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本編

49話 Attack on the Gakuentyo その2

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それから朝食時を過ぎた頃合いとなった、エレイン達はサッサと事務所へ向かい、ジャネットとケイス、新入生達は優雅にお茶を楽しんでおり、ミナとレインも暖炉の前でまったりと読書の時間である、

「えっと、聞いていいですか?」

ルルは学園から渡された木簡を手にしてジャネットとケイスにおずおずと話しかけた、

「いいよーなーにー?」

「ふふん、何でも聞いとくれ」

ケイスは優しく受け、ジャネットはフンスと胸を張る、

「あの、この共通科目って具体的に何をやるんですか?」

木簡をテーブルに置いて該当箇所を指差す、木簡には学習科目の大項目とその期間が記されていた、通年学習予定と題されているが何とも大雑把なものである、ルルの受け取ったそれは魔法学部戦術科のもので、共通学問として1年、戦術科として2年の授業計画が記されていた、ジャネットとケイスは木簡を覗き込み、サレバとコミンも、

「あっ、それ聞きたかったです」

「はい、私も」

と身を乗り出した、

「あー、これ?」

「はい、共通学問と言われてもって感じで・・・」

ルルは不安そうにジャネットを見つめた、ジャネットとケイスはそうだよなーと納得し、

「えっとね、共通学問として学習する内容は、王国語の読み書き、算学、歴史、魔法の基礎知識、地理、社会経済・・・かな?」

ケイスが指折り数えて答えつつジャネットに確認する、

「そうだねー、戦術科だとそれに軍の基礎知識と鍛錬だね、鍛錬は肉体と魔法と2種類」

「そっか、魔法学部はそれもあるよね、医学部だと人体の構造とかかな、それと、医療の基礎と薬学の基礎もあるな」

「へー、医学部って共通学問からそんな難しそうな事やるの?」

「そうだよ、骨の名前とか全部覚えるの」

「えっ、骨の名前?」

「うん、えっとね、手の骨全部言えるよ、親指から番号が振ってあってね」

ルルとサレバとコミンを置き去りにしてケイスは手の甲を上にして骨の名前を説明していく、かなり難解で聞きなれない単語をスラスラと口にするケイスにジャネットは感心しながらも、

「あー、ごめんねケイス、後でいいかな?」

ムーと顔を顰める3人を気遣い、

「あっ、ごめん」

ケイスはハッと3人を見て誤魔化すように微笑んだ、

「全然大丈夫です」

ルルが慌てて答えつつ、

「でも、読み書きもやるんですか?算学も?」

新たな疑問を口にする、

「ふふん、それ絶対最初に思うやつー」

「そうそう、私も今更ーって思ったー」

ジャネットとケイスはニヤニヤと微笑み、

「あのね、王国語の読み書きなのよ」

「そうそう、そこが大事、一番最初の説明の時にも同じ事言われると思うんだけど、実はね、私達の使っている文字と言葉って一緒じゃないらしいのね」

「うん、だから、それを統一する為って言われたな」

2人は真面目な顔になり、

「例えばだけど・・・」

とケイスは木簡に記された文字を一つ指し、

「この字はうちの田舎だと使わないのよね」

エッとルルは驚き、サレバとコミンもいよいよ身を乗り出してその字を確認する、

「あっ、確かに・・・なんか気分で読んでましたけど、そうですね、私も初めて見るかも・・・」

ルルがそう言えばと木簡を凝視する、

「うん、で、さらに言うと、この文字とこの文字も田舎だと別の文字なんだよね」

「あっ、そうですよね、はい、私もそう思いました、間違ったのかなって思ってましたけど、違うんですか?」

「違うのよねー、これがー」

ジャネットがニヤリと微笑み、

「王国語だとこれで正しいのよ、で、私の田舎だとこっちの文字とこの文字は単語の前に来ると読まないのよね」

「えっ」

と3人の目がジャネットへ向かう、

「でも、文字にするときは何故か付けるんだよ、面白いよねー」

「えっと、ごめんなさい、もしかして、私達が田舎で覚えた事って間違っているんですか?」

サレバが不安そうに質問する、

「間違ってはいないらしいよ」

ケイスは優しく微笑み、

「えっとね、歴史で習うんだけど、王国といっても元々は別々の国なんだよね」

「あっ、それは知ってます、確か大きい国が3つで、小さい国が5つでしたっけ?」

「そうそう、あれだよね、昔話で良く聞くよね」

「私も良く聞いた、でもね、より正確に言うと大きい国が3つで、小さい国が5つ、それと都市国家が7つあったんだって」

「都市国家ですか?」

「うん、そう呼ぶようにって教わった、歴史の授業でね、あっ、そうだ、歴史の授業ってすんごい眠いけど頑張って」

ジャネットは軽く茶化しつつ、

「で、話しを戻すと、本来はそれぞれで似たような言葉と文字は使ってたらしいんだけど、王国として一つになった際に王国語としてまとめようとしたらしいのね、政治の問題でって言ってたかな?」

「そうだねー、ほら、同じ国なのに会話が通じないと駄目じゃん?あと文字も、これは社会経済で習うけど税金を納めたり法律を守らせたりするには言葉ではなく文字が主体になるからって事らしくてね、一つの国としてまとまる為には大事な要素だよって、歴史と社会経済の先生からは何度も言われるんだよね」

ケイスは至極真面目に説明する、

「で、言葉はね、似てるから違和感無く浸透したらしいんだけど、文字はね、その国毎に大きく違っていたらしくて統一しようとしても中々難しいらしくて」

「そうだね、あと、言葉もね、極端な場合は今だに酷いらしくて、えっとね、例を出すと、なんだっけ、北ヘルデル出身の人と西の端の出身の人では同じ王国人でも話が通じないんだって」

「えっ、そうなんですか?」

「うん、これもしっかり習うんだけど、文法は一緒なんだけど、単語が全然違くて、さらに同じ単語でも抑揚が変わるんだって」

「えっ、それだと・・・」

「うん、会話になんないよね」

「そうなんですね、想像できないな・・・」

新入生3人は感心仕切りであった、それぞれにそういうものなんだと理解しつつも納得は難しい様子である、

「だから、王国語の読み書きって一番大事だよ、ここをしっかり習得しないと授業で何やっているか分からなくなるし」

「うん、それと、知らない単語とかいっぱいあるしね」

「あ、それもあるね、難しい言葉とかあるし、試験だと一文字でも間違えたら駄目だしね」

「そうそう、王国語の試験厳しいんだよねー」

「あれは、泣けるよね」

ジャネットとケイスは朗らかに笑みを浮かべるが、ルル達は何とも不安そうに顔を見合わせた、ケイスはそんな3人の機微を察して、

「あー、大丈夫、大丈夫、ジャネットさんでも進級できたんだから、みんななら大丈夫だよー」

「なっ、ヒドー」

ジャネットが不満顔でケイスを睨む、

「えーっ、だって、ノーキンなんでしょー」

「そうだけどー、しっかり勉強したんだぜー」

「それは当然でしょー、勉強しに来てるんだからー」

「そうだけどさー」

「だから、そんなに深刻そうな顔しないでも良いよって事、授業始まる前に不安にさせちゃ駄目でしょー」

「それは・・・まぁ、うん、わかった・・・」

ジャネットは不満顔のままに納得したようで、

「あー、ほら、私なんかでもなんとかなるから、真面目に勉強してれば大丈夫だよ、うん・・・」

何とも頼りない言葉である、しかし、三人は二人のやりとりで何とか元気になったようで、

「はい、頑張ります」

「そうだね・・・」

「うん、しっかりしなきゃね」

それぞれに勉学への決意を新たにし、そして、

「えっと、算学はどんな感じなんですか?」

「あっ、社会経済って面白いです?」

「魔法の基礎って何やるんですか?」

学習内容への質問が矢継ぎ早にジャネットとケイスへ向けられる、

「ふふん、それで良いぞ新入生」

ジャネットはどこかホッとしたように居丈高に胸を張ると、

「そうなると・・・ルルさんは同じ学科だから詳しく教えられるけど、サレバとコミンは違うよね?」

「はい、私は農学科です、で、コミンは工学科です」

「だよね、そうなるとどうなんだろう?変わってくるのかな?」

「違うらしいですよ、農学は確か植物の基礎知識とかもやっているんじゃないかな?薬学で難しい所は聞きに行けって言われた事がありますね」

「へー、そうなんだー」

「工学は知り合いがいないですね・・・ブノワトさんかな?ブラスさんも卒業生らしいですけど・・・ブラスさんは建築科だったかな?ブノワトさんは工学科だったよね?」

「あっ、そうだよね、そっちに聞いた方がいいと思うな、ほら、算学は特に必要な知識が全然違うって聞いたな、社会経済も内容が違うんじゃなかったかな?」

「そんなに違うんですか?」

「うん、必要とされる知識に沿ってるらしいよ、魔法学部だと社会経済って言う名前だけど政治が主だったよ、貴族様の領地とかその成り立ちとか関係とか、それと官僚機構のどうのこうの、で、農学とか工学とかは経済が中心だったはず・・・たしかね・・・」

「へー、違うんですねー」

「うん、だって、魔法学部は上級兵士になりたい人の集まりだしね、官僚とか役人目指してる人も多いし」

「そうだねー、農学とか工学は職人さんになる人が行く感じだよね、それだとね、貴族様云々よりも経済の勉強の方が必要だろうしね」

「なるほど・・・そうですよね・・・」

「でも・・・」

「うん、なんか面白いね・・・」

「本当に勉強なんだなー」

3人はしみじみと呟き、

「そうなのよ、勉強なのよー」

ジャネットはどこか諦めたように溜息を吐く、

「ふふ、そうですね、勉強なんです」

ケイスも微笑んで3人を見つめた、実の所ジャネットもケイスも学園に来て初めて学問がなんたるかを知ったのである、田舎での手慰み程度の読み書きや計算等はまるで児戯である事を学園は身をもって教えてくれる、さらに、それに集中できる環境に年若い娘達は置かれているのである、その幸福を2人は改めて新入生を通して感じ取り勉学への新鮮な情熱が身内に沸き上がるのを感じた、そして、それは新入生3人も同じである、ルルはソフィアの言葉を思い出し、勉学に専念できる事を伯父と両親に感謝し、サレバとコミンはお金を出してくれたサレバの父と、サレバだけでは起きる事さえ難しいぞと笑って送り出してくれたコミンの父の顔を思い出す、しかし、

「おあよー」

そこへユーリが腹を掻きながら下りて来た、

「先生、あー、酷いなー、もー」

「えっ、何がー」

ユーリはボリボリと遠慮なく腹を掻きむしってあくび交りに問い返した、

「何がじゃないですよ、教育に悪いからしっかりして下さい」

「へっ・・・なによー、二人してそんなに怒んないでよー」

「怒りますよ、折角、真面目な話しだったのにー」

「・・・そうなのー・・・うー・・・ごめんねー」

謝罪はするが実にだらしない、ジャネットとケイスはもーと憤慨し、3人は顔を逸らして笑いを堪えるのであった。
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