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本編
36話 講習会と髪飾り その11
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夕食後、食堂にはテラと研究所の3人がテーブルを囲んでおり、やや離れた場所でジャネットとケイスが座っており、エレインとミナとレインの姿は無い、議題は明日の商工ギルドでの講習会の件である、テラが講師役をサビナに頼んだ事が事の発端となり、サビナは乗り気では無かったが、ユーリがそれは良い考えだと賛同した事から急遽執り行われた、
「本日の打ち合わせで、大まかな流れを決めてきました、先にギルドの担当者から説明がありまして、その後、カトカさんにまとめて頂いた資料を元に講義を行います、ここ迄が講義の形になりまして、終わりましたら、実際の物を見て頂きます、作成については次回以降という事になりました」
テラがカトカの作った資料の複写と作例として作った下着をテーブルに置いた、
「なるほどね、午後からだっけ?」
ユーリが下着を手に取って確認する、
「はい、公務時間が終わってから集まる形になります、なので、人の集まり具合を見て開始する運びとなります」
「なるほど、学園みたくキチキチとはいかないわよね」
ユーリが納得して頷いた、
「そうですね、学園の方がどうかは・・・すいません、私はなんともなんですが、ギルドとしては通常の対応との事でした、ま、確かにそうなんですよね、普通に仕事をしている人達が対象なので・・・で、講義の部分をサビナさんにお願いしたいと考えております、作例の説明等は私とケイランさんで対応します、オリビアさんも合流予定なので、細かい点、特に作成する際の問題点等はその時に話せるかなと思います、その点はこちらに一任頂ければと思います」
「うんうん、いいじゃない、サビナやりなさいよ」
ユーリは軽い言葉でサビナの尻を叩く、サビナは難しい顔で資料に目を落としており、カトカは楽しそうにほくそ笑んでいる、
「そうは言いますけど・・・」
サビナは難しい顔を崩さない、
「あー、こういう場所で顔を売る事も大事なのよ、服飾業界に伝手が出来れば研究会として協力も仰げるでしょ」
「そうでしょうか・・・そうですね、でも、私でいいんでしょうか?」
サビナは何とも煮え切らない感じである、
「もう、なに?、お偉いさんの圧力に気圧されちゃった?あの辺の人達との付き合いも慣れなきゃだし、あんたが出来る奴だと認めさせるのが大事なのよ、ついでに言うと、あの人達との縁なんて、普通は得られるものではないわよ、学園長は別にしても、あの夫婦はそれこそ別格なんだし」
「そうそう、女は度胸ですもんねー」
カトカがにやにやと茶化す、
「何よカトカまで・・・」
サビナがカトカを睨むがカトカは涼しい顔である、
「でも確かにそうなんですよね、服飾関係は詳しくないですし、こちらの事情も分からないのですが、業界との伝手が出来れば商会としても手が広がりますし、先生の言う通り、研究会としても有利になる事はあっても、不利ではないですよね」
テラまでもがニヤリと微笑む、
「そうなのよ、どういう面子が来るかにもよるし、その人達がどう受け取るかにもよるけどね、この内容であれば講習会としては十分以上の価値があるし、なにより、この下着は女性達にとってみれば魅力的な品だしね、その中心にサビナと学園があるとなれば学園としても名が売れるし悪いことはないのよ」
「そうなんでしょうけど」
サビナは踏ん切りがつかない様子である、
「なによ、何に悩んでるの?」
ユーリが若干イラついて問い質す、
「いや、私でいいのかなって・・・その、上の資料もこの下着も、私が作ったものではないですよ」
「あー、そういうこと・・・」
ユーリはフンスと鼻を鳴らす、
「ですので、なんか、その申し訳ない感じがして・・・」
そう言って黙り込んだサビナは腕を組んで首を傾げる、ユーリは再び大きく鼻息を吐き出し、カトカもうーんと悩みだした、
「あら、どうしたの、静かになっちゃって」
そこへ片付けを終えたソフィアとオリビアが食堂へ入ってくる、
「サビナが煮え切らないのー、ホントにもう、千載一遇の機会よ、しっかりなさい」
ユーリが面倒くさくなったのか大声を上げた、
「ですけどー」
大きな肩を縮こまらせてサビナはウジウジと巨体を揺らす、
「まぁまぁ、そりゃサビナさんだって緊張しちゃうでしょうよ、リシア様まで出張ってきたんでしょ、そりゃ普通の人なら尻込みしちゃうわ」
ソフィアはカラカラと笑い、
「あら、優しいのね」
ユーリは不満顔である、
「では、私は先に」
その様子を横に見ながらオリビアは階段へ向かった、
「そうね、エレインさんをちゃんと寝かせるのよー、食欲は戻っても身体はまだ本調子じゃないかもだから」
ソフィアが優しく気遣うと、オリビアはニコリと微笑みつつ、
「はい、そのつもりです、それとサビナさん、明日と明後日、期待してますから」
オリビアはそう言って姿を消した、
「あー、オリビアさんまで、もー」
サビナはいよいよ頭を抱え、その様はいよいよ丸い塊となってしまう、
「どうしたの?そんなに悩むこと?」
ソフィアが小首を傾げ、
「そうらしいわねー、もう、こんなに繊細な娘だと思わなかったわ、わたしも」
ユーリが呆れている、
「いろいろ急に決まったからいっぱいいっぱいなんですよ」
カトカが苦笑いを浮かべ、
「あー、それは分かりますねー」
テラは同情的である、
「でもさー、ここ数日こんな事ばっかだったからね、なんか、なんも無い日の方が珍しいかも」
ジャネットが頷き、
「それ、言えてます」
ケイスも理解を示した、
「あ、そうだ、ソフィアとしてはどうなの?この下着」
埒が明かないと踏んだユーリが口を開いた、
「何が?」
ソフィアはテラの隣りに座ると聞き返す、
「ほら、これってあなたの発案なんでしょ、好きにさせて貰っていいの?」
「別にいいわよ、何かあれでしょ、収益の一部が入ってくるんでしょ、お金はどうでもいいけど、それで納得するんであればそれでいいんじゃない?」
ソフィアがシレッと答えると、サビナが顔を上げて、
「え、そうなんですか?」
不思議そうに問う、
「そうらしいわよ、ね、テラさん」
「はい、向こう5年の期間が設けられていますが、ソフティーの商品名で取扱う下着類の収益の一部が商会に入ります、商会としてはそれをソフィアさんの取り分という形でお渡しする事としました」
「え、そうだったんですか、それは良かった・・・」
サビナがどこかホッとしたように呟く、
「あら、言ってなかったかしら」
ユーリがあらぬ方向を睨み、
「聞いてないですよ」
サビナがジロリとユーリを睨む、
「ま、それはそうしたいってエレインさんが言うからね、私としてはなるようになればいいんだし、好きにすればいいのにね」
ソフィアは何処までも他人事のようである、自身の利益になる事を忌避しているようにしか聞こえない、
「そういうわけにはいかないと説明した筈ですよ」
テラが珍しくもややきつい口調となる、
「はいはい、素直に受け取りますよ、嬉しく無いけど」
ソフィアはやはり納得していないのであろう、不満顔を隠そうともしない、
「あー、ソフィアはこういうやつだから、ま、それは置いておいて、そうだ、ちょっと聞きたいんだけどさ、ソフィアとしてはどうなの?このままソフティーだっけ、それの開発は進めていいの?」
ユーリが雰囲気が悪くなりそうだと話題を変えた、
「別にいいわよ、好きにしたらいいじゃない、私としてはこの下着がどういう風に変わっていくかの方が楽しみよ」
ソフィアは何を今更といった感じで答えた、
「えっとそれってどういう感覚なんですか?その普通はあれですよね、利益を出して大儲けしたいとか、次々に新商品を作ってみたいとかそういうふうに思うもんではないですか?」
カトカもどうやらソフィアの性根を理解はしても納得していないのであろう、ここぞとばかりに本質的な質問を投げかけた、
「あー、どうだろう、私がみんなに教えた事って、あっちこっち放浪した時に便利だなーって思った物ばかりなのよね、だから、私自身が苦労して作ったものでは無いからね、それで儲けようって腹は無いかなー、どちらかと言うとさっきも言ったけど、これをどう改良していくかの方に興味があるかしら・・・違うわね・・・どう変わって便利になっていくか?そっちに興味があるかしら、実際ほら、この下着だけでも金具が新しく生まれて新しい名前まで貰っちゃってね、面白いじゃない・・・え、そう思わないもの?」
ソフィアがなんとなく口にした事で食堂は静まり返ってしまった、皆、不思議そうにソフィアをみつめ、ユーリだけがめんどくさそうな顔である、
「・・・ほらね、ま、これで懸念の一つは無くなったでしょ」
やれやれとユーリがサビナに確認する、
「えっと、つまり・・・」
サビナは不思議そうにユーリへ視線を移す、
「そうね、こう考えればいいわ、面白い物を見付けて来たから、後はそっちで好きに改良してみてよ、面倒くさい事はいいからって事」
「それでいいんですか?」
サビナがソフィアへ確認する、
「いいわよ、そう言っているじゃない、どうしたのよ、サビナさんってもっと太々しい人かと思ってたわ、そんなに遠慮深い人だったの?」
「え、いや、ふてぶて・・・いや、そう言われると困りますが・・・」
サビナは黙り込んでしまう、
「そうね、確かにね」
ユーリは明るく笑い、
「で、もう一つの懸念についても私から解釈させて貰うわよ」
ユーリはそう前置きして学園長の思惑を披露した、先日ソフィアに語った内容である、
「でね、学園長としても他にやりたい事があって、そっちを優先したいのよ、あの書物だって一年に一冊書ければ良いほうなのよね」
ユーリはマントルピースに重ねられた書物へ視線を飛ばす、
「もういい歳だからね、弟子が欲しい筈なのに、あの人に付いていける人がいないのよね、ま、それは置いておいて、今回の件は学園長としては渡りに船だった筈よ、一分野とはいえ、それを丸っと誰かに渡せるんだもん、それも若い人材に、そう思いなさい」
「はー」
サビナは気の抜けた返事をしてしまい、慌てて口を閉じた、
「なるほど、そういう事でしたか」
テラがユーリの言葉に納得しつつ、
「人生50年と言いますしね、学園長先生ってもう60代以上じゃないですか?チラッとお見かけしましたけど」
ユーリに問う、
「そうね、下手したら70近いかも・・・いやもしかしたら80?私とソフィアが世話になった頃からおじいさんだったから・・・あれかしら長寿の秘訣とかあるのかしら?」
「それは凄いですね、だって、30で孫、40で隠居、50過ぎたら死に場所探すってのが普通の人生でしょ」
「あー、昔よく聞いたわー」
ソフィアが嫌そうに苦笑いを浮かべ、
「うん、田舎の人生ってそうよねー、30で孫か・・・子供もいないよ・・・」
ユーリが心底くたびれたように溜息を吐き、
「ミナが後10年ちょっとでしょ、えっと」
ソフィアが指折り数え、
「え、私隠居してる」
ハッとした顔でテラを見る、
「何言ってるんです、私は後数年で隠居ですよ」
テラがジロリと睨み返し、
「うわ、人生短いねー、学園長の焦る気持ちも分かるかなー」
ソフィアが溜息交じりに呟く、
「でしょ、そういうわけだから、あんたはそう思って取り組みなさい、学園長の人生の置き土産よ」
「いや、所長、それ学園長が言うならいいですけど、他人が言ったら駄目でしょ」
サビナの遠慮のない指摘にユーリはそれもそうだと笑って見せた。
「本日の打ち合わせで、大まかな流れを決めてきました、先にギルドの担当者から説明がありまして、その後、カトカさんにまとめて頂いた資料を元に講義を行います、ここ迄が講義の形になりまして、終わりましたら、実際の物を見て頂きます、作成については次回以降という事になりました」
テラがカトカの作った資料の複写と作例として作った下着をテーブルに置いた、
「なるほどね、午後からだっけ?」
ユーリが下着を手に取って確認する、
「はい、公務時間が終わってから集まる形になります、なので、人の集まり具合を見て開始する運びとなります」
「なるほど、学園みたくキチキチとはいかないわよね」
ユーリが納得して頷いた、
「そうですね、学園の方がどうかは・・・すいません、私はなんともなんですが、ギルドとしては通常の対応との事でした、ま、確かにそうなんですよね、普通に仕事をしている人達が対象なので・・・で、講義の部分をサビナさんにお願いしたいと考えております、作例の説明等は私とケイランさんで対応します、オリビアさんも合流予定なので、細かい点、特に作成する際の問題点等はその時に話せるかなと思います、その点はこちらに一任頂ければと思います」
「うんうん、いいじゃない、サビナやりなさいよ」
ユーリは軽い言葉でサビナの尻を叩く、サビナは難しい顔で資料に目を落としており、カトカは楽しそうにほくそ笑んでいる、
「そうは言いますけど・・・」
サビナは難しい顔を崩さない、
「あー、こういう場所で顔を売る事も大事なのよ、服飾業界に伝手が出来れば研究会として協力も仰げるでしょ」
「そうでしょうか・・・そうですね、でも、私でいいんでしょうか?」
サビナは何とも煮え切らない感じである、
「もう、なに?、お偉いさんの圧力に気圧されちゃった?あの辺の人達との付き合いも慣れなきゃだし、あんたが出来る奴だと認めさせるのが大事なのよ、ついでに言うと、あの人達との縁なんて、普通は得られるものではないわよ、学園長は別にしても、あの夫婦はそれこそ別格なんだし」
「そうそう、女は度胸ですもんねー」
カトカがにやにやと茶化す、
「何よカトカまで・・・」
サビナがカトカを睨むがカトカは涼しい顔である、
「でも確かにそうなんですよね、服飾関係は詳しくないですし、こちらの事情も分からないのですが、業界との伝手が出来れば商会としても手が広がりますし、先生の言う通り、研究会としても有利になる事はあっても、不利ではないですよね」
テラまでもがニヤリと微笑む、
「そうなのよ、どういう面子が来るかにもよるし、その人達がどう受け取るかにもよるけどね、この内容であれば講習会としては十分以上の価値があるし、なにより、この下着は女性達にとってみれば魅力的な品だしね、その中心にサビナと学園があるとなれば学園としても名が売れるし悪いことはないのよ」
「そうなんでしょうけど」
サビナは踏ん切りがつかない様子である、
「なによ、何に悩んでるの?」
ユーリが若干イラついて問い質す、
「いや、私でいいのかなって・・・その、上の資料もこの下着も、私が作ったものではないですよ」
「あー、そういうこと・・・」
ユーリはフンスと鼻を鳴らす、
「ですので、なんか、その申し訳ない感じがして・・・」
そう言って黙り込んだサビナは腕を組んで首を傾げる、ユーリは再び大きく鼻息を吐き出し、カトカもうーんと悩みだした、
「あら、どうしたの、静かになっちゃって」
そこへ片付けを終えたソフィアとオリビアが食堂へ入ってくる、
「サビナが煮え切らないのー、ホントにもう、千載一遇の機会よ、しっかりなさい」
ユーリが面倒くさくなったのか大声を上げた、
「ですけどー」
大きな肩を縮こまらせてサビナはウジウジと巨体を揺らす、
「まぁまぁ、そりゃサビナさんだって緊張しちゃうでしょうよ、リシア様まで出張ってきたんでしょ、そりゃ普通の人なら尻込みしちゃうわ」
ソフィアはカラカラと笑い、
「あら、優しいのね」
ユーリは不満顔である、
「では、私は先に」
その様子を横に見ながらオリビアは階段へ向かった、
「そうね、エレインさんをちゃんと寝かせるのよー、食欲は戻っても身体はまだ本調子じゃないかもだから」
ソフィアが優しく気遣うと、オリビアはニコリと微笑みつつ、
「はい、そのつもりです、それとサビナさん、明日と明後日、期待してますから」
オリビアはそう言って姿を消した、
「あー、オリビアさんまで、もー」
サビナはいよいよ頭を抱え、その様はいよいよ丸い塊となってしまう、
「どうしたの?そんなに悩むこと?」
ソフィアが小首を傾げ、
「そうらしいわねー、もう、こんなに繊細な娘だと思わなかったわ、わたしも」
ユーリが呆れている、
「いろいろ急に決まったからいっぱいいっぱいなんですよ」
カトカが苦笑いを浮かべ、
「あー、それは分かりますねー」
テラは同情的である、
「でもさー、ここ数日こんな事ばっかだったからね、なんか、なんも無い日の方が珍しいかも」
ジャネットが頷き、
「それ、言えてます」
ケイスも理解を示した、
「あ、そうだ、ソフィアとしてはどうなの?この下着」
埒が明かないと踏んだユーリが口を開いた、
「何が?」
ソフィアはテラの隣りに座ると聞き返す、
「ほら、これってあなたの発案なんでしょ、好きにさせて貰っていいの?」
「別にいいわよ、何かあれでしょ、収益の一部が入ってくるんでしょ、お金はどうでもいいけど、それで納得するんであればそれでいいんじゃない?」
ソフィアがシレッと答えると、サビナが顔を上げて、
「え、そうなんですか?」
不思議そうに問う、
「そうらしいわよ、ね、テラさん」
「はい、向こう5年の期間が設けられていますが、ソフティーの商品名で取扱う下着類の収益の一部が商会に入ります、商会としてはそれをソフィアさんの取り分という形でお渡しする事としました」
「え、そうだったんですか、それは良かった・・・」
サビナがどこかホッとしたように呟く、
「あら、言ってなかったかしら」
ユーリがあらぬ方向を睨み、
「聞いてないですよ」
サビナがジロリとユーリを睨む、
「ま、それはそうしたいってエレインさんが言うからね、私としてはなるようになればいいんだし、好きにすればいいのにね」
ソフィアは何処までも他人事のようである、自身の利益になる事を忌避しているようにしか聞こえない、
「そういうわけにはいかないと説明した筈ですよ」
テラが珍しくもややきつい口調となる、
「はいはい、素直に受け取りますよ、嬉しく無いけど」
ソフィアはやはり納得していないのであろう、不満顔を隠そうともしない、
「あー、ソフィアはこういうやつだから、ま、それは置いておいて、そうだ、ちょっと聞きたいんだけどさ、ソフィアとしてはどうなの?このままソフティーだっけ、それの開発は進めていいの?」
ユーリが雰囲気が悪くなりそうだと話題を変えた、
「別にいいわよ、好きにしたらいいじゃない、私としてはこの下着がどういう風に変わっていくかの方が楽しみよ」
ソフィアは何を今更といった感じで答えた、
「えっとそれってどういう感覚なんですか?その普通はあれですよね、利益を出して大儲けしたいとか、次々に新商品を作ってみたいとかそういうふうに思うもんではないですか?」
カトカもどうやらソフィアの性根を理解はしても納得していないのであろう、ここぞとばかりに本質的な質問を投げかけた、
「あー、どうだろう、私がみんなに教えた事って、あっちこっち放浪した時に便利だなーって思った物ばかりなのよね、だから、私自身が苦労して作ったものでは無いからね、それで儲けようって腹は無いかなー、どちらかと言うとさっきも言ったけど、これをどう改良していくかの方に興味があるかしら・・・違うわね・・・どう変わって便利になっていくか?そっちに興味があるかしら、実際ほら、この下着だけでも金具が新しく生まれて新しい名前まで貰っちゃってね、面白いじゃない・・・え、そう思わないもの?」
ソフィアがなんとなく口にした事で食堂は静まり返ってしまった、皆、不思議そうにソフィアをみつめ、ユーリだけがめんどくさそうな顔である、
「・・・ほらね、ま、これで懸念の一つは無くなったでしょ」
やれやれとユーリがサビナに確認する、
「えっと、つまり・・・」
サビナは不思議そうにユーリへ視線を移す、
「そうね、こう考えればいいわ、面白い物を見付けて来たから、後はそっちで好きに改良してみてよ、面倒くさい事はいいからって事」
「それでいいんですか?」
サビナがソフィアへ確認する、
「いいわよ、そう言っているじゃない、どうしたのよ、サビナさんってもっと太々しい人かと思ってたわ、そんなに遠慮深い人だったの?」
「え、いや、ふてぶて・・・いや、そう言われると困りますが・・・」
サビナは黙り込んでしまう、
「そうね、確かにね」
ユーリは明るく笑い、
「で、もう一つの懸念についても私から解釈させて貰うわよ」
ユーリはそう前置きして学園長の思惑を披露した、先日ソフィアに語った内容である、
「でね、学園長としても他にやりたい事があって、そっちを優先したいのよ、あの書物だって一年に一冊書ければ良いほうなのよね」
ユーリはマントルピースに重ねられた書物へ視線を飛ばす、
「もういい歳だからね、弟子が欲しい筈なのに、あの人に付いていける人がいないのよね、ま、それは置いておいて、今回の件は学園長としては渡りに船だった筈よ、一分野とはいえ、それを丸っと誰かに渡せるんだもん、それも若い人材に、そう思いなさい」
「はー」
サビナは気の抜けた返事をしてしまい、慌てて口を閉じた、
「なるほど、そういう事でしたか」
テラがユーリの言葉に納得しつつ、
「人生50年と言いますしね、学園長先生ってもう60代以上じゃないですか?チラッとお見かけしましたけど」
ユーリに問う、
「そうね、下手したら70近いかも・・・いやもしかしたら80?私とソフィアが世話になった頃からおじいさんだったから・・・あれかしら長寿の秘訣とかあるのかしら?」
「それは凄いですね、だって、30で孫、40で隠居、50過ぎたら死に場所探すってのが普通の人生でしょ」
「あー、昔よく聞いたわー」
ソフィアが嫌そうに苦笑いを浮かべ、
「うん、田舎の人生ってそうよねー、30で孫か・・・子供もいないよ・・・」
ユーリが心底くたびれたように溜息を吐き、
「ミナが後10年ちょっとでしょ、えっと」
ソフィアが指折り数え、
「え、私隠居してる」
ハッとした顔でテラを見る、
「何言ってるんです、私は後数年で隠居ですよ」
テラがジロリと睨み返し、
「うわ、人生短いねー、学園長の焦る気持ちも分かるかなー」
ソフィアが溜息交じりに呟く、
「でしょ、そういうわけだから、あんたはそう思って取り組みなさい、学園長の人生の置き土産よ」
「いや、所長、それ学園長が言うならいいですけど、他人が言ったら駄目でしょ」
サビナの遠慮のない指摘にユーリはそれもそうだと笑って見せた。
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