上 下
293 / 1,050
本編

34話 研究会と講習会 その6

しおりを挟む
「こんにちわー」

「あら、いらっしゃい」

「えへへ、来たよー」

翌日、ソフィアとミナとレインは連れ立ってヘッケル工務店を訪れた、ミナが店内へ駆け込み、ソフィアとレインはゆっくりと戸口を潜る、

「おう、ふ、わ、どうしたんです、お揃いで」

店内で棚の整理をしていたらしいブノワトにミナは勢いよく抱き付き、ブノワトはその急襲を受け奇妙な声を発しつつも柔らかく受け止めて明るく3人を出迎えた、

「あーごめんねー、こら、ミナ、走っちゃ駄目でしょ」

「えー、わかったー」

ミナはしぶしぶとブノワトから身を離す、

「大丈夫ですよー、ミナちゃんちっこいし、ねー」

ブノワトは優しく微笑み、

「でしょー、だよねー」

ミナは笑顔で再び抱きついた、

「こら、もう」

ソフィアが渋い顔でミナを睨むが、ミナはブノワトの足に顔を埋めている、ブノワトはそんなミナの頭を撫でまわしつつ、

「どうしたんです、3人さんで来られるとは、また、お裾分けですか?」

ブノワトが申し訳なさそうに小首を傾げる、

「あはは、そうよねー、それはまた今度、今日は木工細工が欲しくてね、買い物帰りに寄ったのよ」

「そうなのー、陛下に上げるのー」

ニコヤカにブノワトを見上げるミナ、実に屈託の無い笑顔である、ブノワトはへいかってと暫し考え、

「えっ、へいかって、えっ」

驚いてミナとソフィアを交互に見比べ、

「陛下ですか?」

ソフィアへ確認し、

「陛下だよ」

不思議そうな顔のミナ、

「陛下よ」

当然のように返すソフィア、

「いやいや、恐れ多いですよー」

悲鳴に似た声を上げるブノワト、

「別にいいでしょ、気のいいおじさんだったじゃない、あっ、おじいさんかしら?」

「いやいや、そういう問題ではないですよ」

「もー、一回会ったんだからいいでしょ、それにリシア様もアフラさんも着けてたし、ほら、ミナ、レイン、選んじゃって」

「分かったー」

「うむ」

ミナとレインが木工細工の並ぶ棚に駆け寄った、

「いや、ソフィアさん、そんな貧乏くさいものを」

ブノワトはオロオロと落ち着きが無い、

「自分が作った物をそんなふうに言っては駄目でしょ」

「そうですけどー」

ソフィアの呆れたような叱責に、ブノワトは困り顔となる、

「あ、これ、可愛いー」

「む、種類が増えておるの、中々に良いな」

「これ、ウサギだー」

「ほう、こっちはなんじゃ、お、魚じゃな、可愛いのー」

「だねー、あ、これ、王妃様のこれがいいー」

「ふむ、お、こっちはどうじゃ?」

「えー、じゃ、これはー」

そんな二人を尻目にミナとレインは楽しそうに棚を漁っている、

「ま、いっか、もー、言ってくれれば作りましたよ、特別に立派なやつ」

「そんな大事にしなくていいわよ」

ソフィアはやれやれと買い物籠を肩から降ろした、

「あ、お茶入れますね」

「あー、かまわないでいいわ、忙しいんじゃない?」

「そうですねー、そこそこです、旦那は忙しくしてますけど、あ、午後に事務所へお邪魔しようかと思ってました、それで・・・あ、アフラさんに言われて作ったものがあるんですよ、ちょっと見て頂けます?」

ブノワトは店の奥へ走ると小さな木箱を持って戻って来る、

「えっと、下着の背中の留め具です」

パカリと開けてソフィアに見せる、

「あら、へー、小さいねー」

「はい、帯革の金具をそのまま小さくしてみました、もっと小さくしてもいいんですけど脆くなりそうで、こんな感じですね」

ブノワトは中の一つを摘まんでソフィアに手渡す、ソフィアはしげしげと観察し、中ほどにある針金をクルクルと回すと、

「なるほどねー、便利そうね、使ってみた?」

「勿論ですよー」

ブノワトは嬉しそうに背中を見せると、

「服の上からなら見た目も変わらないですし、半日程しか試してないですけど金具が痛いって事も無いので、使えるかなーって思いますね、前のように皮を結びつける必要が無いのでその分でもだいぶ楽ですね、それに緩む事も無いのでよりイイ感じです」

「へー、なるほどねー、凄い凄い、あ、ギルドの話し聞いた?」

「はい、昨日の件ですよね、その場に居ました」

「あら、あー、それで急いで作ったの?」

「えへへ、それもあります」

ブノワトはニヤケ笑いを浮かべ、

「逞しいわねー、でも、良い事だわ」

「えへへ」

ニヤケ笑いのまま後ろ頭を掻いた、

「あ、でも、これだけ小さい金属加工が出来るのであれば・・・」

ソフィアはうーんと小首を傾げる、

「え、何ですか、また、何か作ります?」

ブノワトの触覚がソフィアの気紛れに敏感に反応したようである、

「そうね、ばねって作れる?」

「板ばねですか?それとも捩じりばね?」

「えっと、金属でこうグルグル巻になってるやつ」

「捩じりばねですね、できますよ」

「大きさは?これよりもう少し小さく出来ればいいなって思うんだけど」

「あー、どうでしょう、強度の問題もあるので、太さはそれが限界かなって思います、大きさはそのばねに必要な反発力によりますね」

「そっかー、なるほどねー」

ソフィアは金具を弄りながら何やら思案している様子である、

「えっと、どうします?」

ブノワトは楽しそうにソフィアの表情を伺い、

「あー、でもどうだろう、うーん、多分あれね、ブラスさんも巻き込まないと出来ないかしら?」

ソフィアは思考をまとめてそう返した、

「え、やりますよ、できますよ、ドンと来いですよ」

「忙しいでしょ?」

「大丈夫です、ほら、実家の方に投げる分は投げてますし、実は人も増やす予定なんです」

ブノワトはニコニコと楽しそうである、

「あら、それは良かったわね、じゃ、どうしようかしら・・・図面・・・あれば便利よね、私もまとめたいし・・・そうね、ブラスさんと一緒に明日はどう?」

「はい、行きます、行かせて下さい」

ブノワトの鼻息は荒い、

「あら、何よ妙に気合が入っちゃって」

「だって、面白いものなんでしょ?」

「そうね、うん、きっと、売れるわね」

「やっぱりー」

「でも、作れたら、よ、旦那がね作ろうとして出来なかったのがあったから、私も構造は聞いたし、作りかけの物は見たんだけど、うろ覚えなのよね、何とか思い出して・・・そうね、明日までには簡単な図面作ってみるわ、ここで話し出したら長くなっちゃうし」

「そうですね、分かりました、じゃ、明日お邪魔します、午後ですね」

「そうね」

ソフィアは若干悩みつつ予定を組み、ブノワトは分かり易くはしゃいでいる、

「あ、そうだ、ついでで申し訳ないんですけど、相談に乗って頂けます?」

「なに?」

ブノワトは丁度良いとばかりに揉み手になると、

「ガラス鏡の新製品を作りたいと思ってまして、それで何かないかなと」

「新製品?」

「はい、ほら、協会も店舗が出来れば発足しますし、そうなると、店舗に並べるのが3種類だけだと寂しいかなって思いまして・・・」

「あー、そうよねー、でも、最初の内はそんなもんなんじゃないの?」

「そう言われるとなんとも言えなくなっちゃいますけど、今の内から考えておきたいかなって思いまして」

ブノワトは神妙に上目遣いとなる、

「もう、そうね、なら、それも明日でいい?図面を描くほどではないけど、作りたい物がある事はあるのよね」

「やったー、嬉しいです、ありがとうございます」

「もう、ブノワトさんだから言うんだからね、エレインさん達だったら自分で考えろって突っぱねる所だわ」

「えー、また、そんな事言ってー」

「それはそうでしょ、私にとってはあの娘達はまだ生徒だもの、今の内に泣くほど頭を使わせないと世の中に出て苦労するわよ」

「うふ、厳しいですね」

「そうね、ユーリに似てきたかしら」

フンと鼻を鳴らし二人は静かにほくそ笑む、そこへ、

「ソフィー、決まったー」

ミナの甲高い声が店内に響き、

「はいはい、どれー」

「これー」

ミナが両手に木工細工を抱えて駆けてくる、

「こら、走らない」

「でもー」

「でもじゃない、で、これでいいの?」

「うん、あのね、これが陛下でー、これが王妃様、で、これも王妃様で、これが王子様ー」

受付台の上に一つ一つを並べていく、

「あら、王子様のって大きくない?」

「うん、でもレインがねー、これにするのじゃって」

ミナが振り返ると、レインは興味が無さそうにそっぽを向いた、

「そっか、レインが言うならそれでいいわね」

「いい?」

「うん、いいわよ、あ、紐は?」

「あ、忘れてたー、レイン、ヒモー」

ミナはバタバタと棚へ走り、

「こら、走らない」

ソフィアの叱責にピタリと動きを止め、ゆっくりと歩き出す、

「はい、宜しい」

「レーイーンー、ヒーモー」

ミナはゆっくりと間延びした声でレインへ語りかける、

「ええい、聞こえておるわ」

「だってー、ゆっくりって、いーわーれーたー」

「走るなと言われたんじゃ」

「でーもー」

「ミナ、ふざけてないでちゃんと選びなさい」

「わーかーっーたー」

「まったくもう」

ソフィアの溜息が響き、

「もう、ミナちゃん可愛いなー」

ブノワトはニコニコと微笑ましく眺めるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

異世界で趣味(ハンドメイド)のお店を開きます!

ree
ファンタジー
 波乱万丈な人生を送ってきたアラフォー主婦の檜山梨沙。  生活費を切り詰めつつ、細々と趣味を矜持し、細やかなに愉しみながら過ごしていた彼女だったが、突然余命宣告を受ける。  夫や娘は全く関心を示さず、心配もされず、ヤケになった彼女は家を飛び出す。  神様の力でいつの間にか目の前に中世のような風景が広がっていて、そこには普通の人間の他に、二足歩行の耳や尻尾が生えている兎人間?鱗の生えたトカゲ人間?3メートルを超えるでかい人間?その逆の1メートルでずんぐりとした人間?達が暮らしていた。  これは不遇な境遇ながらも健気に生きてきた彼女に与えられたご褒美であり、この世界に齎された奇跡でもある。  ハンドメイドの趣味を超えて、世界に認められるアクセサリー屋になった彼女の軌跡。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...