セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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36話 講習会と髪飾り その8

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「どう、少しは落ち着いた?」

ソフィアがヒョイと顔を出す、正午に近い時間、ソフィアはエレインの看病はオリビアに任せて日常業務を熟しつつ、ミナとレインの勉強を見た後で、二人を買い物に行かせると様子を伺いに来たのである、

「はい、先程熱をみましたらだいぶ良いようです、ソフィアさんの薬は効きますね」

オリビアが静かにそう言って席を立つ、エレインの応接室で一人書を片手にしていたようである、小声で話すのは、エレインが起きたらすぐに分かるように寝室への扉を開けている為であろう、

「あー、座ってていいわよ、やっぱり、疲労かしら?咳とか無いのよね?」

「はい、最近忙しくしてましたから、昨日も遅くまで悩まれてましたし、その前も給与の支払いとか、その前も何かやってましたね」

オリビアは小さく溜息を吐いた、

「そっか、でもそうよね、あれでしょ、たかだか2か月で生活が変わったもんだから身体が悲鳴を上げたのよ」

ソフィアも小声で答える、

「そう言われればそうですね、あっという間ですね・・・ふふ、面白いものです」

オリビアは席を立ってどうぞとソフィアを招き入れる、ソフィアは一瞬躊躇うが静かに室内へ歩を進め、オリビアの対面に座った、

「こうなると、オリビアさんも大丈夫?疲れてない?」

「私は大丈夫です、お嬢様とは鍛え方が違いますから」

オリビアはニコリと微笑むが、どこか疲れているようにも見える、エレインを心配している為か疲労が溜まっている為かは判断が出来ない、

「そう?オリビアさんだって、まだ、15・6でしょ?体力的にはエレインさんの方があるんじゃない?」

「どうでしょう、私はだって、お嬢様より早く起きて、お嬢様の後に寝るのが当たり前の生活でしたから、子供の頃からそうですからね、やはり鍛え方が違うのです」

フンスと鼻息を荒くする、

「そっか」

ソフィアは優しい微笑みを浮かべる、

「そうだ、ソフィアさんにちゃんとお礼を言ってませんでしたね、お嬢様の事気にかけて頂いて心から感謝致します」

オリビアは神妙な面持ちで頭を下げた、

「なによ、突然」

ソフィアは眉を顰めるが、

「いいえ、良い機会と思いました、ソフィアさんとゆっくりお話しできるのは貴重な事かと・・・あ、でも、家事のお手伝いがあるか・・・」

オリビアは恥ずかしそうにはにかむと、

「ソフィアさんがいらっしゃるまではお嬢様は本当に・・・その、持て余してましたから・・・自分の立場にしろ、年齢にしろ、何もかも・・・可哀そうなほど・・・」

「あー、そんな感じだったわね」

「はい、それが・・・いつのまにやらこんなですよ、パトリシア様の件も、王家の皆様の件も、ソフィアさんが引き合わせてくれたと・・・そう思います、商会の件もしかり、ガラス鏡の件も下着の件も、何から何までです」

「あー、改めて言われるとむず痒いわね、ほら、私も楽しんでいるからそれで良いって事にしておいてよ、それにパトリシア様関連はほら、エレインさんの武勇譚が発端じゃない」

「それもありましたね、お嬢様はあの件があって此処にいますから・・・そういう意味では、お嬢様が自ら招いた事でもあると・・・そうも思いますけど」

オリビアは薄く笑みを浮かべる、

「なんだっけ、良いも悪いも髪結いの目だっけ?」

「あ、言いますよね、吉も凶も最後まで分からないって・・・そういう意味でしたよね・・・」

「そうよ、それにね、私だってちゃんと人を見てるんだから、ジャネットさんやケイスさんが商会なんて経営できると思う?エレインさんなら何とか出来るだろうなって思って協力しているんだから、あんまりエレインさんやオリビアさん自身を卑下するような事は駄目よ」

「そんな事は・・・無いですが・・・そうですね、確かにそう言われるとお嬢様にしか出来ないですね」

「そういう事よ、ま、私も楽しんでいるんだから、あまり気にしないでいいわ、どうもね、そういう風に思われるのが苦手みたいなのよ、私は、かといって邪険にされると腹はたつのよね、我ながら面倒くさい性格なんだわ」

ソフィアは口元を歪めて自虐的な笑いを浮かべる、

「邪険にされたら誰だってそうですよ」

「そう?でも、あれよ、昔の冒険者仲間でゲインていう大男がいるんだけど、こいつはもうびっくりするほど良い人よ、怒ったところを見た事がないのよね、それこそ、扱いが酷くても邪険にされても顔色一つ変えないの、ただ、欠点があってね」

「欠点ですか?」

「うん、ビックリするほど無口なの、最初会ったときは口がきけない人なのかなって思ったわね」

「へー、なんでです?」

「そういう性格みたい、慣れたら普通に馬鹿話も出来るんだけど、そうなるのに3か月くらいかな、時間が必要で、始めて声を聞いた時にはユーリと一緒に大声上げちゃった、あんた喋れるのーって」

「凄いですね、3か月無口だったんですか・・・」

「うん、でも意思疎通は普通に出来たから、気にしなくなった頃合いで喋りだしたのよ、あれは心臓に悪いわね」

ソフィアはニコリと笑い、オリビアも楽しそうに微笑む、

「・・・そうだ、一応大人らしい事を言っておくと」

ソフィアは人差し指を上げてうーんと悩みつつ言葉を続ける、

「説教臭くなったら御免ね、冒険者の先輩にね、教えてもらったんだけど、仕事は一生懸命やるのが当たり前、だが、仕事は6割程度の力でやるべきだ、ってね、どういう事かわかる?」

「一生懸命で、6割ですか?10割じゃなくて?」

「うん、先輩曰くね、一生懸命に仕事をして、それが6割程度の力となるように自分を鍛えろって事なのよ、そうすれば4割の余裕が生まれて身体にも余力が出来るし、心もね遊びが生まれるのよ、そうする事によって新しい発想とか他人に対する優しさが生まれるんだってね、常に全力で一生懸命なのは半人前の証拠だって、言われた事があってね」

「なるほど、確かにそうなのかもしれないですね」

オリビアは小さく頷いた、

「テラさんもちゃんと仕事をした上で余裕があるように見えるでしょ、それがきっと大人としての、一人前になった上での余裕なのよね、で、その余裕に手をつけそうになったら、他人の手を借りる?もしくは期限を伸ばしたり、無理なものは無理って言える、常にその余裕を持つ事が大事よ、社会に出て色んな人に揉まれてやっと身に着く事なのかもしれないけど、こういう事は頭の何処かに置いておいて、無理してるなって思ったら、休むなり、他人に頼るなり、ぶん投げるなりしなさい、生きる為に仕事をするのであって、仕事の為に生きる事はないわよ」

「・・・肝に銘じます」

オリビアは口元を引き締めた、

「ま、何事もやりすぎは駄目って事ね・・・でも、そんな事言っておいて、私もユーリも厳しいところあるからな、若いうちに地獄を見た方が良いってのが根本にあるのよね、加減を知っているつもりだけど・・・ま、それは人それぞれだからな、あれだ、本当に駄目な時はそう言ってね、なにも若い者を虐めて喜んでいるおばさんじゃないんだから」

ソフィアはニヤリと微笑み、オリビアは、

「ソフィアさんの事をそういう風に思っているいる人はいないと思いますよ、ユーリ先生もなんだかんだいって良い先生と思います」

神妙に頷いて静かに答えた、

「そっか、じゃ、もう少し厳しくしてもいいかしら?ジャネットさんなんか、生活力が足りない気がするのよね、あの娘ちゃんと洗濯とかしてるのかしら?そういう指導も寮母の仕事よね」

「そうですね」

オリビアは静かに微笑む、

「うん、じゃ、何かあったら呼んで、もう少ししたらまた顔出すから」

ソフィアはゆっくりと席を立ち、オリビアも腰を上げて見送った。



放課の時間となり、事務所にはジャネットが3人、オリビアが学園を休んだ為生徒部の従業員が生活科の生徒を4人、それぞれ複写の作業要員として連れて来た、しかし、

「わ、これがガラス鏡?」

「すげー、ジャネットが自慢してたやつだよね」

「わ、キレー、え、私の顔ってこんな?」

「凄い、こんなに大きい鏡で、綺麗に映るなんて、感動です」

7人は仕事そっちのけで鏡の前ではしゃいでいる、

「あー、こうなるのかー」

ジャネットは鼻息を荒くし、

「まぁまぁ、気持ちは分かるでしょ」

テラがやんわりとジャネットを宥めつつ、

「午前中ギルドで打ち合わせしてきまして、こちらを使って下さいと預かってきました、羊皮紙と上質紙ですね、羊皮紙は比較的に安いですが、上質紙は高価なので、羊皮紙で慣れてから、上質紙を使って下さい」

2種類の紙とインク壺をテーブルに並べる、羊皮紙はそのものずばり羊の皮から作った紙であり、上質紙は樹木の皮から作った紙である、どちらも高価なものであり、日常生活では中々使われない品である、しかし、学園に於いては教科書や資料として触れる機会が多く、学園生達は比較的扱いに慣れていると思われている品である、

「うわ、そっか、木簡じゃないんだよね、これは緊張するなー」

「そうですね、木簡なら少々失敗しても削ればいいやって感じですけど、紙だと難しいですしね」

「むー、こうなると、私は監督役でいいかなー、字汚いしな、うん、そうしよう」

ジャネットは紙の束を見て作業の難しさに気付いた様子である、そっと上質紙の一枚に触れ、ザラっとした触感とその薄さに口角を小さく上げた、

「そう・・・ですね、うん、無理はさせられないです・・・うん、で、ギルドの事務員さん曰く、一枚当たり修正していいのは3文字迄だそうです、それが商品としての作法らしくて、その点も考慮下さい」

「う・・・一枚当たり3文字・・・それはあれだよね、間違って書いたのを修正するのが3文字迄って事だよね」

「そうですね」

「うわー、やっぱ無理かな・・・木簡で練習しようかな・・・」

「そうですね、先に木簡へ複写してもらって、それで慣れてから紙を使いましょうか」

テラは木簡の束を別に取り出した、そちらはクレオの一時用に用意された木簡である、

「あー、それいいかも、学園の研究会ではそっち使うの?」

「研究会・・・あ、ごめんなさい、そっちは担当外なので分からないですね、資料作るのかな?ユーリ先生に確認とります?」

「いや、いいや、研究会ならほら、資料無くても成立するからね、うん、じゃ、取り敢えずやってみますか」

「はい」

テラはニコリと笑みして木簡をジャネットに手渡す、木簡の束はズシリと重く、ジャネットは紙の軽さと薄さを実感し、その利便性を再認識した、

「じゃ、始めるか」

ジャネットが気合を入れて振り向くが、鏡の前の7人はいまだキャッキャとはしゃいでいる、

「こらー、仕事しに来たんだろー、しっかりせい」

ジャネットの一喝が事務所に響き、7つの顔がゆっくりとジャネットへ向かう、

「ほら、作業の説明始めるよ、しっかり稼いでもらうからね」

ジャネットはニヤリと笑い、生徒達は名残惜しそうに鏡の前から身を離した。
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