち合わせ中だ、戻ってから改めて対応協議としよう」

「そうですな」

どうやら取り敢えずの結論が出たらしい、カラミッドは視線を学園長に向けると、

「すまんな、で、何であったかな?」

「はい、結界陣の利用に関してです」

「おう、そうであったな、で、どうなのだ?」

「はい、可能は可能です」

学園長は一つ咳払いを挟み、

「ですが、あれをあのままでは問題があります、件の講師とも相談しましてな、全く同じ物ではあまりに効率が悪いという結論に達しています」

理由としてはと学園長は黒板に向かった、説明に使用した黒板に描かれた図を再度指しつつ理由を説明する、

「・・・つまり、なんなのだ?」

その説明がやや難解で長ったらしいものであった為、カラミッドは片眉を上げて学園長を睨みつける、

「はい、既に幾つかの改良を考えております、一つは持ち運べる程度の大きさにする事です、活用方法としては馬車に付けたり門に付けたり、勿論室内でも使えましょう、さらに魔法を使えない場合でも蝋燭で代用する案も持っておるようでした」

「それはまた・・・」

「むう」

取り巻きの数人が息をのんだ、その実用性に感づいたのである、

「故に、学園としては研究開発を続ける事で罪滅ぼしになるかと思っております」

学園長はニヤリと微笑み、

「では、先程の質問に戻りますと、あれのこの部分・・・漏斗状の結界ですな、一段目と仮に呼称しておりますが、これと、虹色に見える部分、三段目ですな、この二つの組み合わせで十分に明るく、さらに安全性も確保できます、その上実に煌びやかです、さらに、あれほど巨大にする必要もありません、作動時間も灯りとして使うのであれば一晩明るければ良いですし、魔力もそれほど必要とはしません、催事として使用するならば日中も明るければ良いとは思いますが、まぁ、結論を申し上げれば、構想段階との事でしてたが、あれの3割程度の大きさであれば構築は難しくなく、さらに安全性もより担保できるとそう考えております」

「まことか・・・」

「はい、皆さんには大変御迷惑をおかけしております、ここに至って嘘は申しません」

「そうなると、例えばだが、祭りの際に大路を照らすような活用も出来るのかな?」

「勿論です、今回の実験に関しては先に申し上げました通り、灯りの魔法や様々な光源でより広く長く明るさを維持する為にはどうするかが主旨でありました、その点においては実験は成功との事であります」

「失礼、先程、持ち運べる大きさと申していたが」

取り巻きの一人が我慢できずに手を上げて質問を投げかけ、さらに他の者も、

「蝋燭でも可能とはどういう原理か」

と黙っている事が出来なくなった様子である、カラミッドは彼らの発言を押し留める事は無い、恐らく同じ疑問を持っている為である、

「はい、あくまで構想です、今後の研究開発が必要なのですが・・・」

学園長は内心で上手い事かかったわいとほくそ笑み、喜々として質疑に答えていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪行貴族のはずれ息子【第1部 魔法講師編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第2部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/450916603 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...