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本編

50話 光柱は陽光よりも眩しくて その1

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翌朝、食堂の騒がしさにグルジアはもう朝かと寝台から起き上がると木窓を開けて朝日を半身に浴びた、新生活の1日目である、昨日は初日という事もあり緊張していたのであるが、優しく迎え入れられた上にどういうわけだか学園長の植物園なるものを寮の皆で見学し、その種類の多さにも驚愕したが、初見となる植物一つ一つが大変に興味深く面白いものであった、学園長によれば、特殊な環境を構築してある為辛うじて生育は出来ているが繁殖は難しいのだという、その言葉通りに植物園の内部は大変に温かくさらに湿気も多かった、こちらでは生息していない植物はその多くが南方の品であるらしく、学園長自らが種から育てたものや遠く旅をしてきた苗等が経年の努力を持ってしっかりと根を張っており、同級であると言うサレバは甲高い歓声を上げて矢継ぎ早に学園長へ質問を浴びせ、寮母の娘であるミナとレインは書物と実物をじっくりと見比べており、先輩達は不安そうにキョロキョロとしながらもゆっくりと散策をしてそれなりに楽しんでいた様子であった、自分はと言えば同級となる年下であるが上背は自分よりあるルルと言う可愛らしい名前の娘と引っ付いて、何が何やらと唖然とするしかなかった、そんな自分に一緒に行った貴族の男は笑いかけ、

「面白いなー、ここにいれば世界を旅した事にならんかな」

何とも機嫌の良い綺麗な笑顔を見せ、

「しかし、熱いな、もっと寒くなってから来るべきだなここは」

と額の汗を拭った、それ程にこの部屋は暑く、湿気が酷かったのである、

「そうですな、しかし、冬場は冬場で寒いのですぞ」

サレバの質問攻撃から逃れた学園長が貴族の男と話しだし、ルルとグルジアはサレバの隣りに蹲り、コミンを相手にして熱心に語り続けるサレバの言葉を何とは無しに聞いていた、入寮初日の出来事としてはかなり特異なのではないだろうか、このような状況はまるで想像しておらず、今思えばもっとしっかりと見ておくべきだったなと思ってしまう、なんにしろ突然過ぎたのだ、それから、学園長がそろそろかと皆に声をかけ、

「うむ、あと数日で本格的に学業が始まるが、新入生はまずは学問とは何かを学ぶこと、在校生は更なる研鑽に励む事、それと、この部屋はいつ来ても良いが勝手に入ってはならんぞ」

一応学園長らしい事を口にしていた、それもとても充実した笑顔でである、良い御老人だなとその時は思ったが、学園から寮へ戻る道すがら先輩達は先程の植物園の悪い噂と怪談話に花を咲かせ、学園長に関しては話が長くて要領を得ない事があると言いたい放題であった、老人とはそういうものだよなと思いつつ、曖昧な笑みを浮かべるしか無かったが・・・、

「ま、面白かったよね・・・うん」

グルジアはフーと大きく吐息を吐くと、気持ちを切り替えて食堂へ向かった、寮では朝夕の食事は用意されるらしい、さらに寮内の清掃や寮で用意された毛布類の洗濯も寮母の仕事であるという、但し自室の清掃と自分の着衣は自分で洗濯する事となっている、至れり尽くせりとは言い難いが勉学に集中するには必要十分な環境であろうとグルジアは思う、

「あー、グルジアだー、ミナの勝ちー」

食堂には既に数人が食事中のようで、グルジアの姿を見てミナが朝から元気に勝利宣言である、

「流石ー、ミナちゃんすごーい」

ルルの快哉が響き、

「うー、負けたかー」

サレバの悔しそうな声が上がる、

「えっ・・・」

とグルジアは驚きつつも、

「おはようございます、皆さん早いですね」

取り敢えず笑顔で朝の挨拶である、

「うふふ、おはよー」

ミナが満面の笑みをグルジアに向け、

「おはよーございます」

新入生の3人とオリビアは朝だというのにすっきりした顔であった、

「ちゃんと寝れた?」

ソフィアがミナの隣りでグルジアを見上げ、

「はい、しっかりと」

グルジアは笑顔で答えると、どうするのかとキョロキョロと辺りを伺う、

「あっ、朝はね、そこにトレーがあるから好きに取ってね、オートミールは味が無いから味を付けて、お湯はその水差しだからそれもお好きにどうぞ」

ソフィアの簡潔な説明にグルジアはなるほどと頷いてトレーを手にして空いた席に座ると、

「これー、お塩ー、お酢もあるよー」

食事を終えたのであろうミナが壺を二つ押し付けてきた、

「ありがとう、ミナちゃん」

グルジアは受け取りつつ、

「わっ、でも朝から豪華ですね」

トレーに乗った料理を見て歓声を上げた、

「そうねー、昨日の残りを工夫したのよ、調子に乗って揚げ過ぎちゃったから」

ソフィアが謙遜しつつ誤魔化す様に微笑むが、豪華な事は豪華である、オートミールは普通であるがそれなりに量があり麦の種類が多いのであろうか、粒の大きさの違いが見て取れ、手間が掛かっているのが一目で分かり、さらに、その隣りで黄色く輝くのは野菜の玉子とじである、よく見ると昨日の夕食で提供されたカツとかなんとかという肉料理が、調理され本来の色と形を無くした野菜と共に垣間見える、

「昨日の残りって・・・昨日のお肉料理はとっても美味しかったです、初めて食べました」

「そう?よかったわ」

ソフィアが柔らかい笑みを浮かべ、

「ねー、美味しかったよねー」

「うん、その前のカラアゲも美味しかったよー」

「何それー?」

「えっとね、鳥のお肉の揚げ物?」

「えー、いいなー、ソフィアさんそれっていつ出ます?」

「いつ出るって・・・うーん、気分次第かなー」

「えー、食べたいですー」

「はいはい、そのうちねー」

ルルとサレバが朝から元気にはしゃいでおり、コミンはモグモグと食事に集中し、オリビアは上品な上に静かに食事を進めている様子であった、グルジアはスプーンに手を伸ばし、玉子とじを一掬い口に運んで、

「ん、美味しい・・・」

「それは良かった」

ソフィアは食事が済んだのであろう腰を上げると、

「ゆっくり食べなさいね、あ、ルルさん、井戸の場所教えてあげてねー」

「はーい」

ルルの明るい声が響き、グルジアは井戸?と思いつつも手を止める事が出来なかった、無作法と言われても仕方がない程に食事に集中してしまう、グルジアの経験上朝食を心底美味しいと思ったのは始めてである、実家での朝食も嫁ぎ先での朝食も簡易で適当なものであった、どちらもそこそこ裕福な家であったにも関わらずである、あっという間にトレーは綺麗になってしまい、

「美味しかったー」

思わず大きく吐息を吐いた、

「うふふ、良かったねー」

ミナがニコニコと笑顔でグルジアを見つめ、グルジアはハッと気付いて顔を赤くし、

「すいません、お恥ずかしい」

「いいのー、ソフィーの料理は世界一なのー」

子供らしい屈託の無い笑みである、

「そうですね、世界一ですね」

「でしょー」

ムフフーとミナは満足そうに微笑む、

「お湯どうぞー」

ルルが自分が使ったトレーを片付けたついでに湯呑と水差しを持って隣りに座った、

「あっ、すいません、ありがとうございます」

恐縮しつつグルジアは両手で丁寧に湯呑を受け取り、湯を注がれて注いだ後で、

「あっ、そうだ、さっきのは何だったんです?」

フーフーと湯を冷ましながらルルに問う、

「さっき?」

「ミナちゃんが喜んでいた・・・」

「あー、あれです」

ルルが壁の黒板を指した、そこには自分の名前とここにいない生徒の名前が整然と書かれており、その下にはここにいる生徒の名前とミナとレインの名が乱雑に記されていた、

「ん?なんです?」

グルジアが小首を傾げると、

「一番早く起きてくる人対決ー」

ミナがピョンと飛び跳ね、

「えっとね、グルジアが一番だったからミナの勝ちなのー」

「あっそういう事ですか・・・もう」

グルジアは呆れて微笑み、

「何事かと思いました」

「えへへ、グルジアを当てたのはミナだけなのよー」

「そうなんですか?」

「そうなんですよ、流石ミナちゃんです」

「うふふ、でしょー」

「ケイス先輩の方が早いと思ったのになー」

「えー、ケイスとテラさんは一緒くらいだよー」

「そうなんですか?」

「そうなのー、で、エレイン様とー、ジャネットー、でー、ユーリは最後ー」

「そこまで把握しているとは・・・」

「うん、ミナさんにはかないませんね」

「分の悪い賭けだったなー」

「えへへー、ミナの勝ちー」

「もー、じゃあどうしようか、次起きてくるのは誰?」

「ケイスとテラさん」

「どっちかですー」

「えー、どうだろう?同じくらいだよー」

「あー、じゃ、ここは勝負になるかなー、私はテラさんで」

「じゃ、ケイスー」

「よーし、勝負だー」

ミナとサレバがキャッキャッと楽しそうに盛り上がる、

「そうだ、グルジアさん井戸で顔を洗いましょう」

ルルがゆっくりと腰を上げた、

「あ、それ嬉しいです」

「ですよね、で、ガラス鏡でおめかしするのがこの寮の流儀なんですよ」

「あっ、なるほど、それいいいですね」

グルジアは昨日ゆっくりと見れなかったガラス鏡へ視線を向けた、食堂の片隅で鮮やかに室内を映し続ける大きな鏡はこの寮で開発された品なのだという、一晩経って落ち着いて考えてみても、とても本当の事とは思えなかった、

「学校が始まると競争なんだそうです」

「へー、そうですよねー」

「だから、ゆっくり楽しめるのはそれまでですね」

「なるほど、そういう事なら」

グルジアは勢いをつけて立ち上がり、

「あっ、トレーはどうすれば?」

「配膳台に戻して下さい」

「はい、ありがとうございます」

トレーを片付けつつ、二人は内庭へと足を向けた。
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