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本編
38話 エレイン様は忙しい その2
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「失礼します」
暫くして玄関先を叩く音が聞こえ、テラがパタパタと応対に走る、すぐにテラは客を連れて事務室へ戻ってきた、来客は当然であるがエフモントである、エフモントは事務所内をキョロキョロと見渡しエレインの姿を認めると笑顔で頭を垂れた、
「御無沙汰しております」
エレインも席を立って頭を垂れ、
「こちらこそ、順調のようで何よりです」
エフモントは笑顔のままに返礼する、
「さ、こちらへ、お茶をお持ちします、それともソーダ水の方が宜しいでしょうか?」
テラの気遣いにエフモントはお茶でお願いしますと小さく答え、テラの指定した入口付近のテーブルに着いた、エレインも木簡を数枚手にしてそのテーブルへ向かう、
「あれが噂の鏡ですな?」
エレインがテーブルに着くなりエフモントは事務所の片隅にあるガラス鏡を話題に出した、
「はい、噂・・・となると従業員から聞かれたのですか?」
エレインはまぁ当然かしらと思いつつ答える、
「それはもう、口さがない奥様方の事ですから、御主人経由で聞いております、それと、領主様の所でも、なるほど、素晴らしい品ですね」
エフモントの席からやや距離がある壁際に置かれたガラス鏡であるが、角度的にエフモントの顔を正面に捉えている様子である、エフモントの視線はガラス鏡に向けられ、その興味の程度が知れた、
「そうですわね、ふふ、まだまだこれからの品なのですが、販売に向けて鋭意努力中といったところです」
エレインは上品な笑みを浮かべた、そこへテラが茶を供し、自身もエレインの隣りに座る、
「では、先に紹介をと思います、こちら、テラ・ベイエルと申します、当商会の番頭にと新しく雇いましたの、私の右腕として動くことも多くなると思います、宜しくお願いいたします」
エレインの慇懃な紹介に、テラは静かに頭を下げ、エフモントは、
「リューク商会モニケンダム支部長エフモントでございます、こちらこそどうぞ宜しくお願いします」
こちらも丁寧に頭を下げる、そして、ふむと小首を傾げ、
「女性に対して非常に失礼な物言いになるもしれませんが」
と前置きし、
「いや、奥様方も妙に色気が出てましたが、お二人もまた、実に魅力的だ、なるほど、これのことですか」
エフモントの視線はテラの胸元へ向けられている、しかし、その視線には情欲の感情は薄く、単純な興味のみが感じられる、しかし、テラとしてはじっと見つめられてはやはり悪感情は抱くようで、
「あの、初対面の人をそのように見つめるのは・・・」
「あ、いや、これは失礼を」
エフモントはテーブルに両手を付いて大袈裟に頭を下げた、
「まぁまぁ、その為の衣装という側面もあるでしょ」
エレインはテラを柔らかく押さえ、テラはただニヤリと微笑んだ、
「申し訳ない、しかし、今日伺いましたのはまさにそれが起因となっておりまして」
エフモントはゆっくりと頭を上げながら本題に入った様子である、
「と・・・申しますと?」
エレインが先を促す、
「はい、先日のギルドでの講習会ですか、その際の資料をとある女性が拝見したそうで、それで、この考え方こそ私が求めていたものだと、そう思ったらしいのですな」
エフモントは茶に手を伸ばしつつ語る、
「まぁ、それは光栄ですわ」
「えぇ、私は拝見しておりませんが、中々に興味深いそうで、その女性の姉妹も・・・さらに、その父親もなるほどと深く共感されたようなのですよ」
エフモントは一つ一つ区切りながら話す、茶に口をつけて喉を鳴らすと、
「ま、ここからが会長にはやや突飛に聞こえるかもしれませんが、その女性がこちらで修行・・・もしくは徒弟として世話になる事は出来ないか・・・とそう、相談されましてね」
「修行に徒弟ですか?」
エレインはやや驚いて呟き、
「まぁ、それはまた・・・職人さんのようですね」
テラは相談の内容に違和感を覚えた様子である、いやエフモントが何かを隠している、そう経験的に読み取ったのであろう、
「はい、その女性は現在、お針子の修行中なのでそういう発想になったと思うのですが、こちらでそういった事は受け入れられものかどうか、そこをまずはお伺いしたいかなと思いまして」
エフモントは困ったような笑みを浮かべ、
「なるほど・・・」
エレインとテラはうーんと沈思する、
「・・・そうですね、あの下着に関して概念的な部分で共感頂いたのは大変嬉しく思います」
エレインは言葉を探しつつ、
「しかし、資料を目にする事が出来たという事はあの下着の事情・・・服飾協会の傘下にある各加盟店で製造し、販売されるという事も理解されているという事ですよね」
「はい、その点も重々理解しておる様子でした」
「そうなると、私どもの元で学べる事は少ないのではないかと思うのですが・・・」
エレインは紳士に考え、答えている、現状下着に関してのみならず服飾関連の製造は考えていないのである、
「はい、それでも、と、本人は申しておりました、つい昨日の事なのですが・・・」
「昨日、それはそうですわね、しかし、何ともす速い対応ですね」
エレインは苦笑いを浮かべる、
「それだけ真剣であると、そう思って欲しいとの事ですが・・・浅慮とも思えますね、老人としては」
エフモントも腕を組んで悩んでいる様子である、
「その、どのような人物なのでしょうか?」
テラは違和感を感じながら質問する、
「人物としては良い娘ですよ、真面目ですし、賢い、姉妹の中でも器用ですしね、お針子として修行する前から姉妹の服を一手に引き受けて裁縫していたそうです」
「そのような人ならそのまま修行された方が宜しいのではないですか?」
「私もそう思いましてね、単刀直入にそうも言ったのですが、このままでは家業には役に立たないとそう考えているそうで・・・」
「家業ですか?」
「はい、彼女の一番の問題点は実はそこなのです」
エフモントは茶を啜ると、
「会長には一度挨拶させて頂いたと思いますが、グルア商会のリズモンドを覚えていらっしゃいますか?」
「グルア商会・・・リズモンド・・・」
エレインは小さく呟き顔を背ける、
「店舗の開店の際に連れてきた、派手な身なりの背の高い中年です」
エフモントの説明で、
「ああ、はい、あの、綺麗な女性を連れていた」
エレインはパッと思い出したらしい、
「はい、えーと、グルア商会がどういう商会かは・・・ご存知ない?・・・」
エフモントは確認するように問う、
「そうですね、すいません、商会として仲良くして頂いている所はまだまだ少なくて」
「そうですか・・・」
エフモントはうーんと悩み、
「はっきり言いますと、裏の商売です、表がグルア商会、裏は遊女屋と売春の元締めです」
「まぁ」
とエレインとテラは同時に驚く、
「テラさんもご存知無いとなると、こちらの出身ではないのでしょうか、モニケンダムでは知らない者はいない程有名ですよ」
「そんなに有名なんですか?」
「はい、子供・・・は置いておいて、皆知ってますね、開店の際に引き合わせたのは手を出すなという意思表示の為なのです、会長からの指示でもありました」
「会長さんから・・・」
エレインはルーツの顔を思い出す、しかし独特の眼光のみが思い出され、その面相を詳しく思い出す事は出来なかった、
「そんな人をうちで引き取れというのですか?」
テラは違和感の正体はこれであったかと得心し、エフモントへ非難の視線を送る、
「そんな人とは心外です」
エフモントは実直な視線をテラへ向けると、
「モニケンダムにおいての裏社会はグルア商会と赤ガラスという二つの組織で仕切られています、過去においては抗争等もあったようですが今はそのような事は殆ど無い」
エフモントは右手の人差し指と中指を立て、
「ましてこの二つが睨みを利かせているお陰で暴力沙汰も犯罪も少ないのです、表立っては口外できませんが、衛兵隊とも繋がっています、そういう組織なのです」
「・・・なるほど・・・必要悪と、そうおっしゃる?」
テラの詰問は続く、
「そう表現されるべきかどうかは分かりませんが、例えば売春に関してはグルア商会の目がありますから街娼が立つ事は殆ど無くなりました、それはグルア商会の商売にとって不利益であるからですが、同時に」
エフモントは茶に手を伸ばし、
「街としても治安が良くなった・・・そういう側面があります、さらに赤ガラスは賭博の元締めです、小さな賭博は監視の対象ではないですが、赤ガラスの監視下にある賭博場は社交場として地位を確立しておるのです」
一口啜ると、
「話しを戻しますと、そのグルア商会の娘、10人姉妹の内の1人ですね、その娘が件の人物になります」
「10人姉妹ですか・・・」
エレインは妙な所に関心してしまう、
「はい、リズモンドの実子は2人と聞いております、8人は養子であると・・・噂とされていますが事実のようですね」
「養子を8人ですか」
今度はテラが目を剥く、
「はい、商売上様々な問題がある女性を取扱う・・・は駄目ですね、事情のある女性と関わりますから、放置された子供や母親と死別した子供を引き取った、そう聞いております」
「それは、なかなか出来る事ではないですね」
テラは思案しながらも矛を納めたようである、喧嘩腰ともとれる力みが収まり、肩の力が幾分か抜けたように見えた、
「・・・確かに・・・」
エレインもその苦労に思いを巡らせる、
「はい、テラさんの仰る通りなかなか出来る事ではないです、ま、そういう人物なので、この街の人達も恐れる事と不用意に近寄らないと同時に認めてもいるのです」
「・・・なるほど、分かりました・・・」
エレインは暫し沈思し、
「どうでしょう、テラさん、私としては興味が湧いてきました、その御本人に会うだけ会ってみたいと思うのですが」
テラへ伺うように視線を向ける、
「・・・会長がそうおっしゃるなら・・・しかし、そうですね、何かあればリューク商会が責任を取ると、そう考えても宜しいのですね」
テラはエフモントへ強い視線を向ける、
「その・・・何かの内容によりますが、私が見る限りその女性とその家族によって六花商会様に対し不利益を与える事はないであろうと思います、万が一の場合、私と私が使える権力を駆使し対応する事を確約します」
口頭で申し訳ないですがとエフモントは続けた、
「分かりました、そこまで仰られるのであれば、私は会長の意向に従います」
テラはフンスと鼻息を荒くする、
「しかし、エフモントさんもどうしてそこまで肩入れを?過剰のようにも聞こえますが」
エレインがエフモントの言葉に疑問を持った様子である、
「それだけ信頼しておるのです、彼等や彼の家族、商売もそうなのですが、やるといったらやる、やらないといったらやらない、その点においては芯の通った連中です、仕事上でも協力する事も・・・協力して貰う事が多くて」
エフモントは終始腹を割って話している、つまらない嘘をついてもつまらない事になる、それが彼の信条であった、
「こちらが頼む事はあっても頼まれる事は無かったのですよ、それが、娘さんの事とはいえ頭を下げられては・・・ね、せめて話し合いの場を作るぐらいはしませんと、申し訳がない」
「そうですか、では話し合う場を作りましょう、先方の要望とこちらの現実を付き合わせた上でお互いに判断する・・・という事で宜しいでしょうか」
「ありがとうございます、良かった・・・いや、どうなるかは双方の問題ですが、いや、感謝致します」
エフモントは笑顔になって大仰に頭を下げる、
「いえ、こちらとしても人を求めている段階です、良い人であれば喜んで迎えたいと思っております、あ、それで、話しが変わるのですが」
エレインはテーブルの端に置いた木簡に手を伸ばし、
「御足労頂いた上で申し訳ないのですが、人材の紹介をお願いしたいのです」
そこからエレインとテラはガラス鏡の店舗の計画を説明しつつ、人材についての相談へと移っていくのであった。
暫くして玄関先を叩く音が聞こえ、テラがパタパタと応対に走る、すぐにテラは客を連れて事務室へ戻ってきた、来客は当然であるがエフモントである、エフモントは事務所内をキョロキョロと見渡しエレインの姿を認めると笑顔で頭を垂れた、
「御無沙汰しております」
エレインも席を立って頭を垂れ、
「こちらこそ、順調のようで何よりです」
エフモントは笑顔のままに返礼する、
「さ、こちらへ、お茶をお持ちします、それともソーダ水の方が宜しいでしょうか?」
テラの気遣いにエフモントはお茶でお願いしますと小さく答え、テラの指定した入口付近のテーブルに着いた、エレインも木簡を数枚手にしてそのテーブルへ向かう、
「あれが噂の鏡ですな?」
エレインがテーブルに着くなりエフモントは事務所の片隅にあるガラス鏡を話題に出した、
「はい、噂・・・となると従業員から聞かれたのですか?」
エレインはまぁ当然かしらと思いつつ答える、
「それはもう、口さがない奥様方の事ですから、御主人経由で聞いております、それと、領主様の所でも、なるほど、素晴らしい品ですね」
エフモントの席からやや距離がある壁際に置かれたガラス鏡であるが、角度的にエフモントの顔を正面に捉えている様子である、エフモントの視線はガラス鏡に向けられ、その興味の程度が知れた、
「そうですわね、ふふ、まだまだこれからの品なのですが、販売に向けて鋭意努力中といったところです」
エレインは上品な笑みを浮かべた、そこへテラが茶を供し、自身もエレインの隣りに座る、
「では、先に紹介をと思います、こちら、テラ・ベイエルと申します、当商会の番頭にと新しく雇いましたの、私の右腕として動くことも多くなると思います、宜しくお願いいたします」
エレインの慇懃な紹介に、テラは静かに頭を下げ、エフモントは、
「リューク商会モニケンダム支部長エフモントでございます、こちらこそどうぞ宜しくお願いします」
こちらも丁寧に頭を下げる、そして、ふむと小首を傾げ、
「女性に対して非常に失礼な物言いになるもしれませんが」
と前置きし、
「いや、奥様方も妙に色気が出てましたが、お二人もまた、実に魅力的だ、なるほど、これのことですか」
エフモントの視線はテラの胸元へ向けられている、しかし、その視線には情欲の感情は薄く、単純な興味のみが感じられる、しかし、テラとしてはじっと見つめられてはやはり悪感情は抱くようで、
「あの、初対面の人をそのように見つめるのは・・・」
「あ、いや、これは失礼を」
エフモントはテーブルに両手を付いて大袈裟に頭を下げた、
「まぁまぁ、その為の衣装という側面もあるでしょ」
エレインはテラを柔らかく押さえ、テラはただニヤリと微笑んだ、
「申し訳ない、しかし、今日伺いましたのはまさにそれが起因となっておりまして」
エフモントはゆっくりと頭を上げながら本題に入った様子である、
「と・・・申しますと?」
エレインが先を促す、
「はい、先日のギルドでの講習会ですか、その際の資料をとある女性が拝見したそうで、それで、この考え方こそ私が求めていたものだと、そう思ったらしいのですな」
エフモントは茶に手を伸ばしつつ語る、
「まぁ、それは光栄ですわ」
「えぇ、私は拝見しておりませんが、中々に興味深いそうで、その女性の姉妹も・・・さらに、その父親もなるほどと深く共感されたようなのですよ」
エフモントは一つ一つ区切りながら話す、茶に口をつけて喉を鳴らすと、
「ま、ここからが会長にはやや突飛に聞こえるかもしれませんが、その女性がこちらで修行・・・もしくは徒弟として世話になる事は出来ないか・・・とそう、相談されましてね」
「修行に徒弟ですか?」
エレインはやや驚いて呟き、
「まぁ、それはまた・・・職人さんのようですね」
テラは相談の内容に違和感を覚えた様子である、いやエフモントが何かを隠している、そう経験的に読み取ったのであろう、
「はい、その女性は現在、お針子の修行中なのでそういう発想になったと思うのですが、こちらでそういった事は受け入れられものかどうか、そこをまずはお伺いしたいかなと思いまして」
エフモントは困ったような笑みを浮かべ、
「なるほど・・・」
エレインとテラはうーんと沈思する、
「・・・そうですね、あの下着に関して概念的な部分で共感頂いたのは大変嬉しく思います」
エレインは言葉を探しつつ、
「しかし、資料を目にする事が出来たという事はあの下着の事情・・・服飾協会の傘下にある各加盟店で製造し、販売されるという事も理解されているという事ですよね」
「はい、その点も重々理解しておる様子でした」
「そうなると、私どもの元で学べる事は少ないのではないかと思うのですが・・・」
エレインは紳士に考え、答えている、現状下着に関してのみならず服飾関連の製造は考えていないのである、
「はい、それでも、と、本人は申しておりました、つい昨日の事なのですが・・・」
「昨日、それはそうですわね、しかし、何ともす速い対応ですね」
エレインは苦笑いを浮かべる、
「それだけ真剣であると、そう思って欲しいとの事ですが・・・浅慮とも思えますね、老人としては」
エフモントも腕を組んで悩んでいる様子である、
「その、どのような人物なのでしょうか?」
テラは違和感を感じながら質問する、
「人物としては良い娘ですよ、真面目ですし、賢い、姉妹の中でも器用ですしね、お針子として修行する前から姉妹の服を一手に引き受けて裁縫していたそうです」
「そのような人ならそのまま修行された方が宜しいのではないですか?」
「私もそう思いましてね、単刀直入にそうも言ったのですが、このままでは家業には役に立たないとそう考えているそうで・・・」
「家業ですか?」
「はい、彼女の一番の問題点は実はそこなのです」
エフモントは茶を啜ると、
「会長には一度挨拶させて頂いたと思いますが、グルア商会のリズモンドを覚えていらっしゃいますか?」
「グルア商会・・・リズモンド・・・」
エレインは小さく呟き顔を背ける、
「店舗の開店の際に連れてきた、派手な身なりの背の高い中年です」
エフモントの説明で、
「ああ、はい、あの、綺麗な女性を連れていた」
エレインはパッと思い出したらしい、
「はい、えーと、グルア商会がどういう商会かは・・・ご存知ない?・・・」
エフモントは確認するように問う、
「そうですね、すいません、商会として仲良くして頂いている所はまだまだ少なくて」
「そうですか・・・」
エフモントはうーんと悩み、
「はっきり言いますと、裏の商売です、表がグルア商会、裏は遊女屋と売春の元締めです」
「まぁ」
とエレインとテラは同時に驚く、
「テラさんもご存知無いとなると、こちらの出身ではないのでしょうか、モニケンダムでは知らない者はいない程有名ですよ」
「そんなに有名なんですか?」
「はい、子供・・・は置いておいて、皆知ってますね、開店の際に引き合わせたのは手を出すなという意思表示の為なのです、会長からの指示でもありました」
「会長さんから・・・」
エレインはルーツの顔を思い出す、しかし独特の眼光のみが思い出され、その面相を詳しく思い出す事は出来なかった、
「そんな人をうちで引き取れというのですか?」
テラは違和感の正体はこれであったかと得心し、エフモントへ非難の視線を送る、
「そんな人とは心外です」
エフモントは実直な視線をテラへ向けると、
「モニケンダムにおいての裏社会はグルア商会と赤ガラスという二つの組織で仕切られています、過去においては抗争等もあったようですが今はそのような事は殆ど無い」
エフモントは右手の人差し指と中指を立て、
「ましてこの二つが睨みを利かせているお陰で暴力沙汰も犯罪も少ないのです、表立っては口外できませんが、衛兵隊とも繋がっています、そういう組織なのです」
「・・・なるほど・・・必要悪と、そうおっしゃる?」
テラの詰問は続く、
「そう表現されるべきかどうかは分かりませんが、例えば売春に関してはグルア商会の目がありますから街娼が立つ事は殆ど無くなりました、それはグルア商会の商売にとって不利益であるからですが、同時に」
エフモントは茶に手を伸ばし、
「街としても治安が良くなった・・・そういう側面があります、さらに赤ガラスは賭博の元締めです、小さな賭博は監視の対象ではないですが、赤ガラスの監視下にある賭博場は社交場として地位を確立しておるのです」
一口啜ると、
「話しを戻しますと、そのグルア商会の娘、10人姉妹の内の1人ですね、その娘が件の人物になります」
「10人姉妹ですか・・・」
エレインは妙な所に関心してしまう、
「はい、リズモンドの実子は2人と聞いております、8人は養子であると・・・噂とされていますが事実のようですね」
「養子を8人ですか」
今度はテラが目を剥く、
「はい、商売上様々な問題がある女性を取扱う・・・は駄目ですね、事情のある女性と関わりますから、放置された子供や母親と死別した子供を引き取った、そう聞いております」
「それは、なかなか出来る事ではないですね」
テラは思案しながらも矛を納めたようである、喧嘩腰ともとれる力みが収まり、肩の力が幾分か抜けたように見えた、
「・・・確かに・・・」
エレインもその苦労に思いを巡らせる、
「はい、テラさんの仰る通りなかなか出来る事ではないです、ま、そういう人物なので、この街の人達も恐れる事と不用意に近寄らないと同時に認めてもいるのです」
「・・・なるほど、分かりました・・・」
エレインは暫し沈思し、
「どうでしょう、テラさん、私としては興味が湧いてきました、その御本人に会うだけ会ってみたいと思うのですが」
テラへ伺うように視線を向ける、
「・・・会長がそうおっしゃるなら・・・しかし、そうですね、何かあればリューク商会が責任を取ると、そう考えても宜しいのですね」
テラはエフモントへ強い視線を向ける、
「その・・・何かの内容によりますが、私が見る限りその女性とその家族によって六花商会様に対し不利益を与える事はないであろうと思います、万が一の場合、私と私が使える権力を駆使し対応する事を確約します」
口頭で申し訳ないですがとエフモントは続けた、
「分かりました、そこまで仰られるのであれば、私は会長の意向に従います」
テラはフンスと鼻息を荒くする、
「しかし、エフモントさんもどうしてそこまで肩入れを?過剰のようにも聞こえますが」
エレインがエフモントの言葉に疑問を持った様子である、
「それだけ信頼しておるのです、彼等や彼の家族、商売もそうなのですが、やるといったらやる、やらないといったらやらない、その点においては芯の通った連中です、仕事上でも協力する事も・・・協力して貰う事が多くて」
エフモントは終始腹を割って話している、つまらない嘘をついてもつまらない事になる、それが彼の信条であった、
「こちらが頼む事はあっても頼まれる事は無かったのですよ、それが、娘さんの事とはいえ頭を下げられては・・・ね、せめて話し合いの場を作るぐらいはしませんと、申し訳がない」
「そうですか、では話し合う場を作りましょう、先方の要望とこちらの現実を付き合わせた上でお互いに判断する・・・という事で宜しいでしょうか」
「ありがとうございます、良かった・・・いや、どうなるかは双方の問題ですが、いや、感謝致します」
エフモントは笑顔になって大仰に頭を下げる、
「いえ、こちらとしても人を求めている段階です、良い人であれば喜んで迎えたいと思っております、あ、それで、話しが変わるのですが」
エレインはテーブルの端に置いた木簡に手を伸ばし、
「御足労頂いた上で申し訳ないのですが、人材の紹介をお願いしたいのです」
そこからエレインとテラはガラス鏡の店舗の計画を説明しつつ、人材についての相談へと移っていくのであった。
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