セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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47話 沈黙の巨漢 その2

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エレイン達がブラス達と合流し、まずは屋台の打ち合わせとなって寮の倉庫へと足を運ぶ、テラが寮の食堂へ顔を出しジャネットに声をかけ、やや遅い朝食を楽しんでいたジャネットとケイスはすぐに腰を上げるとソフィアに報告しながら内庭へ駆け出した、何事かとミナがそれに続き、めんどくさそうにレインも続く、そしてジャネットとケイスによって屋台が内庭に出されると、

「お祭り?」

「新しく屋台を買うのよ、その打ち合わせ」

「へー、スゴーイ」

ケイスが優しく教えるがミナは恐らく良く分かっていない、倉庫から引き出された2台の屋台の周りをチョコマカと歩き回っていたがその興味は浄化槽の方へ向かい、

「石、無くなったねー」

「積み終わったんじゃろう」

「あれは何してるのー」

「コンクリートじゃな、砂やら灰やらを練って壁に塗るんじゃろ」

「へー、ミナもやりたいなー」

「力がいるぞ、泥じゃからな」

「泥遊び好きー」

「あれは仕事じゃ」

「仕事じゃ駄目?」

「駄目じゃな」

「ブー」

レインと共に職人達の作業に熱い視線を注ぐ、その背後で、

「大事に使ってるねー」

ブラスは大雑把ではあるが屋台を2台とも点検しニコリと微笑んだ、

「えへへ、そりゃぁもー、大事な商売道具ですからー」

ジャネットがデレデレとした笑みとなる、

「月に一度しか使ってないですしね」

エレインが冷ややかに答えるが、

「いや、大したもんだと思うぞ、月に一度しか使わないから掃除もしないって奴もいるからな」

「へー、そういう人もいるんだー」

「うん、ま、俺たちとしては直せと言われれば商売になるから黙って直すがさ、やっぱりあれだよ、大事に使ってもらっていると嬉しいもんだよ」

ブラスが屋台の柱を撫でつつニコニコとしている、

「で、どうします?」

テラが先を促した、

「あ、それで、提案としてなんですが、こっちの小さい方の屋台を雑貨用にしてみちゃどうかと思いましてね」

ブラスが2台あるうちの一つ、小型の屋台を指示した、屋台は2台とも出店を始めるとなってブラスから譲り受けた中古の屋台である、若干大きさが違い、大きい方はエレイン達がスポンジケーキとソーダ水を販売し、小さいほうはジャネット達がアイスケーキを販売した、商会が始める原因となった思い出深い屋台であり、エレインは勿論ジャネットにとっても、また他の面々にとっても愛着のある代物である、

「屋台はどうしても調理台として作られているんですよ、で、俺たちもそういう頭で屋台を作成して販売しているんですね、なので、折角新しい屋台を増やすのであれば、新しいのはそのまま飲食用にして、古い方を雑貨用に作り変えた方がいいんじゃないかなって昨日思いまして、で、実際に見ても一回り小さいですからね、この屋台は、商品棚として活用するのであればこちらの方が何かと都合が良いのかなと・・・そう思いまして」

ブラスが昨日ブノワトから依頼の詳細を聞き、であればと思い付いた事らしい、エレインはその提案になるほどと頷きつつ、

「そうなると、こちらの屋台を改修するという事ですわね」

「そうですね、ですが、昨日の話しを伺う限りは改修はどの屋台でも必要ですね、もしくは新造になります、表面に棚で、裏面に保管用の棚が欲しいとなると、そうなってしまいますね、なので、安くかつ有る物を有効活用と考えれば、妥当な提案と思います、それと商売を考えればいっそのこと棚を出来るだけ大きく見やすくして、前面にこうバーンと、で、その棚の裏を保管場所にしてしまった方がいいと思いますね、そうなるとこの天板を外して、前面の衝立を半分くらいにして・・・会計の空間は無くてもいいのかな?」

ブラスが屋台を前にして身振り手振りで改修案を説明する、

「会計はですねー、店の横で使うにしろ、お祭りで使うにしろ別の場所で対応する事になると思います、その方が速いしまとめられるしー」

ジャネットが答え、エレインはそれもそうねと納得する、

「であれば、この柱と柱の間を全面棚にできるかな?・・・どうだろう、一部に鏡を埋め込むとか・・・」

「えっ、それは・・・」

「・・・面白いですわね・・・」

ブラスの唐突な提案に、エレインとテラは驚き、

「それいいね、流石ブラスさん」

ジャネットは楽しそうに飛び跳ねた、

「うん、ほら、髪飾りとかも売るんであれば、試着したいだろうなって、思ってね」

ブラスははにかんだ笑みを見せる、

「そうですね、確かに」

「はい、そっか・・・試着か・・・」

「でも、人が集まり過ぎないかしら?」

「ならあれだよ、お祭りの時は鏡を並べた腰掛けとか作る?」

「それこそ、人だかりになりますよ」

「それもそうか・・・商売にならなくなるよね・・・」

エレインとテラとジャネットがその状況を想像してうーんと首を傾げた、

「そんなに悩まなくても、ほら、鏡を置ける場所を確保しておけばいいんですよ、鏡を置く置かないは別にして」

静かに見ていたブノワトが口を出し、3人は同時にそれもそうだと顔を上げる、

「そうですね、ガラス鏡の店が出来て、一般販売もされるようになればそれほど衆目も集めないでしょうし、棚も高さを変えられるようにしますんで何とでもなると思いますし・・・でも、いつになるのかな?ま、先ですね」

ブラスが明るく言い放つ、

「そうね、うん、でも、面白いわね、ガラス鏡の宣伝にもなりますしね」

「合わせ鏡の大きさであればそれほど邪魔にならないでしょうし」

「そうだねー、合わせ鏡とか手鏡とかも屋台で売りたいよねー」

「取り扱う金額が大きくなりすぎますよ」

「そうですが、気軽に買えるようになるのは良い事ですわ」

「そうでしたね、それも目標の一つでしたね」

「で、どうします?この屋台を改修します?それとも新しい屋台に棚を付けます?」

ブラスが決断を求める、

「私としてはブラスさんの意見を採用したいと思いますが、ジャネットさんはどうです?」

エレインがジャネットへ意見を求めた、ジャネットはウーンと首を捻りつつ、

「うー、短い間だったけど愛着あるんだよねー、なんていうか・・・汗と涙と涎と泥の沁みついた・・・愛しいユーフォルビア1番隊隊長・・・」

優しく屋台に触れるジャネットである、

「隊長って・・・」

「そんな風に呼んでたの?」

エレインとテラが不思議そうにジャネットを見つめ、

「名前付けてたの?」

ブノワトが呆れたように問う、

「・・・今、付けた・・・」

寂しそうにジャネットが呟く、

「おいっ」

「なんですのそれ?」

「適当な・・・」

同時に突っ込む面々である、

「えー、でも、愛着はあるしー、でも、ブラスさんの言う事はその通りだと思うしー」

ジャネットがブーブーと反論する、その顔は別にふざけているわけではない様子である、愛着があるのは事実ではあるし、汗と泥が沁みついているのも事実であろう、

「あっはっは、お前さんも面白いな、別にあれだぞ、壊してしまうわけではないからな、生まれ変わると思えば少しはマシに感じるんじゃないか?柱やら車輪やら屋根も黒板もそのままだしな、お色直しって言った方が良い感じかな?」

ブラスの優しい言葉にジャネットは尚、ウーウー唸っているが、

「うん、じゃ、任せる、綺麗になって帰って来るんだぞ・・・えっと、えっと・・・第一ユーフォルビア軍団長」

屋台に抱きつき名残惜しそうなジャネットである、しかし、

「急に偉くなったわね・・・」

「本当に愛着あるのかしら?」

「ジャネットさん、面白いですね」

冷ややかな視線と冷静な言葉が遠慮なく浴びせられ、ブラスは笑いながらも、

「じゃ、次は倉庫の新設の件ですね、事務所の方で?」

「はい、どうかしら場所はあると思うんだけど」

「そうですね、地下倉庫の入口近辺なら作れると思います」

「屋台はどうする?」

「改修する方は今日持っていきますよ、片方は戻しちゃっていいかな」

「じゃ、そのように、ジャネットさん、お願いできる?」

「りょうかーい、この子は出しておきますね」

「そうだね、後で取りに来るよ」

「ほーい」

ジャネットとケイスは屋台を倉庫へ戻し、エレイン達は事務所へと戻った、ミナとレインはそれほど面白くなかったなと寮へと戻る、厨房に入ると、

「あっ、ブノワトさん来てた?」

食糧庫から顔を出したソフィアに聞かれ、

「うん、ねーさん来てたよー」

「そっか、じゃ、お裾分け持って行って貰おうかしら?」

「あっ、ミナが持っていくー」

「はいはい、葡萄と林檎と栗か、ミナ、レイン、適当に選んでおいて」

「わかったー、えっと、えっと、コッキーのもー?」

「そうね、コッキーさんにも持って行って貰いましょうか」

「わかったー」

食糧庫に駆け込むミナとそれを追うレインである、ソフィアは二人と入れ違いになりつつ、行く手間が省けたわねと出不精らしい満足げな笑みを浮かべた。
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