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本編

40話 千客万来? その6

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「さて、私はこんなもんでいいかしら・・・」

サビナはエレインに確認する、

「そうですね、あ、こちらを確認下さい、新商品です」

エレインがガラス製の髪留めの蓋を開けてサビナへ向ける、

「わ、なんだこれ?」

「ガラス装飾の髪留めですね、ブノワトさんとコッキーさんの合作です、原案はソフィアさんですけど」

「また、ソフィアさん・・・そっか、凄いね、綺麗・・・」

「えへへ、まだ試作品なんですがどうですか?感想を伺いたいです」

ブノワトが褒めろと言わんばかりに問いかける、

「感想と言われてもあれだけど・・・うん、そうだ・・・あーでもな・・・まっいいか、えっとね髪飾りで面白いのがあったのよ、学園長の資料の中に」

サビナは触って良い?とエレインに問い、許諾を得ると藁箱へと手を伸ばす、テラも興味津々で藁箱を覗き込み、私もいいですか?とエレインに確認しつつ手を伸ばした、

「えっとね、こっちでは・・・というか私は見た事の無い装飾なんだけど、綺麗なレースかな?の両端に棒を付けて、それを頭の耳の上あたりに差すのね、するとこう、レースで髪を飾る感じ?になる装飾品があるみたいなのよ」

サビナは手にした髪留めを弄びながら言葉を続けた、

「へー、なんかそれって・・・」

「うん、カッコイイかも・・・」

ブノワトとコッキーが頷き合う、

「でしょ、で、それをこれでやったらどうかなって思ったりして・・・ほら、棒だと髪を結うのが前提じゃない?でもこれならほら、髪留めにレースの端を縫えばいいだけだし、髪も結わなくていいし・・・」

「それ、いいですわね」

エレインもふむと考え込む、

「ま、そんなのがあるって事で、ほら、もうあれね、学園長の資料ばかり見てるもんだから、もう、脳味噌がそっちにいちゃって帰ってこないんだわ」

サビナは誤魔化すように笑い声を上げ、

「使わせてもらってもいい?」

再びエレインに許可を求め、エレインは勿論と微笑む、テラも同様に許可を求め、二人は仲良く鏡へと向かった、

「レースで繋げる感じなのかな?」

「そうね、後ろ頭を経由して・・・面白いかもね」

「作るのは簡単そうですよね」

「あー、レースが難しいと思うよ、装飾品用の髪留めであれば簡単だけどね」

「作ってみましょうか・・・うん、レースはあるのを使ってみて・・・」

エレインは立ち上がると裁縫道具が集められた一角でゴソゴソと探し物をする、やがて手頃な大きさのレースと裁縫道具を手にして戻ると、

「これでやってみましょう」

藁箱から穴の開いている髪留めを取り出しそのレースの端に括り付けた、

「こんなもんかな?」

「そうですね」

「じゃ、早速」

今度は女性3人が同時に腰を上げる、一人残されたデニスはどんな顔をしているべきか悩みつつ、取り合えず静観する事とした、

「えっ、もうですか?」

「あっさりと出来ちゃったから、あ、サビナさんそのままで」

エレインは驚いて腰を上げかけたサビナの肩を押さえつつ、手にしたレースの髪飾りをその頭に当てる、

「うん、大きさは良い感じね」

「ですね、なら、大丈夫でしょ」

「うんうん、髪留めの性能はいいですからね」

3人は楽しそうにサビナをおもちゃにし始め、テラはあらあらと席を立って場所を開けた、

「あ、テラさんごめんなさいね」

「いえいえ、大変興味深いです」

「あ、良い感じ・・・」

「うん、なるほど、これは可愛いかも・・・」

「あー、こういうのはあれだ、カトカやエレインさんでないと似合わないんじゃない?」

「うーん、レースが大きすぎるのかな?」

「資料だとあれですね、帯のように細長い感じでしたね」

「なるほど、やっぱり大きいのか」

「でも、これはこれで良いと思いますよ、レースは三角形にしてもいいんじゃないですか?」

「あ、それも良いね」

「前の方に回したらどうです?」

「それなら素直にティアラをお薦めしますわ」

「あ、そうですね」

「少し値が張りますが金糸とか銀糸を入れたくなりますね」

「それも良いね」

「刺繍を入れても良い感じよね、うるさくなるかな?」

「刺繍によるんじゃないですか?でも・・・大きすぎると髪を隠しちゃいますね・・・ほら、髪飾りって髪を美しく装飾するのは勿論ですが、髪そのものも美しく見せないとって思いますけど」

「そっか、そうなると帯のような感じじゃなくて飾り紐?編み紐とかでもいいのかな?細くして・・・宝石とかをぶら下げるとか・・・ちょっと怖いかな?」

「それいいかもね、編み紐でこう繋げて、宝石を下げるのは・・・確かに怖いですね、でも、髪留めの所にガラス玉を飾ってみたり?宝石でもいいですけどね」

「それ可愛いかもー」

「編み紐かー、資料の中に編み紐の編み方もあったなー」

「えっ、そんな事まで・・・」

「うん、学園長のこだわりと言うか、執着というか、収集癖というか・・・尊敬を通り越して呆れてしまうのよ・・・」

「へー、それ教えて欲しいです、木工細工用の飾り紐の種類を増やしたいんですよねー」

「そっかーそうよねー、うーん、資料としてまとめるのはだいぶ先かなー、あ、マフダさんならいろいろ知ってそうだけど、どうなんだろう?」

「マフダさんですか?」

「それもそうね・・・呼んでこようかしら・・・」

「紹介がてら連れてきます?」

「そうね、お使いを頼む事もあるだろうし、早めに紹介しちゃいましょうか」

「はい」

テラが一旦テーブルに向かうと髪飾りを外して藁箱に納める、手持無沙汰になっているデニスは羊皮紙とにらめっこをしている様子であった、

「あら、独りにしてしまったわね、ごめんさないね」

テラが優しく声をかけると、

「大丈夫です、ブノワトさんとねーちゃんが一緒の時はこんなもんですから」

ブラスは既に諸々を諦めた顔でテラを見上げた、その顔は悟りに限りなく近い無の境地である、

「あら・・・そうだソーダ水を準備させますね」

流石のテラも対処の仕様がないなと理解してそそくさと店舗へ向かう、

「こうなると髪留めは小さい方が良くないですか?」

「でも、保持力が落ちちゃうのよ」

「その時はあれです、内側の爪を逆に逸らせれば挟む力は増えますよ」

「そうすると綺麗に納まらなくない?髪に挿した時に」

「そんな目立つほど曲げては駄目ですね、表に出る部分は緩やかに曲げてますので、内側の爪を直線にする程度です、それだけでも各段に良くなりましたね、ただ、作るときは全体を曲げた方が楽なのでその点は手を抜いてます」

「なるほど、それであれば大丈夫なのかな?」

「へー、作ってる人がいると話しが早くていいわねー」

「えへへ、結構、試行錯誤してるんですよー、無い頭を絞りつくしてー」

「十分に有る頭よ、変に卑下しちゃだめよー」

「そうですよー、お馬鹿だーって騒いでいるとホントにお馬鹿になるぞって親父がいつも言ってますよ」

「それとこれとは別でしょー、謙遜ってやつよー」

「それ自分でいいます?」

「でも、あれね、やっぱり結った髪に合わせてみたくなりますわね・・・」

「やってみます?」

「うーん、オリビアがいればやらせるんですが・・・」

鏡の前の姦しさは変わらずに続いている、その様子をつまらなそうに眺めるデニスである、やがて、テラが小柄な少女を連れて戻ってきた、商会のやたら目立つ前掛けを着けている為新しい従業員なのだなとデニスは思いつつ、羊皮紙へと視線を戻す、

「来たわね、こちら新しい従業員のマフダさん、こちらが鍛冶師のブノワトさん、それとガラス職人のコッキーさんね、で向こうに座っているのがガラス職人のデニス君」

エレインが大雑把に互いを紹介し、マフダは慌てて二人に頭をさげつつ、

「えっと、今日からおしぇわになってるマフダです、よりょしゅくおねぎゃいしヴぁす」

慌てた上に緊張して舌をかみ切らんばかりである、

「あはは、そんな堅くなんないでよー」

「コッキーです、宜しくね」

ブノワトは面白そうに笑い、コッキーは律儀に頭を下げる、マフダは顔を真っ赤にして俯いてしまった、

「でね、こんな髪飾りを考案してみたんだけど、どうかしら?」

「わ・・・なるほど、確か・・・南の方の髪飾りですね・・・聞いた事があります」

「え、ホントに?」

「はい、えっと確かレースの帯で後ろ頭を飾るんですよね、なるほど、実際に見るとこうなるのか・・・ちょっと大きいのかな?」

「あら、流石ねマフダさん」

「いえいえ、聞いただけですからー」

「そっかー、でねでね、その帯を飾り紐にするってどうかなって話してたの」

「飾り紐・・・なるほど、いいかもですね・・・」

「うふ、それでね・・・」

新たな参加者が増え鏡の前はより明るくそして小うるさい、デニスは何度目かの溜息を吐いて木戸から街路の方へ視線を逃がし、遠く建物の間に覗く青く狭い空へ思いを馳せるのであった。
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