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本編
45話 兵士と英雄と その3
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「ではもう一つ」
さらにバーレントが別の木箱に手をかける、
「こちらも試作品です、御意見を頂ければ幸いです」
ブラスが手伝いつつ取り出したのは細長い木の板である、それには支えとなる長い棒が中程から伸びている様子でそれを開きつつ床に置き、クルリと回転させた、
「へー、こうなるのかー」
「これは良いですね」
「そうですわね、あちらと比べてはいけませんが、こちらの方が有用な感じがしますわ」
それはやはりガラス鏡であった、ソフィアが案として出した床に置く型の姿見である、高さは壁に貼り付けられたそれの半分も無く、幅にいたっては4分の1も無い、縦に細長く若干傾斜していた、その傾斜が良いのであろうか壁に設えた大型のそれよりも鏡の前に立つ者の姿をより正確に映し出しているように感じる、しかし、その大きさ故に顔迄は映していない、それでも、用途を考えれば十分な品であると言える、
「ねー、これは欲しくなりますよー」
「うん、一家に一台だよね、これこそ」
ブノワトとコッキーがニコニコと4人の様子を伺っている、
「そうね、なるほど、角度が付いているからいいのかしらね」
「そうですね、それに数歩離れて使うものですから、顔まで映らなくても良いのですよ」
「確かに、3面鏡の時も離れて見てましたからね、うん、実用的な品ですわね」
「支えとか頑丈に出来てる?子供が倒したりしない?」
「あー、すいません、そこまでは、そういった点はこれからですね、やはり気になります?」
「そうね、ほら、ミナもそうだけど子供は家の中でも走り回るでしょ、簡単に倒れると困るかなって・・・」
「確かに、家に置いたら怖いかも・・・」
「そうですよね、そうなると重い台を別途つけるか・・・」
「うん、広い台が欲しくなるのかな?」
「あまり大きいと邪魔じゃないか?」
「それはお客様の家庭事情次第だと思うけど・・・」
「今は支え一本?」
「はい、棒の先に平らな板を付けてはいます、それだけでも支えとしては十分ですね」
「そっか・・・うーん、その平らな板を大きくする?」
「もしくはあれです、台になるような板が広がるように折り畳めるようにするか」
ソフィアとブラスとバーレントが早速改良点を出し合い、ブノワトとコッキーもその輪に交じり、マフダは鏡の表面を繁々と観察している、エレインとテラは、
「この大きさであればどこにでも置けますね」
「そうね、工事の手間も必要無いですし、うん、私としてはあちらの大鏡は貴族用、こちらの鏡は平民用と考えていたのですが、こうなると、こちらの鏡も貴族用で販売しても問題無いですわね」
「確かに・・・うん、値段次第ですがより普及するのはこちらかなと思います」
「そうよね・・・そうなると、店舗の配置も考え直さないと・・・」
「それもありましたね」
店舗に関する意見を出し合う二人である、それを横目に、
「ほらほら、顔半分ー」
「ほう、それは良いのう」
ミナとレインはその鏡を間に置いて早速遊び始めた、
「こら、遊び道具じゃないのよ」
ソフィアがミナの肩を押さえるが、
「こうか?」
レインが鏡の端に顔を密着させて見せると、
「わ、何それ、面白い」
ソフィアは思わず歓声を上げ、
「でしょー、ミナがやったの、ミナが思い付いたのー」
ソフィアの手からスルリと逃れたミナがレインと共に鏡の端に顔面を密着させた、
「わ、ホントだー」
「うん、可愛い・・・かな?変な顔ー」
「うふふ、お鼻が二つー」
「む、こうじゃ、目が四つだけー」
遠慮無く遊びだした二人に大人達はその発想に感心しつつも笑い声を上げるのであった。
一頻り立ち話で意見交換した後でテーブルを囲み、マフダの点てた茶を手にする一同である、マフダはそのまま名残惜しそうにしつつも店舗の仕込み作業に入り、エレイン達は落ち着きつつもチラチラと大鏡へ意識を取られている、初めてガラス鏡を見た時と同じだなとエレインは思いつつ、
「何かあそこだけ別の部屋に繋がっている感じですわね」
その内心が感想となって口をついた、
「そうですねー、部屋が広くなった感じすらしますよ」
「そうねー、不思議な感じー」
「うふふー変なのー」
「そうね、変な感じね」
穏やかに談笑する一同である、しかし、やはりどこか違和感があるのであろう、不安感とまではいかないまでも異物感があるのである、
「これはあれね、慣れるまではシーツで隠しておこうかしら」
「そうですね、あれです、夜見たら叫ぶ自信がありますよ」
「あー、それ分かるかも、怖いよね、たぶん」
「えー、折角作ったのにー」
「慣れるまでよ、3日も経たないで普通になるわよ」
「面白いよー、ミナ、あれ欲しいー」
「ミナちゃんは豪胆だなー」
「ゴウタンってなにー?」
「んー、肝が据わっているって事」
「キモ?」
「あー、あれだ、怖いもの知らず?」
「えへへー、そうだよー、ミナとレインはサイキョーなのよー」
「そっかー、最強かー」
軽口を叩き合い場が和んだ頃合いで、
「じゃ、あれに比べるとですが」
ブラスが足元の木箱から布袋を取り出し、中身をテーブルに置いた、
「こちら、どうでしょう、ブノワトに言われるがまま作ったので文句はブノワトの方に」
「何よそれー」
ブノワトが瞬時に反応し横目で睨むが、ブラスは素知らぬ顔である、
「まぁ、これは可愛らしい・・・のかしら?」
「うん、なんだこりゃ?」
「ふふ、いえ、これで良いのですわ」
エレインは想像通りの姿であったのであろう、驚くよりも納得した顔であり、テラはこの造作で良いのかなと不思議そうな顔であった、コッキーとバーレントは聞いていなかったのであろう、テラと同様に不思議そうにその品を見つめている、それはブノワトとエレインが考案した蝶の形の髪飾りである、しかし、蝶であろう事は一見して分かるのであるが、その足に当たる部分が羽よりも巨大である、蝶の足というよりも蜘蛛の足を連想させた、その為醜悪は言い過ぎであるが可愛いとも美しいとも評価し難い外観である、
「もー、確かに一見すると変ですけどー」
ブノワトは不服そうに口を尖らせつつそれを一つ手にすると、
「えっと、ミナちゃんかな?髪借りていいですか?」
ソフィアへ許可を求め、ソフィアはいいわよーと軽く答える、
「ありがとうございます、じゃ、ミナちゃん、ちょっと髪いじらせてねー」
「いいよー、どうするのー?」
コチラもあっさりと了承するミナである、ブノワトは席を立ちミナの背に回り込むと、ミナの髪を優しく一纏めにして後頭部に持ち上げるとその品でガッと簡単に挟み込んだ、
「うん、こんな感じどうでしょう?」
あっという間の出来事である、その早業に皆は面喰いつつ、
「えっ、それだけ?」
「わー、ミナちゃん可愛いよー」
「うん、確かにこれなら蝶に見えますね」
「へー、すごい、お洒落ねー」
「えー、どうなってるのー、なになにー?」
口々に賛辞が送られるが、当のミナは頭を振り回して髪を見ようと四苦八苦している、
「ほら、鏡見て来なさい」
ソフィアに促され鏡に走るミナである、そして、
「わー、チョウチョだー、可愛いー、えー、スゴーイ」
姿見の前ではしゃぎだすミナである、頭を振り回して角度を変えてはキャッキャッと歓声を上げた、
「なるほど、そう使うんですか・・・」
「うん、髪留めも楽ですけど、これはこれで良いですね」
「でしょー、エレイン会長と私の発案なのよ」
「試していいですか?」
「なら、私も」
エレインとコッキーが手を伸ばし席を立った、それを横目に、
「あー、じゃ、先にこちらも、洗濯バサミの改良品です」
ブラスがさらに複数の品をテーブルに並べる、
「あら、どんな感じ?」
ソフィアが身を乗り出した、
「良い感じだと思います、滑り止めの段差を彫って、大きさを3種類程度作ってみました、挟む物によって選べるように、それと挟む力も強くしてます、ですので、ソフィアさんの仰っていた通りに手にした人が使い方を考えられるようにと・・・どうでしょうか?」
「なるほど、確かに・・・うん、これなら簡単に外れない感じね」
ソフィアがその一つを手にして開いては閉じてを繰り返す、ブラスの説明の通り、滑り止めが掘られ捩じりばねの保持力も強くなっている様子である、
「私もいいですか?」
「俺も・・・」
テラとバーレントが手を伸ばし、ソフィアを真似て手慰む、
「なんだこれ、面白いな・・・なるほど、捩じりばねの先が長くなっているのか・・・えっ、これって凄くないか?」
バーレントが瞬時にその構造を理解してブラスへ視線を移す、
「うん、凄いよな、ソフィアさんの旦那さんの発案らしいぞ、蝶のあれも構造は一緒なんだよ」
「えっ、旦那さんって・・・あ、いても良いのか、いや、え、夫婦でとんでもなくないか?」
本人がいる前でなんとも失礼な物言いである、バーレントは、あっと小さく声を上げ、顔を赤くすると、
「すいません、その無礼ですね、申し訳ない」
慌てて頭を下げるが、ソフィアはまるで気にしていない様子で、
「うんうん、簡単に外せないくらい強いわね、これなら風が強くても安心だわー」
空いた椅子の背に手拭いを掛けて早速その使用感を確かめており、
「えへへ、捩じりばねの強化は苦労しました、けど、これなら濡れたシーツも保持できますよ、試しましたから」
ブノワトが嬉しそうにその作業を見ながら胸を張る、
「なるほど、そう使うのか・・・いや、うん、確かに何でも挟めるのか・・・」
その様子にバーレントはさらに目を剥いた、
「そうなんだよ、俺もソフィアさんから聞いた時にはビックリしたんだけどさ、これ工場でも使えると思うぞ」
「うん、そうだよな、もう少し大きくして材木の押さえとかにならないかな?」
「なるとは思うが材木よりもあれだ、皮なめしとかな」
「あー、なるほど・・・そっか、この手元に紐を通してか、その為の穴?」
「うん、そのつもり、指の滑り止めも兼ねてる」
「へー、考えたなー」
「へへ、殆どはソフィアさんだけどな、俺はほら、作っただけだから」
「それだけでも大したもんですよ」
テラが口を挟みつつ、
「これも売り出したいですね・・・ソフィアさん、良いですか?」
「良いわよー、あ、その前に、この中くらいのをどうだろう・・・30個くらい頂ける?」
ソフィアがニヤリとブラスへ視線を送り、
「勿論ですよ、作ります」
ブラスが嬉しそうに微笑んだ。
さらにバーレントが別の木箱に手をかける、
「こちらも試作品です、御意見を頂ければ幸いです」
ブラスが手伝いつつ取り出したのは細長い木の板である、それには支えとなる長い棒が中程から伸びている様子でそれを開きつつ床に置き、クルリと回転させた、
「へー、こうなるのかー」
「これは良いですね」
「そうですわね、あちらと比べてはいけませんが、こちらの方が有用な感じがしますわ」
それはやはりガラス鏡であった、ソフィアが案として出した床に置く型の姿見である、高さは壁に貼り付けられたそれの半分も無く、幅にいたっては4分の1も無い、縦に細長く若干傾斜していた、その傾斜が良いのであろうか壁に設えた大型のそれよりも鏡の前に立つ者の姿をより正確に映し出しているように感じる、しかし、その大きさ故に顔迄は映していない、それでも、用途を考えれば十分な品であると言える、
「ねー、これは欲しくなりますよー」
「うん、一家に一台だよね、これこそ」
ブノワトとコッキーがニコニコと4人の様子を伺っている、
「そうね、なるほど、角度が付いているからいいのかしらね」
「そうですね、それに数歩離れて使うものですから、顔まで映らなくても良いのですよ」
「確かに、3面鏡の時も離れて見てましたからね、うん、実用的な品ですわね」
「支えとか頑丈に出来てる?子供が倒したりしない?」
「あー、すいません、そこまでは、そういった点はこれからですね、やはり気になります?」
「そうね、ほら、ミナもそうだけど子供は家の中でも走り回るでしょ、簡単に倒れると困るかなって・・・」
「確かに、家に置いたら怖いかも・・・」
「そうですよね、そうなると重い台を別途つけるか・・・」
「うん、広い台が欲しくなるのかな?」
「あまり大きいと邪魔じゃないか?」
「それはお客様の家庭事情次第だと思うけど・・・」
「今は支え一本?」
「はい、棒の先に平らな板を付けてはいます、それだけでも支えとしては十分ですね」
「そっか・・・うーん、その平らな板を大きくする?」
「もしくはあれです、台になるような板が広がるように折り畳めるようにするか」
ソフィアとブラスとバーレントが早速改良点を出し合い、ブノワトとコッキーもその輪に交じり、マフダは鏡の表面を繁々と観察している、エレインとテラは、
「この大きさであればどこにでも置けますね」
「そうね、工事の手間も必要無いですし、うん、私としてはあちらの大鏡は貴族用、こちらの鏡は平民用と考えていたのですが、こうなると、こちらの鏡も貴族用で販売しても問題無いですわね」
「確かに・・・うん、値段次第ですがより普及するのはこちらかなと思います」
「そうよね・・・そうなると、店舗の配置も考え直さないと・・・」
「それもありましたね」
店舗に関する意見を出し合う二人である、それを横目に、
「ほらほら、顔半分ー」
「ほう、それは良いのう」
ミナとレインはその鏡を間に置いて早速遊び始めた、
「こら、遊び道具じゃないのよ」
ソフィアがミナの肩を押さえるが、
「こうか?」
レインが鏡の端に顔を密着させて見せると、
「わ、何それ、面白い」
ソフィアは思わず歓声を上げ、
「でしょー、ミナがやったの、ミナが思い付いたのー」
ソフィアの手からスルリと逃れたミナがレインと共に鏡の端に顔面を密着させた、
「わ、ホントだー」
「うん、可愛い・・・かな?変な顔ー」
「うふふ、お鼻が二つー」
「む、こうじゃ、目が四つだけー」
遠慮無く遊びだした二人に大人達はその発想に感心しつつも笑い声を上げるのであった。
一頻り立ち話で意見交換した後でテーブルを囲み、マフダの点てた茶を手にする一同である、マフダはそのまま名残惜しそうにしつつも店舗の仕込み作業に入り、エレイン達は落ち着きつつもチラチラと大鏡へ意識を取られている、初めてガラス鏡を見た時と同じだなとエレインは思いつつ、
「何かあそこだけ別の部屋に繋がっている感じですわね」
その内心が感想となって口をついた、
「そうですねー、部屋が広くなった感じすらしますよ」
「そうねー、不思議な感じー」
「うふふー変なのー」
「そうね、変な感じね」
穏やかに談笑する一同である、しかし、やはりどこか違和感があるのであろう、不安感とまではいかないまでも異物感があるのである、
「これはあれね、慣れるまではシーツで隠しておこうかしら」
「そうですね、あれです、夜見たら叫ぶ自信がありますよ」
「あー、それ分かるかも、怖いよね、たぶん」
「えー、折角作ったのにー」
「慣れるまでよ、3日も経たないで普通になるわよ」
「面白いよー、ミナ、あれ欲しいー」
「ミナちゃんは豪胆だなー」
「ゴウタンってなにー?」
「んー、肝が据わっているって事」
「キモ?」
「あー、あれだ、怖いもの知らず?」
「えへへー、そうだよー、ミナとレインはサイキョーなのよー」
「そっかー、最強かー」
軽口を叩き合い場が和んだ頃合いで、
「じゃ、あれに比べるとですが」
ブラスが足元の木箱から布袋を取り出し、中身をテーブルに置いた、
「こちら、どうでしょう、ブノワトに言われるがまま作ったので文句はブノワトの方に」
「何よそれー」
ブノワトが瞬時に反応し横目で睨むが、ブラスは素知らぬ顔である、
「まぁ、これは可愛らしい・・・のかしら?」
「うん、なんだこりゃ?」
「ふふ、いえ、これで良いのですわ」
エレインは想像通りの姿であったのであろう、驚くよりも納得した顔であり、テラはこの造作で良いのかなと不思議そうな顔であった、コッキーとバーレントは聞いていなかったのであろう、テラと同様に不思議そうにその品を見つめている、それはブノワトとエレインが考案した蝶の形の髪飾りである、しかし、蝶であろう事は一見して分かるのであるが、その足に当たる部分が羽よりも巨大である、蝶の足というよりも蜘蛛の足を連想させた、その為醜悪は言い過ぎであるが可愛いとも美しいとも評価し難い外観である、
「もー、確かに一見すると変ですけどー」
ブノワトは不服そうに口を尖らせつつそれを一つ手にすると、
「えっと、ミナちゃんかな?髪借りていいですか?」
ソフィアへ許可を求め、ソフィアはいいわよーと軽く答える、
「ありがとうございます、じゃ、ミナちゃん、ちょっと髪いじらせてねー」
「いいよー、どうするのー?」
コチラもあっさりと了承するミナである、ブノワトは席を立ちミナの背に回り込むと、ミナの髪を優しく一纏めにして後頭部に持ち上げるとその品でガッと簡単に挟み込んだ、
「うん、こんな感じどうでしょう?」
あっという間の出来事である、その早業に皆は面喰いつつ、
「えっ、それだけ?」
「わー、ミナちゃん可愛いよー」
「うん、確かにこれなら蝶に見えますね」
「へー、すごい、お洒落ねー」
「えー、どうなってるのー、なになにー?」
口々に賛辞が送られるが、当のミナは頭を振り回して髪を見ようと四苦八苦している、
「ほら、鏡見て来なさい」
ソフィアに促され鏡に走るミナである、そして、
「わー、チョウチョだー、可愛いー、えー、スゴーイ」
姿見の前ではしゃぎだすミナである、頭を振り回して角度を変えてはキャッキャッと歓声を上げた、
「なるほど、そう使うんですか・・・」
「うん、髪留めも楽ですけど、これはこれで良いですね」
「でしょー、エレイン会長と私の発案なのよ」
「試していいですか?」
「なら、私も」
エレインとコッキーが手を伸ばし席を立った、それを横目に、
「あー、じゃ、先にこちらも、洗濯バサミの改良品です」
ブラスがさらに複数の品をテーブルに並べる、
「あら、どんな感じ?」
ソフィアが身を乗り出した、
「良い感じだと思います、滑り止めの段差を彫って、大きさを3種類程度作ってみました、挟む物によって選べるように、それと挟む力も強くしてます、ですので、ソフィアさんの仰っていた通りに手にした人が使い方を考えられるようにと・・・どうでしょうか?」
「なるほど、確かに・・・うん、これなら簡単に外れない感じね」
ソフィアがその一つを手にして開いては閉じてを繰り返す、ブラスの説明の通り、滑り止めが掘られ捩じりばねの保持力も強くなっている様子である、
「私もいいですか?」
「俺も・・・」
テラとバーレントが手を伸ばし、ソフィアを真似て手慰む、
「なんだこれ、面白いな・・・なるほど、捩じりばねの先が長くなっているのか・・・えっ、これって凄くないか?」
バーレントが瞬時にその構造を理解してブラスへ視線を移す、
「うん、凄いよな、ソフィアさんの旦那さんの発案らしいぞ、蝶のあれも構造は一緒なんだよ」
「えっ、旦那さんって・・・あ、いても良いのか、いや、え、夫婦でとんでもなくないか?」
本人がいる前でなんとも失礼な物言いである、バーレントは、あっと小さく声を上げ、顔を赤くすると、
「すいません、その無礼ですね、申し訳ない」
慌てて頭を下げるが、ソフィアはまるで気にしていない様子で、
「うんうん、簡単に外せないくらい強いわね、これなら風が強くても安心だわー」
空いた椅子の背に手拭いを掛けて早速その使用感を確かめており、
「えへへ、捩じりばねの強化は苦労しました、けど、これなら濡れたシーツも保持できますよ、試しましたから」
ブノワトが嬉しそうにその作業を見ながら胸を張る、
「なるほど、そう使うのか・・・いや、うん、確かに何でも挟めるのか・・・」
その様子にバーレントはさらに目を剥いた、
「そうなんだよ、俺もソフィアさんから聞いた時にはビックリしたんだけどさ、これ工場でも使えると思うぞ」
「うん、そうだよな、もう少し大きくして材木の押さえとかにならないかな?」
「なるとは思うが材木よりもあれだ、皮なめしとかな」
「あー、なるほど・・・そっか、この手元に紐を通してか、その為の穴?」
「うん、そのつもり、指の滑り止めも兼ねてる」
「へー、考えたなー」
「へへ、殆どはソフィアさんだけどな、俺はほら、作っただけだから」
「それだけでも大したもんですよ」
テラが口を挟みつつ、
「これも売り出したいですね・・・ソフィアさん、良いですか?」
「良いわよー、あ、その前に、この中くらいのをどうだろう・・・30個くらい頂ける?」
ソフィアがニヤリとブラスへ視線を送り、
「勿論ですよ、作ります」
ブラスが嬉しそうに微笑んだ。
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