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49話 Attack on the Gakuentyo その5

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その後ソフィアはプリプリと怒りながら、ユーリはノホホンと涼しい顔で結界の構築を続けた、学園長はミナに捕まり運動場に大きく描かれた悪戯書きを自慢され、本来であれば注意するべきなのであろうが、相手がミナとあっては学園長はやに下がる他無く、孫を相手にした祖父のそれでニコニコとミナの解説を聞いては歓声を上げ誉め言葉を並べている、

「さて、こんなもんかしら」

ユーリがフウと一息吐いてソフィアへ確認する、

「そうね」

ソフィアは言葉少なに答え、

「あらー、なによー、まだ怒ってるのー」

ユーリはニヤニヤと茶化そうとするが、

「別にー、ユーリ先生様が良いっていうんだから良いんじゃないのー」

「まだ怒ってるじゃない」

「そりゃあね」

「もー、たまには頭を使う事も大事よー、あんたは本能で動き過ぎるから、ちゃんとやった事出来た事を言葉にしてみるのも大事な頭の運動ってもんでしょ」

「人を獣扱いしないでよ」

「獣だったらまだいいわよ」

「なによその言い草」

「獣は単純な思考しかしないでしょ、あんたは立派な人様なんだから、それだけ複雑で面倒な生き物ってこと」

「複雑はわかるけど面倒ってどういう意味よ」

「そのままよ、面倒な人ばかりでしょ」

「それ、あんたも含んでいいのよね」

「お好きにどうぞー」

「・・・まったく、覚えておきなさいよ、そのうち倍にして返してやるんだから」

「ふふん、お手柔らかにー」

二人は気安い言葉を交わしつつ大仕事を切り上げた、傍目に見れば修練場にはなんの変化も無い、あるとすればミナとレインの大作があるにはあるが、それはいずれ修練場を使う生徒達に踏みつけられ無残にかき消される事であろう、ユーリは中央の旗を中心にしてゆっくりと周囲を見渡し、即席で作られたとは思えない城壁か新たな記念碑かとも思える巨大な結界で組まれた陣の最終確認を行い、ソフィアはやれやれと左手で右肩を押さえ右腕を大きく振り回す、

「うん、こんだけやれば大丈夫そうだけど」

「これを壊せるとしたら大したもんじゃない?」

「そうよねー、でも、実際の所はやってみなきゃ分からないしね」

「まぁね、でも、そこまでの力があるとしたら私達ではお手上げって事かしら?」

「あー、そういう見方もできるかしら?」

「そうでしょ、ま、なんにしろ未知数である事だけは確かだわね」

「無駄に終わればそれが一番良いんだけどね」

「まったくだわ」

二人は大きく溜息を吐いてミナと学園長の元へと合流する、学園長は二人を労いつつ、

「さて、次じゃの」

と嬉しそうに微笑んだ、

「はい、では、私の事務室へ、ミナ、レイン、帰るわよー」

ユーリが二人に声をかけると、

「エーッ、もうちょっと書きたいー」

ミナは当然のように不満の声を上げた、

「そう言わないの、結構時間かかちゃったからね、戻って寮のお仕事しないとね」

ソフィアが優しくミナの頭を撫でつけ、

「うー、わかった・・・」

ミナは名残惜しそうに自作を見つめ、手にした棒切れを振り回すと、

「これ、持ってっていい?」

「これ?」

「この棒」

「いいけど、何するの?」

「丁度いいのー」

「丁度いい?」

「うん、堅くて軽くて良い感じ」

「そっか、いいわよ、さ、戻りましょ」

ソフィアはミナの手を取り、レインにも声をかけた、レインはどうやら結界を見上げているらしい、しゃがんだまま虚空を見つめ、ニヤリと口角を上げると腰を上げ、

「随分周到な事だ」

ソフィアにのみ聞こえるように呟く、

「まぁね、さっ、戻るわよ」

ソフィアはどうやら合格点を貰えたらしい事を理解した、そして一行は姦しく学園内を闊歩して寮へと戻った、正午にはまだもう暫くといった頃合いである、しかし、ソフィアは随分かかったなと思いつつ食堂へ入ると、

「お帰りなさーい」

寮生達が一行を出迎え、

「ゲッ、学園長・・・先生・・・」

ユーリの背後に佇む学園長に気付いたジャネットが驚いて目を剥き、ケイスもあっと呟いて言葉を無くす、その隣りで編み物に勤しむルルは不思議そうにジャネットを見上げ、暖炉の前で書に集中しているサレバとコミンも何事かと顔を上げた、

「こら、ゲッってなによ」

すかさずユーリが窘めると、

「あっ、すいません、学園長先生、御機嫌ようです」

ジャネットはペコペコと頭を下げた、

「ホッホッホ、ジャネットさんじゃったかな?元気があって良いのう」

ニコニコと笑顔を見せる学園長にジャネットは安心して笑顔を返すが、

「しかし、ユーリ先生の言う通りじゃな、一応年上は表面上だけでも敬うものじゃぞ、何故かと言うとな」

学園長は説教なのか講義なのか良く分からない調子で訥々と語りだす、

「まずは人間関係じゃな、年齢や貴賤を置いておいてもある程度の礼儀は必要であろう?ニコヤカに迎え入れられるか、嫌悪感丸出しで迎えられるかで大きく印象が変わるものじゃ、のう?」

ユーリはこれは長くなるなと感づいてゆっくりと後退り階段を目指すが、学園長を連れて来た目的を思い出しパタリと足を止め、諦め顔で天を仰ぐ、

「での年長者というものの価値を定義するとじゃな、個人差は大きくあるが、まずは長生きしているが故にそこそこ知識があるという点じゃな、さらに知恵も回る、若い者に比べれば少々遅い感はあるが、それでも比較的に狡知に長けると言いってよいであろう、次に権力を持っている場合が多いという点がある、これも組織によって大きく変わってくるがどうしても長生きした者には恩や縁がまとわりついての、本人の意思は置いておいたとしても頼りになる存在として力が集まる傾向にある、良いかな?」

学園長は聴衆を見渡した、ミナはポカンと学園長を見上げ、ジャネットとケイスは恥ずかしそうにしながらもしっかりと聞いており、新入生の3人はこの人はいったい?と思いながらもどうやら為になる話をしているようだと静かにしている、対してソフィアとユーリはめんどくさい事になったと渋い顔で、レインは面白そうにニヤついていた、

「それがの年寄を敬う理由として上げられる理屈なのじゃが・・・しかしの、儂はまったく納得しておらん・・・うん・・・相手が年上であるなら敬うのが当然であると、儂も若い頃は言われたものだが、自身がその立場になってみてもそうは思えんのじゃ、年寄になってその立場になったからそう思うのでは無く、若い頃からそう思っておったのじゃが、例えばじゃが、若くても尊敬に値する者は多いじゃろ、逆もまた然りでな、どれだけ歳を取っても尊敬に値しないものがおる、当然じゃな、お主達の周りの人物で言えば・・・そうじゃのうエレインさんは中々の英傑であったようじゃな、若く立場があるのにそれに拘泥せずしっかりと商会を運営している、さらに、ユーリ先生やソフィアさんもじゃ、儂から見ればまだまだ若いご婦人じゃが儂では出来ぬことを平気な顔でこなしよる、まったく、儂の立つ瀬がないわ」

学園長はカンラカンラと笑ってユーリとソフィアへ視線を送り、二人は遠慮がちに微笑んだ、

「となるとじゃ、儂は年齢に関係無く他人を敬うのが大事じゃと思うのだな、敬うという表現が宜しくないのう、ここは尊敬と言い換えるべきか・・・いや、尊重が良いの、うん、それでの先程の権力という概念をそこに持ち込むのじゃ、すると、目上の者は取り敢えず煽てて気持ちよくさせた方が良いという事になる・・・違うかの?結局世の中は金と権力じゃ、より具体的に言えば上の者に気に入られれば給与が上がるかもしれぬし、出世が速くなるかもしれぬ、やっておいて損は無い処世術と言うやつじゃ、するとな、ここでやっとな目上の者と老人が共通した概念である事になる、なぜなら、往々にして目上の者は年寄りが多いからじゃな、そこでの、年寄りを敬うのは自分の為であるのかという疑問が生まれる、それはその通りと言わざる得ない、儂も最初はの、老人が偉ぶりたい為に敬えと言っていると思って不愉快であったがな、世の中やら社会やらに揉まれての、まずは礼儀の概念を考え直してみたのじゃ、礼儀の必要性じゃな、これは割と簡単じゃな、お互いの立場と上下関係をはっきりと示す為に最も楽で決まった方法になる・・・」

学園長はだんだんと趣旨から外れた事を口にしだしたように思える、しかし、学園長の中では筋道がちゃんと通っており、礼儀の話しから貴族、貴族と平民の関係へと話題は移って行き、

「そこで形式としての礼儀が生まれたのじゃ、これは大発明と言って良いぞ、礼儀がしっかりしていれば、儂が陛下とまみえたとして儂は恥をかかず、周囲の者も心を砕く必要がない、陛下もまた定型文である為飽きる事があるであろうが、礼儀を持って眼前に対しているという敬意を受け取る、明瞭であろう?実に良い、での、老人に話しを戻すが、ここで老人は若者をどう見ているかという観点を持ち出してみよう」

いよいよ興に乗った様子で壁の黒板に向かい白墨を手にした所で、

「失礼しまーす」

来客のようである、ソフィアはパタパタと玄関へ向かい、学園長はムゥと小さく唸った、やがて、ソフィアと客の会話が明るく響き、

「すいません、学園長、新入生です」

ソフィアがヒョイと食堂へ顔を出す、

「む、そうか・・・それでの」

学園長は尚自説の披露を続けようと黒板に向かうが、

「すいません、先生、新入生のお迎えをしないと・・・」

ジャネットがおずおずと手を上げ、そうねそうねとケイスは腰を上げた、

「むぅ」

実に不満そうな顔になる学園長に、ユーリはこれはヤバいとサッと近寄り、

「先生、今日の目的から逸れていますよ、先に商会の方へお邪魔しましょう」

「・・・それもあったな・・・しかし、ここからが大事なのじゃが」

「それは勿論、ですが、これはとても為になる話です、どうでしょう、入学式の折りに披露されては・・・」

「むっ・・・そうか、それもあったな・・・」

「はい、折角の御高説ですし、大変勉強になると思います、故に、もっと多くの生徒に聞かせるべき事かと思います」

ユーリは上手い事言った、偉い私、と自身を内心で盛大に誉め讃え、

「そうか、ユーリ先生がそう言うならば・・・うん、少し推敲が必要だな・・・長くなりすぎる・・・論拠も雑だ・・・うん」

学園長は真面目な顔になり考え込んだ、

「はい、こちらが食堂ね、同期の子もいるわよー」

ソフィアはそんな二人に構わず新入生とダナを連れて食堂へ入る、すると、

「わっ、学園長、どうしたんですか?」

学園長の姿を見付けたダナが頓狂な叫び声を上げた、

「うむ、少しな・・・心残りはあるが・・・うん、続きは入学式にとっておこう、もっと簡単にせねば伝わらんな・・・」

学園長はぶつぶつと呟き、

「はい、楽しみです、さっ、事務所の方へ」

ユーリに促され、そうじゃのと学園長は白墨を置くと、

「うむ、邪魔したな」

心ここに在らずといった風情で学園長はユーリに従って事務所へ向かった、

「ダナさん、感謝」

「うん、ダナさん偉い」

ジャネットとケイスは二人の姿が街路に出た事を確認して小躍りして叫び、新入生3人は見事なまでにポカンとしている、

「もう・・・ほら」

ソフィアはそんな二人を睨みつつも背後に控えた新入生を前に出して、

「自己紹介」

軽くその肩を叩く、

「はっ、はい、グルジア・ローレンです、お世話になります」

やや年嵩の娘は勢いよく頭を下げた。
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