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本編

49話 Attack on the Gakuentyo その1

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翌早朝、サレバの部屋にコミンが顔を出した、

「サレバー、朝だよー」

木窓を閉め切っている為に室内は暗い、しかし闇の中という程の暗闇ではない、入って来た扉から入る薄い太陽光を頼りにコミンは西側の木窓を開け、続いて南側の木窓を開けた、途端、朝の冷たくも心地よい風が室内を巡る、

「うー、おはよー」

サレバがもぞもぞと半身を起こした、いつも通りの寝惚けた顔である、

「おはよう、ちゃんと寝れた?」

コミンは優しく語りかける、しかし、

「うん、大丈夫・・・」

サレバはぼんやりと呟きつつゆっくりと寝台に倒れこんだ、

「ほら、起きたなら起きないと」

コミンはその様に柔らかく微笑み、

「うー、もうちょっとー」

サレバは上掛けを頭まで被って芋虫のように丸くなる、

「はいはい、ほら起きて」

「早いよー」

「いつも起きてる頃合いだよ」

「そうなのー?」

「そうよ」

「・・・わかったー」

郷里でも毎日のように繰り返されていたやり取りであった、コミンとサレバは家が隣り同士の幼馴染である、コミンは村長でもある大きな農家の一人娘でコミンは鍛冶屋件農家の娘である、両親も仲が良く、田舎付き合いの為交流も多い、いつの間にやらサレバを毎朝起こすのはコミンの仕事になり、コミンは鶏よりも早く起きることが日課になってしまった、何とも律儀な性格なのである、対してサレバは未だ起床に関してはコミンに依存しており、また、それが当たり前になってしまっていた、

「ほら、折角の都会だよ、今日はどうするんだっけ?」

「うー、なんだっけー、コミンとー、ルルさんとー・・・街見物にー、行くー・・・たいー」

「でしょう」

「うん・・・起きるー」

サレバは覚醒してしまえば活動的な性格である、引っ込み思案のコミンを引っ張り回して家の手伝いは勿論の事、村の仕事も率先して熟し、その上勉強にも積極的であった、その性質を熟知しているコミンはサレバを覚醒させる為にその日の予定を口にするのが常套手段となった、サレバに寝ている事が損だなと思わせる事が彼女の覚醒を導く早道であり、特効薬なのである、いつの間にやら習慣となっていたそれは郷里から遠く離れたこの地でも有効のようであった、

「ふー、起きたー」

再び半身を起こしたサレバは今度はサッサと寝台から抜け出して両足を床に着けると大きく伸びをする、

「ふふ、じゃ、どうするのかな?ジャネットさんは朝食は寮母さんが用意してくれるって言ってたけど」

コミンはニコニコと扉に向かい、

「そうだねー、んー、取り敢えず食堂かなー」

サレバは目ヤニの付いた顔をグシグシと乱暴に擦りあげ、さてとと二人は連れ立って静かな廊下へ出た、耳を済ませば厨房では調理の音であろうか、何かを焼く音が微かに響き食堂にも人の気配がある、

「早いねー」

「そうだねー」

そのまま食堂へ顔を出すと、オリビアが木窓を開けており、ルルは厨房へと向かいかけている様子である、

「おはようございます」

サレバが元気の良い大声を上げた、オリビアとルルはビクリと肩を震わせ、少々驚きながらも朝の挨拶が返ってくる、

「お早いですねー」

「そうですねー、お二人も早いじゃないですかー」

ルルの柔らかい笑顔にコミンとサレバは笑顔を浮かべ、

「そのうちゆっくりになりますよ」

オリビアが達観したような口振りである、

「そういうものですか?」

「そうですよ、都会の朝は静かですからね、私も意識しないと起きられないですから」

オリビアが鼻息交じりに答えた、

「そういえばそうですね、静かです」

「家畜が居ないからですね、鶏の鳴き声が無いと朝の印象が全然違います」

「あっ、そう言えば」

「うん、静かだね」

「ですよねー」

ルルが柔らかく微笑みつつ、

「そうだ、ミナちゃんのお手伝いをしましょうよ、サレバさんは農学科でしたよね」

「そうですけど、お手伝い?」

「はい、内庭の菜園はミナちゃんとレインちゃんがお世話しているんですよ」

「へー、すごーい」

「スイカとメロンとイチゴは終わったらしいです、今は薔薇となんだったかな?それと葡萄ですね」

「へーへー、面白そー」

「じゃ、行きましょう」

3人が揃って厨房へ入ると、ソフィアが朝の支度中であった、明るく朝の挨拶を交わし内庭に出ると、内庭の半分程度を占める菜園のそのまた半分より狭い葡萄棚にミナとレインの姿が見え隠れしている、

「ミナちゃん、レインちゃん、おはよー」

ルルが声をかける、ヒョイと二つの顔が葡萄の良く茂った葉の隙間から覗き、

「おはよー、ルルだー、コミンとサレバもいるー、はやいねー」

ニコニコとミナが駆け出してきた、

「おはよう、ミナちゃんも早いんですね」

コミンが笑顔で迎え、

「うふふ、そうだよー、どうしたのー?」

「お手伝いに来ました、何かあります?」

ルルが問うと、

「レイーン、何かあるー?」

葡萄棚にミナは駆け込んだ、コミンとサレバから見ると若干低く作られた葡萄棚には収穫を待つ葡萄が垂れ下がっていた、一度収穫を終えている為に数は少ないが強く生い茂った葉の中で朝日を受けて黒々と輝く粒に、

「わー、綺麗な葡萄だー」

サレバは驚嘆の声を上げ、

「そうなんですよ、ミナちゃんとレインちゃんの自慢の葡萄なんです」

ムフーとルルが胸を張る、

「へェー・・・」

サレバは吸い寄せられるように葉の一枚に触れ、コミンもその葉を覗き込む、

「なんじゃ、増えたのう」

ニマニマとレインが顔を出した、ミナもその背後で同じように微笑んでいる、

「あ、レインちゃん、この葡萄元気だね」

「うん、綺麗な葉っぱだし、枝も太い」

コミンとサレバが実ではなく葉の状態と枝振りを褒めた、

「ほう、そこを見るか?」

レインがニヤリと二人を見つめ、

「うん、家でも葡萄やってるけど、綺麗だよね?」

「そうだね、葡萄も美味しそうだけど、葉っぱも美味しそう」

「そうじゃのう、これもそろそろ一段落だしのう、若い葉は摘んでもよいかものう、枯れる前にやってしまうか・・・大きすぎても旨くはないからのう」

レインがそれもあったなと葡萄棚を一望する、

「えっと・・・食べるんですか?葉っぱを?」

しかしルルが不思議そうに3人を見る、レイン達は当然のように話しているが、ルルにはピンと来る内容では無いようだ、

「うむ、食えるぞ」

「そうなの?」

ミナがピョンと飛び跳ねた、

「ありゃ?ミナは知らんかったか?若干酸っぱいがのう、なかなかに美味いぞ、好きではないがの」

美味しいけどすきじゃないんだとルルは微笑んだ、たかが二度夕食を共にした程度であるが、その二度共にレインは野菜を食えとソフィアから叱られている、その度に不満そうに野菜に手を伸ばすレインの姿をルルはとても愛らしく感じた、

「えー、知らなかった・・・食べたい」

「そうか?他に食う物があるからのう、無理して食わんでもと思うが・・・」

「でも美味しいんでしょ?」

「うむ、好きではないがの」

同じことを繰り返すレインである、

「なら、食べるー、ソフィーに頼むー」

「そうじゃのう、そう言えばソフィアはあまり好まないようじゃが・・・」

レインがハテと首を傾げた、ソフィアと生活を共にしてから葡萄の葉が食卓に上がる事はなかったなと考える、

「大丈夫ー、ソフィーは何でも出来るのー」

ミナはレインの訝し気な顔に一切気を回さず、さらに子供特有の母親に対する絶対的な信頼を口にして、

「ソフィー呼んで来るー」

ダダッと勝手口へ駆け出した、

「ありゃ、まったく」

レインは腕を組んで鼻息を荒くし、ルルは元気だなーと微笑む、コミンとサレバは今度は地面に蹲って、

「良い土だね」

「うん、真っ黒」

「水気も多いね」

「そうだね、虫も元気だし・・・良い畑だ・・・」

二人は菜園の土を掘り返して感心しきりである、

「ほう、気付いたか?」

レインは腕を組んで胸を張る、

「この土もレインちゃんが世話してるの?」

「勿論じゃ」

「えっ、凄いよこの土」

「当然じゃ」

「えっと、お世話の仕方教えて貰いたいなー」

「構わんが、どうしようかのう」

意地悪そうに微笑むレインをコミンとサレバは見上げて、

「そう言わないでお願いー」

「うん、こういうの勉強しにきたんだよー、レインちゃんも学園で勉強したの?」

「学園は関係ないぞ、この菜園は儂とミナの菜園じゃからのう」

「へー、そうなんだ・・・」

「うん、凄いね」

二人は顔を見合わせる、そこへ、

「もう、ミナは葡萄の葉っぱ嫌いじゃないのー」

ミナに引きずられるようにソフィアが裏庭に出て来た、

「知らないー、食べた事ないー」

「それは嘘よ、あなた、酸っぱくて嫌って泣いたじゃない」

「おぼえてないー」

どうやら食卓に上がっていない理由が簡単に判明したようである、ルルはそういう事かと納得し、レインもなるほどなとニヤリと微笑んだ。
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