セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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42話 薔薇の香りはなめらかに その7

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「あ、ねーさんお疲れっす」

ブノワトとブラスが寮から出たところで、事務所から出て来たジャネット達と鉢合わせた、アニタとパウラの他、昨日の祭りで顔馴染みとなった生徒達である、

「あら、お疲れ、昨日はありがとねー」

気さくに挨拶を交わしキャッキャッと同年代らしく朗らかに笑いあう、

「こちらこそですよー、今度から一緒にやりましょうよー、楽しかったしー」

「そうねー、木工細工も結構売れたからね、そうしようかー」

昨日の祭りにおいて、ブノワトは自身の店先で開いていた露店を六花商会の隣りで開いていた、エレインからどうせだから一緒にやりましょうと誘われた事と、髪留めや調理器具の販売も開始するとなった為、急遽そのような形になったのである、ブノワトは当初難色を示したが、やってみればいいだろうとのブラスの後押しと、髪留め他の反応を知りたいなと思い立ち、実行に移してみたが思った以上の効果があった、木工細工は普段の祭りの倍以上の売上があり、髪留めも売り切れるほどである、ベールパンを片手にフラフラと木工細工や髪留めを眺める人達が多く、また、前掛けと髪飾りを揃えて着けている生徒達の若々しくも華やかな容姿が受けたのであろう、そのようにブノワトは分析していた、

「だしょー、あ、エレインさ・・・エレイン会長が相談があるって言ってましたね、顔出して貰えます?」

「あら、何かしら?午前中テラさんとは話したんだけど、あ、マフダさん居たの?」

ジャネットの背後に隠れるようにマフダの姿があった、本人は別に隠れているつもりはない、ジャネットの体格で覆い隠されていたのである、

「えへへ、お疲れ様です、えっと、なんか色々決まったらしくて、なので、寮の打ち合わせが終わったら来て欲しいらしいです」

「なるほど、相変わらず忙しいわよねー」

ブノワトはヤレヤレと微笑む、

「ん、そういう事なら、俺は先に戻るぞ」

ブラスがブノワトに問うと、

「あ、ブラスさんも出来ればとの事でした」

ジャネットが慌てて伝える、

「俺も?」

「はい、男性の意見も欲しいとかなんとか?」

「そっか、なら、顔だすか?」

「そうねー」

「あ、じゃ、私、声かけて来ます」

マフダが事務所に走って戻った、

「あんたらは後は休みなの?」

「いやいや、屋台の掃除ですよ、だって、泥まみれですもん、めんどくさいわー」

ジャネットが大きく溜息を吐く、

「まったくですよ、折角綺麗に使ってたのに」

アニタが鼻息を荒くする、

「そっか、そうだよねー」

ブノワトは昨日の惨状を思い出した、

「あ、そうだ、整備が必要だったらいつでも言えよ、見る分なら無料にするからさ」

ニヤリとブラスが口を挟む、

「えー、見るだけですかー」

「そりゃお前、見積りは無料ってのが商売の基本だろうが、大事に使ってるならそうそう壊れるもんじゃないしな、でも、屋台だとどうしても車輪だの車軸だのに負担がかかるからさ、そうだ、その内見てやるよ、明日から毎朝顔出すから」

「毎朝?あ、裏の工事です?」

「そうよー、むさいおっさんが来るけど、ま、あんたらが直接相手するわけじゃないだろうから別にいいかしら?」

「そうですね、学園行っている間ですもんね、直接どうのこうのは無いのかな?」

「裏の工事?」

パウラが不思議そうにジャネットに問う、

「うん、なんかジョーカソーの実験だかなんだかって、研究所とソフィアさんの案件?」

「へー、面白そうですねー」

「うん、凄いぞ、完成して上手く言ったら歴史に名前が残るな、下手したら教科書に載るぞ、俺なら載せる」

「えっ、そんなに?」

生徒達は素直に驚いた、

「そうね、確かにねー、ま、私らでもあんたらでもなくて、ユーリ先生かソフィアさんの名前だけど」

「そりゃそうだよね」

アッハッハと笑いあう一同である、そこへ、

「あ、ブノワトさん、こちらお願いします」

マフダが二人を呼びに来た、

「あ、お呼びだ、じゃ、またね」

「はい、お疲れ様です」

二組は交差するようにそれぞれの目的地へ歩を進める、マフダが合流したジャネット一行は店を開けていない為に閑散としている寮の脇から内庭へ入り、泥まみれのまま放置された屋台の前に仁王立ちとなった、

「さて、では、やりますか」

ジャネットが腕まくりをする、

「道具はあります?」

「あ、勝手口にソフィアさんが用意してくれてるはず、井戸の近くまで持っていこうか取り合えず」

「そうねー」

こうして祭りの後始末が始まった。



事務所ではエレインとテラとオリビア、ブノワトとブラス、さらに、ケイランとマフレナがテーブルを囲んで深刻な雰囲気の中、話し合いが行われていた、それを尻目にケイスとパウラとメイド課の生徒達がこちらは事務所内の片付けである、祭りの準備の為にゴチャゴチャになっていた事務所内を話し合いの邪魔をしないように気を付けながら作業している、

「そうなると、実際にはあれですね、正式に取得してからでないと難しいかなと思いますが」

ブラスが物件情報が記載された羊皮紙を見つめながら呟く、

「そうね、そっちの物件はまだ先でもいいんですが、問題はこちらの方でね、貴族向けの店舗兼御屋敷だから手間もかかるんじゃないかと思うのよ」

エレインがテーブルに置かれたもう一枚の羊皮紙を視線で指し示す、

「そうですね、実際に目にしないとですが・・・作りは良いはず・・・ま、見てみないとですね・・・」

ブラスが顎先をかく、

「大丈夫?忙しいんじゃない?」

流石のブノワトも仕事量のあまりの多さに旦那を気遣っている様子である、

「あー、これはあれだな、親父に任せたほうが良さそうだな・・・正直に言いますとね」

とブラスはエレインを正面から見つめ、

「こちらの事務所くらいまでなら俺でも対応できるんですが、こちらの物件は本格的な内装が施された店舗兼住宅です、その上、貴族向けとなると、俺の経験では足りないですね、なので、棟梁は親父で、俺はそれの補佐役に回る事になると思います」

「なるほど、それは構いません、こちらの要望としましては出来るだけ速くということです」

「はい、それは、やはり現場を見ないとですが・・・わかりました、明日は無理でも、明後日には下見できるように段取ります、六花商会さんの頼みとあれば断る口は持ってませんから」

ニコリと微笑むブラスである、

「良かった、ありがとうございます、明後日ですわね、明日中には何らかの結果が出ますので、その上で段取りをさせて頂きます、それと、これは最も大事な事・・・そうですね、正式に決まってからお話し致します」

エレインが重要事項を伝えるべきかと悩みつつ、後日に回すことにした、この場にいる人間で、ケイランとマフレナ、パウラとケイス、それと生徒達にはまだ早すぎると判断したのである、その屋敷に住み込むのが王太子本人であり、陛下は勿論、王妃が遊びに来るとは現時点でも、実際にそうなったとしても知る者は少ない方が良い、

「わかりました、では、明日、御連絡をお待ちするという事で宜しいですか?」

「はい、お願いしますわ」

丁寧に確認しあう二人である、ブノワトはホッと溜息を吐き、

「あー、そうなると、いよいよ本格的になるのかー」

「そうなりますわね」

「だって、ね、午前中にテラさんとマフダさんとふざけて笑ってたんだよー、その日の午後で具体的な話しになるなんて思ってなかったさー」

「ふふ、そうでしたね」

テラが楽しそうに微笑む、

「えっと、あれ、事業計画とかは?」

「これからですね、予算はいいのですが、人材が難しくて、店舗に関しては人材次第かなと思っております、その上で・・・ま、あれです、正直なところ・・・これもまた、あれですね、正式に決まってからお伝えします」

エレインは言葉を濁す、ブラスは随分慎重だなと訝しく感じるが、どうせ裏にはソフィアさんやらユーリ先生が絡んでいるであろうと勘繰り、必要以上に問い質す事はしなかった、

「でも、場所もいいし、マフダさんの言う通りですよ、縁起の良い物件です、俺が知る限り悪い噂も悪い話しも聞いた事ないですね、それが縁起の良さかどうかは置いておいてとしても、危がないのは良い事と思います」

ブラスが話題を変えた、今日、二人が事務所に来ていの一番に聞かれた事である、

「そうですか・・・ブノワトさんも?」

「はい、ほら、職人さん達って結構あれなんです、貴族様の御屋敷とかにも呼ばれるんですよ、簡単な修理とかで、そうするとどうしてもあーだこーだって笑って話すんですよね、ホントは駄目なんですけど、お酒飲んだりすると、特に、で、それが噂になっちゃうんですよ、でも、この店はどちらも評判は良かったと思います、というよりも噂にもならないんですよね、ほら、噂ってつまりは愚痴とか悪口から始まってますから、金払いが悪いとか主人の態度がどうとか、使用人がどうとかって、大概が人の問題なんですけどね、そういうもんですよね」

「悪事城壁を飛び、好事隣家も知らず・・・ですね」

テラがしみじみと呟く、

「まさにそれです、なので、評判が良いというよりも噂が無いといった感じです、でも」

「それこそが評判の証でありますわね」

「そうなります」

ブノワトが満足そうに微笑み、なるほどと一同は納得する、そこへ、

「あ、良かったー、あ、御免なさい忙しかった?」

サビナが巨体を揺らして事務所へ駆け込んでくる、

「わ、どうしたんです」

テラとオリビアが驚いて腰を上げる、

「ブノワトさん、ブラスさんも教えて欲しい事があるのよー」

悲鳴に似た嘆願である、ブラスはここに来るとこれだからなーと内心ぼやき、ブノワトはまた面白い事だと直感する、

「俺でよければ」

「勿論ですよ、なんですか?」

「えっと、御免ね、突然で、打ち合わせはいい?」

サビナがエレインに確認する、

「はい、大丈夫です、丁度いい感じのところでした、で、なんです?興味ありますわね」

エレインもまた、これは面白そうだと内心でほくそ笑みつつ、この忙しい時にと軽く眩暈も覚えるのであった。
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