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本編
38話 エレイン様は忙しい その4
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「取り敢えずこんなもんで」
ブノワトが困り顔となるブラスに気付いて話しを強引に切り上げた、唐突に4人は静かになり、
「あら、ごめんなさいね」
ソフィアがニコリと本日2度目となる心のこもっていない謝意を口にする、ブラスは苦笑いを浮かべつつ革袋を取り出すと、
「もう一品、こちらも仕上げてきましたがいかがでしょうか」
革袋から木製の何かを取り出してソフィアの前に置いた、それは木片を二つ組み合わせた三角形の立体物である、中心付近に鉄の芯が入っており、その芯の回りには細い金額が巻きつけられていた、一見するとどう使うのか分からない品である、子供用の玩具と言われればそうであろうと誰もが納得する見た目であった、
「わ、出来たの?速いわね」
「あら、例のあれですね」
「今度はなんです?」
ソフィアは目の前に置かれた品を手に取ると、しげしげと観察し、
「使ってみた?」
ブラスへ問う、
「えっと、そうですね、動作は確認しました、しかしどう使うかは・・・すいません、わかりませんでした、何に使うのです?」
ブラスは恥ずかしそうに答え、ソフィアはそっかーと溜息交じりに呟く、
「えっと、ご注文通りかと思うのですが、どうですか?」
ブノワトも心配そうにソフィアを伺う、
「うん、いいと思うわよ、形は・・・」
ソフィアは木片の大きく開かれた方を摘まみ力を込める、やや軋む音がして木片の反対側が少しずつ開く、
「わ、すごい、これよ、これ、うんうん、流石ね、いい感じ、バネの力も強いわね」
ソフィアは嬉しそうに微笑み、他の者はそれがどうしたのであろうかと不思議そうに見つめる、
「じゃ、まずは・・・そうね、エレインさんちょっと髪を貸して」
ソフィアはエレインの許しの言葉も聞かずに席を立ちその背後に回り込む、
「えっと、痛い事ですか?」
エレインは不安そうに問うが、ソフィアは大丈夫大丈夫と無遠慮にその後ろ髪をうなじ付近で一つにまとめ、それを木片で挟みこんだ、
「どう?痛い?」
「えっと、痛くはないですが、え、いや、もしかして」
エレインは何とか自分の背中を見ようと右に左に顔を振り回し、テラとブノワトは、
「わ、そういう事ですか」
「うん、え、簡単だ、えっと、やってみていいです?」
ソフィアの返事を待たずにテーブル上の木片に手を伸ばす、
「ほら、エレインさん鏡で見てみて、で、簡単に外せるから」
ソフィアはニコニコとエレインを鏡へ向かわせると自分は席に戻りつつ、
「うん、バネも強くていいわね、そこが気になってたのよ、いい感じよ」
ブラスに微笑みかけた、
「これも髪留めだったのですか」
ブラスは驚きつつ自身の作品を手に取る、鏡の前では3人がそれぞれに髪をまとめては挟み込み、
「すごい、便利」
「うん、これは画期的ですよ」
「髪留めも良かったですけど、これも素晴らしいですわ」
年甲斐も無くキャッキャとはしゃいでいる様子である、ソフィアは3人の背に視線を投げつつ、
「でもね、旦那曰く、本来の使い方ではないらしいのよ」
「そうなんですか?」
「そうなの、旦那はね、この形状を洗濯バサミって呼んでたの」
「洗濯バサミ?鋏ではないですよね、これでは切れないですよ」
「そうなの、物を挟むからハサミらしいわ、で、本来は」
ソフィアは懐から手拭いを取り出しキョロキョロと周囲を見渡して、隣りの椅子の背にそれを引っ掛けると、ブラスが手にしている洗濯バサミを受け取り、手拭いを留めた、
「こんな感じで使うらしいのよ、旦那が上手く作れたのが一個だけでね、それもあっという間に壊れちゃったんだけど」
ソフィアは笑いつつ、
「こんな感じで洗濯物とかを固定するのね、手拭い取ってみて」
ブラスは席を立つと手拭いに手を伸ばす、端を持って軽く引っ張り、
「おお、固定されてる」
素直に目を剥いた、
「でしょー」
ソフィアは微笑みつつ、
「ほら、私達が洗濯物を干すときって、洗濯物の端と端を結んで干すでしょ、旦那の田舎だと綺麗な縄を張ってそこにこんな感じで引っ掛けてこれで固定して干すらしいのよ、他にもあるらしいんだけど、それは作れなかったみたいだったな」
懐かしそうに語った、
「なるほど、いや、どうなんでしょう、俺はほら洗濯とか殆どしないから・・・でも、そっか、何を挟んでもいいんだ」
ブラスはそういう事かと納得したようである、
「そうね、ようはこのバネの力で簡単になんでも挟む事のできる品って事よね、何を挟むかは使う人次第、さらにあれだ、この挟む所に滑り止めのような細工が欲しいかしら?そうすればより保持力が増すのかな?うん、そこら辺は要検討ね」
「はい、えっと、ブノワト、遊んでないでこっち来い」
ブラスがやや興奮気味に大声となり、ブノワトはなによーと遠慮なく大声で返す、
「あ、悪い、でも、それ使い方が違うらしいぞ」
ブラスはソフィアやエレインの手前、声を顰めて静かにそう続け、
「え、そうなの?」
3人の驚いた顔が一斉に振り向いた、
「別に何挟んでもいいわよ、それに十分可愛らしい品だとも思うしね」
ソフィアはニコニコと笑いつつ、
「本来の目的を説明するわね」
3人を呼びつけ、同じ説明を繰り返すのであった。
「そうしますと、髪に使うのも間違ってはいないのですよね」
エレインはやや不満そうに確認する、
「そうね、間違ってはいないわね、私としても旦那がそう言っていたってだけだから、正直何に使おうがそれは私達の自由よ、私はそう思うんだけどね」
「そっか、良かった、何か妙に恥ずかしくなっちゃって」
ブノワトはホッと吐息を吐く、
「それはだって、ソフィアさんが先にエレイン会長の髪を留めるからですよ」
テラが非難の声を上げるが、半分笑っている様子である、
「ごめん、ごめん」
ソフィアも笑いながら謝りつつ、
「私もほら、初めて見たときは髪に使ったのよ、便利なんだもの」
あっはっはと快活に笑い声をあげた、
「でもそうなると改善する所とかあります?このままでも使えそうですが」
ブラスは真面目な顔で問う、
「そうね、さっきも言った通りに滑り止めが欲しいかしら?この先の内側に溝を掘るだけでもいいと思うけど、手間かしら・・・それと挟むものによって形状を変えていくのがいいのかなって思うのよ」
ソフィアは洗濯バサミを手に取って、
「髪をまとめる用途のこれ、洗濯用の布をはさむこれ、紙をはさんでまとめるようのこれ、って感じで、パッと見てそれぞれの用途が分かるような?ちょっと難しいかな?自分で何挟んでもいいって言っておいて矛盾があるけどね」
はにかんだ笑みを見せつつ、
「他にはなにかあるかな?」
女性陣へと視線を移す、
「そっか、はさんでひっぱれるのであれば、皮なめしにも使えないかな?弱いか・・・」
「うーん、料理・・・には難しそうですね、あ、魚を干すのに使えるかも」
「縫製の時に楽かもですね、布と布を留めておいて・・・縫い針でいいか」
「あ、複写作業の時に書き上げた書類を干すのには使えますね」
「・・・しかし、いざ考えるとなると・・・」
「はい、難しいですね・・・」
「そうね、じゃ、髪留めと洗濯バサミとして開発しましょうか」
ソフィアは一同の様子を見ながら話題を限定する、
「そうですね、髪留めであれば目立ちますし、洗濯バサミは数が売れそうです、いいと思います」
テラは実に商売人らしい観点である、テラ自身もそうあろうとしているのであろう、
「髪留めとしてはあれですね、もっとこう、オシャレにしたいですよね、それとはさむ部分が小さいかな?」
「あ、私もそれ思いました、えっと、髪って思った以上に量感があるので、こうガホって感じで絡めるのはどうでしょう?」
ブノワトが両手の指を絡めてみせる、
「え、どういうことだそれ?」
ブラスがあからさまに嫌そうな顔となる、
「だからー、これだと挟めるけど保持が難しいのよ、だからこう爪を組み合わせる感じでガホっとガホって」
ブノワトは夫の前で擬音と仕草で説明するが、ブラスは今一つピンとこないらしい、
「それ良いと思います、髪をまとめるよりも結い上げた状態で維持する感じですよね、包み込むような、でもそうなるとバネの力が欲しくなると思いますが、もっと強力にできます?」
「出来ます、バネ自体が大きくなってしまいますが、太くすれば大丈夫ですよ」
「それか大きくなってもいいのであれば、二つ上下に連結してもいいんじゃない?」
ソフィアが洗濯ばさみを二つ重ねて手にする、
「そっか、なるほど・・・うん、そうなると、こうガホっとした爪?それとこの動作部分と呼んでいいのかしら、羽みたいな部分を・・・そうだ、羽にしましょう、蝶々の羽?」
エレインは洗濯バサミをテーブルに縦に置く、
「わ、それ可愛いかも」
「はい、そう思ってみるとなんか虫っぽいですよね、この造作」
「そう?」
「そうですよ・・・見えないか・・・な」
「うん、ちょっと無理」
「見えないかー」
「もう、こうすればよいのですわ」
エレインは黒板へ向かい、簡単な図を書き上げると、
「ほら、こうすれば蝶になりますわ、羽の部分を押すと足が開く?」
「であれば」
ブノワトも黒板へ向かう、二人は悩みながら蝶の図をあーでもないこーでもないと書いては消しを繰り返す、
「洗濯バサミとしてはどうでしょう、先程の滑り止めは可能ですね、他にあれば」
ブラスが楽しそうな二人を放っておいてソフィアに問う、
「そうね、私の思う限りだと・・・あとは、あれだ、この先に穴が開いていても利便性は上がりそうね」
ソフィアは洗濯バサミを手に取る、
「穴ですか?そっちは押す方ですよね」
「そうよ、ほら、紐で結んで何かに固定できるようにしても良いと思うし」
「あ、そっか、紐に通してそこから吊り下げられるようにしてもいいですね」
テラも気付いたようである、
「そうそう、何度も言うけど何にでも使える品だからね、ちょっとした工夫が利便性の向上に繋がると思うわよ、手にした人によってそれぞれ別の使い方が出来るというのは主婦としてはありがたい点よね」
「なるほど・・・そういうものですか」
ブラスが小さく頷いた所で、
「これよ、出来ましたわ!」
エレインの高揚した声が響き、3人は黒板へ向き直る、黒板には足が異様に肥大した奇妙な蝶の絵が描かれており、エレインとブノワトは得意満面の笑みでそれを眺めている、
「この足でガホっと髪を掴むのよ、ガホって」
「そうなのです、髪を結い上げてそれを掴むのですよ、ガホって」
どうやら二人の間でその文言がお気に入りとなった様子である、二人はガホガホ言いながら楽しそうにはしゃいだ、
「あー、うん、何とか頑張ってみるよ・・・」
ブラスの口からやる気の無い呟きが漏れ聞こえた。
ブノワトが困り顔となるブラスに気付いて話しを強引に切り上げた、唐突に4人は静かになり、
「あら、ごめんなさいね」
ソフィアがニコリと本日2度目となる心のこもっていない謝意を口にする、ブラスは苦笑いを浮かべつつ革袋を取り出すと、
「もう一品、こちらも仕上げてきましたがいかがでしょうか」
革袋から木製の何かを取り出してソフィアの前に置いた、それは木片を二つ組み合わせた三角形の立体物である、中心付近に鉄の芯が入っており、その芯の回りには細い金額が巻きつけられていた、一見するとどう使うのか分からない品である、子供用の玩具と言われればそうであろうと誰もが納得する見た目であった、
「わ、出来たの?速いわね」
「あら、例のあれですね」
「今度はなんです?」
ソフィアは目の前に置かれた品を手に取ると、しげしげと観察し、
「使ってみた?」
ブラスへ問う、
「えっと、そうですね、動作は確認しました、しかしどう使うかは・・・すいません、わかりませんでした、何に使うのです?」
ブラスは恥ずかしそうに答え、ソフィアはそっかーと溜息交じりに呟く、
「えっと、ご注文通りかと思うのですが、どうですか?」
ブノワトも心配そうにソフィアを伺う、
「うん、いいと思うわよ、形は・・・」
ソフィアは木片の大きく開かれた方を摘まみ力を込める、やや軋む音がして木片の反対側が少しずつ開く、
「わ、すごい、これよ、これ、うんうん、流石ね、いい感じ、バネの力も強いわね」
ソフィアは嬉しそうに微笑み、他の者はそれがどうしたのであろうかと不思議そうに見つめる、
「じゃ、まずは・・・そうね、エレインさんちょっと髪を貸して」
ソフィアはエレインの許しの言葉も聞かずに席を立ちその背後に回り込む、
「えっと、痛い事ですか?」
エレインは不安そうに問うが、ソフィアは大丈夫大丈夫と無遠慮にその後ろ髪をうなじ付近で一つにまとめ、それを木片で挟みこんだ、
「どう?痛い?」
「えっと、痛くはないですが、え、いや、もしかして」
エレインは何とか自分の背中を見ようと右に左に顔を振り回し、テラとブノワトは、
「わ、そういう事ですか」
「うん、え、簡単だ、えっと、やってみていいです?」
ソフィアの返事を待たずにテーブル上の木片に手を伸ばす、
「ほら、エレインさん鏡で見てみて、で、簡単に外せるから」
ソフィアはニコニコとエレインを鏡へ向かわせると自分は席に戻りつつ、
「うん、バネも強くていいわね、そこが気になってたのよ、いい感じよ」
ブラスに微笑みかけた、
「これも髪留めだったのですか」
ブラスは驚きつつ自身の作品を手に取る、鏡の前では3人がそれぞれに髪をまとめては挟み込み、
「すごい、便利」
「うん、これは画期的ですよ」
「髪留めも良かったですけど、これも素晴らしいですわ」
年甲斐も無くキャッキャとはしゃいでいる様子である、ソフィアは3人の背に視線を投げつつ、
「でもね、旦那曰く、本来の使い方ではないらしいのよ」
「そうなんですか?」
「そうなの、旦那はね、この形状を洗濯バサミって呼んでたの」
「洗濯バサミ?鋏ではないですよね、これでは切れないですよ」
「そうなの、物を挟むからハサミらしいわ、で、本来は」
ソフィアは懐から手拭いを取り出しキョロキョロと周囲を見渡して、隣りの椅子の背にそれを引っ掛けると、ブラスが手にしている洗濯バサミを受け取り、手拭いを留めた、
「こんな感じで使うらしいのよ、旦那が上手く作れたのが一個だけでね、それもあっという間に壊れちゃったんだけど」
ソフィアは笑いつつ、
「こんな感じで洗濯物とかを固定するのね、手拭い取ってみて」
ブラスは席を立つと手拭いに手を伸ばす、端を持って軽く引っ張り、
「おお、固定されてる」
素直に目を剥いた、
「でしょー」
ソフィアは微笑みつつ、
「ほら、私達が洗濯物を干すときって、洗濯物の端と端を結んで干すでしょ、旦那の田舎だと綺麗な縄を張ってそこにこんな感じで引っ掛けてこれで固定して干すらしいのよ、他にもあるらしいんだけど、それは作れなかったみたいだったな」
懐かしそうに語った、
「なるほど、いや、どうなんでしょう、俺はほら洗濯とか殆どしないから・・・でも、そっか、何を挟んでもいいんだ」
ブラスはそういう事かと納得したようである、
「そうね、ようはこのバネの力で簡単になんでも挟む事のできる品って事よね、何を挟むかは使う人次第、さらにあれだ、この挟む所に滑り止めのような細工が欲しいかしら?そうすればより保持力が増すのかな?うん、そこら辺は要検討ね」
「はい、えっと、ブノワト、遊んでないでこっち来い」
ブラスがやや興奮気味に大声となり、ブノワトはなによーと遠慮なく大声で返す、
「あ、悪い、でも、それ使い方が違うらしいぞ」
ブラスはソフィアやエレインの手前、声を顰めて静かにそう続け、
「え、そうなの?」
3人の驚いた顔が一斉に振り向いた、
「別に何挟んでもいいわよ、それに十分可愛らしい品だとも思うしね」
ソフィアはニコニコと笑いつつ、
「本来の目的を説明するわね」
3人を呼びつけ、同じ説明を繰り返すのであった。
「そうしますと、髪に使うのも間違ってはいないのですよね」
エレインはやや不満そうに確認する、
「そうね、間違ってはいないわね、私としても旦那がそう言っていたってだけだから、正直何に使おうがそれは私達の自由よ、私はそう思うんだけどね」
「そっか、良かった、何か妙に恥ずかしくなっちゃって」
ブノワトはホッと吐息を吐く、
「それはだって、ソフィアさんが先にエレイン会長の髪を留めるからですよ」
テラが非難の声を上げるが、半分笑っている様子である、
「ごめん、ごめん」
ソフィアも笑いながら謝りつつ、
「私もほら、初めて見たときは髪に使ったのよ、便利なんだもの」
あっはっはと快活に笑い声をあげた、
「でもそうなると改善する所とかあります?このままでも使えそうですが」
ブラスは真面目な顔で問う、
「そうね、さっきも言った通りに滑り止めが欲しいかしら?この先の内側に溝を掘るだけでもいいと思うけど、手間かしら・・・それと挟むものによって形状を変えていくのがいいのかなって思うのよ」
ソフィアは洗濯バサミを手に取って、
「髪をまとめる用途のこれ、洗濯用の布をはさむこれ、紙をはさんでまとめるようのこれ、って感じで、パッと見てそれぞれの用途が分かるような?ちょっと難しいかな?自分で何挟んでもいいって言っておいて矛盾があるけどね」
はにかんだ笑みを見せつつ、
「他にはなにかあるかな?」
女性陣へと視線を移す、
「そっか、はさんでひっぱれるのであれば、皮なめしにも使えないかな?弱いか・・・」
「うーん、料理・・・には難しそうですね、あ、魚を干すのに使えるかも」
「縫製の時に楽かもですね、布と布を留めておいて・・・縫い針でいいか」
「あ、複写作業の時に書き上げた書類を干すのには使えますね」
「・・・しかし、いざ考えるとなると・・・」
「はい、難しいですね・・・」
「そうね、じゃ、髪留めと洗濯バサミとして開発しましょうか」
ソフィアは一同の様子を見ながら話題を限定する、
「そうですね、髪留めであれば目立ちますし、洗濯バサミは数が売れそうです、いいと思います」
テラは実に商売人らしい観点である、テラ自身もそうあろうとしているのであろう、
「髪留めとしてはあれですね、もっとこう、オシャレにしたいですよね、それとはさむ部分が小さいかな?」
「あ、私もそれ思いました、えっと、髪って思った以上に量感があるので、こうガホって感じで絡めるのはどうでしょう?」
ブノワトが両手の指を絡めてみせる、
「え、どういうことだそれ?」
ブラスがあからさまに嫌そうな顔となる、
「だからー、これだと挟めるけど保持が難しいのよ、だからこう爪を組み合わせる感じでガホっとガホって」
ブノワトは夫の前で擬音と仕草で説明するが、ブラスは今一つピンとこないらしい、
「それ良いと思います、髪をまとめるよりも結い上げた状態で維持する感じですよね、包み込むような、でもそうなるとバネの力が欲しくなると思いますが、もっと強力にできます?」
「出来ます、バネ自体が大きくなってしまいますが、太くすれば大丈夫ですよ」
「それか大きくなってもいいのであれば、二つ上下に連結してもいいんじゃない?」
ソフィアが洗濯ばさみを二つ重ねて手にする、
「そっか、なるほど・・・うん、そうなると、こうガホっとした爪?それとこの動作部分と呼んでいいのかしら、羽みたいな部分を・・・そうだ、羽にしましょう、蝶々の羽?」
エレインは洗濯バサミをテーブルに縦に置く、
「わ、それ可愛いかも」
「はい、そう思ってみるとなんか虫っぽいですよね、この造作」
「そう?」
「そうですよ・・・見えないか・・・な」
「うん、ちょっと無理」
「見えないかー」
「もう、こうすればよいのですわ」
エレインは黒板へ向かい、簡単な図を書き上げると、
「ほら、こうすれば蝶になりますわ、羽の部分を押すと足が開く?」
「であれば」
ブノワトも黒板へ向かう、二人は悩みながら蝶の図をあーでもないこーでもないと書いては消しを繰り返す、
「洗濯バサミとしてはどうでしょう、先程の滑り止めは可能ですね、他にあれば」
ブラスが楽しそうな二人を放っておいてソフィアに問う、
「そうね、私の思う限りだと・・・あとは、あれだ、この先に穴が開いていても利便性は上がりそうね」
ソフィアは洗濯バサミを手に取る、
「穴ですか?そっちは押す方ですよね」
「そうよ、ほら、紐で結んで何かに固定できるようにしても良いと思うし」
「あ、そっか、紐に通してそこから吊り下げられるようにしてもいいですね」
テラも気付いたようである、
「そうそう、何度も言うけど何にでも使える品だからね、ちょっとした工夫が利便性の向上に繋がると思うわよ、手にした人によってそれぞれ別の使い方が出来るというのは主婦としてはありがたい点よね」
「なるほど・・・そういうものですか」
ブラスが小さく頷いた所で、
「これよ、出来ましたわ!」
エレインの高揚した声が響き、3人は黒板へ向き直る、黒板には足が異様に肥大した奇妙な蝶の絵が描かれており、エレインとブノワトは得意満面の笑みでそれを眺めている、
「この足でガホっと髪を掴むのよ、ガホって」
「そうなのです、髪を結い上げてそれを掴むのですよ、ガホって」
どうやら二人の間でその文言がお気に入りとなった様子である、二人はガホガホ言いながら楽しそうにはしゃいだ、
「あー、うん、何とか頑張ってみるよ・・・」
ブラスの口からやる気の無い呟きが漏れ聞こえた。
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