セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

43話 職人達とネイルケア その17

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「これは緋色ね」

「こちらではいかがでしょう?」

「それは朱色でしょう」

「こちらは?」

「むー、深紅・・・かしら濃い紅色ね・・・今一つだわ」

「リシア様・・・むずかしいですよ」

「もー、アフラは本当にこういう事には感が鈍いというか、どんくさいというか・・・」

「すいません」

フンスと鼻息を荒くし不満そうなパトリシアの隣りで数枚の皿を手に困り顔となるアフラである、

「もう、いいですわ、私直々に調色します」

「なら、最初からやろうよー、姉様、人任せすぎー」

ウルジュラが見かねてアフラを擁護する、

「何を言ってますの?私の筆頭従者たるもの色の調合もできないようでは勤まりません」

「また、そんな事言ってー、じゃ、アフラさんは私が貰うからー、アフラさん、私なら優しくするよー」

「あら、私からアフラを取り上げようなんて・・・ウルジュラ・・・怖いですよ・・・」

本気でウルジュラを睨むパトリシアである、その爪を磨いているコッキーも一瞬で張り詰めた空気に何事かと手を止めてしまった、

「リシア様、コッキーさんが驚いています、冗談は冗談として対応しませんと」

アフラがその場をとりなし、

「そうだよ、もう、姉様は姉様だなー、少しは丸くなったと思ったのにー」

ウルジュラがブーブーと口を尖らせる、

「なんですって」

さらに睨みつけるパトリシアである、上半身にも力が入ったのか不意に腕が動きコッキーがパッと手を離した、

「リシア様、コッキーさんが困ってます」

どこまでも冷静なアフラである、

「あ、ごめんなさいね」

パトリシアが姿勢を正し、

「なんだよー、丸くなったのはお腹だけかー」

これは面白いとニヤニヤと意地の悪いを笑みを浮かべるウルジュラである、

「ウルジュラ、後が怖いと言いましたよね・・・」

顔だけをウルジュラに向けて凄むパトリシアである、コッキーは作業を再開しながらも、王女様も姉妹喧嘩するんだなー等と思いながら、湧き上がる微笑みを必死でかみ殺した、その隣りのテーブルでは、

「なるほど、繊細な手付きですわ、これなら任せられるかしら?」

「そうですね、それとどういうわけだか安心できます、女性の手に触れているからかしら?」

「なるほど・・・男の手とは違いますからね、わかる気がしますわ」

エフェリーンの爪を磨いているのはブノワトである、彼女はコッキーと共に呼び出されたのはいいのであるが、パトリシアが来るとは聞いていたものの王妃達が来るとは聞いていなかった、パトリシアなら不敬ではあるが友達感覚に近くなっていた二人である、気楽に呼び出しに応じたものの、パトリシアと共に王妃達とウルジュラ、さらに従者達も当然のように現れた、これは嵌められたと気付いたが時すでに遅く、今、彼女は生まれて初めて感じる異常な緊張の中、繊細な作業に従事している、

「こうなりますと、あれですわね、少々爪を伸ばしますか・・・」

「そうね、先程のソフィアさんの話ですと形を整えるのも重要との事でした」

「はい、それにエレイン会長の爪はとても優雅に見えましたわ」

「確かに、でも、伸ばし過ぎるのも・・・いや、手入れをしてあるのがいいのですわね、カトカさんのも良い感じでしたわ」

「そうですね、でも、生来の爪の形も大事かと思います、改めて見れば爪の形も人それぞれですわよね」

「そうね、こうなると・・・自分に合った形を模索する必要がありますわね」

「色もですわ、エレイン会長の二色も良いですが・・・私としてはカトカさんの青が好みですわね」

「あら、マルルースは白かと思っておりましたよ」

「白ですか・・・それも良いですね」

「私はそうね、黒・・・紫・・・は駄目ね、薄い黄色とかいいかしら?」

「えっ、姉様は赤かと・・・」

「あら、それは派手過ぎますでしょ」

「そうでしょうか、抑えた色味であれば派手には見えないと思いますが・・・実際にやってみないとですわね」

「そうね・・・」

脂汗をかきながら作業に没頭するブノワトを前にして、王妃二人はなんとも優雅なものである、それはブノワトに対して、及びエレインとソフィアに対しての信頼の証なのであろう、その隣りのテーブルでは、

「軽く軽くでいいですからね、爪は堅くて柔らかいものです、力を入れすぎない事が寛容です」

ソフィアの指導の下、側仕え達が互いの爪を実験台にして練習に励んでいる、パトリシアの側仕えとして面識のある者や、初見の女性もいるが、皆、真剣な眼差しでやすりを手にしていた、さらにカトカとサビナ、それにマフダも参加している、ブノワトが持参した手製のやすりが数本ある為、その使い勝手を確認し今後の研究会に活かす為と、理由は数えあげれば切りは無いが、ま、そういう事である、

「まずは爪の形を整えます、爪先を楕円にする感じで、優雅な曲線を描くように少しずつ削って下さい、削り過ぎるのが一番問題となるので、少しずつ少しずつです、他の爪とも調整しながらですね、急がないで大丈夫ですよ」

ソフィアも講師役が板についてきたようである、先日から数度に渡って説明した事もあって、慣れたのは勿論であるが、その度に受講者から出る意見や質問がソフィアの中に蓄積されているのであろう、初めてその手技を行う時の問題点や、注意点等を先回りして解説している、ソフィアはそれを無意識で熟している様子であるが、なかなか出来る事ではない、その分かりやすい説明と卓越した指導力にサビナは改めて度肝を抜かれ、カトカは感心するほかなかった、

「表面を削る場合の問題点ですが、先程も説明しましたとおり線に見える角を落とすような感じです、爪そのものの緩やかな円弧に沿って、それに抗わないように、削り過ぎると痛い事になりますから、手と肩の力を抜いて、ヤスリの重さを指で支えるように、削っているか削ってないか不安になる程度で十分ですよ」

手を動かし続ける側仕えに対し、ソフィアは同じことを繰り返し語り聞かせている、サビナやカトカはもう聞き慣れた内容であるが、手を動かしながらであると知識として仕入れたそれらの事前情報は、集中のあまり意識の横に置かれている時がある事を実感する、ソフィアが口うるさい程に語り続ける事が大事なのであるなと、サビナは気付いた、

「はい、で、終わったら、研磨の方に移りますね、レインお願いね」

「うむ、こちらは難しくはないが繊細じゃぞ」

レインがフンスと鼻息を荒くするが、

「ブー、ミナも先生やりたいー」

その隣りでミナが不満顔である、

「ミナはそっちで仕上げでしょ、仕上げ職人の親分なんだから、しっかりやりなさい」

「うー、でも、まだだもん、ねーさんとコッキーが終わってからだもん」

「そうね、だから、しっかり待つの、職人さんは待つのも仕事よ」

「うー、わかったー」

ソフィアが優しくミナを宥めたところで、

「それでは、研磨する人はしっかりマスクをして下さい、石の粉ですから、大量に吸い込んで良いものではないです、毒物というわけではないですし、肌に触れる分にはまるで影響は無いので、そういうものと御理解下さい」

講義が研磨作業へと入っていく、レインが実際の作業を見せつつ、ソフィアが解説を加える、側仕えは当然のように、サビナやカトカ、マフダも身を乗り出してその様子を見守った、そして、

「はい、ここまでが爪を磨くという手技の作業工程になります、メイドさん達やご婦人方かな?清潔感が大事な人や、ちょっとしたお洒落をしたい人はここまででも十分な効果があると思います」

レインの手により磨かれた爪は見事に滑らかな輝きを見せている、側仕え達はホーと納得と感心の入り混じった溜息を吐いた、

「それで、これはまだまだ検証が必要かと思うのですが、爪は伸びます、当然ですね、そうなると根本の方から磨いていない状態の爪が見えてくると思うのですね、その状態の手入れをどうするかとか、色を乗せた状態だとどうなるかとかまだまだ課題の多いお洒落です・・・ま、ほら、お洒落といものは手間がかかるくせに無駄なものですから、そう思って楽しみましょうか」

ソフィアは最後の最後で身もふたもない事を口にする、まったくその通りだと笑い声が起き、

「それを言ってしまったら・・・」

「うん、ソフィアさんらしいなぁ」

サビナとカトカは苦笑いを浮かべるしかなかった。
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