セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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42話 薔薇の香りはなめらかに その6

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寮の3階である、公務時間終了の鐘から暫くしてブノワトとブラスが寮を訪れた、ソフィアはそのまま3階へと招き入れ、ミナとレインは食堂で留守番である、

「そうなると、エレインさんには話しておいてかな?」

明日から始まる浄化槽工事の打合せである、図面及び工事計画の最終確認と承認の為の話し合いであった、発注者としてユーリとカトカとサビナ、ソフィアは寮の管理者として、ブラスは工事責任者として席を囲んでいる、ブノワトは補佐役とでもいうのであろうか、特に発言は無く状況を見守っていた、会議は特に問題無く進み、ユーリが一通り終わったと認識し、確認の為に問いかける、

「そうですね、ですが、お店に迷惑をかけるような事としては、資材の搬入なんですが、それは お店を開ける前、朝一番を予定してます、他には、騒音はある程度あると思いますが、土砂の搬出は取り合えず状況を見てからと考えてましたので、影響は薄いとそう思います・・・ですが、説明は必要ですよね」

ブラスが顎先をかきながら答え、

「そっか、それはほら生徒全員にもだし、今日の夕飯の後にでもユーリから話して貰って」

ソフィアが計画図面を眺めながら誰にともなく呟く、

「それはそのつもりだったから、第一工事する事は話してあるからね」

「そうね、時期も話していたしね、ま、そっちは大丈夫でしょ」

ソフィアが顔をあげると、

「そうなると、特に問題は無いかしら?」

「はい、俺も毎朝顔を出します、監督として、なので、何かあればその時に、もしあれでしたら寮の方にも顔を出しますが・・・」

「あー、それは別にいいわ、どうせあれよ、ミナがはしゃぐはずだから、あ、そうだ、ミナは近付けない方がいいわよね」

「そうですね、一応縄を張りますのでその内側には入らないようにお願いしたいです」

「はい、了解」

「それじゃ、こんなもんかしら?」

「そうですね、何かあれば遠慮なく言って下さい、井戸業者は信用できる業者ですし、よーく言い聞かせてあります、問題は無いように細心の注意を払いますが、何せ土木工事は何があるか分かりません、その点、お互いに注意して頂ければ嬉しいです」

「そうね、ソフィアも何かあればお願いね」

「何かあればねー」

なんとも責任感の薄い返事である、ユーリはまぁいいかと思いつつ、

「で、すんごい気になるんだけど聞いていい?」

ユーリはテーブルに肩肘を着くとそれに顎を乗せてブラスの頭へ視線を注ぐ、

「えっと、なんです?」

ブラスが若干身を引いた、

「何って・・・ねぇ?」

ユーリがブラスの隣りに座るブノワトへ視線を移す、ブノワトは何も言わずに顔を背け、その様子にカトカとサビナも堪えていた笑いを隠しきれなくなり、俯いて肩を揺らす、

「あー、やっぱり変です?」

「変・・・ではないけど・・・」

「そうですか・・・便利なんだけどな・・・」

「だから、やめとけって言ったのに」

ブノワトが鼻で笑い、ブラスを睨んだ、

「えっ、でもさ・・・別にいいじゃんよ・・・髪が目にかからなく便利だぜ」

「そうだけど・・・」

「うん、ごめんなさい、やっぱ、無理」

「はい、変ではないですが・・・すいません、面白いです」

カトカとサビナがこれは笑っていいものと判断して、楽しそうに破顔した、

「男物も作ればいいのかしらね」

ソフィアだけは冷静である、

「そうですよ、便利ですよこれ、別に恥ずかしくはないでしょうに」

ブラスは憮然と言い放つ、その髪には件の髪留めが2本、短い髪を押し上げるように刺さっていた、男性特有の太く硬く縮れた髪を強引に撫でつけるように抑え込んでいる、今日ブラスの姿を見た女性陣は髪を切ったのかな?程度の認識であった為、打合せの開始時には話題にも上らなかったが、打合せ中に気付きだし、どうしたものかとずっと気になっていたのである、

「だって・・・別にいいけど・・・恥ずかしくはないかも・・・だけど」

「そうですよね、便利です、それは分かります」

「あー、奥様、髪切ってあげれば?大事な旦那様でしょ」

ユーリがジロリとブノワトを睨む、口元にいやらしい微笑を浮かべて、

「だってー、嫌がるんですよ、めんどくさいって言ってー」

「別に嫌がっては・・・」

「嫌がるでしょうに、分かった、戻ったら剃り上げますよ、つるつるにします」

「ばっ、なんでだよ」

「髪が邪魔なんでしょ、もー、だからやめとけって言ったのよ、変な色気だしちゃってー、こっちが恥ずかしいんだからー」

「なら、そう言えよー」

「言ったでしょー、私も義母さんもー」

軽い夫婦喧嘩が始まり、その様子にカトカとサビナは遠慮なく笑い声を上げ、ユーリは苦笑いを浮かべる、ソフィアは微笑ましく見守るのであった。



「あっそうか、もう販売始めたんだ・・・」

笑いが一段落し、ブラスが渋々と髪留めを外した、その様子に再び笑いが起こりかけるがそこは皆、気を使ったらしい、視線を逸らして笑いを耐えた、

「はい、昨日の屋台ではあっという間に無くなりましたね、従業員の奥様方が朝一で来ましたし、ほら、あの六花商会の髪飾り、あれを店員が着けてるから珍しそうにして、あれ何?って感じで」

「へー、上手い事やってるわね、エレインさんも大したもんだわ」

「私も欲しかったなー、ちょっと形変わりました?」

カトカが若干身を乗り出した、

「勿論、3種類かな?しっかりした商品になりましたよ、ほら、それ貸して」

ブノワトはブラスの手にしている髪留めをひったくるように奪い、少し悩んで懐から手拭いを出して丁寧に拭き清めるとカトカの前に置く、

「あ、ほんとだ、なんか違う・・・」

「それ、使って下さい、旦那が使ってたやつであれなんですが」

「え、それは申し訳ないですよ」

「いいんです、それにテラさんから追加発注を頂きましたから、もう、大量生産ですよ、ウハウハですよ」

ブノワトがあっはっはと高笑いをして見せた、

「そうなんだ・・・じゃ、遠慮なく貰っておこうかな・・・じゃ、サビナも一つ」

カトカはそれなりに遠慮したらしい、サビナに一本をスッと滑らせる、

「いいわよ別に、あんた使いなさいよ」

サビナはそれを押し返した、

「えっ、いいの?」

「べつにいいわよ、あ、あのガラスのやつは?新商品って言ってたやつ」

サビナが先日の事務所での騒動を思い出した、すっかりおもちゃになってしまったが悪い気分ではなかった、

「あれは、一般販売はまだですね、レアンお嬢様が着けてましたけど、可愛かったですよ、キラキラで、でも、あれですね、あそこまでやるんであれば、やっぱり、金とか銀とか宝石とかで作った方が良いんじゃないかって思います、でも、そうなると、分野が違うので、細工職人さんとか宝石職人さんとかの領域ですからね」

「それもそうよね、でも、あれはあれで良い品だと思うけど・・・ま、あれね、エレインさんに期待しましょう」

サビナはそう言って、あっと声を上げると、

「すいません、ソフィアさんこのあと、時間頂けます?」

ソフィアへ向き直るサビナである、

「何?別にいいけど・・・」

ソフィアはきょとんと答え、

「良かった、研究会の方で相談がありまして」

「あ、そうね、今やっちゃう?」

「はい、明日の明日では準備も出来ませんから」

「それもそうね」

ユーリとサビナが頷き合った、

「そういう事なら、取り合えずこんなもんでいいです?」

ブラスが一同を見廻す、髪留めをいじられて少々へそを曲げたような顔であったが、そこはあっさりとした性格の男である、特に気にしている様子はない、

「そうね、うん、大丈夫かな・・・」

ユーリがカトカとサビナへ視線を移すが特に無い様子である、カトカは髪留めを手にして弄繰り回し、サビナは研究会の件で頭がいっぱいの様子である、

「うん、じゃ、宜しく」

「はい、こちらこそ、宜しくお願いします」

大きく頭を下げるブラスである、ユーリとソフィアも頭を下げた、ブノワトとブラスはそこで席を外し、

「さて、研究会なんだけどね」

ユーリとサビナが真面目な顔になりソフィアを見つめる、

「なに?何かあったの?」

「別に無いんだけど、それが問題なの」

「どういう意味よ」

「えっと、次の講義内容に美容関連を扱いたいと思ってまして、それで、どのような内容にするかで悩んでおりました」

サビナが状況を要約して説明する、

「美容関連ねぇ・・・」

ソフィアはうーんと唸りつつ、

「ユーリに髪切って貰えば?」

どうやらサビナと同じ発想に行き着いたらしい、

「はい、それも考えました・・・でも」

「うん、ほら、あれをやるとなるとガラス鏡が欲しくなるかなって思ってね、便利じゃない、分かり易いし」

「そうだろうけど、出来るでしょ、無くても」

「そうだけど、大人数の前で髪を弄るのよ、切られる方もたまったもんじゃないと思うし、ガラス鏡が売り出されてからでもいいかなって事にしたのよ」

「それもそうだろうけど、そう言って逃げてるだけじゃないの?」

「別に逃げてないわよ、ほら、研究会が始まったばかりだからさ、人が集まり過ぎるのよ、だから、もっとこう、分かり易いものがいいかなって思ってね」

「分かり易いものねー」

ユーリのやや苦しい言い訳にソフィアは胡散臭い者を見る目になるが、そういう事もあるかと必要以上につっかかる事はしなかった、

「そうなんです、今日学園の中を見る限りソフティーの着用者も増えている様子でした、やはり、あれですね、見た目が変わるのと姿勢が良くなるのとで丸分かりなんですよね、で、それを見ていて、やっぱり次は美容関連で何かやりたいなと、あの蜂蜜のあれとか良いんじゃないかなって思ってまして」

「あー、確かにね、あれなら・・・うん、実際にやるのは難しくないしね、でも、生徒達には早いんじゃない?あれって肌が荒れている人向けよ、それこそ外仕事する人とか高齢の人とか・・・でも、若い頃からやっておいても悪くはない事よね・・・でも、あれだけでなんでもかんでもってわけではないしな・・・」

ソフィアはブツブツと考え込む、

「ですよね、なので、そのエルフのやり方というか、そういうので面白いものがあればとも思ったのですが」

サビナがグイグイと前のめりになる、

「エルフねぇ・・・」

ソフィアは静かに考え込む、ユーリとサビナはその表情を穿つように覗き込み、カトカも髪留めを弄りながらも注意はソフィアへ向けられていた、

「似たようなのでやりたい事もあるんだけど、それはお風呂が出来てからかなって思ってたのよね」

「どういうの?」

「あー、秘密・・・」

「ちょっと」

「だって、大騒ぎになるのが目に見えてるんだもん、あれは・・・だから・・・」

ゴニョゴニョと呟くソフィアの視界にカトカの手が入る、髪留めの表裏を確認したり独特の緩やかな曲線に指を這わせていた、

「あ、あれなら・・・どうだろう、うん、これから必要な人、増えるしな・・・私も気になるし・・・、簡単なんだけど・・・あー、もっと詳しく聞いておけば良かったかしら・・・」

自身の指先を見つめ、右手の親指と中指を擦り合わせてソフィアは呟く、

「なによ?」

ユーリがイラつきながらも、その感情を押さえつけて問い質す、

「うん、じゃ、集めて欲しいのがあるんだけどいい?それと、ホントの意味で実験的になるかと思うんだけど・・・」

ソフィアはにやりと微笑んだ。
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