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本編
34話 研究会と講習会 その9
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「こんにちわー」
事務所の玄関先で女声が二つ響いた、実に元気の良い声である、
「はい、いらっしゃーい」
すぐにテラが対応に現れ、
「納品に来ましたー」
「お嬢様来てるのー?」
来客はミナとブノワトである、二人は並んで立ちそれぞれに別の用件を告げ、その後ろにレインが当然のように立っていた、
「はいはい、レアン様とユスティーナ様が来てますよ」
「えっと、お邪魔にならない?」
ミナは上目遣いでテラを見上げる、
「はい、丁度打ち合わせが終わった頃合いでした、どうぞ」
テラがニコリとミナを事務所へ誘い、
「ありがとうー」
ミナは駆け出し、レインも影のように付き従う、
「遊びに来たー」
「なんじゃ、仕事の話しをしていたところじゃぞー」
「えー、テラさんが良いって言ったー」
「こんにちわ、ミナさん」
「ユスティーナ様、こんにちわー」
「む、母上には挨拶するのかー」
「えー、じゃ、お嬢様、こんにちわー」
「ええい、遅いわ」
事務所内にけたたましくも楽し気な声が響いている、
「元気ねー」
ブノワトが笑顔を浮かべ、
「そうですねー」
テラも振り返って微笑んでいる、
「じゃ、こっちを」
ブノワトは手にした木箱をテラへ差し出した、
「はい、えっと、なんでしたっけ」
テラが受け取ると、
「うふ、下着の止め金ですね、先日、アフラさんに依頼されたものです」
「まぁ、それはそれは、早いですね」
テラが木箱を開け確認する、
「わ、小さいですね」
「はい、でも十分使えますよ、実は・・・」
ブノワトがその場で背中を見せると、
「もう使ってます、かなり良いと思います」
「まぁ、どんな感じです?」
「そうですね、緩まないですし痛くも無いですね、それにだいぶ着けやすくなりましたと思います」
「まぁ、うーん、どうしましょう、ユスティーナ様がいらっしゃっているので一緒に話してもいいかしら?」
テラはうーんと悩み、
「そうですね、数はかなり作ってきました、なので、半分をアフラさんへ、半分はこちらで使われては如何でしょう?それと、使って貰って不具合が無いようでしたら、ギルドの講習会へ向けて大量生産しても良いかなと思ってました」
「なるほど・・・分かりました、少々お待ち下さい」
テラは事務所へ戻り、エレインと共に戻ってくる、
「ブノワトさん、忙しい所ありがとうございます」
「こちらこそー」
二人は簡単な挨拶を交わし、
「では、どうぞ、中へ」
エレインはニヤリと笑みを浮かべる、
「えっ、でも、あれでしょ、ユスティーナ様が来てらっしゃるんでしょ」
「はい、そうですよ」
「で、あれば、ほら、私は・・・」
「だからですよ」
ニコリと笑みするエレイン、
「えっと?」
ブノワトが勘づいて誤魔化し笑いを浮かべつつ後ずさりをし始めた瞬間、エレインはサッとブノワトの腕を取ると、
「ガラス鏡協会の会長を紹介しませんとね」
エレインは満面の笑みでブノワトを事務所へ引き摺りこんだのであった。
「ソフィアいるー?」
ソフィアが厨房で買い込んだ品を整理し、さてとと食堂へ入ると丁度良くユーリが3階から降りてきた、
「なにー」
ソフィアが気軽に返事をすると、
「お、お疲れ」
ユーリは手にした木簡やら書類やらをソフィアに見せつけるように掲げると、
「昨日のあれ、時間ある?」
「いいわよー、あ、来客あるかもだから食堂でいい?」
「了解、じゃ、上の二人呼んで来るわ、ちょっと込み入った感じになってきたのよねー、ついでにそっちの話しもしちゃいたいんだわ」
「そ、じゃ、お茶でもいれる?」
「おねがーい」
ユーリは書類を手近なテーブルに置くと階段へ向かい、ソフィアも厨房へと戻る、やがて4人が揃ってテーブルに着くと、
「ではー、議題は三つね」
ユーリが書類を並べ直しながら話し始めた、
「えっと、魔法石の研究手法についての相談と、図面・・・はどうしようかしら、ブラスさんかブノワトさんがいた方がいいかしら?」
「あ、明日二人で来る予定よ」
ソフィアが茶の香りを楽しみながら告げる、
「え、そう?」
「うん、あと、今、事務所にブノワトさんが来てるわね」
「そっか、うーん、なら、明日でいいかな?何しに来るの?」
「作って欲しい品があってね、それの打ち合わせ、あと、ガラス鏡の新商品の相談?」
「あら、それは大変ね、なら、ついでのついでで明日でいいか・・・そうなると・・・議題は二つ、もう一つの議題は美容服飾研究会についてね」
「なんです、それ?」
カトカとサビナが小首を傾げる、
「昨日ね、ジャネットさんが言い出したのよ、学園でもほら例の下着をなんとかせんとならんってなってね、それで相談受けたから事務長と話して来たんだわ」
「へー、早いわねー」
「そりゃね、ちょっと思い当たる事もあったし、で、ある程度方向性が見えたからそれの相談ね」
「それって、私達関係あります?」
サビナが問う、
「お・お・あ・り・なのよ、ま、それは一旦置いておいて、まずは魔法石についてね」
ユーリは茶に手を伸ばして喉を潤すと、
「サビナも読んだでしょ、この報告書」
ユーリは羊皮紙の束をテーブルの中央に置く、
「はい、読みました、良くまとめられてますし、分かり易かったですね」
「そうね、で、相談したいのは今後の研究方針ね、この報告書をクロノスに上げて、向こうの研究所である程度やらせたいと思っているのね、で、現時点で判明している点は、魔法石は様々な物質を吸収出来る事、水と光、それと魔力ね、これは、こちらで分かった事で、他にも吸収可能な物質があるかもだけど、それはまだ未発見、その上で、それを放出する事も出来るという事、はっきり言ってしまえばそれだけなのよね」
ユーリは魔法石に関して判明している事柄を端的にまとめ上げた、
「そうね、そう簡単に言われると、あれって感じだけどその程度なのよね」
ソフィアはなるほどと頷き、
「そうですね、それに付け加えるなら人の扱う魔力で、その制御が可能と言える点でしょうか」
カトカは魔力の種別に関してやや敏感になっている様子である、まるで違う性質を持つという事を身に染みて理解を深めた為であろう、
「そうね、それも大事ね」
「そうなると、炎の・・・赤い魔法石とはまるで別の物質なんでしょうか?」
サビナは腕を組んで考え込む、
「その点もあったわね、あれは言わば放出しか出来ないとも考えられるかしら、でも底が見えないのよね、その熱を発するという事に関しては、いずれ尽きるとは思うんだけど、今のところは向こうの研究でも枯渇したという話しは聞いてないわね、もしかしたら、周辺の魔力を吸収しながら熱に変換しているのかも・・・そう考えると良く出来た物質よね」
「ふーん、でも、あれよ、周辺の魔力はそれほど変化していないと思うわよ、コンロに関しては」
ソフィアが厨房へ視線を向けつつ答える、
「あ、そっか、あんた、自然の魔力も見えるんだっけ」
ユーリが顔を上げてソフィアを見る、
「え、そうなんですか?」
「それって、凄いですね」
「あー、何となく感じられる程度よ、ユーリと変わらないわよ」
「そう?ま、普段使っているソフィアが言うのであれば、そうなのかしら?でも自然の魔力って対流しているものだからね、流れを観測しないと分からないかもね、ま、その観測方法が分からないんだけどもさ」
「そうね、で、どうしたいの?」
ソフィアが議題の本質へと話題を引き戻した、
「うん、でね、まずは、カトカにはこのまま魔力を吸収させる方法と放出する方法の研究を続けてほしいのよ」
ユーリがカトカへ視線を移し、カトカは小さく頷いた、
「方法としては魔法陣の改良になるのかな?今使ってる魔法陣での収集効率はあまり良くないみたいだけど、さっきも言った通り自然の魔力は対流していて枯渇する事は無いって聞いているから、いかに効率良く集められるかが肝になるのかしら」
「そう・・・ですね、しかし、現状の魔法陣ですと・・・あ、そうですね、分かりました」
カトカは現在の問題点を幾つか思い出して、それを改良するのが自身の研究であると思い直して頷いた、
「うん、あれは、私が若い頃・・・今でも若いけど、に作った式だからまるで洗練されてないのよね、参考程度にして新しい式を組むのがいいのかもなって思うけど、ま、後でゆっくり相談しましょう」
ユーリは茶を一口含んでソフィアへと視線を移す、
「若いの?今でも?」
ソフィアはニヤリと笑い、
「若いのよ、なに?あんたまでミナみたいな事言うつもり?」
「えー、何も言ってないでしょー」
「言ってるわよ、その目がね」
ユーリは片眉を上げてソフィアを睨み、
「そうかしら?」
ソフィアは恍けて視線を逸らせた、
「で、ソフィアの方なんだけど、このまま水関連で民間利用の開発って事で御協力頂ける?」
「あら、変に殊勝ね」
「まぁ、あなたは研究所の人員では無いからね」
「そうね、で、民間利用ね」
ソフィアはその単語を意識して強調する、
「そうよ、民間利用」
ユーリも強調しつつ、
「ほら、主婦の目線でどう使うかと、建築物への応用が主になるのかなって思うけど、そういう目線で考えられるのはあなたくらいしかいないしね、それに、ほっといても好きにやるんでしょうから、こちらとしてはその結果を貰うだけでもありがたいかなって思ってね」
「ん、ま、そうね」
ソフィアはうーんと考えて、
「そうなると、クロノスの所で軍事利用?」
「そうなるわね」
「どういう方向でやるつもり?」
「どうと言われると困るけど・・・」
ユーリは一旦言葉を区切り、
「魔法石とこの報告書を向こうに送って、クロノスとリンドさん主導で案を出させようかと思ってた所ね、それと、私達がいない間にあれでしょ溶岩板の調理板、あれ見せたんでしょ?」
「あ、そんな事もありましたね」
「そうだった」
カトカとサビナが思い出し、
「そうね」
とソフィアは頷いた、
「それで、クロノスからあれの開発をこっちでもやれって言われてね、ま、そうなるよなーって感じね、大雑把に聞いたら、やはり軍で使用する為に改良したいって事みたい、ま、当然ね」
「そっか、そうよね」
ソフィアは簡単に同意を示し、
「そうなると、現物とか渡します?」
サビナが問う、
「そうね、試作品を渡して、私の論文は向こうにもあるから、お好きにどうぞでいいかしらって思っているんだけどね」
「なるほど、であれば、特にこちらからする事はないですね」
「うん、というか、試作品を解析すれば好きに出来るわよ、出来なかったらそんな研究所は潰したほうが良いわね、無能に金をかける必要は無いわ」
ユーリは言い切り、
「無能は言い過ぎですよ」
カトカが眉根を寄せる、
「まぁね、一応私の管理下ではあるんだけどね、現状、翻訳作業と赤い魔法石の研究をして貰っているけど今一つなのよね、ま、出来たばかりだからこれからだとも思うし、中心人物がいないのよね、任せられる人がいればいいんだけど・・・カトカ行く?」
「あー、どうでしょう、もう少し研鑽を積みたいかなって思います」
カトカは若干頬を綻ばせつつもすぐに苦い顔となる、
「そう?、私としてもあなたがいないと寂しいのよね、それに大事な右腕を取られるのは嫌だしねー、ま、それはいいんだけど、そういう事でいいかしら?」
「何が?」
「向こうでの軍事方面での活用よ、私らが嫌と言っても向こうではその方向で研究するはずだし、金を出してるのは向こうだから、文句は言えないんだけどね」
「別に構わないわよ、ようは、軍隊生活で便利な道具を作ろうってんでしょ、なら、普通の生活で使っても便利な道具になるわよ、あ、でもあれか、兵器利用が嫌なのかしら?」
「まぁね、私としては兵器利用はあまり考えたくないのよね、でも、そうは言ってもね・・・」
ユーリは渋い顔となり、
「あんたがそう言うならそれでいいわ、私としては別に気にしないかしら・・・」
ソフィアもあまりよい顔ではないにしても理解は示したようである、
「そうね、じゃ、そういう事で、まとめると、カトカは魔力の蓄積に関して続けて研究を、で、ソフィアの方も今まで通りに身近での活用方法を模索して頂戴、それと二人合わせて建築関連と、浄化槽か、魔法石の生成についてもお願いね」
「はい」
カトカは素直に返答し、
「変わらずって事ね」
ソフィアも素直に頷いた。
事務所の玄関先で女声が二つ響いた、実に元気の良い声である、
「はい、いらっしゃーい」
すぐにテラが対応に現れ、
「納品に来ましたー」
「お嬢様来てるのー?」
来客はミナとブノワトである、二人は並んで立ちそれぞれに別の用件を告げ、その後ろにレインが当然のように立っていた、
「はいはい、レアン様とユスティーナ様が来てますよ」
「えっと、お邪魔にならない?」
ミナは上目遣いでテラを見上げる、
「はい、丁度打ち合わせが終わった頃合いでした、どうぞ」
テラがニコリとミナを事務所へ誘い、
「ありがとうー」
ミナは駆け出し、レインも影のように付き従う、
「遊びに来たー」
「なんじゃ、仕事の話しをしていたところじゃぞー」
「えー、テラさんが良いって言ったー」
「こんにちわ、ミナさん」
「ユスティーナ様、こんにちわー」
「む、母上には挨拶するのかー」
「えー、じゃ、お嬢様、こんにちわー」
「ええい、遅いわ」
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「元気ねー」
ブノワトが笑顔を浮かべ、
「そうですねー」
テラも振り返って微笑んでいる、
「じゃ、こっちを」
ブノワトは手にした木箱をテラへ差し出した、
「はい、えっと、なんでしたっけ」
テラが受け取ると、
「うふ、下着の止め金ですね、先日、アフラさんに依頼されたものです」
「まぁ、それはそれは、早いですね」
テラが木箱を開け確認する、
「わ、小さいですね」
「はい、でも十分使えますよ、実は・・・」
ブノワトがその場で背中を見せると、
「もう使ってます、かなり良いと思います」
「まぁ、どんな感じです?」
「そうですね、緩まないですし痛くも無いですね、それにだいぶ着けやすくなりましたと思います」
「まぁ、うーん、どうしましょう、ユスティーナ様がいらっしゃっているので一緒に話してもいいかしら?」
テラはうーんと悩み、
「そうですね、数はかなり作ってきました、なので、半分をアフラさんへ、半分はこちらで使われては如何でしょう?それと、使って貰って不具合が無いようでしたら、ギルドの講習会へ向けて大量生産しても良いかなと思ってました」
「なるほど・・・分かりました、少々お待ち下さい」
テラは事務所へ戻り、エレインと共に戻ってくる、
「ブノワトさん、忙しい所ありがとうございます」
「こちらこそー」
二人は簡単な挨拶を交わし、
「では、どうぞ、中へ」
エレインはニヤリと笑みを浮かべる、
「えっ、でも、あれでしょ、ユスティーナ様が来てらっしゃるんでしょ」
「はい、そうですよ」
「で、あれば、ほら、私は・・・」
「だからですよ」
ニコリと笑みするエレイン、
「えっと?」
ブノワトが勘づいて誤魔化し笑いを浮かべつつ後ずさりをし始めた瞬間、エレインはサッとブノワトの腕を取ると、
「ガラス鏡協会の会長を紹介しませんとね」
エレインは満面の笑みでブノワトを事務所へ引き摺りこんだのであった。
「ソフィアいるー?」
ソフィアが厨房で買い込んだ品を整理し、さてとと食堂へ入ると丁度良くユーリが3階から降りてきた、
「なにー」
ソフィアが気軽に返事をすると、
「お、お疲れ」
ユーリは手にした木簡やら書類やらをソフィアに見せつけるように掲げると、
「昨日のあれ、時間ある?」
「いいわよー、あ、来客あるかもだから食堂でいい?」
「了解、じゃ、上の二人呼んで来るわ、ちょっと込み入った感じになってきたのよねー、ついでにそっちの話しもしちゃいたいんだわ」
「そ、じゃ、お茶でもいれる?」
「おねがーい」
ユーリは書類を手近なテーブルに置くと階段へ向かい、ソフィアも厨房へと戻る、やがて4人が揃ってテーブルに着くと、
「ではー、議題は三つね」
ユーリが書類を並べ直しながら話し始めた、
「えっと、魔法石の研究手法についての相談と、図面・・・はどうしようかしら、ブラスさんかブノワトさんがいた方がいいかしら?」
「あ、明日二人で来る予定よ」
ソフィアが茶の香りを楽しみながら告げる、
「え、そう?」
「うん、あと、今、事務所にブノワトさんが来てるわね」
「そっか、うーん、なら、明日でいいかな?何しに来るの?」
「作って欲しい品があってね、それの打ち合わせ、あと、ガラス鏡の新商品の相談?」
「あら、それは大変ね、なら、ついでのついでで明日でいいか・・・そうなると・・・議題は二つ、もう一つの議題は美容服飾研究会についてね」
「なんです、それ?」
カトカとサビナが小首を傾げる、
「昨日ね、ジャネットさんが言い出したのよ、学園でもほら例の下着をなんとかせんとならんってなってね、それで相談受けたから事務長と話して来たんだわ」
「へー、早いわねー」
「そりゃね、ちょっと思い当たる事もあったし、で、ある程度方向性が見えたからそれの相談ね」
「それって、私達関係あります?」
サビナが問う、
「お・お・あ・り・なのよ、ま、それは一旦置いておいて、まずは魔法石についてね」
ユーリは茶に手を伸ばして喉を潤すと、
「サビナも読んだでしょ、この報告書」
ユーリは羊皮紙の束をテーブルの中央に置く、
「はい、読みました、良くまとめられてますし、分かり易かったですね」
「そうね、で、相談したいのは今後の研究方針ね、この報告書をクロノスに上げて、向こうの研究所である程度やらせたいと思っているのね、で、現時点で判明している点は、魔法石は様々な物質を吸収出来る事、水と光、それと魔力ね、これは、こちらで分かった事で、他にも吸収可能な物質があるかもだけど、それはまだ未発見、その上で、それを放出する事も出来るという事、はっきり言ってしまえばそれだけなのよね」
ユーリは魔法石に関して判明している事柄を端的にまとめ上げた、
「そうね、そう簡単に言われると、あれって感じだけどその程度なのよね」
ソフィアはなるほどと頷き、
「そうですね、それに付け加えるなら人の扱う魔力で、その制御が可能と言える点でしょうか」
カトカは魔力の種別に関してやや敏感になっている様子である、まるで違う性質を持つという事を身に染みて理解を深めた為であろう、
「そうね、それも大事ね」
「そうなると、炎の・・・赤い魔法石とはまるで別の物質なんでしょうか?」
サビナは腕を組んで考え込む、
「その点もあったわね、あれは言わば放出しか出来ないとも考えられるかしら、でも底が見えないのよね、その熱を発するという事に関しては、いずれ尽きるとは思うんだけど、今のところは向こうの研究でも枯渇したという話しは聞いてないわね、もしかしたら、周辺の魔力を吸収しながら熱に変換しているのかも・・・そう考えると良く出来た物質よね」
「ふーん、でも、あれよ、周辺の魔力はそれほど変化していないと思うわよ、コンロに関しては」
ソフィアが厨房へ視線を向けつつ答える、
「あ、そっか、あんた、自然の魔力も見えるんだっけ」
ユーリが顔を上げてソフィアを見る、
「え、そうなんですか?」
「それって、凄いですね」
「あー、何となく感じられる程度よ、ユーリと変わらないわよ」
「そう?ま、普段使っているソフィアが言うのであれば、そうなのかしら?でも自然の魔力って対流しているものだからね、流れを観測しないと分からないかもね、ま、その観測方法が分からないんだけどもさ」
「そうね、で、どうしたいの?」
ソフィアが議題の本質へと話題を引き戻した、
「うん、でね、まずは、カトカにはこのまま魔力を吸収させる方法と放出する方法の研究を続けてほしいのよ」
ユーリがカトカへ視線を移し、カトカは小さく頷いた、
「方法としては魔法陣の改良になるのかな?今使ってる魔法陣での収集効率はあまり良くないみたいだけど、さっきも言った通り自然の魔力は対流していて枯渇する事は無いって聞いているから、いかに効率良く集められるかが肝になるのかしら」
「そう・・・ですね、しかし、現状の魔法陣ですと・・・あ、そうですね、分かりました」
カトカは現在の問題点を幾つか思い出して、それを改良するのが自身の研究であると思い直して頷いた、
「うん、あれは、私が若い頃・・・今でも若いけど、に作った式だからまるで洗練されてないのよね、参考程度にして新しい式を組むのがいいのかもなって思うけど、ま、後でゆっくり相談しましょう」
ユーリは茶を一口含んでソフィアへと視線を移す、
「若いの?今でも?」
ソフィアはニヤリと笑い、
「若いのよ、なに?あんたまでミナみたいな事言うつもり?」
「えー、何も言ってないでしょー」
「言ってるわよ、その目がね」
ユーリは片眉を上げてソフィアを睨み、
「そうかしら?」
ソフィアは恍けて視線を逸らせた、
「で、ソフィアの方なんだけど、このまま水関連で民間利用の開発って事で御協力頂ける?」
「あら、変に殊勝ね」
「まぁ、あなたは研究所の人員では無いからね」
「そうね、で、民間利用ね」
ソフィアはその単語を意識して強調する、
「そうよ、民間利用」
ユーリも強調しつつ、
「ほら、主婦の目線でどう使うかと、建築物への応用が主になるのかなって思うけど、そういう目線で考えられるのはあなたくらいしかいないしね、それに、ほっといても好きにやるんでしょうから、こちらとしてはその結果を貰うだけでもありがたいかなって思ってね」
「ん、ま、そうね」
ソフィアはうーんと考えて、
「そうなると、クロノスの所で軍事利用?」
「そうなるわね」
「どういう方向でやるつもり?」
「どうと言われると困るけど・・・」
ユーリは一旦言葉を区切り、
「魔法石とこの報告書を向こうに送って、クロノスとリンドさん主導で案を出させようかと思ってた所ね、それと、私達がいない間にあれでしょ溶岩板の調理板、あれ見せたんでしょ?」
「あ、そんな事もありましたね」
「そうだった」
カトカとサビナが思い出し、
「そうね」
とソフィアは頷いた、
「それで、クロノスからあれの開発をこっちでもやれって言われてね、ま、そうなるよなーって感じね、大雑把に聞いたら、やはり軍で使用する為に改良したいって事みたい、ま、当然ね」
「そっか、そうよね」
ソフィアは簡単に同意を示し、
「そうなると、現物とか渡します?」
サビナが問う、
「そうね、試作品を渡して、私の論文は向こうにもあるから、お好きにどうぞでいいかしらって思っているんだけどね」
「なるほど、であれば、特にこちらからする事はないですね」
「うん、というか、試作品を解析すれば好きに出来るわよ、出来なかったらそんな研究所は潰したほうが良いわね、無能に金をかける必要は無いわ」
ユーリは言い切り、
「無能は言い過ぎですよ」
カトカが眉根を寄せる、
「まぁね、一応私の管理下ではあるんだけどね、現状、翻訳作業と赤い魔法石の研究をして貰っているけど今一つなのよね、ま、出来たばかりだからこれからだとも思うし、中心人物がいないのよね、任せられる人がいればいいんだけど・・・カトカ行く?」
「あー、どうでしょう、もう少し研鑽を積みたいかなって思います」
カトカは若干頬を綻ばせつつもすぐに苦い顔となる、
「そう?、私としてもあなたがいないと寂しいのよね、それに大事な右腕を取られるのは嫌だしねー、ま、それはいいんだけど、そういう事でいいかしら?」
「何が?」
「向こうでの軍事方面での活用よ、私らが嫌と言っても向こうではその方向で研究するはずだし、金を出してるのは向こうだから、文句は言えないんだけどね」
「別に構わないわよ、ようは、軍隊生活で便利な道具を作ろうってんでしょ、なら、普通の生活で使っても便利な道具になるわよ、あ、でもあれか、兵器利用が嫌なのかしら?」
「まぁね、私としては兵器利用はあまり考えたくないのよね、でも、そうは言ってもね・・・」
ユーリは渋い顔となり、
「あんたがそう言うならそれでいいわ、私としては別に気にしないかしら・・・」
ソフィアもあまりよい顔ではないにしても理解は示したようである、
「そうね、じゃ、そういう事で、まとめると、カトカは魔力の蓄積に関して続けて研究を、で、ソフィアの方も今まで通りに身近での活用方法を模索して頂戴、それと二人合わせて建築関連と、浄化槽か、魔法石の生成についてもお願いね」
「はい」
カトカは素直に返答し、
「変わらずって事ね」
ソフィアも素直に頷いた。
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フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
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