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50話 光柱は陽光よりも眩しくて その3

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その頃、

「失礼しまーす」

事務所に来客のようである、マフダは今日も朝から忙しいなと思いつつ対応に走ると、そこにはブノワトとブラスの姿があり、その背後にはコッキーとデニスの姿がある、

「わっ、皆さんお揃いですね」

マフダがニコニコと4人を出迎え、

「そうねー、ちょっと早かったかな?」

「そうでもないです、えっと、会長とテラさんはもう接客中でした」

「えっ、こんな早くから?」

「はい、領主様のえっと・・・」

「レアンお嬢様?」

「いえ、その従者の」

「あっ、ライニールさん」

「そうです、その方です、契約がどうのって言ってました」

「そっか、それは大事だね、じゃ、どうしようか?」

ブノワトが背後を振り返ると、

「んー、先にこっちを見てもらうか?」

ブラスがそういう事ならとさらに背後へ視線を向けた、マフダがブノワトの背中越しにそちらを確認すると屋台のようである、

「あっ、屋台ですね」

「おう、改造したやつだ、会長より先にジャネットかな?確認してもらってもいいかと思うが・・・」

ブラスが言葉を濁しつつ小首を傾げる、

「そう・・・ですね、はい、じゃ、どうしようかな、オリビアさん呼んできますね、すいません」

マフダはパタパタと2階へ向かい、丁度貴賓室から出たばかりのオリビアを捕まえた、オリビアはそれであればとマフダと共に玄関先へ向かい、ブノワト達へ主が接客中である事を丁寧に詫びるとマフダにジャネット達を呼びに行かせ、

「もうしわけありません、中でお待ち下さい」

と実に慇懃な対応である、ブラスは苦笑いを浮かべつつ、

「堅苦しいですよ、俺らなんて適当でいいですから、なっ」

とデニスに同意を求め、デニスは、

「あっ、そうですね、はい」

と静かに答える、

「そういうわけにはいきません、皆さんは商会の大事な取引相手ですから」

尚、表情を和らげることのないオリビアに、

「もう、真面目だなーオリビアさんはー」

「ねー」

ブノワトとコッキーは微笑んだ、そこへ、ジャネットとケイスを連れたマフダが駆けて来た、

「おおー、綺麗になってるー、カッコイイー」

ジャネットの甲高い嬌声が街路に響く、街路に置かれた改造された屋台をさっそく見つけたようである、

「おう、おはようさん」

ブラスが振り返り、それぞれに朝の挨拶が交わされると、

「先に見てもいいのかな?」

とジャネットはオリビアに確認し、オリビアの了承が下りると、

「うふふ、我が六花百人隊長はどう生まれ変わったのかなー」

グフフと微笑みつつ屋台に向かった、ニマニマと嬉しそうにその周りを歩き、ウーとかホーとか言葉にならない呻き声を上げている、

「また名前変わってるなー」

「ねー、適当なんだから、もー」

ブラスとブノワトは笑いつつ、

「あー、じゃ、ちょっとだけ使い方な、見れば分かる程度なんだがさ」

とブラスは屋台に歩み寄ると、ジャネットとケイス、オリビアとマフダを前にして使用説明を始め、それはあっという間に終わる簡単なものであったが、

「なるほどー、良い感じだねー」

「そうですね、これは使いやすそうです」

「うん、これだけ棚があればもう不自由しないですよー」

「裏も倉庫っぽく使えるんだねー」

「他の道具も置けるかな?」

「祭りの時に良いかもよ」

ジャネット達には大変に好評のようである、ブラスは嬉しそうに微笑み、

「ま、これも使ってみて不具合があったら言ってくれ、棚は可変だし見やすいようにはしたつもりだけどさ、実際に使ってみないと分らんだろう?」

「はい、分かりました、じゃ、どうしようか、早速使ってみる?」

「エレインさんに見てもらった方がいいんじゃない?」

「そっか、それに、開店前だしな、バタバタしちゃうか・・・」

「それもそうだねー」

ジャネットとケイスは早速使う事を考えており、オリビアは特に口を出すことは無い、現場の事は二人に任せる事にしている様子である、

「ま、時間はあるしね、うん、あっ・・・という事はあれ、木工細工もですか?」

ジャネットがブノワトへ問う、

「持ってきたわよー、在庫の半分くらいかな?」

ブノワトの視線の先には木箱が幾つか載せられた荷車が置かれている、

「わ、そうなんだ、そうなるとあれだね、ちゃんと会長を経由した方がいいよね」

今度はオリビアに確認するジャネットである、

「そうですね、仕入れ作業を済ませてからになりますね」

「うん、そうなるよね・・・」

「じゃ、ちょっと待ちだなー」

「ぐふふ、じゃ、今のうちに綺麗にしてあげようかなー」

「十分綺麗だろ・・・」

「そうだけどー、なんていうか気持ち的な感じ?」

「気持ち?」

「うん、よく生きて帰って来たーって」

「おいおい・・・」

「それを言うなら、これからも宜しくじゃないの?」

ケイスの指摘にジャネットはハッと目を大きくし、

「うん、それだ、ユーフォルビア中隊長、今後とも宜しくって感じだ」

「だから、名前が適当なんだよ」

「分かってやってるんですよ」

「それはわかるが一応突っ込んでやらないと可哀そうだろ?」

「あー、ブラスさんが擦れてきたー」

「擦れるってなんだよ」

「そのままだよー、ちゃんと笑って欲しいのにー」

「笑えるほど面白くないぞ」

「えー、ヒドーイ」

屋台を中心にして明るい声が街路に響く、屋台が心なしか輝いて見えるのは気のせいであろうか、

「あっ、そうだ、時間があるなら寮の新人さんに教えて欲しい事があるんですけど」

ケイスがポンと手を叩いた、

「寮の新人?あー、そんな時期だなー、っていうか、そうか、君ら今、休みか?」

ブラスがそう言えばジャネットはおろかオリビアまで居る原因に今更ながらに気付いたようだ、

「新人さん?」

ブノワトも興味があるのか身を乗り出した、

「はい、工学科と建築学科の子が来まして、共通学問とかどうなのかなーって話しになりまして」

「あっ、そうだね、ここは先輩に聞くのが確実だよね」

「そっかー、それは嬉しいな」

「そうだねー」

ブノワトとブラスは嬉しそうに顔を見合わせる、しかし、ブラスは一転顔を曇らせ、

「女の子だよね?」

とジャネットに問い、ジャネットは、

「女の子ですよ」

何を当然の事を聞くのかと不思議そうに答えた、

「建築学科に?」

「はい」

「・・・そりゃまた・・・まぁいいのか・・・」

ブラスは不安気に眉間に皺を寄せた、

「あー、確かにちょっとあれだよね・・・」

ブノワトも察して渋い顔である、

「何かあるんです?」

「えっとね、ほら学園って女の子って少ないじゃない?」

バーク魔法学園における生徒全体の男女比は8割男子で2割が女子である、この差は社会的価値観によるものは勿論であるが、王国民の男性にのみ課せられる兵役逃れとして入学させる事例も多かった、無論至極真っ当に学問を志す者が大半なのであるが、その場合でも圧倒的に男性が多く、女性が学問を志向するのは価値観という見えない圧力がある為難しいのが事実である、それは都会であり学園のお膝元であるモニケンダムでも変わる事は無く、地方によっては女性に賢さは不必要であるといった考えも根強い、故に読み書き程度は出来るとしても積極的に学問を志す女性は少なかった、

「そうですけど・・・」

「うん、生活科とか女ばっかりだけどさ」

「工学科とか建築学科は男ばっかだし、建築学科は特にね」

「うん、建築はなー、土木から大工から一緒くたになってるから、俺の同期も上も下も女はいなかったな・・・」

「あー、そういう事ですかー」

ケイスはそういう事もあるんだなと二人の言わんとしている事を理解した、実際の所ブラスが言う通りに生活科はほぼ女性である、メイド科と二つ名がある通りメイドの基礎知識を得る為の学科である為それは致し方ない、対して工学科と建築学科は女性が少ない、工学科はそれでも数人は所属しているのであるが、建築学科に所属する女性は皆無なのである、

「錬金とか農学であればまだな」

「そうだね、あっちは女の子いるからいいけど、建築学科か・・・」

「大丈夫かな?」

建築学科出身のブラスであるが故に首を捻る問題であるらしい、

「それほどですか?」

「んー、問題っていうか・・・勉強はしっかりできるし・・・基本的にそんな悪い奴はいないからだけど、実習がな、男共と一緒に井戸掘りとか丸太担いだりとか出来るのかな?」

「それは大変そうだね・・・」

ジャネットはブラスの言葉に理解を示し、

「うん、じゃ、今から出来る事はないだろうけど・・・話してもらってもいいですか?今のうちに心構えとかあれば知っておいて損は無いと思いますし」

「あー、うん、俺らで良ければ」

「そうだね、今更学科を変えるってのも無理だと思うし」

「学園が認めて入学してるんだからな、俺らがどうこう言うのは変だろうな、でもまぁ、本格的に始まる前に聞いておきたい事もあるだろうし」

「そだね、あ、オリビアさん、そういう事で先にそっち行っていい?」

「はい、こちらが終われば呼びに行きます」

オリビアは黙して状況を伺っていたが事情を理解して小さく頷いた、

「コッキーはどうする?」

「あー、どうしましょう?学園の話だよねー」

「うん、なんともなー、聞いてみたいけど・・・」

対してコッキーとデニスはどうしたものかと困り顔になった、二人共に学園とは無縁である、父親の方針によりメーデル家では物心がつく頃から工場で徒弟修業に入っていた、故に二人共に年齢の割りにはしっかりとしたガラス加工の技術が身についている、しかし、学園に興味が無かった訳では無く、今から入る事も可能な年齢ではあるが、兄も入学する事は無かった為、二人はその点については殆ど諦めていた、故にすこしばかり寂しそうな顔となる二人であった、

「じゃ、ミナちゃんのお相手お願い、デニスは静かにしてるの得意でしょ」

ブノワトの提案にコッキーはそうですねと明るく微笑み、デニスは得意って・・・と不満顔になる、

「ん、じゃ、荷物だけ先に入れておこうぜ、屋台も一旦隠しておこう」

ジャネット達は屋台を一旦屋敷の脇に入れ、ブラスとデニスは荷を事務所へ運び込むと寮へと向かった。
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