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本編

37話 やっぱりニャンコな編み物とか その5

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夕食後、エレインとテラとオリビアがユーリ達研究所組と3階へ上がり、ジャネットとケイスは編み物に興じている、

「えっ、凄い、どうやるの?」

「ふふ、簡単です、最初からやりますね」

ケイスは編み上げたものを簡単に解くと、左手指に毛糸を絡ませていった、左手親指で始点を押さえ小指から人差し指に毛糸を絡め流れるように編み込んでいく、

「うわ、カッコいい」

「へへー」

ジャネットの単純な称賛に、ケイスは得意顔となる、

「あら、指編み?」

ソフィアが片付けを終えて食堂へ入ってきた、

「わかります?これだけは得意なんですよー」

ケイスははにかんだ微笑みを見せ、

「凄いじゃない、実家で習ったの?」

「はい、おばあちゃんに、妹達と一緒に暖炉の前で教わりました」

懐かしそうに微笑むケイスである、

「いいなー、うちは男兄弟ばっかりでさー、こういうの教えて貰った事ないなー」

ジャネットは羨ましそうにケイスの手元を覗きこみつつ左手に毛糸を絡ませ始める、

「そうですか、うちは女ばっかりでしたから、息子が欲しーってよく愚痴ってましたよ、特に母さんが」

「ないものねだりよね、そういうのって」

ソフィアも微笑みつつ毛糸に手を伸ばす、作りかけの編み棒を取り出すと作業の続きに取り掛かる、

「何を作るんです?」

ジャネットが左手に集中しつつソフィアに問う、

「ミナとレインのアシブクロを作ってあげたくてねー」

「アシブクロ?」

ケイスとジャネットが不思議そうに問う、

「そうよ、作らなかった?子供用で冬用のアシブクロ、温かいのよ」

「いえ、手袋なら作って貰った事がありますけど・・・」

「うん、アシブクロって初めて聞いた・・・」

「そっかー、ほら、寝るときって足冷たいと眠りにくいじゃない?だから、寝るときに履くのよ、温かいわよ」

「へーへー、凄い、そういうのがあるんですか?」

「うん、見た事ないなー」

「あら、うちの田舎だとみんな使ってたわよ、特に子供はね、ちっこいから温まるのも速いんだけど、すぐに冷たくなるからね、大事なのよ」

「確かにそうですね、へー、いいなー、私も寝るとき足冷たいんだよなー」

「うん、あたしもー」

ジャネットとケイスは頷きあうと、

「一緒に作ってもいいですか?」

「教えて下さい」

二人ともに素直に教授を求める、

「いいわよー、あ、でも、あれ、ニャンコはいいの?」

ソフィアは夕食前の賑やかな一幕を思い出す、当然の事であったが帰寮した面々にミナはニャンコの髪飾りを自慢してまわり、皆の素直な称賛にミナは有頂天となった、見慣れた光景であるが、エレインが手掛けたという事実を耳にして、自分達もやりたいとジャネットとケイスはこうして毛糸を前にしているのである、

「ニャンコもいいけどなー」

「はい、アシブクロは魅力的です」

二人は静かに悩みだす、

「じゃ、あれよ、ニャンコで練習して、それからアシブクロを作ればいいのだわ」

ソフィアの簡潔な提案に二人はそれもそうだと応じる、

「ケイスさんはそうすると少しは出来る?」

「はい、でも丸いのは作った事ないなー、難しいです?」

「そうでもないわよ、こう言っては失礼だけどエレインさんも教えたら出来たしね」

「うふふ、確かに失礼ですけど、そうですよね」

ケイスはほくそ笑む、

「あー、ケイス、悪い顔だー」

「なんだよー、ジャネットだって笑ってるじゃーん」

「はいはい、ジャネットさんは最初からよね、なら、あれだ基本の編み方で指の運びとか覚えて、慣れる事が先ねー」

「はーい、えっと、編み棒は勝手に使っていいです?」

「いいわよ、足りる?」

「大丈夫そうですね」

ケイスとジャネットは指編みを解きながら道具を確認する、

「あら、編み物教室?」

3階からユーリがワインを片手に降りてきた、エレイン達もその後に続いている、

「そうよー、打ち合わせは終わり?」

ソフィアがヒョイっと顔を上げる、

「大体ねー」

ユーリは適当に答え、

「そうですねー」

エレインは満足いく結果となったのか嬉しそうに微笑む、

「そうだ、オリビア、あなた得意よね」

不意にエレインが振り向いた、

「何がです?」

「編み物、サマンタさんに教えて貰ってたでしょ」

「まぁ、はい、人並には出来ると思いますけど・・・」

「そうよね、教えなさい」

「お嬢様・・・以前に教えた時は放り投げてましたよね」

オリビアは呆れたように非難の目を向ける、

「あの時はあの時よ、今日ソフィアさんに教えてもらったら楽しかったの」

「そんな・・・都合の良い事を・・・」

「いいから、ほら、道具持ってきなさい」

エレインはオリビアを追い立て、自身はそそくさとソフィアの対面に座ると、

「さっき思いついたんですの、小さな花を6つ並べて髪飾りに出来ないでしょうか」

楽しそうにソフィアへ相談する、

「小さな花?あー、六花商会の?」

ソフィアが問い返す、

「あ、それ、いいねー」

ジャネットが感づいて明るい声を上げた、

「でしょー、ほら、前掛けと合わせた髪飾り?小さい丸を作って花びらを回りにあしらって、良いと思いません?」

「良いよそれ、可愛いよ、うん、それいい」

エレインとジャネットは意気投合したらしい、ケイスもうーんと考え、

「あー、可愛いですねー、いいと思います、でも、結構な手間ですよ」

ケイスは同調しつつも冷静である、

「そこはほら、皆さんで一気に作っても良いですし、得意な方にお願いしてもいいですし」

「そうですね、それに髪飾りと髪留めの宣伝にもなりますしね」

テラもやれやれと腰を下す、

「そうなると・・・」

とソフィアはうーんと思案して、

「花は小さい方が良さそうよね、細い毛糸でレース編みにする?」

「そうですわね、少し値は張りますがシルクでも良いと思いますの、中心はシルクの白にして花びらは黄色の細い綿とか」

「なるほど、そこまで考えているなら作ってみたら、こういうのは勢いが大事よ」

ソフィアが微笑んだところにオリビアが材料と道具を抱えて戻ってきた、

「オリビア、シルクの糸はあります?それとかぎ針?」

「ありますよ、少々お待ち下さい」

オリビアがガサゴソと毛糸の詰まった籠を漁り、数本の編み棒と真っ白い糸玉を取り出した、

「そうなると、ジャネットさんもケイスさんもそっちを先にやる?」

ソフィアが気を利かせて二人に問う、二人はそうですねと答えオリビアの側に席を移した、

「それでは、どうしましょう、かぎ棒の使い方から始めましょうか」

オリビアが3人に確認しながら作業を開始した、エレインとジャネットはじっくりとその手元を注視し、ケイスはオリビアの様子を見ながら同じように手を動かしている、

「あ、そうだ、ごめん、話し変わるんだけど、冬支度ってどうやってたの?」

ソフィアが思い付いたようにケイスに問う、

「冬支度ですか?どうと言われると困るんですが、薪とかですか?」

「あー、それはダナさんから聞いてるわ、ほら、寮の中?毛皮とか毛布とか壁に貼ったり、床に敷いたりしないの?」

「しますね、はい、暖炉の前と・・・本来であれば壁にも貼ってたと思うんですが、去年まではほら、物に溢れてましたから・・・」

ケイスは首を傾げつつ答える、

「あ、そうよね、片付けちゃったから逆に寒くなるかしら?」

ソフィアは当初の惨状を思い出す、

「どうでしょう?ごみごみしてても寒いことは寒かったので・・・」

「こっちは田舎ほど寒くはないわよー」

ユーリが話しに入ってきた、

「そうなの?」

ソフィアが振り向くと、

「うん、田舎みたく完全防備はしなくてもいいかしら、雪も少ないしねー、ただ、暖炉は朝からずっと火が入ってる感じ?贅沢よね」

「へー、贅沢ですねー」

テラも話題に乗ってきた、

「あ、そっか、テラさんもここより寒い所よね、北ヘルデルってけっこうきついわよね」

「そうなんですよ、雪は多いし、海風は冷たいし、冷たいというか痛い感じですね」

「そうなんだー、こっちはあれです、西風がきついかなー、北は湖なのでそれほどでもないですが、北東の山と西の荒地からの風は冷たいですね」

「ふーん、じゃ、どうしようかしら、倉庫の毛皮とか毛布とか虫干ししておこうかと思ったのよね」

「それは必要ですね、それだけはしっかりやってましたよ、前の寮母さんも」

「そっか、ありがと、やっとくわ、個人部屋の方はどうするの?各自で対応?」

「それは勿論です、ですが、そうですねあまりに寒い日なんかは皆部屋から出てきて暖炉の前で寝てました、毛布にくるまって」

「そうだねー、あれはあれで楽しいけどねー」

ジャネットがニヤニヤと思い出し笑いをしている、

「なるほど、そうなるのか、どうしようかしら、毛皮も毛布も結構あるのよね、各自に配る?」

「それは冬になってからでもいいんでないの?対応できるようにしておけば」

ユーリは若干無責任な事を口にするが、

「それもそうね」

ソフィアはあっさりと聞き入れつつ、

「あ、今の内にあれか隙間は埋めとくか、ブラスさんにお願いして気になるところは修繕して貰いましょう、個人部屋も気になる所があったら言ってね、それと寝藁を交換したい人も、まだ大丈夫かしら?」

「寝藁は大丈夫かなー、木戸の隙間が気になります」

ジャネットが顔を上げる、

「お嬢様の部屋も隙間風ありましたよね」

オリビアがかぎ編みに集中しているエレインに問いかける、

「ん、あ、そうね、直してもらおうかしら」

「そっか、じゃ、一斉に点検してもらって、やるならやってしまった方がいいわよね」

ソフィアはそう結論付け、うーんと悩みつつ手元を動かし続けるのであった。
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