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本編

43話 職人達とネイルケア その10

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一通り作業は終わったようである、その反応は上々であった、手間の問題で1本だけのお試しという感じであり、それでも数人分を磨いたブノワトとコッキーは大きく肩を回して疲れをとる程に疲弊し、ミナとレインもそれなりに気を使ったのであろう、疲れたーと喚きテーブルに突っ伏している、

「オリビア、職人さん達にソーダ水をお持ちして」

その様子にエレインが指示を出し、オリビアはすぐにと席を立つ、

「これこそが美容の何たるかですね」

「そうだねー、うん、なるほどなー、ソフィアが言ってたのはまさにそうなのよね、私も相手の顔を見ない時ってその人の手とか見てるからね・・・うん、なんていうか無意識よね、あれは・・・気付かなかったな・・・クソー、やっぱりムカつくわー」

ユーリが完全に敗北を意識した様子である、感情的にならないように自制していたらしいが、一段落してやはりその負けん気が鎌首をもたげる、

「所長でもそうなんですか、私はいつも下向いてるから、手で相手を認識してますよ」

カトカが得意そうに口にするが、

「あーたはどうしてそう根暗なのよ」

サビナが嫌そうにカトカを睨む、

「根暗じゃないですー、恥ずかしいんですー」

「それ根暗って言うんですよ」

ケイス迄もが眉間に皺を寄せた、

「えー、ケイスさんまでなんですかー、いじめですかー」

「かー、じゃないわよ、いい歳こいて、でも、やっぱりあれよね、あんたの爪カッコいいわよね」

サビナがカトカの手を注視する、

「うん、それは同意するわ、ちょっと見せて」

「はい、私もそう思ってました」

「えー、安くないですよー」

「あん、何様じゃー」

ユーリとサビナはカトカの手を強引に引っ張り出してギャーギャーと騒がしい、ケイスは真剣な目で自身のそれとカトカの爪を見比べていた、

「うーん、兵士としてはどうだろう?」

その隣りでは、ジャネットとアニタとパウラが深刻そうな顔である、

「爪を手入れするのは大事だって言ってるじゃないですか、ほら、伸ばし過ぎると割れたりするし」

「うん、そうなると剣も槍も握れなくなっちゃうしね、力入らないもん」

「でも、削るって事は薄くなるって事でしょ、割れやすくなるんじゃない?」

「それもあるねー」

「うーん、どうなんだろう、爪の形を整えるっていうのは正しいと思うなー、見た目を良くするというよりも整えるって感じかな?荒れてると割れやすいって聞くしね」

「確かにそれは有効よね、エレイン会長みたく長くしないまでも綺麗な状態を保つ必要はあると思うなー、握りこぶしを作った時も力を籠めやすい感じがするし」

アニタが両手を握りこぶしにして力を籠める、

「あ、ほんとだ・・・うん、意識して無かったな、爪が当たるんだね手のひらに」

「確かに、でも、実戦ではそんな事気にしてられないですよ」

「そうだろうけど、折角の技術だもん、活用したいじゃないさー」

「それは分る」

「そうだよねー」

深刻そうに首を傾げる兵士見習いにもなっていない上級兵士志望の娘達であった、

「こんな感じですか?」

「うん、そうそう、力を抜いて、かるーく撫でる程度でいいよー」

「削れてる感じがないですよ?」

「大丈夫よ、指で拭ってみて、削れてるから」

「あ、ホントだ・・・なるほど、そっか、うん、うん、分ってきたかも・・・」

ブノワトとコッキーを捕まえ熱心に実技に勤しんでいるのはマフダである、自分の左手に向かって器用にやすりを動かしている、

「マフダねーちゃんも上手だねー」

ミナがその作業をテーブルに顎を乗せて見物している、

「わかる?すごいなミナちゃん、あ、ミナ師匠か、えへ、褒められちゃった、嬉しいな」

ニコリと微笑むマフダである、

「むー、今日は仕上げ職人なの、師匠じゃないのー」

突然怒り出すミナである、バッと上半身を上げて両手を大きく振りかざす、

「あっ、そうだった、じゃ、ミナ親方?」

「親方いいねー、親方ー、お疲れ様っす」

コッキーがニヤニヤとミナをからかい、

「親方かー、じゃ、レインちゃんは親分だね」

「なにをいっとる?」

「ミナ親方と、レイン親分だー」

「むー、それはなんかやだー」

「えーでもなー、職人の偉い人って親方とか親分なんだよー」

「そうだよー、ミナ親方可愛いじゃないー」

「可愛くない、職人がいいのー、仕上げ職人なのー」

「はいはい、仕上げ職人のミナ親方ねー」

「むー、ねーさん、しつこいー」

れっきとした職人3人と急造職人は楽しそうに笑いあう、そこへ、

「お疲れ様でした、先生がた」

オリビアがソーダ水を職人達の前に並べる、

「わ、ありがとうございます」

「えー、いいのー」

「勿論です、お疲れでしょう、ゆっくりして下さい」

オリビアの優しい笑顔にミナは歓喜の声をあげて杯を手にする、

「すいません、頂きます」

「どうぞ、どうぞ、それで、私もしっかりと身に着けたいと思うのですが、難しいでしょうか」

オリビアはそのままマフダの隣りに座りこむ、

「オリビアさんなら大丈夫だと思うよ、大体なんでもできるんでしょ?」

「そういうわけでもないですよ、人並みです」

「その人並みの基準が難しいと思うなー、ま、やってみればいいよ、ゴツイやすりだから注意しなきゃだけど、慣れれば全然いけるし、マフダさんもコツを掴んだようだしね」

「マフダさん早いですね・・・」

「えっ、いやー、それほどでもないです・・・お二人の指導が上手なんですよー」

「むー、ミナはー、ミナも教えてあげるー」

「あ、そうだね、仕上げも教えてもらわないと」

マフダがミナの前に移動すると、

「ミナ先生、仕上げを教えて下さい」

「むー、難しいぞー」

「はい、頑張ります」

「うん、まずはマスクをするの、大事なの」

「はい、先生」

どこかふざけているような、それでいて真面目な指導が始まったようである、

「これもエルフの里ですか?」

ソフィアがテラとエレインに捕まっている、

「あー、そういうわけでもないかなー、ホントのことを言うと旦那に教えてもらったのよ」

「えっ、旦那さん?」

「うん、それとガラス職人さん、ガラス鏡とかガラスペンとか教えてもらったところ、で、旦那の郷里だと爪を整えるのは身だしなみとして当たり前なんだって、女性は特に、だから、こっちの人は無頓着だなーってぼやいてたかな」

「へー、それはまた・・・」

「はい、随分、なんというか、意外ですね・・・」

「そうよねー、なんでも、男性でも達人と呼べる人ほど爪の手入れをしているらしいわよ、ほら、何をするにしても大事なのは手の力だったり指の力だったりするでしょ、手袋は勿論するんでしょうけど、そういう極めた人ほど末端への意識を大事にするんだかとかなんとか、小難しい事言ってたけどね」

「男性でもですか・・・」

「うん、別に女性が達人と呼ばれても不思議はないんだけどね、力仕事でも繊細さが必要とかなんとか、極めればそうなるものなのかしらね」

「ソフィアさん、その話詳しく聞かせて下さい」

耳聡いジャネットである、これは大事と話しに割り込んだ、

「そうね、詳しくって言われると困るんだけど」

ソフィアはタロウから聞きかじった知識を思い出しながら口にする、しかし先程の話しと大差は無いようである、

「へー、そっかー、と言う事は兵士にも有効って事ですよね」

それでもアニタは嬉しそうに理解を示し、パウラも大きく頷いている、

「そうなるわね、ま、何にしろあれよ、男だろうが女だろうが綺麗にしておいて損は無いと思うわよ、髪だって身体だって同じでしょ、なら、爪もそうだしね、肌もそう、そうなると、美容というのは健康である事が一番大事な事だと思うわよ、病人や怪我人だと美容どころじゃないしね、その上で、逆説的に言えば、清潔である事が健康の源として、それは当然のように美容にも繋がっていくわけね、でしょ」

「前にもそれ聞きましたね・・・うん確かにその通りです」

エレインとテラもなるほどと呟いた、

「まぁね、あ、そうだ、で、もう一つ面白い仕掛け?があるんだけど、ただ、普通の人には向かないと思うのよね・・・」

ソフィアがうーんと首を捻る、

「仕掛けですか?」

「普通の人意外で?」

「普通の人が誰を意味するかが分らないですよー」

「それもそうか、えっと、たぶんだけど、貴族様には有効ね、うん、貴族様は普通の人?」

「あー、その表現はどうかと思います」

エレインが眉を顰めつつ、

「でも、気になります、なんですか?」

単刀直入に問うエレインである、

「そうね、うん、えっと、顔料を売ってる店って知ってる?」

「顔料ですか?」

「うん、絵具ってやつ?買ったことないから分らないのよ」

「えっと、確かマフダさんとサビナさんが先日行った店かな?」

「そうね、サビナさん」

エレインがサビナを呼び、まだ何かあるのかとユーリ達も合流する、こうしてソフィアが夕食の準備を言い訳にするまで、食堂はワイワイと騒がしかったのであった。
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