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本編

43話 職人達とネイルケア その4

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「もどったー」

寮の食堂にけたたましくミナの声が響いた、玄関ではなく階段からである、学園からユーリの事務室を経由して戻ったのであろう、

「はい、お帰りー」

ソフィアはもうそんな時間かしらと厨房からヒョイと顔を出す、

「ソフィー、楽しかったー、サビナと実験やってきたー」

ミナはサンダルを両手に振り回しながらソフィアに駆け寄って早速の報告である、その背後には王妃達一行の姿があった、続々と階段を下りてくる足音が響いてくる、

「お疲れ様です、少しお休みになられますか、お茶を用意しますが」

ソフィアがスイッと食堂へ入り一行に声をかける、

「お気遣いありがとうございます、ソフィアさん」

アフラが柔らかい笑顔で答えつつ、

「いかがなさいますか、お休みになりますか」

エフェリーンとマルルースへ確認をとる、

「そうね、少しばかり歩き疲れたかしら」

「そうですね、普段は馬車ばかりですから」

二人はやや疲れたような顔をしている、しかし、十分に楽しめたのであろうか、とても良い顔であった、

「はい、では、少々お待ちください、そうだ、ベールパンを用意させましょうか?それともロールケーキもあるかと思いますが」

「それもありましたわね、では、注文をまとめてお願いしようかしら」

エフェリーンがヤレヤレと腰を下ろし、

「そうね、皆さんもお好きな物を注文なさい」

マルルースは側仕え達にも休むようにとの言外の気遣いを見せる、側仕え達は玄関へサンダルを並べたうえで食堂に戻って来る、

「はい、では、お茶の用意をしておきますね」

「ミナはー?ミナもいいー?」

ミナがソフィアの足に縋り付く、

「勿論よ、じゃ、ミナは注文をまとめてくれる?」

「うん、わかったー、えっと、えっと、どうやるのー」

ミナが不安そうにソフィアを見上げた、どうと言われてもなとソフィアが一瞬悩むと、

「ミナちゃん、手伝ってあげるー」

ウルジュラがミナの頭に手を置いた、

「えー、いいのー?」

「ふふん、まかせなさーい」

二人は楽しそうに微笑みつつ、

「じゃ、ベールパンの人、手を上げてー」

「うん、ベールパンの人、だれー?」

注文の聞き取りが始まったようである。



「そうなると、最短で3日後ですわね」

「そうなります、特に大きな補修は必要無いとの事でした、明日・明後日で工事を終えると確約頂きました」

一行が食堂で寛いでいる所にエレインが屋敷から戻り、早速と細かい打ち合せが始まった、

「主に2階と3階の補修になります、1階に関しては店舗の改修と合わせてという形になりまして後日改めて工事に入る段取りになります」

「話が速くて助かりますわね、陛下にも良い報告が出来ます」

エフェリーンが安心したのかホッと一息吐いた、

「そうですね、そうなると・・・ま、殿下がこちらに来てからでも細かい準備は可能でしょう、転送陣も置かれますしね」

「確かに・・・そうしますとアフラさん、いや、パトリシアね、アフラさんを明日以降の王城の準備に貸して頂けるかしら?」

「はい、かまいません、そのつもりでした・・・そうだ、転送陣の運用もしっかり考えないとですわね・・・クロノスは一度北ヘルデルを経由するのが安全の為にも運用としても必要であると考えている様子でした、いかがでしょうか?」

「・・・そうね・・・その辺はお任せするのがいいかしら、使える人がいない事にはどうしようもない品ですものね」

「そうですね、御理解頂き嬉しいです」

「うん、そうしましょうか」

エフェリーンは静かに頷き、エレインに向き直ると、

「エレインさん、御助力に改めて感謝致しますわ、王家として相応に報いる事を約束しますわね」

真摯な笑みを浮かべる、

「いえ、そんな、勿体ないお言葉です、私どもとしましても立派な店舗を頂けるという事ですから、今後より一層、商会として、ライダー家の端くれとして王家への忠誠を誓い、感謝の想いを忘れる事はありません」

エレインは静かに頭を垂れる、その様にエフェリーンのみならずマルルースもパトリシアも嬉しそうに微笑んだ、

「そうだ、で、話が変わるんですけど、うるおいクリームですか、あちらの品なんですが」

パトリシアがズイッと身を乗り出すと、

「今朝も話したのですが、もっとこうお洒落にできないかしら?」

「お洒落ですか?」

「そうなの、薔薇の香りも良いのですが、もっとこう、使っていて楽しくなるような・・・あの色が良く無いのかしら?」

「それは、今日の講義でもあったでしょう、他のオイルを使えばまた発色も違いましたでしょ」

「それはそうですが、サビナ先生の言によるとまずは利便性と効能を優先にという事でしたから、であれば、こちらで見た目を良くするように研究しても面白いと思いますのよ」

パトリシアにとってはサビナは立派な先生になっているらしい、さらに誰もその点を修正する者はいない、

「そうですね、私どもとしましても専用の容器は考えておりました、特に香り付きの物は高価になりますし、簡単に作れる物ではないと思います、ですので貴族向けの品として、高級品としての体裁を整える方向で開発しようと考えておりました」

「まぁ、それは良いわね」

「でしょー、でもそうなると、クリームの色も重要になりますわよ、現状の黄緑色では今一つ・・・なんというか薄汚れた感じがしますのよね」

「わかりますわ、それ、昨日は薬と思って試してみましたけど、そうですね、もっとこう気持ちよく使える色というものがありそうですわよね、なんというか印象が変わると思います、より薬らしくといったら変ですが・・・美容に使える品としての色があるように思うのですよね・・・」

マルルースも楽しそうに話しに加わった、何とも贅沢な内容である、しかし、開発中の品であり、エレインはどのような意見も歓迎すると今朝方宣言したばかりであった、ゆっくりと開発していこうとも考えていたのであるが、これ程に期待されるとやはりエレイン自身の気も急いていくというものである、

「色ですか・・・うーん、こういう時は・・・」

エレインの視線がゆっくりと動く、やがてソフィアをその中心に据えてピタリと静止する、

「なるほど、諸悪の根源が居りますわね」

パトリシアの視線もエレインに倣う、

「まぁ、二人共、でも、その気持ちは分かりますわ」

「そうですわね」

エフェリーンとマルルースもニコリと微笑みつつソフィアを見つめる、ソフィアはそろそろ夕食の支度を再開しようかしらと思っていた所であった、腰を上げようとして食堂の一画から注がれる視線に気付きピタリとその身を凍らせる、

「えっと・・・どうかされました?」

思わず反応したのが運の尽きと言えるであろう。



「へー、で、あんたがやる事になったの?」

「そうらしいわよ、ね、エレインさん」

「そんな、睨まないでほしいですわ」

「で、具体的にはどうするつもり?」

「どうしようかー」

「なによ、適当ねー」

「えー、だってさー、考えた事も無かったしー」

夕食を終え、片付けが済んだ後の食堂でダラダラと過ごす時間である、ミナとレインは宿舎に引き上げたが、ソフィアは編み物を手にしており、カトカとサビナは今日の疲れからか夕食を摂ったというのにグッタリしていた、言葉も少ない、

「大丈夫ですよー、ソフィアさんならなんとかできますってー」

「そうです、そうです、またなんか隠してるんじゃないですかー」

ジャネットとケイスは何とも無責任なものである、ソフィアに編み物を教わりながらの恩知らずも良い所な発言である、

「あんたらまでー、もー」

ソフィアはジロリと二人を睨むが二人のニヤニヤとした笑いは消せるものでは無い、

「リシア様の言う事はわかるんだけどねー、なんというか曖昧なのよねー」

ソフィアはヤレヤレと溜息を吐く、

「確かに、お洒落にしたいってのは分かるんですが、薔薇の香りだけでも十分な気もしますよねー」

「そう?でももっとお洒落になるならいいんじゃない?」

「お洒落っていっても限度があるでしょうし、なによりお薬よ、あれ、薬をお洒落にって・・・でも、ま、いいのかな?」

「だから、ほら、エレインさんがガラス容器を頼んだんでしょ、それだけでも違うと思うけどなー」

「そっかー」

「それと、ほら、今日の講義でも色の薄いクリームも出来てたじゃない、お洒落云々言うのであればそっちの結果待ちでいいんじゃないの?」

「そうだよねー、それでいいんじゃないですかー」

ケイスがエレインに問う、

「そうね、ま、時間は貰ってあるから・・・簡単に出来るものでは無いし、変に変な事になってもって説明してあるしね」

「そうですね、でも、なんかあるんじゃないですかー」

ケイスの意地の悪い視線がソフィアへ向かう、

「あー、ないわけではない・・・んだけど・・・」

ソフィアは渋々と認めた様子である、

「ほらー」

勝ち誇ったように微笑むケイスである、

「なによ、あるんじゃない」

ユーリも大声を上げる、しかし、

「あー、どうしようかな、まったく別の品で誤魔化すか・・・そっちに注力してましたで逃げようかしら・・・うん、あのね、まさに美容の事なんだけどね・・・爪磨く?」

ソフィアの見事なまでに方向違いに振り切った発言に食堂内は一瞬静まり返った、

「つめって・・・爪ですか?」

ケイスが沈黙を破って素直に問い返す、

「そうよ、ほら、もう少しゆっくり試してからかなーって思ってたんだけどさ、サビナさんに用意して貰ったしね、そっちで気を引こうかしら・・・時間稼ぎにはなるわよね、たぶん・・・」

「えっと、しっかり伺いたいのですが」

ジャネットが背筋を正してソフィアへ向き直る、私も私もと賛同の声が上がった、

「うーん、じゃ、どうだろう、ミナがいないとうるさいからな、今日は駄目ー」

ソフィアの遠慮の無い拒否に食堂内には非難の声が溢れるのであった。
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