セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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35話 秋のはじまり その4

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「あー、ほら、お茶入れ直すわねー、冷めちゃったでしょー」

ソフィアはそれぞれの前に置いてある茶に手を伸ばす、それらは一切手が付けられておらず、侘しそうに佇んでいた、

「あ、ごめんなさい、話しに夢中になっちゃって」

ブノワトが慌てて立ち上がると、

「私やりますよ、ほら、コッキーも」

「あ、はい」

ブノワトとコッキーはバタバタと冷めた茶を回収し、

「いいからいいから、座ってなさい」

ソフィアは慌てる二人を宥めつつ回収した茶を持って厨房へ入る、

「ふー、でも、面白いねー、やっぱり考え方が違うのかなー」

ブノワトが木簡に視線を落として呟いた、

「うん、いずれこうなるって分かっている感じだな」

「はい、確かに、この3面の鏡以外はいずれはそうなる商品ばかりのように感じますわね」

「でも、あれでしょ、こうやって伝えて貰わなかったら暫く先になったんじゃない?開発するにしても」

「そうね、それが何年若しくは何十年も縮まった感覚ですわね」

「縮まった感覚かー、なんかそうだよなー、でも、こうなると、いよいよ他の職人も引き込んでいかないとだね、エレイン会長、職人達に引き合わせるのも発注もできるが、どう対応する?」

ブラスがエレインに向き直り、ブノワトもうんうんと頷きながらエレインへ視線を上げる、

「そうですわね、テラさんとも話して、出来ればそうね、実際のガラス鏡を持ってしっかりと説明した上で参画して貰いたいですわね」

「そうだな、いや、そうなると、あれかな、家具にしろ額縁にしろ最終組み立てまでやってもらうかどうかかな・・・」

「どういう事です?」

「うん、商品の流れとして、えっと、この机を作って、その工場でガラスも組み込んでしまうか、出来た机を例えばうちの工場に運んできてガラスを組み込むかってこと・・・」

「そこまでする?手間がかかる分料金上がっちゃわない?」

「でも、品質を管理する点では、最終をこっちでまとめた方がいいと思うぞ」

「なるほど・・・工程ですか・・・」

エレインは難しそうな顔で腕を組む、

「あー、早速打ち合わせ?」

そこへソフィアが戻ってきて、

「ほら、せめて一口くらいは口を付けてよ、折角淹れたのだから」

ニコニコ笑って茶を供する、

「はい、すいません」

皆それぞれに小さく礼を言って茶に手を伸ばした、

「それでと、私としてはこっちが本題なのよねー」

ソフィアも茶を啜りつつ別の木簡を取り出してテーブルに置いた、4人は吸い込まれるようにその木簡へ視線を集中させ、

「えっと、これは?」

「はい、えっ、うーん」

「何か地味・・・」

「そうね、何に使う道具なのです?」

4人はそれぞれに疑問と感想を口にした、絵図を見ただけではその用途を読み取る事は出来ない様子である、

「あー、そうなるよねー、私もね旦那が作ってたのを横で見てただけだから、でも、出来上がったらそれこそ色んな事に使えるわよ、もう何から何まで」

ソフィアはニヤリと笑いつつ、

「えっと、肝になるのはこのばねって言っていいのかどうか私には分からないけど、これをね、ブノワトさんでも作れそうだなーって思ったから思い出したんだけどね」

ソフィアが4人に見せたのは洗濯ばさみの絵図である、2本の木製の棒状の物体を太い針金で連結させその中心に端を伸ばした金属ばねを図示していた、

「このばねは、端をこう伸ばして、真ん中はグルグル巻きにしておくのね、で、端と端はこう角度を付けるのよ、こうするとどうなるか分かる?」

ソフィアはブノワトに問う、

「はい、えっと、え・・・どうなるんだろう?」

「うん、ばねってほら、上下で力を発揮するもんなんじゃないかな?」

ブノワトもブラスも想像出来ない様子であった、

「そうね、私の知っている限りでもそうなのよね、あれでしょ、伸び縮みして使う感じよね」

「そうですね、はい」

「あれです、兄貴が今、回転機構の仕掛けで使ってますね、まだ、完成じゃないって言ってますけど」

「そうよね、でも、これはこういう力が生まれるらしいのよ」

ソフィアは黒板を取り出すとそこへ丸を描いて棒を2本伸ばす、その棒に対して矢印で力の方向を書き記した、

「へー、あ、え、金属の弾性・・・ですか?」

「いや、でも、それだとこの真ん中のグルグルの意味が無いよ、ここで弾性は死んじゃってるじゃん」

「そうだな、ん、ん?」

ブノワトとブラスは流石に本職である、金属の特性を理解しているが故にその形に対して疑問を抱き、エレインとコッキーは何の事やらとポカンとしている、

「ふふ、で、旦那はね、この金属の加工が上手く行かなくて投げちゃったんだけど、実際に作ってみれば分かると思うわ、少なくとも旦那が作った半端な物でもこの矢印のように元に戻ろうとする力はあったから、間違ってはいないのよね」

「へー、そうするとどうなるんです?」

「そうね、つまり矢印の方向に常に力がかかる事になるでしょ、そうすると、この金具を中心にしてこの木でこう三角形を維持しようとするわけよね」

「はい、そうですね」

「そうね、そうすると、ここに色んな物を挟み込めるのよ、それこそ、板から布から、何から何まで、たぶんだけど重いのは難しいでしょうけどね」

「なるほど、確かにそうですね、え、でもこれで何をするんです?」

「あー、それ聞く?それは出来上がってからにしたいかなー」

ソフィアは意地の悪い笑みを浮かべ、

「えっと、どういう事に使うんですか・・・そのちょっとした手掛かりだけでも・・・」

ブラスも引き下がらない、

「そうね、何にでも使えるんじゃない?旦那はあれね、洗濯に使うって言ってたかな?あ、これ以上はダメー」

「洗濯ですか?」

ブラスとブノワトは大きく首を傾げ、コッキーとエレインはいよいよ何の事か分からないといった顔である、

「ま、一度作ってみてよ、私としては上手くいったなら、これの派生で作りたいものがあるしね、とりあえず大きさはお任せするけど、そうねこの金属部分はこの間の下着の金具か、あれくらいの細さが欲しいかな、それに合わせて各部を調整してみて、大丈夫、これは絶対に売れるから、もうウハウハよ」

ソフィアは明るく笑い、

「はい、ソフィアさんがそう言うのであれば・・・」

「そうだね、作ってみるのが先かな・・・」

ブノワトとブラスは理解できないままに頷いた、

「じゃ、もう一個ね、こっちは簡単よ」

ソフィアは別の木簡を取り出すと、二人の前に置いた、

「これもできるだけ薄い金属・・・鉄ね、たぶん、それをこう切り抜いて欲しいのよ」

「あら、こっちは簡単そうですね」

「うん、でもまた歪ですね、なんですこれ?」

その木簡には長細い三角が図示され、その中には細長い矢じりのような物体が書き込まれている、

「まぁまぁ、これも作ってみてよ、大きさはそうね、人差し指くらいかしら、この中のこの部分は抜いてもらたいのね、で、根本の方ね、こっちの大きい方に小さくていいから丸い穴が一つ欲しいかな、で、身体に着けて使うものだから怪我しないように角を落として貰えると嬉しいかなー」

「え、身体に着けるんですか?」

「そうよ、ま、これも別に身体と言わず、何に使ってもいいんだけど、ま、出来てからね、ふふ、こっちも楽しいわよー、あ、で、出来るだけ軽くしたいかな、でも強度は欲しいんだよなー、でもそれも出来てからかな・・・」

「はい、分かりました、これはすぐにでも出来るかな・・・」

「そうだな、薄い鉄板はあるし、今日やるか?」

「そだね・・・」

二人は腕を組んで木簡を睨み、

「よろしくね、ま、いろいろあるけど、それぞれ一個か二個作ってみてよ、どうせ改良しまくる事になるんだし、もう、二人とも若いんだからガンガンやりなさい、あ、エレインさん、これも上手い事いったら売っていいわよ」

「はー、そうですね」

エレインは乗り気では無い様子である、

「あー、エレインさんでも想像できないかー、ま、実物を見ないとなんとも言えないよねー」

ソフィアはニヤニヤと笑い、茶に手を伸ばした。
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