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47話 沈黙の巨漢 その12

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「あんたはホントに変わんないわよねー」

3人は学園を辞し街中をのんびりと闊歩する、歩きやすい秋の日である、散歩と考えれば絶好の天気であるが、ソフィアはゲインを見上げてグチグチと不満顔であった、

「そうだな」

短く言い切るゲインである、

「もう、名前くらい書けるでしょ、その上、相手の言っている事も分かってるくせに、もー、ルルさん、この人田舎でもこうなの?」

「・・・えっと・・・はい、殆ど喋らないです・・・」

ルルは恥ずかしそうに答え、

「そうなのよ、昔っからなのよ、私もこいつと組んだ時にね、ながーいあいだ、一言も喋らないのよ、そういう人なのかと思ってたわよ、それが急に普通に話しだすもんだから、はぁ?って、もう、ビックリしたわよ」

「そうなんですね、田舎でもそんな感じです、昔からなんですね」

ルルははにかんだ笑みを見せる、

「田舎ではちゃんとやれてるんでしょうね、力だけはあるから食うには困らないんでしょうけど」

「なんとかな・・・」

ゲインは再び短く答え、

「ふふ、伯母さんが3人分喋る人なんです」

ルルもだいぶソフィアに慣れたのか嬉しそうに微笑みながら話題を提供した、

「そうなの?」

「そうなんです、だから、あそこはあれで釣り合いが取れているんだって、みんな言ってます、実際あれです、伯母さんが喋っている間はジーッと待ってるんですよ伯父さんは」

「へー、なんだ良かったじゃない、私らと一緒の時もそんな感じだったわよ、壁みたいに立ってボーッとして」

「壁は酷いな・・・」

「子供もおしゃまさんなんですよ」

「あ、そっか、聞いてた、でもまだ小さいんじゃない?」

「はい、伯父さんの顔と同じ大きさです」

「そっかー、同じかー」

「はい、伯父さんが抱くんですけど、こう両手の中に収まる感じで、すんごい可愛いんですよ」

「へー、それ抱くんじゃなくて」

「ふふ、手に乗せてる感じです」

「あー、確かにねー、ミナの時もそうやってたわよねー」

「だな」

「それで伯母さんに似て良く喋るんです、ワーとかウーって、もう、可愛くて可愛くて、母も伯父さんに似なくて良かったわーって」

「そうよねー、女の子だっけ?」

「はい、女の子です」

「ならそうよね、ムスッとしてるよりはお喋りの方がいいわよね」

「ですよー」

ルルは学園での手続きを終えようやっと緊張が解れた様子であった、北ヘルデルから初体験の事ばかりが続き、ソフィアの説明を受けたがそれは難しい事ではないのだが理解しづらい事であった、狐に絶賛つままれ中なのかなとルルはグルグルと無駄に考えてしまっていたが、ダナが懇切丁寧に学園での生活と寮での生活を説明し、そこで漸くここは嘘でも幻でもなくモニケンダムであり、学園である事を実感出来たのであろう、ルルの状況を考えればむべなるかなと言った所である、そしてやっと、ルルは年齢相応の柔らかい笑みを浮かべ、足取りも軽くなったのであった、街中の様子もその上機嫌の一因にもなった様子で、学園を出て街並みを見た瞬間にルルは驚嘆とも呆れともとれる歓声を上げ、都会だーと飛び跳ねた、

「でも、人がいっぱいですねー、ホントに都会なんだなー」

ルルはキョロキョロと辺りを見渡す、正午を過ぎ公務時間終了の鐘も先程鳴った、ゆえに帰宅する者がチラホラと街路に出てきており、そこここの商店もここからが書き入れ時と客引きが声を張り上げている、田舎では見る事の無い人の流れと生活の様子であった、

「都会に憧れてた?」

「少しだけですけど、だって、話しでは聞くんですよ、でも、どうなんだろうって感じで、村を出るのも初めてですから」

「そうなんだ、私も憧れてたなー、私もねヘルデルを初めて見た時は大声上げちゃったもん」

「そうなんですか?」

「そりゃそうよ、だって、でっかい城壁があってねー、で、街に入る為の列がズラーって・・・並んでいる人がね、全部野菜に見えた」

「野菜は酷いですよー」

「だって、そう見えたのよ、綺麗に並んで待っているしさー、その横を馬車が行き交ってて、挙句大概の人は泥だらけでね、畑から抜いたばかりの泥の付いたカブか人参みたいなの」

ソフィアは思い出し笑いを浮かべる、

「想像できますね」

ルルもニコヤカに笑いつつ、

「そうだ、城壁ですか、ここにもあるんですか?」

「モニケンダムには無いわよ」

「そうなんですか?都会は城壁があるもんだって聞きましたけど」

「大概の大きい街はそうよね、でも、この街は無いみたい、理由は知らないけどね、それこそ、学園に入れば詳しい人はいっぱいいるからね、しっかり勉強なさいな」

「そうですね、はい、そうだ、勉強出来るんだ・・・」

ルルはその一言を噛み締めるように呟いた、

「そうよ、その為に来たんでしょ、しっかり取り組みなさい、勉強だけ出来るなんてこれ以上の幸福は無いわよ、それと年頃の娘さんを外に出した両親にもちゃんと感謝なさい、私の頃はねもう家出同然で家を出たもんよ」

「そうなんですか?」

「そうなのよ、ユーリって幼馴染とね、あ、今、先生やってるし、すぐ会えるけど、そいつと二人で村を抜けてね、一流の冒険者になってやるーって、子供よねー」

「凄いですね、私には出来ないなー」

「若かったからね、家にお金も無かったし、でも、ルルさんはこうやってしっかり勉強できるんだから、大事にしなさい、将来はどうするの?やっぱり上級兵士?」

「それはまだ悩んでます、私はほら少し魔法が得意だからそれを活かせって言われただけで、卒業したら田舎に戻って実家を手伝いたいなって思ってますけど」

「それでは足りないだろう」

ゲインがボソリと呟く、

「なに?」

ソフィアが見上げ、

「ルルは出来る奴だ、一端の何者かになれる」

ゲインは力強く言い放つ、

「へー、そう思う?」

「勿論だ」

「もー、伯父さんは私の顔を見るたびに言ってるんですよ、両親に学園を薦めてくれたのも伯父さんなんです」

「へー、どうして、また?」

「ルーツがな、あの娘は大成すると言っていた」

「えっ、ルーツ?・・・なるほどね、ふーん、ならそうかもねー」

「だろう?」

「うん、納得した」

「えっと、ルーツ・・・さんですか?」

「あぁ、こっちの話し、そっかー、そういう事なら期待するわよねー、うんうん、それを聞いたら私も期待しちゃうかなー」

「そんな・・・」

ルルは不安そうに顔を曇らせる、

「・・・大丈夫だ、お前は自分を信じろ」

ゲインはルルの頭に手を乗せた、朴念仁を通り越して無駄に巨大な置物のような男である、しかし、取り敢えずの気遣いは出来るらしい、そして、やはりと言うべきかその顔には一切の表情がない、置物か彫像のようである事には変化は無かった、

「むー、伯父さんはこれしか言わないんですよ」

「そっかー、ゲインらしいわねー」

アッハッハとソフィアは高笑いをしながら街の案内はそっちのけで歩を進め、

「あっ、あれが寮ね」

やっと案内らしき事をしたと思えば寮の前である、

「で、こっちの建物が事務所」

「事務所?」

「そうよ、ほら、あそこにお店があるでしょ、そこの事務所、あなたの先輩がやっている商会だからそのうち世話になるかもね」

「・・・はぁ?」

ルルは不思議そうに首を傾げる、見れば確かに寮の脇にあるのは出店のようである、それもそこそこに流行っているのか人だかりがあり、その客達は勿論店員達も皆、ゲインを見上げてポカンとしていた、

「じゃ、入りましょうか、玄関はこっちよ」

ソフィアが先に立って寮に入り、ルルはそこでこの寮の流儀となる足の清拭とスリッパについて改めて説明された、先程3階を通った折にはクロノスにこうしろと言われて良く分からずにそうしたルルであったが、ソフィアの解説によってその意図を理解し、なるほどと理解を示す、しかし、

「ソフィア、俺の足には合わんぞ」

来客用のスリッパをつまんでゲインが呟く、

「あー、そりゃそうだわ・・・申し訳ないけど、裸足でいい?床は綺麗にしてあるから、あ、足はちゃんと洗ってよ」

「・・・仕方ないな」

ゲインは素直にソフィアの言に従い、ルルは嬉しそうに来客用スリッパに足を滑らせる、

「ふふ、これ気持ちいいですねー、サンダル脱げるのは嬉しいです」

「でしょー、あっ、そっか、新人さん用にスリッパ作らないとよね・・・作らせるか・・・」

「皆さん別々なんですか?」

「そうよー、自分用のを大事に使うのが大事なのよ、靴箱も作らなくちゃだわね、全然準備してなかったわ」

ソフィアは誤魔化し笑いを浮かべながら食堂へ入る、

「戻りま・・・」

「来たー、お帰りー」

ミナが駆け寄り、

「遅かったわね、歩いて来たの?」

ユーリがのんびりと一行を迎えた。
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