セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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36話 講習会と髪飾り その3

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「戻りました」

カトカが大量の木簡を手にして研究室に上がってきた、

「お疲れー、どうだったー」

サビナがこちらも山のような木簡に囲まれて顔も上げずに返答する、

「ライニールさんは中々にやり手のようですね、実に良い講習会でした」

カトカは空いた席に座り木簡をドソっと床に置く、

「へー、カトカに認められるとはあの野郎やるわね」

「そうですね、ユスティーナ様とレアン様を後ろに置いての講習会なので、学園で言えばあれですよ、講義の最中に学園長やクロノス様に監視されているような状況ですよ、でも、それが良かったのかな?料理人もメイドの人達も講義そのものは何かやる気が感じられなかったんですけどね、料理を見て、マヨソースを実際にユスティーナ様が作ってみせて、それでやっと目の色が変わったって感じだったな」

「あー、なるほど・・・何か想像出来るな・・・」

「ですよねー、だって、木簡とか黒板も持って来てなかったですからね、あの人達、やる気がないのが丸わかりでしたよ・・・でも、それでもやり通したあの胆力は大したもんですよ」

「なるほどねー」

「ま、あれですね、大人数の前で知識を披露するのって楽しいじゃないですか、そういうのもあったかも」

「分かるなー、それ」

「分かります?」

サビナはそこでようやく顔を上げて身体ごとカトカへ向き直ると、

「うん、所長の代わりで授業やった時とか、所長のマネして教科書半分、経験半分で話すんだけど、ほら、生徒達に役に立つ筈って思って話しだすと止まらなくなってね、で、皆の目がしっかりとこっちを見て話しを聞いてくれるから、だんだんと勘違いしちゃうのかもね、気持ちが良くなっちゃうのよ、不思議な事に、でね、後からね、あれもあったこれもあったと思うのよね、で、次こうしようとか考えちゃって、所長に言ったら、楽しめる内が華よーって笑われちゃったな」

「そっか、そういうもんなのか、私は苦手だなー、その場はまぁ変な高揚感はあるんですけどね、後から、変な事言ったかなとか、あの表現は間違ったかなって、そういう風に考えちゃって、講師向きではないんだよなー、生徒達の視線も苦手だし、何か話しよりも他の所を見られる感じで・・・」

「それはしようがないわよ、カトカは美形すぎるからね、話しの内容よりもそっちに目が行っちゃう」

「またその話しですかー」

カトカは眉根を寄せて嫌そうにサビナを睨む、

「だからしょうがないのよ、毎日見てれば慣れるけど、時々しか会わないと慣れないものよ、下の生徒さん達だって慣れないうちはあんたを見る目は私のそれとは違ったもん、分かってるんでしょ?」

「それは、まぁ」

カトカは何とも困った顔となる、

「ま、それは置いておいて、それのまとめって今日やっちゃうの?」

サビナの視線は床に置かれた木簡へ注がれた、

「まとめは終わってますね、エレインさんに渡してあるので、そっちとユスティーナ様で精査してもらう事にしました、ユスティーナ様も領主様へ早く見せたいって事なので、オリビアさんとパウラさんが必死こいて複写してます」

「流石早いわねー」

「だいぶ慣れましたね、これはこれで商売になりそうだなー、打ち合わせの書記係で高給くれないかなー」

「そういうのは従者とかがやるんでないの?」

「あ、そういうものか」

「文官もいるしね」

「そっか、私、文官もできるかも」

「あーたはそれ以上に研究者でしょ、そっちこそ文官には出来ないでしょうが」

「えー、何ですか急に持ち上げてー」

カトカはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる、

「あー、うるさいうるさい、それよりあれよ、ソフティーの資料は出来てるんでしょうね、締め切り明日よ」

「そっちは大丈夫ですよ、大方出来てますから、誤字脱字を確認して、所長とサビナ様に見て貰ってかなー」

カトカはよいしょと腰を上げる、

「なによそれ?」

「えー、だって大事な依頼人じゃないですかー」

カトカはニヤリとほくそ笑む、

「やめてよ気持ち悪いわね」

「あー、大事な依頼主のサビナ様が怒ったー」

「気持ちわる、いいからさっさと片付けなさい、また、夜までやるの?」

「そうですねー、でも、夜の方が捗る感じがするんだよなー、陽の光が邪魔なのかしら?」

「・・・あんた、根暗になってるわ」

「でも、静かでいいじゃないですか、周りというか雰囲気がなんかこう、息を顰めてる感じで・・・ヤバいかな?」

「・・・ヤバいわね」

「ふー、ヤバいですね」

カトカはいかんいかんと呟きながら自身の作業机に座りこみ、カトカもフンスと鼻を鳴らして木簡の山へと視線を戻した。



「あ、二人とも居たのね、丁度良いわ」

カトカとサビナが作業に集中している所にその部屋の主の声が響いた、二人が顔を上げ、

「お疲れ様です」

「何ですかー」

完全に気の抜けた声である、

「あー、ここも手狭ね、こっちへ」

ユーリは作業場を見渡して顔を顰めると打ち合わせ室を指差した、カトカとサビナは大きく伸びして席を立つ、3人はゾロゾロと打ち合わせ室という名の個人部屋に入ると静かに席に着いた、

「えっとね、急な話しで悪いんだけど、人増やすわ」

ユーリは前口上無しに主題を切り出した、

「人ですか?」

「研究員?」

カトカとサビナは揃って反応が薄い、ユーリは一瞬ムッとして、

「なによ、喜ぶかと思ったのに」

「・・・あ、そっか、嬉しい事なんだ・・・」

「・・・そうね、うん、楽になるかな?」

研究員二人は理解が遅いようである、先程までの作業が脳内で蠢いているのであろう、単に切り替えきれていないだけである、ユーリはそのように判断し、構わず話しを続けることとした、

「えっとね、向こうでちょっと打ち合わせしてきてさ、服飾をしっかりと研究するなら人増やしていいぞって事になってね、二人か三人かな?サビナが講師になってしまえば、後釜も欲しいしね、サビナも慣れた助手が欲しいでしょ、だからなんだけど」

「え、それって、何か話しが速すぎません?」

サビナがやっと驚き、

「講師の件って、確定なんですか?」

カトカもやっと事の問題点に気付いたようである、

「ほぼ確定・・・私としては学園長のあの資料を見るまではね、半々かなーって思ってたのよ、正直、サビナの調査力とカトカの文才で形にはなるけど、学術的なものになるかどうかは疑問だったのよ」

ユーリは明るく笑い、

「それは・・・そう・・・ですね」

サビナは現実を突き付けられぐうの音も出ない、

「そうね、私はソフィアの下着について書にしておいて、それに付随する形で既存の服を変えていくっていう方向性でいいかもなーって、実践的な?開発を主題としてって考えてたのよね、それであれば教科書としての体裁もつくし、学問としても面白いものになるかなってね、でも、学園長は違ったわね、やっぱり学術の人だからね、あの資料を見るとね、うん、私の目論見が甘かったわ、ついでに若かったわ、若いけど」

ここが笑いどころとユーリはニヤリとするが、サビナの眉間の皺はとれず、

「そうだったんですか?」

カトカがやや呆れたような顔となる、

「うん、で、考え方を変えて、向こうの研究所で興味のある人がいれば協力してもらおうかなって思ったのさ、ついでに昨日のエレインさんの正装とか見てね、北ヘルデルでは服飾に関してはどうなのかなって思ってね、そしたら、パトリシア様が乗り気になっちゃって」

「え、パトリシア様ですか・・・」

サビナが突然の大物の名前に言葉を無くす、

「うん、ほら、あの人が服飾文化の最先端にいるような人だからね、少し話しをしたら面白そうですわってなっちゃって」

「なっちゃってって・・・」

「うん、所長・・・流石にそれはちょっと・・・ですよ」

「しょうがないじゃない、なっちゃったんだから」

ユーリは何とも無責任に言い放ち、

「で、学園長の資料を早急にまとめて見せて欲しいって事になって、ついでにソフィアの下着の資料も欲しいですわってなって、うん、で、パトリシア様が俄然乗り気になっちゃって、協力は惜しみませんわってなって、じゃ、労働力欲しいですってなって、人を増やす事にしたの」

ユーリは実にあっけらかんと説明し、ニコニコと笑顔になる、しかし、サビナとカトカは揃ってクラクラと眩暈を覚えるのであった。
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