317 / 1,152
本編
36話 講習会と髪飾り その8
しおりを挟む
「どう、少しは落ち着いた?」
ソフィアがヒョイと顔を出す、正午に近い時間、ソフィアはエレインの看病はオリビアに任せて日常業務を熟しつつ、ミナとレインの勉強を見た後で、二人を買い物に行かせると様子を伺いに来たのである、
「はい、先程熱をみましたらだいぶ良いようです、ソフィアさんの薬は効きますね」
オリビアが静かにそう言って席を立つ、エレインの応接室で一人書を片手にしていたようである、小声で話すのは、エレインが起きたらすぐに分かるように寝室への扉を開けている為であろう、
「あー、座ってていいわよ、やっぱり、疲労かしら?咳とか無いのよね?」
「はい、最近忙しくしてましたから、昨日も遅くまで悩まれてましたし、その前も給与の支払いとか、その前も何かやってましたね」
オリビアは小さく溜息を吐いた、
「そっか、でもそうよね、あれでしょ、たかだか2か月で生活が変わったもんだから身体が悲鳴を上げたのよ」
ソフィアも小声で答える、
「そう言われればそうですね、あっという間ですね・・・ふふ、面白いものです」
オリビアは席を立ってどうぞとソフィアを招き入れる、ソフィアは一瞬躊躇うが静かに室内へ歩を進め、オリビアの対面に座った、
「こうなると、オリビアさんも大丈夫?疲れてない?」
「私は大丈夫です、お嬢様とは鍛え方が違いますから」
オリビアはニコリと微笑むが、どこか疲れているようにも見える、エレインを心配している為か疲労が溜まっている為かは判断が出来ない、
「そう?オリビアさんだって、まだ、15・6でしょ?体力的にはエレインさんの方があるんじゃない?」
「どうでしょう、私はだって、お嬢様より早く起きて、お嬢様の後に寝るのが当たり前の生活でしたから、子供の頃からそうですからね、やはり鍛え方が違うのです」
フンスと鼻息を荒くする、
「そっか」
ソフィアは優しい微笑みを浮かべる、
「そうだ、ソフィアさんにちゃんとお礼を言ってませんでしたね、お嬢様の事気にかけて頂いて心から感謝致します」
オリビアは神妙な面持ちで頭を下げた、
「なによ、突然」
ソフィアは眉を顰めるが、
「いいえ、良い機会と思いました、ソフィアさんとゆっくりお話しできるのは貴重な事かと・・・あ、でも、家事のお手伝いがあるか・・・」
オリビアは恥ずかしそうにはにかむと、
「ソフィアさんがいらっしゃるまではお嬢様は本当に・・・その、持て余してましたから・・・自分の立場にしろ、年齢にしろ、何もかも・・・可哀そうなほど・・・」
「あー、そんな感じだったわね」
「はい、それが・・・いつのまにやらこんなですよ、パトリシア様の件も、王家の皆様の件も、ソフィアさんが引き合わせてくれたと・・・そう思います、商会の件もしかり、ガラス鏡の件も下着の件も、何から何までです」
「あー、改めて言われるとむず痒いわね、ほら、私も楽しんでいるからそれで良いって事にしておいてよ、それにパトリシア様関連はほら、エレインさんの武勇譚が発端じゃない」
「それもありましたね、お嬢様はあの件があって此処にいますから・・・そういう意味では、お嬢様が自ら招いた事でもあると・・・そうも思いますけど」
オリビアは薄く笑みを浮かべる、
「なんだっけ、良いも悪いも髪結いの目だっけ?」
「あ、言いますよね、吉も凶も最後まで分からないって・・・そういう意味でしたよね・・・」
「そうよ、それにね、私だってちゃんと人を見てるんだから、ジャネットさんやケイスさんが商会なんて経営できると思う?エレインさんなら何とか出来るだろうなって思って協力しているんだから、あんまりエレインさんやオリビアさん自身を卑下するような事は駄目よ」
「そんな事は・・・無いですが・・・そうですね、確かにそう言われるとお嬢様にしか出来ないですね」
「そういう事よ、ま、私も楽しんでいるんだから、あまり気にしないでいいわ、どうもね、そういう風に思われるのが苦手みたいなのよ、私は、かといって邪険にされると腹はたつのよね、我ながら面倒くさい性格なんだわ」
ソフィアは口元を歪めて自虐的な笑いを浮かべる、
「邪険にされたら誰だってそうですよ」
「そう?でも、あれよ、昔の冒険者仲間でゲインていう大男がいるんだけど、こいつはもうびっくりするほど良い人よ、怒ったところを見た事がないのよね、それこそ、扱いが酷くても邪険にされても顔色一つ変えないの、ただ、欠点があってね」
「欠点ですか?」
「うん、ビックリするほど無口なの、最初会ったときは口がきけない人なのかなって思ったわね」
「へー、なんでです?」
「そういう性格みたい、慣れたら普通に馬鹿話も出来るんだけど、そうなるのに3か月くらいかな、時間が必要で、始めて声を聞いた時にはユーリと一緒に大声上げちゃった、あんた喋れるのーって」
「凄いですね、3か月無口だったんですか・・・」
「うん、でも意思疎通は普通に出来たから、気にしなくなった頃合いで喋りだしたのよ、あれは心臓に悪いわね」
ソフィアはニコリと笑い、オリビアも楽しそうに微笑む、
「・・・そうだ、一応大人らしい事を言っておくと」
ソフィアは人差し指を上げてうーんと悩みつつ言葉を続ける、
「説教臭くなったら御免ね、冒険者の先輩にね、教えてもらったんだけど、仕事は一生懸命やるのが当たり前、だが、仕事は6割程度の力でやるべきだ、ってね、どういう事かわかる?」
「一生懸命で、6割ですか?10割じゃなくて?」
「うん、先輩曰くね、一生懸命に仕事をして、それが6割程度の力となるように自分を鍛えろって事なのよ、そうすれば4割の余裕が生まれて身体にも余力が出来るし、心もね遊びが生まれるのよ、そうする事によって新しい発想とか他人に対する優しさが生まれるんだってね、常に全力で一生懸命なのは半人前の証拠だって、言われた事があってね」
「なるほど、確かにそうなのかもしれないですね」
オリビアは小さく頷いた、
「テラさんもちゃんと仕事をした上で余裕があるように見えるでしょ、それがきっと大人としての、一人前になった上での余裕なのよね、で、その余裕に手をつけそうになったら、他人の手を借りる?もしくは期限を伸ばしたり、無理なものは無理って言える、常にその余裕を持つ事が大事よ、社会に出て色んな人に揉まれてやっと身に着く事なのかもしれないけど、こういう事は頭の何処かに置いておいて、無理してるなって思ったら、休むなり、他人に頼るなり、ぶん投げるなりしなさい、生きる為に仕事をするのであって、仕事の為に生きる事はないわよ」
「・・・肝に銘じます」
オリビアは口元を引き締めた、
「ま、何事もやりすぎは駄目って事ね・・・でも、そんな事言っておいて、私もユーリも厳しいところあるからな、若いうちに地獄を見た方が良いってのが根本にあるのよね、加減を知っているつもりだけど・・・ま、それは人それぞれだからな、あれだ、本当に駄目な時はそう言ってね、なにも若い者を虐めて喜んでいるおばさんじゃないんだから」
ソフィアはニヤリと微笑み、オリビアは、
「ソフィアさんの事をそういう風に思っているいる人はいないと思いますよ、ユーリ先生もなんだかんだいって良い先生と思います」
神妙に頷いて静かに答えた、
「そっか、じゃ、もう少し厳しくしてもいいかしら?ジャネットさんなんか、生活力が足りない気がするのよね、あの娘ちゃんと洗濯とかしてるのかしら?そういう指導も寮母の仕事よね」
「そうですね」
オリビアは静かに微笑む、
「うん、じゃ、何かあったら呼んで、もう少ししたらまた顔出すから」
ソフィアはゆっくりと席を立ち、オリビアも腰を上げて見送った。
放課の時間となり、事務所にはジャネットが3人、オリビアが学園を休んだ為生徒部の従業員が生活科の生徒を4人、それぞれ複写の作業要員として連れて来た、しかし、
「わ、これがガラス鏡?」
「すげー、ジャネットが自慢してたやつだよね」
「わ、キレー、え、私の顔ってこんな?」
「凄い、こんなに大きい鏡で、綺麗に映るなんて、感動です」
7人は仕事そっちのけで鏡の前ではしゃいでいる、
「あー、こうなるのかー」
ジャネットは鼻息を荒くし、
「まぁまぁ、気持ちは分かるでしょ」
テラがやんわりとジャネットを宥めつつ、
「午前中ギルドで打ち合わせしてきまして、こちらを使って下さいと預かってきました、羊皮紙と上質紙ですね、羊皮紙は比較的に安いですが、上質紙は高価なので、羊皮紙で慣れてから、上質紙を使って下さい」
2種類の紙とインク壺をテーブルに並べる、羊皮紙はそのものずばり羊の皮から作った紙であり、上質紙は樹木の皮から作った紙である、どちらも高価なものであり、日常生活では中々使われない品である、しかし、学園に於いては教科書や資料として触れる機会が多く、学園生達は比較的扱いに慣れていると思われている品である、
「うわ、そっか、木簡じゃないんだよね、これは緊張するなー」
「そうですね、木簡なら少々失敗しても削ればいいやって感じですけど、紙だと難しいですしね」
「むー、こうなると、私は監督役でいいかなー、字汚いしな、うん、そうしよう」
ジャネットは紙の束を見て作業の難しさに気付いた様子である、そっと上質紙の一枚に触れ、ザラっとした触感とその薄さに口角を小さく上げた、
「そう・・・ですね、うん、無理はさせられないです・・・うん、で、ギルドの事務員さん曰く、一枚当たり修正していいのは3文字迄だそうです、それが商品としての作法らしくて、その点も考慮下さい」
「う・・・一枚当たり3文字・・・それはあれだよね、間違って書いたのを修正するのが3文字迄って事だよね」
「そうですね」
「うわー、やっぱ無理かな・・・木簡で練習しようかな・・・」
「そうですね、先に木簡へ複写してもらって、それで慣れてから紙を使いましょうか」
テラは木簡の束を別に取り出した、そちらはクレオの一時用に用意された木簡である、
「あー、それいいかも、学園の研究会ではそっち使うの?」
「研究会・・・あ、ごめんなさい、そっちは担当外なので分からないですね、資料作るのかな?ユーリ先生に確認とります?」
「いや、いいや、研究会ならほら、資料無くても成立するからね、うん、じゃ、取り敢えずやってみますか」
「はい」
テラはニコリと笑みして木簡をジャネットに手渡す、木簡の束はズシリと重く、ジャネットは紙の軽さと薄さを実感し、その利便性を再認識した、
「じゃ、始めるか」
ジャネットが気合を入れて振り向くが、鏡の前の7人はいまだキャッキャとはしゃいでいる、
「こらー、仕事しに来たんだろー、しっかりせい」
ジャネットの一喝が事務所に響き、7つの顔がゆっくりとジャネットへ向かう、
「ほら、作業の説明始めるよ、しっかり稼いでもらうからね」
ジャネットはニヤリと笑い、生徒達は名残惜しそうに鏡の前から身を離した。
ソフィアがヒョイと顔を出す、正午に近い時間、ソフィアはエレインの看病はオリビアに任せて日常業務を熟しつつ、ミナとレインの勉強を見た後で、二人を買い物に行かせると様子を伺いに来たのである、
「はい、先程熱をみましたらだいぶ良いようです、ソフィアさんの薬は効きますね」
オリビアが静かにそう言って席を立つ、エレインの応接室で一人書を片手にしていたようである、小声で話すのは、エレインが起きたらすぐに分かるように寝室への扉を開けている為であろう、
「あー、座ってていいわよ、やっぱり、疲労かしら?咳とか無いのよね?」
「はい、最近忙しくしてましたから、昨日も遅くまで悩まれてましたし、その前も給与の支払いとか、その前も何かやってましたね」
オリビアは小さく溜息を吐いた、
「そっか、でもそうよね、あれでしょ、たかだか2か月で生活が変わったもんだから身体が悲鳴を上げたのよ」
ソフィアも小声で答える、
「そう言われればそうですね、あっという間ですね・・・ふふ、面白いものです」
オリビアは席を立ってどうぞとソフィアを招き入れる、ソフィアは一瞬躊躇うが静かに室内へ歩を進め、オリビアの対面に座った、
「こうなると、オリビアさんも大丈夫?疲れてない?」
「私は大丈夫です、お嬢様とは鍛え方が違いますから」
オリビアはニコリと微笑むが、どこか疲れているようにも見える、エレインを心配している為か疲労が溜まっている為かは判断が出来ない、
「そう?オリビアさんだって、まだ、15・6でしょ?体力的にはエレインさんの方があるんじゃない?」
「どうでしょう、私はだって、お嬢様より早く起きて、お嬢様の後に寝るのが当たり前の生活でしたから、子供の頃からそうですからね、やはり鍛え方が違うのです」
フンスと鼻息を荒くする、
「そっか」
ソフィアは優しい微笑みを浮かべる、
「そうだ、ソフィアさんにちゃんとお礼を言ってませんでしたね、お嬢様の事気にかけて頂いて心から感謝致します」
オリビアは神妙な面持ちで頭を下げた、
「なによ、突然」
ソフィアは眉を顰めるが、
「いいえ、良い機会と思いました、ソフィアさんとゆっくりお話しできるのは貴重な事かと・・・あ、でも、家事のお手伝いがあるか・・・」
オリビアは恥ずかしそうにはにかむと、
「ソフィアさんがいらっしゃるまではお嬢様は本当に・・・その、持て余してましたから・・・自分の立場にしろ、年齢にしろ、何もかも・・・可哀そうなほど・・・」
「あー、そんな感じだったわね」
「はい、それが・・・いつのまにやらこんなですよ、パトリシア様の件も、王家の皆様の件も、ソフィアさんが引き合わせてくれたと・・・そう思います、商会の件もしかり、ガラス鏡の件も下着の件も、何から何までです」
「あー、改めて言われるとむず痒いわね、ほら、私も楽しんでいるからそれで良いって事にしておいてよ、それにパトリシア様関連はほら、エレインさんの武勇譚が発端じゃない」
「それもありましたね、お嬢様はあの件があって此処にいますから・・・そういう意味では、お嬢様が自ら招いた事でもあると・・・そうも思いますけど」
オリビアは薄く笑みを浮かべる、
「なんだっけ、良いも悪いも髪結いの目だっけ?」
「あ、言いますよね、吉も凶も最後まで分からないって・・・そういう意味でしたよね・・・」
「そうよ、それにね、私だってちゃんと人を見てるんだから、ジャネットさんやケイスさんが商会なんて経営できると思う?エレインさんなら何とか出来るだろうなって思って協力しているんだから、あんまりエレインさんやオリビアさん自身を卑下するような事は駄目よ」
「そんな事は・・・無いですが・・・そうですね、確かにそう言われるとお嬢様にしか出来ないですね」
「そういう事よ、ま、私も楽しんでいるんだから、あまり気にしないでいいわ、どうもね、そういう風に思われるのが苦手みたいなのよ、私は、かといって邪険にされると腹はたつのよね、我ながら面倒くさい性格なんだわ」
ソフィアは口元を歪めて自虐的な笑いを浮かべる、
「邪険にされたら誰だってそうですよ」
「そう?でも、あれよ、昔の冒険者仲間でゲインていう大男がいるんだけど、こいつはもうびっくりするほど良い人よ、怒ったところを見た事がないのよね、それこそ、扱いが酷くても邪険にされても顔色一つ変えないの、ただ、欠点があってね」
「欠点ですか?」
「うん、ビックリするほど無口なの、最初会ったときは口がきけない人なのかなって思ったわね」
「へー、なんでです?」
「そういう性格みたい、慣れたら普通に馬鹿話も出来るんだけど、そうなるのに3か月くらいかな、時間が必要で、始めて声を聞いた時にはユーリと一緒に大声上げちゃった、あんた喋れるのーって」
「凄いですね、3か月無口だったんですか・・・」
「うん、でも意思疎通は普通に出来たから、気にしなくなった頃合いで喋りだしたのよ、あれは心臓に悪いわね」
ソフィアはニコリと笑い、オリビアも楽しそうに微笑む、
「・・・そうだ、一応大人らしい事を言っておくと」
ソフィアは人差し指を上げてうーんと悩みつつ言葉を続ける、
「説教臭くなったら御免ね、冒険者の先輩にね、教えてもらったんだけど、仕事は一生懸命やるのが当たり前、だが、仕事は6割程度の力でやるべきだ、ってね、どういう事かわかる?」
「一生懸命で、6割ですか?10割じゃなくて?」
「うん、先輩曰くね、一生懸命に仕事をして、それが6割程度の力となるように自分を鍛えろって事なのよ、そうすれば4割の余裕が生まれて身体にも余力が出来るし、心もね遊びが生まれるのよ、そうする事によって新しい発想とか他人に対する優しさが生まれるんだってね、常に全力で一生懸命なのは半人前の証拠だって、言われた事があってね」
「なるほど、確かにそうなのかもしれないですね」
オリビアは小さく頷いた、
「テラさんもちゃんと仕事をした上で余裕があるように見えるでしょ、それがきっと大人としての、一人前になった上での余裕なのよね、で、その余裕に手をつけそうになったら、他人の手を借りる?もしくは期限を伸ばしたり、無理なものは無理って言える、常にその余裕を持つ事が大事よ、社会に出て色んな人に揉まれてやっと身に着く事なのかもしれないけど、こういう事は頭の何処かに置いておいて、無理してるなって思ったら、休むなり、他人に頼るなり、ぶん投げるなりしなさい、生きる為に仕事をするのであって、仕事の為に生きる事はないわよ」
「・・・肝に銘じます」
オリビアは口元を引き締めた、
「ま、何事もやりすぎは駄目って事ね・・・でも、そんな事言っておいて、私もユーリも厳しいところあるからな、若いうちに地獄を見た方が良いってのが根本にあるのよね、加減を知っているつもりだけど・・・ま、それは人それぞれだからな、あれだ、本当に駄目な時はそう言ってね、なにも若い者を虐めて喜んでいるおばさんじゃないんだから」
ソフィアはニヤリと微笑み、オリビアは、
「ソフィアさんの事をそういう風に思っているいる人はいないと思いますよ、ユーリ先生もなんだかんだいって良い先生と思います」
神妙に頷いて静かに答えた、
「そっか、じゃ、もう少し厳しくしてもいいかしら?ジャネットさんなんか、生活力が足りない気がするのよね、あの娘ちゃんと洗濯とかしてるのかしら?そういう指導も寮母の仕事よね」
「そうですね」
オリビアは静かに微笑む、
「うん、じゃ、何かあったら呼んで、もう少ししたらまた顔出すから」
ソフィアはゆっくりと席を立ち、オリビアも腰を上げて見送った。
放課の時間となり、事務所にはジャネットが3人、オリビアが学園を休んだ為生徒部の従業員が生活科の生徒を4人、それぞれ複写の作業要員として連れて来た、しかし、
「わ、これがガラス鏡?」
「すげー、ジャネットが自慢してたやつだよね」
「わ、キレー、え、私の顔ってこんな?」
「凄い、こんなに大きい鏡で、綺麗に映るなんて、感動です」
7人は仕事そっちのけで鏡の前ではしゃいでいる、
「あー、こうなるのかー」
ジャネットは鼻息を荒くし、
「まぁまぁ、気持ちは分かるでしょ」
テラがやんわりとジャネットを宥めつつ、
「午前中ギルドで打ち合わせしてきまして、こちらを使って下さいと預かってきました、羊皮紙と上質紙ですね、羊皮紙は比較的に安いですが、上質紙は高価なので、羊皮紙で慣れてから、上質紙を使って下さい」
2種類の紙とインク壺をテーブルに並べる、羊皮紙はそのものずばり羊の皮から作った紙であり、上質紙は樹木の皮から作った紙である、どちらも高価なものであり、日常生活では中々使われない品である、しかし、学園に於いては教科書や資料として触れる機会が多く、学園生達は比較的扱いに慣れていると思われている品である、
「うわ、そっか、木簡じゃないんだよね、これは緊張するなー」
「そうですね、木簡なら少々失敗しても削ればいいやって感じですけど、紙だと難しいですしね」
「むー、こうなると、私は監督役でいいかなー、字汚いしな、うん、そうしよう」
ジャネットは紙の束を見て作業の難しさに気付いた様子である、そっと上質紙の一枚に触れ、ザラっとした触感とその薄さに口角を小さく上げた、
「そう・・・ですね、うん、無理はさせられないです・・・うん、で、ギルドの事務員さん曰く、一枚当たり修正していいのは3文字迄だそうです、それが商品としての作法らしくて、その点も考慮下さい」
「う・・・一枚当たり3文字・・・それはあれだよね、間違って書いたのを修正するのが3文字迄って事だよね」
「そうですね」
「うわー、やっぱ無理かな・・・木簡で練習しようかな・・・」
「そうですね、先に木簡へ複写してもらって、それで慣れてから紙を使いましょうか」
テラは木簡の束を別に取り出した、そちらはクレオの一時用に用意された木簡である、
「あー、それいいかも、学園の研究会ではそっち使うの?」
「研究会・・・あ、ごめんなさい、そっちは担当外なので分からないですね、資料作るのかな?ユーリ先生に確認とります?」
「いや、いいや、研究会ならほら、資料無くても成立するからね、うん、じゃ、取り敢えずやってみますか」
「はい」
テラはニコリと笑みして木簡をジャネットに手渡す、木簡の束はズシリと重く、ジャネットは紙の軽さと薄さを実感し、その利便性を再認識した、
「じゃ、始めるか」
ジャネットが気合を入れて振り向くが、鏡の前の7人はいまだキャッキャとはしゃいでいる、
「こらー、仕事しに来たんだろー、しっかりせい」
ジャネットの一喝が事務所に響き、7つの顔がゆっくりとジャネットへ向かう、
「ほら、作業の説明始めるよ、しっかり稼いでもらうからね」
ジャネットはニヤリと笑い、生徒達は名残惜しそうに鏡の前から身を離した。
1
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
前世で若くして病死した私は、今世の持病を治して長生きしたいです[ぜんわか]
ルリコ
ファンタジー
2月初めより1日おき更新。
病弱令嬢が魔法で持病を治すために奔走!
元病院の住人が転生したら、今回も持病持ちだった。
それでも長生きしたい__。
どうやら、治すために必要な光属性の最上級魔法、それを使える魔法師はいない。
でも私、光属性持ちだから!(ガッツポーズ)
主人公が持つのは、魔法と、前世のラノベ由来の令嬢知識と、本家伯爵家の権力。
これは、精神力の強さで渡り歩く主人公の人生を賭けた生存大作戦だ。
ーーーーー
病弱主人公ということもあり、流血表現や急な失神等ある予定です。
タグの「学園」は3章より。
最初の1、2話は、その後と文体が違いますので3話までは一気読みされることをオススメいたします。
お気に入り登録、いいね、布教よろしくお願いします!
※カクヨム様でも遅れて連載始めました。
現在5500pv、120フォロワー、☆79、320いいね、16応援コメント。
https://kakuyomu.jp/works/1681809
ポイント表
初日:626pt (お気に入り7)
2024/07/03:1057pt (お気に入り8)
2024/07/09:2222pt (お気に入り10)
2024/08/08:5156pt (お気に入り15)
2024/10/15:10238pt (お気に入り21/カクヨム版12)
次は20000ptの大台で。たぶん2章完結するころには達成しているはず。
2025/02/27:10万文字突破!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる