セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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41話 家門祭りは泥遊び その4

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「おう、やっておるのう」

「ジャネットいたー、アニタもいるー」

レアン一行は屋台がひしめく一画、屋台を二つ繋げ大きな黒板で一際目立っている六花商会の屋台を訪れた、

「おう、ミナッチとレアンお嬢様、御機嫌ようです」

顧客対応で店先に立つジャネットが明るく2人を迎え、

「来てくれたのー、早いねー」

アニタを含め屋台に立つ生徒達も嬉しそうな笑顔を向けた、

「えへへー、混む前にいこうねーって言ってたのー」

「そうなのじゃ、先月は並んでおったからのう、待つのは嫌いじゃしな」

「そっかー、ありがとございます、レインもライニールさんもいらっしゃーい」

明るい笑顔のジャネットに遅れてきたレインはいつもの仏頂面であり、ライニールはにこやかに微笑みを浮かべる、

「あー、髪飾り可愛いねー」

「ほう、そうじゃのう、先日作ったやつであろう」

ミナがジャネットの髪に輝く髪飾りに気付き、レアンも喰い付いた様子である、

「そうだよー、可愛いでしょー、皆お揃いなのよー」

ジャネットがムンと胸を張る、見れば屋台の内側の生徒達もその頭にはレースとガラス玉を使った髪飾りを着けている、

「わー、いっぱい作ったんだねー」

「華やかで良いのう、うむ、お洒落じゃな」

「えー、でも、レアンお嬢様には負けますわよ」

ジャネットがニヤリと口角を上げた、その視線はレアンの頭部に輝くガラスの髪飾りに向けられている、

「そうかのう、これは輝きが違うからのう」

「そうですわよ、素晴らしい一品ですわ、ミナっちのも可愛いけど、レアンお嬢様には一歩及びませんわね」

ふざけたお嬢言葉でレアンを褒めるジャネットである、レアンは得意気に微笑み、ミナはムーと頬を膨らませる、

「さて、では、御注文は如何致しますか、お嬢様」

ジャネットがうやうやしく問いかける、

「うむ、ベールパンであったか、新商品なのであろう?」

「そうなのよ、フワフワでモチモチでアマアマなのー」

ミナが簡単に仏頂面を直してピョンと飛び跳ねる、レアンは黒板を見上げてその名を探し、

「ふふ、自信作ですよー、イチゴのソースも美味しいですが、やはりカスタードがおすすめです」

「ほう、イチゴがまだあるのか?」

「はい、商会の秘密なので詳しくは言えないのですが、新鮮なイチゴのソースを御用意させて貰ってます」

「じゃ、ミナはイチゴー」

「芸が無いのう」

レインがボソリと呟く、

「いいのー、イチゴ好きなのー」

「はいはい、カスタードが良いのう」

「レインはカスタードか・・・ふむ」

レアンの真剣な瞳が黒板を走り、

「む・・・アンズとは珍しいのう」

「はい、アンズソースです、爽やかな甘味が絶品です」

ジャネットの接客もなかなかに堂に入ったものである、何度目かの屋台でもあるし、店舗での経験もある、販売員としてそれなりに経験を積んでおり、ジャネットの本性である独特の気風の良い明るさが祭りの雰囲気にも合っていた、それは六花商会の屋台のみならず周囲の活気を牽引しているかのようである、

「ほう、それは興味深い、それにしよう、ライニールはどうする?」

「はい、では、私もアンズソースで」

「む、遠慮する事はないぞ、好きなものを頼めばよかろう」

「遠慮はしておりませんよ、アンズは好物なのです」

「そうであったのか?」

レアンが自身の従者を見上げる、ライニールはニヤリと微笑みつつ、

「では、ベールパンですか、そちらを4つ、イチゴとカスタード、それからアンズソースを2つで」

注文をまとめてジャネットに告げる、

「はい、ありがとうございます、一緒にソーダ水はいかがですか、それとこちらはお土産用になりますがロールケーキも販売しております、数量限定ですよ」

「なに?数量限定とはどういう事じゃ」

耳慣れない単語にレアンが大袈裟に反応する、

「はい、ロールケーキは店先で作るのが難しいので大量に作って冷やしていた物を提供しております、なので、数が限られておりますのと、基本的にはお持ち帰り頂いてお召し上がりいただければと思います」

「む、そういう事か・・・それはあれだの、屋敷で皆と楽しめという事だのう」

「はい、そういう事ですね」

ジャネットはニコリと微笑む、

「むう、それはどの程度の大きさじゃ?」

「はいはい、こちらになります」

ジャネットは店先の見本として置いてある藁箱を開けて見せる、そこにはロールケーキが2本みっしりと詰まっており、中々に重量感にある見た目であった、

「ほう、なるほど、これは食べ応えがありそうじゃな」

「そうですね、この一箱で4人家族ですと、2日くらいは楽しめます、1本を4つから6つ程度に切り分けてお楽しみ頂ければと思います、しっかりとした菓子なので、食べ過ぎに注意です」

「なるほど・・・」

レアンはじっくりと観察し、

「うむ、ライニールこれを6本もあれば良いか、土産としよう」

「そんなにですか?」

ライニールは少し多いのではないかと眉間に皺を寄せる、

「勿論じゃ、使用人にもふるまいたいからのう、足りんか?」

レアンはライニールの懸念が少ない方にあると勘違いしている様子である、

「なんと・・・お嬢様・・・使用人の為ですか・・・お優しい」

ライニールはレアンの気遣いに衝撃を受けたように身を堅くした、そして感動に振える声を絞りだす、

「なんだ、失礼なやつじゃ、お前にはやらん、ジャネット嬢、6本持ち帰りじゃ」

レアンはフンと鼻息を荒くしてジャネットを見上げる、

「ありがとうございます、ベールパンとロールケーキ注文頂きましたー」

ジャネットが大声で注文を復唱し、アニタが木簡に書きつけると同時に調理担当の手が動く、こちらもやはり慣れた様子である、ライニールは何とも嬉しそうにレアンの背中へ優しい視線を向けている、

「楽しみだねー」

調理担当の手元をミナがつま先立ちで覗き込み、

「そうじゃのう、ほう、薄く伸ばすのか・・・なるほどのう」

レアンも楽しそうにその隣りに立つ、

「はい、ではお待ちの間にこちらをどうぞ」

ジャネットが藁籠を二人の前に差し出した、

「なんじゃ?」

「あー、クッキーだー、ミナこれ好きー」

「えへへ、こちらも新商品です、勿論御存知の事と思います」

「うむ、そうじゃのう」

「本日は販売はしていないのですが、当店をご利用頂きましたお客様に一つずつですがお試しして頂く事としました」

「ほう、それは・・・そうか、そういう趣向か・・・」

レアンがジャネットの簡単な説明でその真意に勘付いた様子である、藁籠にはクレオの一時が山となって盛られていた、様々な形のそれが乱雑に積み重なり、ゴチャゴチャとした見栄えであるが、それ故に楽しさが感じられる、

「はい、クレオノート伯爵家様の御厚意を本日は無償でお試しになって欲しいとの事ですね、それと、調理法の木簡とクッキーの型も販売しておりますよ」

ジャネットの指差す先には各種調理器具と木簡を並べた棚が置いてある、さらにその隣りにはヘッケル工務店の木工細工と髪留めも並んで置かれていた、そこには店番としてブノワトがちょこんと座り、ミナ達の視線に気付いて小さく手を振ってにこやかに微笑んでいる、

「ブノワトねーさんだー」

ミナがダダッと走り寄る、

「ミナちゃん、おめかしさんねー、可愛いわよー」

「えへへー、お花の髪飾りのなのよー」

ミナとブノワトがキャッキャッとはしゃぎだす、レアンはジッとクレオの一時を見つめ、

「そうか・・・うん、嬉しいぞ、なるほどな、こうすればより多くの者が触れる事が出来るであろうな」

レアンは頷きながら噛み締めるように呟いた、

「そうなんです、エレイン会長の発案ですね、いかがでしょうお嬢様?」

ジャネットがレアンの様子を伺う、

「良いと思うぞ、うん、木簡も売れてくれれば嬉しいが、うん、ライニールどう思う?」

レアンはどうやら感激しているらしい、レアンとユスティーナ、それにカラミッドの想いをこのような形で広めようとするその心意気に対してである、

「はい、なるほどと思いました、確かにこのような提供の方法であればより広く周知されるものと思います」

「そうだな、ジャネット嬢、嬉しく思う、父上に良い報告ができるな・・・」

「こちらこそです、あっ、出来ましたね」

アニタが注文の品をトレーに載せて様子を伺っていた、ジャネットはトレーを受け取ると、

「はい、どうぞ、じゃ、クレオの一時は一つずつ載せますね、ロールケーキはどうしましょう?」

「それは私が」

ライニールが進み出て肩に下げた布袋の口を開く、

「はい、では、お嬢様、あちらの腰掛けでごゆっくりどうぞ」

ジャネットからトレーを受け取ったレアンは満面の笑みを浮かべると、

「うむ、ミナ、出来たぞ、先に頂くのじゃ」

「うん、わかったー」

ミナがレアンの元へ走り、静かなレインと共に腰掛けの一角へと足を向けるのであった。
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