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本編

35話 秋のはじまり その5

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「さて、私からはこんなもんかな・・・ユーリが建築関係で打ち合わせしたいって言ってたけど・・・」

「あ、図面出来ました?」

ブラスは得意分野でもあるので明るい顔となる、

「大体ね、ま、時間はあるから、もう少し練りたいかなーって思うけど、あまり時間かけてもねー」

「大丈夫ですよ、浄化槽の工事も三日四日で終わる工事では無いですし、そっちの工事が終わるまでに完成していればそれで対応可能です」

「それもそうねー」

ソフィアは茶をグイッと飲み干すと、

「ちょっと上見てくるわ、エレインさんはどうする?全く別の話しになるけど」

「あ、そうですね、じゃ、私はこれで・・・そっち終わったらこっちにも顔出して貰えます?諸々打ち合わせしないとですね」

エレインはチラリとブノワトを見る、

「そうですね、伺います、あ、コッキーはどうする?建築の話しになるけど」

「あ、じゃ、私も退散で、ミナちゃんと遊んでていいですか?」

「いいわよー、裏山って行ったことあったっけ?」

「無いですね、何かあるんです?」

「ふふ、じゃ、ミナ、レイン、コッキーさんを裏山に連れてってあげてー」

ソフィアが暖炉の前でのたうっている二人に呼び掛ける、

「分かったー」

「しょうがないのう」

二人も丁度飽きていたようである、サッと立ち上がり本をマントルピースの上に重ねると、

「ねーちゃんいこー」

「え、待ってよー」

「やだー」

「ちょっと、ミナちゃん」

ミナはコッキーを置いて厨房へ走り出し、コッキーは慌ててその後を追った、

「じゃ、ちょっと待っててね」

ソフィアは3人を見送りつつ階段へ向かい、残された3人は大きく溜息を吐くと、

「ふー、やっぱりここに来ると何か頭使うなー」

「そだねー、でも、面白いなー、学園で勉強した以上の何かがあるんだよねー」

「それ分かりますわ、ユーリ先生も言ってましたけど、ソフィアさんが先生だったら面白そうですけどね」

「うーん、それはそれで・・・」

「うん、怖いかな・・・」

「・・・それもそうですね」

3人は深刻な顔で頷きあった。



「ユーリいるー」

ソフィアが3階へ顔を出すと、

「あー、学園ですー」

サビナが大声で答えた、

「あら」

しかし、ソフィアにその姿は見えない、3階のホールは作業場所であったがそこには大量の木簡と羊皮紙が積まれており、その中からサビナの声がした、ソフィアが何事かとその山を覗くと、サビナとカトカが何やら作業中のようである、

「あ、居た、えっ、何これ?」

ソフィアが木簡の一枚を手に取った、

「あー、それがですねー、聞いて下さいよー」

サビナは泣きそうな悲鳴を上げ、カトカも不満顔でソフィアを見上げる、

「これ全部、学園長が集めた資料らしいんですけどー」

「はい、学園長が集めに集めた服飾の資料らしいです」

「へー、え、これ全部?」

ソフィアは苦笑いとなって木簡の山を見渡す、

「そうなんです、今日、所長と一緒に学園長の所に挨拶にいったら、待ってましたとばかりにこれを全部持っていけって言われてー」

「はい、やっと運び込んで、資料毎に分類を始めたところなのです」

カトカはうーんと伸びをして、サビナも大きく溜息を吐いた、二人は片手に木簡、片手に白墨を手にして黒板に何やら記入している、

「へー、凄いねー、大量だねー」

「そうなんですよ、私思うんですけど、学園長はもう絶対これをやらせる為に今回の話しに乗ったんですよ」

「そうだよねー、何かすんごい嬉しそうな感じだったわー」

「うん、家の倉庫から引っ張り出して来たって笑ってたし」

「事務員さんも薄汚れてたしね、なんか知らんけど睨まれたし・・・」

「うん、確定だよあのジジイ、なんだよ講師を餌にしてー、もー」

「そっかー、あの先生も老獪だねー」

ソフィアは朗らかに笑うが、サビナとカトカはそんなソフィアを力の無い目で見上げ、

「老獪って・・・そう表現すれば何か賢そうに聞こえますけど」

「狡賢いって事ですよ」

「そうだよー、ずる賢いんだよー」

二人はブツブツ言いながら視線を戻す、

「そっか、ま、頑張って」

ソフィアは木簡を元に戻すとアッサリとその場を離れた、

「うー、ソフィアさんに見捨てられたー」

「何言ってるのよ、ソフィアさんも所長と同じ穴の狢なんだから、あれよ、所長とはなんか別の厳しさがあるじゃない」

「そうだけどさー、でも一緒に作業すると面白いよ」

「あー、それは分かる、面白いよねー、陶器板の研究も手伝ってくれないかなー」

「それは、ソフィアさんの分野ではないんじゃない?」

「でも、あ、オリビアさんとかケイスさんとか巻き込むか、生活科と医学部でしょ、そっちでの有効活用を考えるって名目でさ」

「なら、生徒じゃなくて講師か研究員でしょ、巻き込むのは」

「そうだけどさー、生活科の先生は融通効かない感じだし、医学部の連中は自分の研究以外興味無いって感じだしさー」

「そう?医学部の人達は愛想いいわよ」

「そりゃ、あんたにはそうでしょ、私なんか視界にも入らないって感じよ、あの連中」

「え、あれって、私だけだったの?」

「だーかーらー、あんたはモテてる自覚を持ちなさいよ、どんだけ愛想良くしても靡かないんだもん、男共が可哀そうだわ」

「そっか、そういう事だったのか・・・」

「ほんと、そういう事にはグズよね」

「悪かったわねー、でもグズってなによ、酷くない?」

「酷くない、グズはグズよ、でも、あんたが愛想良くしても相手は勘違いするだけだからね、今の状態が丁度いいのかもよ」

「今の状態って・・・フヌー、ま、いっか」

「そうね」

サビナとカトカはブツブツと愚痴りながらそれでもどこか楽しそうに木簡の精査を続けた。



「ユーリいるー」

ソフィアは転送陣を潜り学園の事務室へ顔を出す、

「いるよー、どしたー」

ユーリは以前見た事務机に以前のように座っている、しかし、その周囲には研究所と同じように木簡の山が築かれており、ユーリは数枚の木簡に目を落としている、

「わ、こっちも?」

ソフィアは驚き、

「そうよー、まったく、学園長にはしてやられたわ」

ユーリはどこか楽しそうにニヤついた、

「あら、楽しそうね」

「そりゃね、中々に面白いわよこの資料、服飾の原料っていうのかな生地とか糸とか織り方とかそれと染物の資料もあったわね、それに歴史に関する考察に、ほら、これなんかレースの編み方よ、それも上手いこと手順毎に書かれてて、分かり易いわね・・・うん、この木簡、まとめるだけで立派な教科書になるわ」

「へー、流石学園長ねー」

「まったくだわ」

「あ、これやりたかったやつだ、やっぱりあるんだわ」

ソフィアが近場にあった木簡を見て呟いた、

「え、なに?」

「これよ、パイル織り?ティレル布?うん、この絵を見る限りタロウがやろうとして出来なかった織り方ねー」

ソフィアは木簡に示された簡略化された絵図を注視する、

「へー、それは興味深いわね、タロウさんでも出来なかったの?」

「そりゃそうよ、あの人知識はあるんだけど、実際に作った経験はからっきしって、本人が言ってたわ・・・便利だって言って作り始めるんだけど、成功したのって料理とか単純なものだけだったから、うん、そんなもんよあの人、で、多分だけど、これもそうね」

「へー、そうなんだ、何でも出来そうな人・・・っていうか何でも出来る人って思ってた」

「そうね、あ、でね、これ便利らしいわよ、水の吸水性が高いんだって、すごい気持ちがいいってタロウは言ってたなー、でも確か効率は悪いとかなんとか、それと織機の改良がどうのこうので結局諦めたやつだと思うなー」

「そっか、うーん、それ面白そうね、織物屋にやらせるか、先の話しになるかなー」

「そうね・・・ふーん、何気に宝の山なんじゃない?」

ソフィアは木簡の山へ視線を移す、

「勿論よ、あの先生が何十年かけて集めた資料だからね、サビナはブーブー言ってたけど、若いなサビナも」

「そりゃそうでしょ、さっきもグチグチ言ってたわよ、鍛え方が足りないんじゃない?」

「まぁね、でも、これをまとめ上げる頃には少しはましになってるでしょうよ」

「あんたがそれでいいならいいわ、で、ブラスさんとブノワトさんが来てるけどどうする?」

「あ、行く、図面は・・・向こうか」

ユーリは手にした木簡を机に並べると、サッと席を立った、ソフィアも木簡を元の場所へ戻すと転送陣へ向かい、ユーリは大きく伸びをしつつその後を追った。
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