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本編
38話 エレイン様は忙しい その9
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「おう、ユーリか久しいな、エレイン嬢も倒れたと聞いたがふむ元気そうだのう」
六花商会の貴賓室の扉を開けるとそこにはユーリとエレインが一行を待っていた、
「こちらこそ、お久しぶりです陛下、ご健勝のようでなによりです」
ユーリはたおやかに一礼し、
「陛下に御心配頂けるとは望外の極地でございます」
エレインも静かに一礼する、
「はっはっは、若い女子に迎えられるとはこれ以上の歓待は無いのう、うむ、固くならんでいい」
ボニファースは二人を睥睨して破顔する、
「ありがとうございます」
二人は静かに頭を上げる、
「しかし、なるほど、良い部屋じゃのう、広すぎも無く狭すぎも無く、密談には良い塩梅だな」
「お褒め頂き光栄です」
エレインはこちらへとボニファースを扉より最も遠い席へと誘導し、クロノスとパトリシア、それからソフィアとユーリの順に着席する、リンドとヨリックは末席に着いた、パトリシアがエレインの微妙な変化に気付いて声をかけようとするが自制したようである、一度下した腰を上げかけて座り直す、
「それでは、お茶を運ばせます、何かあればお声掛け頂ければと存じます」
エレインは静かに退出し、変わってテラが茶を持って入って来る、音も無く給仕し一礼後退室するテラを見送って、
「さて、では、イフナースの件だが、改めて対応を協議しよう」
ボニファースが口火を切り、打ち合わせが始まった。
エレインが事務所に入ると大きく吐息を吐いて自席に座り込む、すぐにテラも戻ってきて、
「・・・何とかなりましたかしら?」
二人はやれやれと微笑みあった、カトカが事務所に飛び込んできたときにはその慌てように二人は何事かと色めき立ったが、詳細を聞きこれは大事と大急ぎで貴賓室を整え、ユーリがバタバタと合流する頃合いには何とか体裁を保てる程度には準備を終えた、そしてエレインとユーリとテラは弾む呼吸と身嗜みを整えて一行を迎える事が出来たのである、
「何のお話合いなのでしょうか」
テラは事務机の側に椅子を引いて座り込む、
「ソフィアさんは・・・まぁ、いつもの事ですが、ユーリ先生もですからね、先日私が倒れた日もいらっしゃってましたから、その件かと思いますが、カトカさんが学園長も呼んだらしいので・・・大事かしら?」
「そうですか、ま、こちらで協力できる事があれば、対応できるようにしておきましょうか」
「そうね、といっても、ソフィアさんとユーリ先生と学園長よ・・・たぶんだけど向こうから言ってくるわね・・・めんどくさがって・・・」
「・・・それもそうですね」
二人は困った顔でほくそ笑み、
「そうね、時間があればパトリシア様にガラスペンと3面鏡をお見せしましょう、陛下と一緒で宜しいかしら?」
「あ、そこは順番を違えてはいけないと思います、会長はあくまでパトリシア様との友誼を優先しませんと、パトリシア様が拗ねてしまいますよ」
「そうね・・・そうだ、髪留めと洗濯バサミも披露しましょうか・・・今の内に食堂から持ってきましょう」
エレインは納得して頷き、テラもそうなるとと小首を傾げ、
「では、どうしましょう、ベールパンを用意しておきましょうか、お時間がかかるようでしたらお持ちしても良いですし、打ち合わせが終わった後にでも出せるように」
「そうですわね、すぐできますか?」
「えーと、カスタードは冷凍箱にあるはずです、ホイップは作りましょう、丁度いいです、早速回転機構を使ってみましょう、パンは店舗で作らせます」
「そうですか、ではお願いします、私は待機しておいた方が宜しいかしら?」
「そうですね、では、髪留めも持ってきますね」
テラは立ち上がり椅子を戻しつつ寮へと向かう、エレインはやれやれと事務室を見渡して、
「少し綺麗にしておこうかしら・・・しかし、陛下がいらっしゃるとは思いもしませんでしたわ」
一人呟いて大きな溜息を吐いた。
「ふむ、そうなると、やはり、こちらの居場所だな」
ボニファースは頭をかきつつ議題を先に進めた、イフナースを暫くの間こちらへ滞在させる事は確定したのだが、問題はその滞在先である、パトリシアは六花商会に預けて問題は無いであろうとの意見を出しており、クロノスは近くの屋敷を買えば良いとの意見である、イフナースの実母であるエフェリーンはしっかりとした貴族向けの住宅を所望しており、イフナース本人は寝られればどこでも構わないと笑っていた、
「ここも悪くはないでしょう?」
パトリシアがボニファースに問う、
「そうだのう、少々姦しい感じはするが悪くない・・・が、エフェリーンは賛成せんじゃろうな」
「エフェリーン母様は根っからの上流貴族ですもの、場合によってはここの領主の屋敷でも納得しませんわよ」
「そうは言うが、あれも心を砕いておったのだ、できれば要望を叶えてやりたいのだよ」
「それは分かりますわ」
パトリシアは何を今更と片眉を吊り上げる、
「そうしますと、周辺にある屋敷も難しいですね、下級貴族の別邸が多いので使用していない屋敷を買い取ればと考えておったのですが」
クロノスが親娘の会話に口を挟む、
「そうだな、この館もそうであったのだろう?別邸としては悪くないが・・・」
ボニファースは室内を見渡しつつ、
「儂もこの程度で十分なのだがな」
と呟く、
「はい、私もですよ」
クロノスが同意し、
「だよなー」
とボニファースは嬉しそうに微笑むが、
「陛下、臣下よりも粗末な屋敷では面子が立ちません」
パトリシアがピシャリと言い放ち、ボニファースとクロノスは何とも寂しそうに苦笑した、
「あー、では、陛下、ここで一つ提案が」
ユーリが小さく手を上げる、ボニファースがなんじゃと問い返し、
「はい、えーと、都合の良い事のように聞こえると思いますが」
と前置きしつつ、
「先程エレインさんと少し話しましてね、貴族向けの商店街で店舗の取得を画策しているようなのですよ」
「ガラス鏡のあれであろう、お披露目の時にチラリと聞いたな・・・」
「はい、しかし、それなりに良い店舗があるのですが、何にしろ高額である事、立地と用途を考えればそれも致し方ない事ですが、それと維持費も高いんだとか、まぁ、その商店街の自治会がどうのこうのと言ってましたが、特にこの辺とは違って馬車が行違えるように道幅も広く、なによりその手の店舗には馬車を置く場所も完備されております、また、貴族が出入りする事が前提の作りにもなっておりますので、何かにつけて都合が良い・・・そう思うのですね」
「そうか・・・そういう事か」
クロノスがなるほどと頷き、
「それ、いいですわね」
パトリシアも感づいた様子である、
「はい、実際の物件を見てはおりませんが、幾つか候補はあるそうなんです、で、この場合の利点としましては」
「ふむ、六花商会を表に出して王家は関わっていない事に出来るな・・・」
ボニファースも気付いたようである、
「はい、王家が屋敷を入手したとなると事実であれ噂であれ、いらぬ諍いの元になるかと思います、ですが、店舗として作られた屋敷で、さらに購入者が子爵であるライダー家の令嬢で、新たに商売をするとなれば、そういう事もあるであろうと・・・そう判断されるのではないかなと思うのですが」
ユーリはそこまで語って口を閉じた、
「ふむ、確かに」
ボニファースは小さく頷く、実のところ、ボニファースとしも金銭で片付く事は何とでもなるのである、問題として大きいのは王家の名が表に出る事であった、モニケンダムは周知の事実として反王家として名高いアイセル公コーレイン公爵家の支配下にある、公爵家とは先の大戦時には共に協力して事に当たったが、平時となった現在はお互いに緊張を隠さない状況となっていた、
「そうですね、さらに言えばエレインさん・・・事情はあれど立派な貴族の一員です、殿下の隠棲もエレインさんの影を使えば容易に誤魔化せましょう、さらに、六花商会はクレオノート家とも懇意にしております、商売上でも関係を結んでおりますので、隠れ蓑としてはこれ以上のものは無いですね、資金云々に関しても誤魔化せる手段があるかと思いますが、それは私の領分ではございませんね」
ソフィアが静かに補足を付け加える、冷静で事務的な内容であった、ボニファースはソフィアがここまで冷徹な意見を言える女性であると思っておらず、やや呆気にとられた様子である、
「うむ、それも聞いておる、確か・・・焼き菓子を作ったのであったかな、それとあの料理も・・・であったな?」
ボニファースはしどろもどろになりつつパトリシアに確認し、パトリシアは大きく頷くと、
「さらに言えば、エレインさんとしても立派な店舗が手に入りその設備も・・・そうですわ、内装は私が担当致しましょう」
新しい楽しみを見つけたとばかりにパトリシアは不穏な笑みを浮かべ、
「あー、エフェリーンにも一枚かませよ、あれも好きだからな」
「はい、仰せのままに、陛下」
ボニファースは呆れた顔を隠さず、パトリシアは尚、ニヤニヤ笑いを隠さない、しかしその表情は一転し、
「・・・少しばかり、都合が良すぎる・・・とも感じますが・・・」
そう呟いて小さく身震いし、
「・・・そうですね・・・うん、考えれば、あの日、我が城での催しにイフナースが現れた時から全てはこうなるようになっていた・・・と・・・そう思わざるをえません・・・何か導かれているような・・・」
「うむ、最適解を選ばせられているような感じだな、こういう時は魔が差すものだが」
クロノスはパトリシアの言葉に不穏な言葉を添える、
「そうだな・・・イフナースもあの日はどういう訳だか顔を出したくなったと、不思議そうに言っていたな」
ボニファースも娘夫婦の言葉に同調する、
「そうなると・・・」
とクロノスは腕を組みつつ、
「うん、ま、どうなるかは分らんがやるべきことをやるだけだな、全てが上手くいけばよし、いかなければいくようにするだけだ」
快活に声を張ると、
「あー、そうなるとだ・・・六花商会の新店舗を入手し、イフナースの仮住まいとするとして、馬車はあったほうが良かろうし、側仕えはブレフトを中心に置いて3人もいれば十分だろうな、それと転送陣も念のため設置する事として、料理人も一人付ければよかろう、護衛も数人置きたいが、あまりにあれだと目立つからな、それらしいのを見繕うか・・・それと・・・」
「そうね、母様達が泊まれる部屋も設えないとですわ、使う使わないは別にして」
「転送陣を置けばいらないだろう」
「いいえ、マルルース母様は気にしないでしょうが、エフェリーン母様はへそをお曲げになりますわよ」
「そうか、そうかもしれんな」
ボニファースは笑いつつ、
「うむ、どうだ、ヨリック、リンド、なにかあるか?」
末席に座る二人へと意見を求める、ヨリックは上級紙にしたためていた議事録をザッと読み返しつつ、
「はい、現時点では最も影響の少ない方法であると考えます」
「私も同意見です、しかし、エレイン様への確認と協力依頼が抜けております、この方向性で進むのであれば先にエレイン様への根回しが必要かと」
ヨリックが答え、リンドが補足する、
「おう、それもそうだ」
「あっ」
「そうよね」
それぞれにしまったといった顔である、
「では、お呼びしましょうか?」
「・・・うむ、では、現時点での決として、ユーリの案で進めようと思う、障害があれば逐次対応する事としたいが、反論はあるか?」
ボニファースは一同に問い掛け、特に声を上げる者はでなかった、
「よし、リンド、エレイン嬢をこれへ」
「はい」
ニコリと笑顔を浮かべてリンドは席を立った。
六花商会の貴賓室の扉を開けるとそこにはユーリとエレインが一行を待っていた、
「こちらこそ、お久しぶりです陛下、ご健勝のようでなによりです」
ユーリはたおやかに一礼し、
「陛下に御心配頂けるとは望外の極地でございます」
エレインも静かに一礼する、
「はっはっは、若い女子に迎えられるとはこれ以上の歓待は無いのう、うむ、固くならんでいい」
ボニファースは二人を睥睨して破顔する、
「ありがとうございます」
二人は静かに頭を上げる、
「しかし、なるほど、良い部屋じゃのう、広すぎも無く狭すぎも無く、密談には良い塩梅だな」
「お褒め頂き光栄です」
エレインはこちらへとボニファースを扉より最も遠い席へと誘導し、クロノスとパトリシア、それからソフィアとユーリの順に着席する、リンドとヨリックは末席に着いた、パトリシアがエレインの微妙な変化に気付いて声をかけようとするが自制したようである、一度下した腰を上げかけて座り直す、
「それでは、お茶を運ばせます、何かあればお声掛け頂ければと存じます」
エレインは静かに退出し、変わってテラが茶を持って入って来る、音も無く給仕し一礼後退室するテラを見送って、
「さて、では、イフナースの件だが、改めて対応を協議しよう」
ボニファースが口火を切り、打ち合わせが始まった。
エレインが事務所に入ると大きく吐息を吐いて自席に座り込む、すぐにテラも戻ってきて、
「・・・何とかなりましたかしら?」
二人はやれやれと微笑みあった、カトカが事務所に飛び込んできたときにはその慌てように二人は何事かと色めき立ったが、詳細を聞きこれは大事と大急ぎで貴賓室を整え、ユーリがバタバタと合流する頃合いには何とか体裁を保てる程度には準備を終えた、そしてエレインとユーリとテラは弾む呼吸と身嗜みを整えて一行を迎える事が出来たのである、
「何のお話合いなのでしょうか」
テラは事務机の側に椅子を引いて座り込む、
「ソフィアさんは・・・まぁ、いつもの事ですが、ユーリ先生もですからね、先日私が倒れた日もいらっしゃってましたから、その件かと思いますが、カトカさんが学園長も呼んだらしいので・・・大事かしら?」
「そうですか、ま、こちらで協力できる事があれば、対応できるようにしておきましょうか」
「そうね、といっても、ソフィアさんとユーリ先生と学園長よ・・・たぶんだけど向こうから言ってくるわね・・・めんどくさがって・・・」
「・・・それもそうですね」
二人は困った顔でほくそ笑み、
「そうね、時間があればパトリシア様にガラスペンと3面鏡をお見せしましょう、陛下と一緒で宜しいかしら?」
「あ、そこは順番を違えてはいけないと思います、会長はあくまでパトリシア様との友誼を優先しませんと、パトリシア様が拗ねてしまいますよ」
「そうね・・・そうだ、髪留めと洗濯バサミも披露しましょうか・・・今の内に食堂から持ってきましょう」
エレインは納得して頷き、テラもそうなるとと小首を傾げ、
「では、どうしましょう、ベールパンを用意しておきましょうか、お時間がかかるようでしたらお持ちしても良いですし、打ち合わせが終わった後にでも出せるように」
「そうですわね、すぐできますか?」
「えーと、カスタードは冷凍箱にあるはずです、ホイップは作りましょう、丁度いいです、早速回転機構を使ってみましょう、パンは店舗で作らせます」
「そうですか、ではお願いします、私は待機しておいた方が宜しいかしら?」
「そうですね、では、髪留めも持ってきますね」
テラは立ち上がり椅子を戻しつつ寮へと向かう、エレインはやれやれと事務室を見渡して、
「少し綺麗にしておこうかしら・・・しかし、陛下がいらっしゃるとは思いもしませんでしたわ」
一人呟いて大きな溜息を吐いた。
「ふむ、そうなると、やはり、こちらの居場所だな」
ボニファースは頭をかきつつ議題を先に進めた、イフナースを暫くの間こちらへ滞在させる事は確定したのだが、問題はその滞在先である、パトリシアは六花商会に預けて問題は無いであろうとの意見を出しており、クロノスは近くの屋敷を買えば良いとの意見である、イフナースの実母であるエフェリーンはしっかりとした貴族向けの住宅を所望しており、イフナース本人は寝られればどこでも構わないと笑っていた、
「ここも悪くはないでしょう?」
パトリシアがボニファースに問う、
「そうだのう、少々姦しい感じはするが悪くない・・・が、エフェリーンは賛成せんじゃろうな」
「エフェリーン母様は根っからの上流貴族ですもの、場合によってはここの領主の屋敷でも納得しませんわよ」
「そうは言うが、あれも心を砕いておったのだ、できれば要望を叶えてやりたいのだよ」
「それは分かりますわ」
パトリシアは何を今更と片眉を吊り上げる、
「そうしますと、周辺にある屋敷も難しいですね、下級貴族の別邸が多いので使用していない屋敷を買い取ればと考えておったのですが」
クロノスが親娘の会話に口を挟む、
「そうだな、この館もそうであったのだろう?別邸としては悪くないが・・・」
ボニファースは室内を見渡しつつ、
「儂もこの程度で十分なのだがな」
と呟く、
「はい、私もですよ」
クロノスが同意し、
「だよなー」
とボニファースは嬉しそうに微笑むが、
「陛下、臣下よりも粗末な屋敷では面子が立ちません」
パトリシアがピシャリと言い放ち、ボニファースとクロノスは何とも寂しそうに苦笑した、
「あー、では、陛下、ここで一つ提案が」
ユーリが小さく手を上げる、ボニファースがなんじゃと問い返し、
「はい、えーと、都合の良い事のように聞こえると思いますが」
と前置きしつつ、
「先程エレインさんと少し話しましてね、貴族向けの商店街で店舗の取得を画策しているようなのですよ」
「ガラス鏡のあれであろう、お披露目の時にチラリと聞いたな・・・」
「はい、しかし、それなりに良い店舗があるのですが、何にしろ高額である事、立地と用途を考えればそれも致し方ない事ですが、それと維持費も高いんだとか、まぁ、その商店街の自治会がどうのこうのと言ってましたが、特にこの辺とは違って馬車が行違えるように道幅も広く、なによりその手の店舗には馬車を置く場所も完備されております、また、貴族が出入りする事が前提の作りにもなっておりますので、何かにつけて都合が良い・・・そう思うのですね」
「そうか・・・そういう事か」
クロノスがなるほどと頷き、
「それ、いいですわね」
パトリシアも感づいた様子である、
「はい、実際の物件を見てはおりませんが、幾つか候補はあるそうなんです、で、この場合の利点としましては」
「ふむ、六花商会を表に出して王家は関わっていない事に出来るな・・・」
ボニファースも気付いたようである、
「はい、王家が屋敷を入手したとなると事実であれ噂であれ、いらぬ諍いの元になるかと思います、ですが、店舗として作られた屋敷で、さらに購入者が子爵であるライダー家の令嬢で、新たに商売をするとなれば、そういう事もあるであろうと・・・そう判断されるのではないかなと思うのですが」
ユーリはそこまで語って口を閉じた、
「ふむ、確かに」
ボニファースは小さく頷く、実のところ、ボニファースとしも金銭で片付く事は何とでもなるのである、問題として大きいのは王家の名が表に出る事であった、モニケンダムは周知の事実として反王家として名高いアイセル公コーレイン公爵家の支配下にある、公爵家とは先の大戦時には共に協力して事に当たったが、平時となった現在はお互いに緊張を隠さない状況となっていた、
「そうですね、さらに言えばエレインさん・・・事情はあれど立派な貴族の一員です、殿下の隠棲もエレインさんの影を使えば容易に誤魔化せましょう、さらに、六花商会はクレオノート家とも懇意にしております、商売上でも関係を結んでおりますので、隠れ蓑としてはこれ以上のものは無いですね、資金云々に関しても誤魔化せる手段があるかと思いますが、それは私の領分ではございませんね」
ソフィアが静かに補足を付け加える、冷静で事務的な内容であった、ボニファースはソフィアがここまで冷徹な意見を言える女性であると思っておらず、やや呆気にとられた様子である、
「うむ、それも聞いておる、確か・・・焼き菓子を作ったのであったかな、それとあの料理も・・・であったな?」
ボニファースはしどろもどろになりつつパトリシアに確認し、パトリシアは大きく頷くと、
「さらに言えば、エレインさんとしても立派な店舗が手に入りその設備も・・・そうですわ、内装は私が担当致しましょう」
新しい楽しみを見つけたとばかりにパトリシアは不穏な笑みを浮かべ、
「あー、エフェリーンにも一枚かませよ、あれも好きだからな」
「はい、仰せのままに、陛下」
ボニファースは呆れた顔を隠さず、パトリシアは尚、ニヤニヤ笑いを隠さない、しかしその表情は一転し、
「・・・少しばかり、都合が良すぎる・・・とも感じますが・・・」
そう呟いて小さく身震いし、
「・・・そうですね・・・うん、考えれば、あの日、我が城での催しにイフナースが現れた時から全てはこうなるようになっていた・・・と・・・そう思わざるをえません・・・何か導かれているような・・・」
「うむ、最適解を選ばせられているような感じだな、こういう時は魔が差すものだが」
クロノスはパトリシアの言葉に不穏な言葉を添える、
「そうだな・・・イフナースもあの日はどういう訳だか顔を出したくなったと、不思議そうに言っていたな」
ボニファースも娘夫婦の言葉に同調する、
「そうなると・・・」
とクロノスは腕を組みつつ、
「うん、ま、どうなるかは分らんがやるべきことをやるだけだな、全てが上手くいけばよし、いかなければいくようにするだけだ」
快活に声を張ると、
「あー、そうなるとだ・・・六花商会の新店舗を入手し、イフナースの仮住まいとするとして、馬車はあったほうが良かろうし、側仕えはブレフトを中心に置いて3人もいれば十分だろうな、それと転送陣も念のため設置する事として、料理人も一人付ければよかろう、護衛も数人置きたいが、あまりにあれだと目立つからな、それらしいのを見繕うか・・・それと・・・」
「そうね、母様達が泊まれる部屋も設えないとですわ、使う使わないは別にして」
「転送陣を置けばいらないだろう」
「いいえ、マルルース母様は気にしないでしょうが、エフェリーン母様はへそをお曲げになりますわよ」
「そうか、そうかもしれんな」
ボニファースは笑いつつ、
「うむ、どうだ、ヨリック、リンド、なにかあるか?」
末席に座る二人へと意見を求める、ヨリックは上級紙にしたためていた議事録をザッと読み返しつつ、
「はい、現時点では最も影響の少ない方法であると考えます」
「私も同意見です、しかし、エレイン様への確認と協力依頼が抜けております、この方向性で進むのであれば先にエレイン様への根回しが必要かと」
ヨリックが答え、リンドが補足する、
「おう、それもそうだ」
「あっ」
「そうよね」
それぞれにしまったといった顔である、
「では、お呼びしましょうか?」
「・・・うむ、では、現時点での決として、ユーリの案で進めようと思う、障害があれば逐次対応する事としたいが、反論はあるか?」
ボニファースは一同に問い掛け、特に声を上げる者はでなかった、
「よし、リンド、エレイン嬢をこれへ」
「はい」
ニコリと笑顔を浮かべてリンドは席を立った。
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