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本編

48話 モニケンダムお土産探訪 その5

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それから暫くして、2階ホールには救国の英雄4人が集まって難しい顔を突き合わせていた、しかし、それはやや間違った表現である、深刻な顔をしているのはクロノスとユーリであり、ソフィアはユーリに任せておけばいいかしらと気楽なもので、ゲインは俺は関係あるのかなと所在無げな顔である、クロノスも暇な人間ではない、午前中はしっかりと政務を熟し、午後からは修練としてこちらに顔を出すのがここ数日の日課となっている、故に午後からでも構わんだろうと突然現れたユーリをクロノスは当然のように冷たくあしらったが、イフナースの名前を出されその上火急の要件とまで言われてはそれは放置できぬとゲインを連れてすぐさま寮へと顔を出したのである、午前の仕事を放り投げた形になるが、イフナースの名を出された以上リンドも口出しを出来ず不服そうな顔で二人を送るしかなかった、

「・・・というわけなのよ」

ユーリはイフナースに関する問題点をクロノスに説明し、クロノスは正に寝耳に水と目を白黒させて傾聴し、

「すると・・・どう対処すりゃいいんだ?」

眉間に皺を寄せて問い返す、

「問題はそこなのよね、まずはイフナース殿下に関して聞きたいんだけど、普段から魔法を使う人なの?」

「普段からか・・・いや、あいつは確かそれほど達者ではなかった筈だな・・・といってもあれだぞ、病いで臥せる前の話だし、それの後は床から起き上がるのも難儀していたからな、俺もそれほど知った仲という訳ではないぞ」

「あら、そうなの?」

「そうだぞ、仲良かったのはあれの兄貴の方だ、イフナースは子供すぎてな、酒も呑める歳でもないし、俺が騎士籍にあったのはまだあれが15・6の頃だぞ、それでもあれの兄貴と一緒に前線に立って戦果を上げていたんだから大したもんなんだが、うん、大戦が終わってパトリシアと結婚してなんだかんだで仲良くしているが、それはほれ、騎士としての共通言語ってやつでな、常識が近いし、なにより立場が近いからこうなっているだけで、ま、あいつも兄貴を亡くしているからな、それの代わり程度にはなっているとは思うが・・・うん、そんなもんだ」

「へー、仲良さそうにしてるじゃない」

「だから、共通言語だよ、それと、俺としてはさっさと元気になって欲しいし、向こうは一応俺を英雄様として扱っているからな、遊び相手として丁度良いんだろうさ」

「共通言語ねー」

ユーリはふーんと鼻で笑う、クロノスが言う共通言語とは、常識を同じくする程度の意味であろう、貴族として、王族として、そして騎士及び戦場に立った兵士としての経験からくる認識を共有しているという意味合いである、さらにクロノスとイフナースは共に王位継承権を有しており、政治的にも重要な立場である、その点もあってより近しい立場でありお互いに稀有な存在とも言える、

「そうなると、本人に聞くしかない?」

「そうだな、あいつの得意な系統もしらんし、魔法を使った所を見た事もない・・・うん、詳細は俺から話すが、その後の対応だな、どうすればいい?」

「一番確実な事は、一切魔法を使わない事ね」

ユーリはあっさりと言い切った、

「やっぱりか・・・」

「あっ、その前に一過性のものである可能性もあるからその為の見極めが必要かなって思うけど」

ソフィアが口を挟む、

「そうなのか?」

「そうよ、私の仮説が正しければ闇の精霊の代わりに魔力が蓄積しているだけで、根治した後魔力がどうなるかは分からないわよ」

「それもあったわね」

ユーリがうんうんと頷いた、

「それも説明した方が良さそうだな」

「そうね、だから一時的なものであればね、暫く魔法を使わなければそれで済む話しだし、殿下ならその必要もないでしょうしね」

「一番、安全だな」

「そうね、でも、永続的なものとなればある程度扱いを身に着けた方がいいと思うし、何より本人がそれを理解しておかないと何かの拍子に使ってみたら大惨事って、これ、国としても問題でしょ」

「確かに・・・それはやばいな・・・」

「でしょう」

ユーリの説明にクロノスは問題の影響を考えてその大きさを想像し、事の重大性を認識した、はっきり言えば王城でそのような事態になったら本人達はおろか国が滅びる可能性すらある、そして、それは容易に想像できる事象であった、

「あんたはほら、外側に使う魔法はからっきしだから正直大した問題はないけど、殿下が外側向きの魔法が得意となるとどんな影響があるか分かったもんじゃないしね」

この場合の外側とは個人の肉体の外に発動する魔法の事を指し、一般的に魔法と呼ばれる現象の事である、クロノスはその系統の魔法は不得意でほとんど使用しないが、代わりに肉体強化等の体内で発動する魔法に長けていた、故に直進番長として真っ先に切り込み、致命とも言える怪我を負ったとしても平気な顔で生還している、これはこれで大変有用な魔法体系なのであるが、扱えるものは少なく、また、往々にして魔法は使えるが下手な人物として認識されている、ようは才能はあるが誰もそれに気付けないのだ、であれば研究なりなんなりで何とかするべきと考えるが、問題は、この系統に長けたものはすべからく研究者には向いていない事である、ようは直情気質で考えが浅い人物が多いのである、多いといってもユーリが知る限り数人であり、実戦で使いこなしている者はさらに少ない、ユーリは性格や生活環境が魔法に与える影響は確実にあるものと認識しており、これもまた研究対象としたいとは思っているが、研究の取っ掛かりが難しく棚上げにしている命題の一つである、

「なるほどな、理解した、で、使うなの他には何が出来る?」

「そうね、ソフィアとも話したんだけど、一度危なくない魔法を発動してもらって、で、どんなもんかを本人に体感して欲しいのよね」

「・・・危険じゃないか?」

「それは承知の上よ、さっき相談したばかりだから準備も何もしてないけど、学園の修練場があるじゃない、あそこで私とソフィアで結界を張って、学園に・・・勿論本人にも危害が及ばないように配慮して使ってもらうのがいいかしら」

「・・・荒療治だな・・・」

ゲインがボソリと呟く、

「そうね、その通り、これは私達が何を言った所で無駄だからね、本人に身に染みて理解してもらって、その上で一時的なものであれば、笑って済ませられるし、永続的なものであれば一生付き合っていくしかないしね、呪いと違って魔力なんだし、あればあったで便利に使うべきと私は思うけど、あんたと同じくらいの魔力量だからね、こうなるとタロウさんに修業してもらうのが一番良いかもね」

「タロウの修業か・・・あれ・・・きついんだよな・・・」

「そうなの?」

「俺の時はな、お前らの時はどうやったんだ?」

「私は延々と炎を出してたわ、両手から、倒れるまでやれって」

ユーリは懐かしそうに微笑み、

「私はずーっと宙に浮いてた、寝てもいいけど落ちたらやり直しって」

ソフィアも微笑む、

「そんなもんなのか、俺の時は逆立ちしてゲインとルーツに棒で殴られ続けたぞ」

「えっ、何それ?」

「あったな、そんな事も」

「拷問?」

「拷問に聞こえるよなー、でも、あれで力は付いたし、魔力の操作も上手くなったからな、不思議なもんだ・・・」

「でも、場合によってはそれ、殿下がやるのよね・・・」

「あー、そん時はそん時だな、魔力の制御を学ぶだけでも十分じゃないか?」

「まぁね、でも、あれよ、そんな力が手に入ったら使いまくりたいって思うんじゃない?普通は」

「そんなガキみたいな事・・・いや、大人でもそうなるよな、俺はなったな」

「私も」

「私もだわ」

ユーリとソフィアは同意するが、ゲインは黙して不機嫌そうである、実はゲインは一切の魔力は持っておらず、タロウからは魔力以外の能力を借り受けて戦場に立っていた、それはいまだ彼の中にあるのであるが、日常生活でも実に役に立っている、

「だからね、殿下が暴走しないように気を付ける必要も出て来るし」

「それもそうだが・・・あ・・・陛下には何と言ったもんだか・・・」

クロノスは別の問題に気付いて天を仰いだ、

「あー、それもあるわよねー」

「良い話しなんだか悪い話しなんだか・・・そう言えば治療の方は順調なのか?」

「順調でしょうね、確実に良くはなっているんじゃない?」

「体調的にはそう見えるが、呪いの本体の方だよ」

「そっちも同じよ、呪いが力を発揮したらとてもじゃないけど木剣なんて振れないと思うけど、ジャネットさんやあんた相手に飛んだり跳ねたりできるんだから確実に良くなっているわよ」

「それもそうか・・・」

クロノスは再び天を仰いで沈思し、うんと頷いてユーリへ視線を戻すと、

「イフナースの従者を連れて陛下に報告しておくよ、取り敢えず学園の修練場を押さえておいてくれるか?」

「いいけど、いいの?」

「イフナースの件は一任されてるからな、何事も早いに越したことはない、先延ばしして解決できるもんでもないし、放っておいたらそれこそどうなるか想像もできん・・・ま、お前ら二人の名前を出せば陛下も信じざるを得ないだろうよ」

「そう、じゃ、私は学園長に話しておくわ、期日はそっちに任せる、今月末迄は使っても支障は無いと思うわ、それでいい?」

ユーリはソフィアに確認する、

「私はいつでもいいわよ、あっ、秋休み中がありがたいかな?留守番頼める人多いしね」

「だから今月末迄ってことよ、ふふん、真面目な寮母さんですこと・・・」

「そりゃあね、給料分は仕事しないとですわよ」

「随分余裕だな・・・まぁ、いいか・・・じゃ、そういう事で、また来る、ゲインはどうする?王都に行くか?」

ゲインは少しばかり悩むと、

「む・・・こっちで土産が欲しいんだが・・・」

ボソリと呟く、

「あら、何よ所帯じみちゃって」

「可愛いー、ゲインが土産だってー」

ユーリとソフィアが顔を見合わせて微笑みあう、

「子供用・・・赤子用の何かないかな?それと女房に・・・」

ゲインは二人の様子にまったくの無反応で続けた、

「えー、何よもー、幸せそうな事言っちゃってー、この朴念仁がー」

「女房だってー、ゲインがそんな事言うなんて、びっくりだわー」

ソフィアとユーリは嬉しそうにゲインを見上げ、

「そういう事なら付き合ってあげるわよ、どうせ買い物なんてまともに出来やしないんだから」

ユーリが心底嬉しそうに腰を上げる、

「ん、すまない」

ゲインがノソリと立ち上がり、

「ん、諸々宜しく」

クロノスも立ち上がり、英雄会議はお開きとなった。
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