セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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38話 エレイン様は忙しい その13

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「ごめんねー、忙しいんじゃない?」

「忙しいは忙しいんでしょうけど、もうあれです、クロノス様から陛下の紹介をされた瞬間にこれは仕事にならないなって、覚悟しましたから」

カトカはヤレヤレと肩を落とし、ソフィアはそっかーと微笑んだ、二人は厨房で夕食の準備に勤しんでいる、カトカは異常に機嫌のよい学園長と服飾に関する事で打ち合わせをしていた所に、3階の転送陣を従者の面々がバタバタと行きかい、さらにクロノスがのそりとその姿を現した挙句、リンドが大量の食材を持って現れたのを見て、これはそう言う事かとソフィアの手伝いを買って出たのであった、

「それに、たまには料理もしないと、腕がなまるってもんですよ」

カトカはそう言って小麦を練る腕に力を籠める、

「そういや、朝食はどうしてるの?」

「朝食ですか?・・・えっと、適当ですね、宿舎に共同の調理場があるんです、そこで、パンとか果物とか摘まんで済ましてますね、それと近くに朝からやってる食堂があるんですけど、そこで済ませる日もあります、宿舎の周辺は独身が多いみたいなんですよね、なもんで朝から男共が多くて、毎日行ってもいいんですけど・・・はぁー」

カトカは溜息を吐く、男共の無遠慮な視線が嫌なのであろう、それが好意であると理解した今でもやはりあの視線は不愉快に感じている、

「そうなんだー、なら、寮で朝食も食べる?今は何だかんだで9人分か、結構作ってるのよね、少々増えてもいいわよー」

「それは申し訳ないですよ、それに転送陣は所長が開けないとですから」

「あ、それもあったわね」

「そうですねー、お気持ちだけ頂いておきます」

「そっかー、あ、そうだ、旦那がね、一日三食は食べなきゃ駄目だって言うんだけど、どう思う?」

ソフィアは思い出したように話題を変える、

「三食ですか・・・贅沢に聞こえますね」

「そうよねー、でも、実際にやってみたら、確かに調子は良いのよね、一日どころか夜になっても動ける感じ?」

「それは・・・また、凄いですね」

「そうなのよ、でも、手間がねー、それにほらそういう生活習慣じゃないじゃない」

「そうですよね、でも朝と夕は分かるんですが、もう一食はどの時間帯で食べるんです?」

「正午あたり?公務時間が終わる鐘の前かしら」

「あー、それだと、難しいですよね」

「うん、別に鐘の音に合わせてもいいんだろうけど、でもその時間ってもう夕飯はどうしようかなって考えちゃってるのよね、なもんで、面倒くさくなっちゃうのよ、ほら、冬場とか陽が短いでしょ、明るいうちに夕飯を済ませようって思って行動するからね、それに何か一日中食事の事を考えている感じがしてね・・・うん、ま、いっか」

「そんな適当な・・・」

カトカは困ったような笑顔となり、

「それってあれですか?旦那さんの故郷の習慣なんですか?」

「そうみたいよー、あの人は随分遠くから来たみたいでね、最初会った時から奇妙な事ばっかり言う人で、変な人もいるもんだと思ったわ、そのくせ言葉は通じるしね、不思議な人だなーって思ったもんよ、ま、そのうち顔出すと思うから、優しくしてあげてね」

「いや、それはこちらからお願いすることですよー」

「そう?あの人、美人に滅茶苦茶弱いから、カトカさんに会ったら話しも出来ないんじゃないかしら?」

「それは・・・もう、またその話しですかー」

「またって・・・そうね、まただったわね、ごめんなさいね」

ソフィアはほくそ笑みつつ手元のボールで混ぜていたタレの味見をする、

「うん、いい感じ、後は・・・」

作業台に置かれた山となっている食材を眺めると、

「うーん、あいつら持ってくればいいって思ってるわよね、絶対・・・」

「・・・あいつら・・・は駄目だと思いますよ」

カトカが苦笑し、ソフィアはそうねと腕を組み食材を睨みつけるのであった。



「では、相変わらず突発ですが、定番の夕食会を始めまーす」

裏山での夕食も回を重ねる毎に支度の腕が上達し、本日も開催の件を聞きつけたジャネット達が率先して手伝った事もあって、驚くほど順調に会場は設えられた、

「じゃ、どうしましょう、閣下、乾杯の挨拶をお願いできます?」

ソフィアはニコリとボニファースを伺う、ボニファースは生徒の手前、陛下と呼ぶのは難しいとなり、では、より曖昧な敬称である閣下と呼ぶこととなった、その上で本人の続柄はパトリシアの父親という点に変更は無い、生徒達にはパトリシアの親孝行という曖昧な説明をしていた、

「うむ、では、日頃の感謝とそうだな、恩人達と若き王国民、それと愛すべき神々に健勝を祈って、乾杯じゃ」

ボニファースは木箱から立ち上がると短く高らかに宣言し杯を掲げる、続いて楽し気な復唱が続いた、男性陣はワインを手にしており、女性陣はソーダ水である、やや肌寒く感じるようになった夕刻であるが、良く冷やされたソーダ水は気持ちよく喉を潤し、王都から持ってきたというワインを男性陣は美味そうに喉を鳴らして流し込んでいる、

「ふー、美味しいねー」

嬉しそうに微笑むミナである、ミナもすっかり裏山での食事に慣れたようで、今日も率先して走り回ってお手伝いに励んでいた、

「さて、では、今日の料理なのですが、スイランズ君の要望もありまして、前回と同じように溶岩板での薄肉焼になります」

ソフィアはテーブル代わりに並べられた木箱の上の溶岩板を作動させ、薄く切った肉の乗ったまな板をドンドンと溶岩板の隣りへ置く、さらに様々な生野菜の乗った大皿も並べると、

「野菜もしっかりありますからね、レイン、ちゃんと食べるのよー」

急に名指しされたレインが、

「なんじゃ」

と短く非難の声をあげ、一同はクスクスと微笑む、

「さらに、今日はこちらも用意してあります」

ソフィアはコンロにかけられている中くらいの鍋の蓋を取る、一同からはその中身が見えず、数人が何だろうと腰を上げた、

「ふふ、こちらチーズです、贅沢品ですよー」

ソフィアはニコニコと微笑みつつ、

「うちの田舎では御馳走なんですが、焼いた肉とか野菜とかをこちらのチーズに入れて食べてみてください、勿論タレもありますが、チーズで食べるのも美味しいですからねー」

「おー、溶かしチーズだ、懐かしいー」

ユーリが快哉を叫ぶ、

「そうねー、ユーリの好物だったわよねー、じゃ、そういう事で、初めて参加する人には教えてあげて下さいね、あ、タレはそこに、取り皿はいいわね、それと、最後に焼きシロメンもありますので、では、お好きにどうぞ」

ソフィアが説明を終えると、それぞれが思い思いに腰を上げる、いの一番に肉に手を伸ばしたのミナであった、やがて近い関係の人が集まりつつ溶岩板を中心にして小さい円陣が形成される、今回は溶岩板を3台若干距離を置いて配置してみた、前回まではその3台を並べて置いた為、調理する者と食事に専念する者とで完全に分かれてしまっていたのである、ソフィアとしては各自が焼きながら食べるという手法に拘りたかった為、一計を案じたというところであった、

「なるほど、これは楽しいな」

ボニファースは上機嫌で肉を焼きつつワインを傾ける、

「そうですね、屋敷では出来ませんな」

ヨリックも楽しそうである、

「はい、こちら焼けましたよ」

パトリシアが焼けた肉をボニファースの取り皿に置くと、

「これは嬉しいのう、なんじゃ、母親になる練習か?」

酔いが回り始め、口の軽くなったボニファースは実の娘をからかい、

「まぁ、この程度は出来ますのよ、まったく、失礼ですわ」

プンプンと怒って見せるパトリシアに、ボニファースはさらに機嫌の良い笑い声を上げる、

「それでのう、先程、カトカさんとも話したのじゃがな、方向性はあれで良いと思う、付け加えるとなると・・・」

「はぁ・・・そうですね・・・」

ボニファースよりも上機嫌な学園長にサビナは早速捕まったようである、肉を焼く手を止めずに何とも疲れた顔で相槌を打っている、

「うー、美味しいねー、なんだろ、やっぱこのタレかな?」

「うん、この溶かしチーズも美味しいよー、これってユーリ先生の田舎料理なんですか?」

「そうよー、冬にね、暖炉に鍋をかけて、ワインを温めてチーズを入れて、塩で調整して、それに煮た野菜とか焙った干し肉とか突っ込んで食べるのよ」

「へー、温まりそうですね、それ」

「勿論よ、それに良い塩梅だわ、流石ソフィアね」

生徒達は生徒達でキャッキャと楽しそうである、本日はアニタとパウラも参加していた、その為か黄色い声がより甲高く聞こえる気がする、やがて山となった肉と野菜が心許なくなった頃合いでソフィアは焼シロメンに取りかかる、ソフィアの企みはほどよく成功したようで、各々が調理と食事を均等に楽しんでいたようであった、ソフィアは思い付きであった策がそれなりに成功したことに微笑みつつ、最後の3玉だと宣言し菜園産のメロンを切り分けた、そしてそれらが皆の胃袋に綺麗に収まると、その日の裏山での夕食は日暮れと共に楽しく終わりを迎えるのであった。
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