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本編

33話 王様たちと その9

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「わ、いっぱい人がいるー」

続いてミナが飛び込んできた、前室でソフィアが押さえつけていたが、すっかり興奮状態のミナを押さえ続けるのは難しかった様子である、ソフィアが慌ててミナを捕まえようと転びそうになりながら広間に入り、その後ろにはレインが続いている、

「ん、おお、ミナか、久しぶりだの、息災であったか」

国王が出迎えようと立ち上がるが、ミナは急に足を止め、ソフィアはやっとその両肩を掴んだ、

「おじいさん、ダレー、ミナの事知ってるのー」

不思議そうに国王を見上げるミナ、エレインとブノワトは血の気を無くし、パトリシア達はまぁまぁと微笑んでいる、

「こら、ミナ、忘れたの?」

「うん、知らない人ー」

「あのねー、もう」

流石のソフィアもどうしたものかと困り顔となるが、

「よいよい、ちーっこい頃に会っておるぞ、ミナじゃろう、タロウは何処だ?」

国王は楽しそうにミナに話し掛け、

「タロウ知ってるの?タロウはホーロー中なんだよ、えっとね、フラフラしてるんだってー」

「そうかそうか、放浪中か」

あっはっはと笑う国王、

「ミナさん、ちゃんと紹介しますね、私の父上ですよ」

見かねたパトリシアが席を立ち二人の間に入った、

「リシア様のおとーさん?」

ミナはパトリシアを見上げ、確認の為にソフィアにも視線を向ける、

「そうですよ、御挨拶しなさい」

ソフィアが優しく促すと、

「うん、わかった、えっと、ミナ・カシュパルです、宜しくお願いします」

元気良く頭を下げ、

「うむ、パトリシアの父のボニファースじゃ、陛下と呼ぶがいいぞ」

「ヘーカ?」

「へ・い・か」

「陛下?」

「うん、あってる」

「うん、陛下、ミナです、宜しくね」

ニパーと朗らかな笑みで国王を見上げるミナ、国王もまた満面の笑みで、

「うむ、でかくなったのう、すっかり見違えたぞ」

「えへへ、えっとね、良く食べて、良く遊んで、良く寝るんだよ、タロウが言ってたー」

「そうか、そうか、確かにな、それが一番じゃ、ん、そうだ、良く学びも大事じゃぞ」

国王は人差し指を上げて真面目な顔でミナを見下ろす、

「良く学び?」

「うむ、勉強の事じゃ」

「お勉強は大好きだよー、あのね、あのね、今日は海を見たの、それと、昨日はお魚の勉強をしたの、イソギンチャクが面白いのー、あと、タコとイカと、それとクジラー」

「ほう、物知りじゃのーって、イソギンチャクは魚ではないじゃろう、タコとイカもじゃな、クジラは・・・あれは魚で良かったのか?」

国王は楽しそうに首を傾げ、

「えー、そうなのー」

「そうじゃぞ」

「知らなかったー、エヘヘ」

「そうか、そうか」

仲良く笑い合う二人を見て、一同は自然と頬が緩む、

「それと、もう一人、こちらも大切な友人です、ね、レインさん」

パトリシアがソフィアの背後に立つレインに目配せすると、

「うむ、レインじゃ、宜しくの」

国王以上に偉そうな態度のレインに、国王はニコニコと目を細めるが、その表情はやがて疑問となり、そして確信へと変わった瞬間、力の無い疑問がその口から漏れかける、

「もしや・・・」

「うむ、レインじゃ、宜しくの」

二の句を継がせず全く同じ挨拶を繰り返すレイン、しかし、二度目のそれにはやや力が入っている様子である、ソフィアが違和感に気付きレインを睨むが、レインは常とは変わらぬ気の抜けた顔である、

「そうか、レインか、うむ、宜しくの、国王じゃ」

国王は何かを飲み込んだようで固い表情で静かにそう返した、

「えへへー、ね、ね、海見てきたのー、すんごい広いのよー、こんなー」

唐突にミナがパトリシアに両手を広げて話しだす、

「まぁ、それは良かったですわね」

「うん、あのね、お船がいっぱいだったのー、あとね、兵士のおっちゃんがカッコよかったー」

「そうなんですの、じゃ、そうだ、ほらこっちに、お義母様に紹介しますね、レインさんもいい?」

「うむ、構わんぞ」

パトリシアがミナとレインを二人の王妃に引き合わせる、その隙に国王は音も無くソフィアに近寄り、

「どういうことだ?」

低く短く問いかけた、

「どうとは?」

ソフィアは違和感の正体を瞬時に理解し、国王を訝しげに見上げる、

「あれのことじゃ」

国王はの声は尚、低く静かである、ソフィアはもしかしてと思いつつ、国王とレインとの縁を考えるが特に思い当たる情報はない、また、勿論であるがレインからも聞かされてはいない、恐らくであるが、国王のその地位に由縁があるのであろうか、そうソフィアは勘付くがそれを口にする事は憚られた、いかにソフィアが不躾な人間であろうとも相手は一国の国王である、ソフィアが知るべきで無い事も大いにある、例えそれが大事な養女であるレインとの関係であってもである、そこまでソフィアは瞬時に思考しあまり立ち入るのも問題が生じるであろうと考え、いつものように無難に回避する事とした、

「・・・陛下も知る人でしたか・・・つまり、そういう事です」

ソフィアは曖昧に答えた、

「そうとは?」

「そういう事です」

ボソリボソリと二人は呟く、その会話に気付く者はいない、そして当の二人もお互いの腹の探り合いというよりも、お互いの認識を擦り合わせている様子である、

「・・・それでいいのか?」

「特に悪いことは無い・・・ですかね」

「いや、大事だぞ」

「そうでもないそうですよ」

「ん、それはあの者の意見か?」

「はい、嫌なら私の元にはおりませんでしょう」

「その、失礼は無いのか?」

「楽しんでいるみたいですよ」

「本当か?」

「ホントです」

ソフィアは恍けているのだろうか、国王はその真意を図りかねジロリとソフィアを睨むが、

「まったく、お前さんは目が離せんな」

「そうですか?光栄ですわ」

「ふん、どこまでも韜晦しておれ、危険は無いであろうが、いや、そのように考えるのもおこがましいのかな?」

「どうでしょう、なるようにしかなりませんわね」

「そうか、そういうものか」

「はい、そういうものです」

国王は納得できないにしても理解はしたらしい、ソフィアとしては国王がどう考えようが対応は決まっている、それは対応のしようが無いという意味でであったが、

「陛下ー、陛下ー」

ミナが二人の元へ駆けてきた、二人の静かな密談の合間に、会の中心は調理テーブルに移っていた様子である、王妃二人が楽しそうに紫大理石を覗き込み、ウルジュラは得意気に解説していた、パトリシアはその隣りで余裕の笑みを浮かべている、

「陛下も、あっちいこう、楽しいよ、ね、ね」

ミナは無遠慮に国王の手を取り強引に連れて行こうと引っ張り、

「む、分かった、分かった」

国王は不景気な表情から一転、朗らかな笑みを浮かべてミナに従う、

「ミナ、落ち着きなさい、陛下が困ってますよ」

ソフィアが静かに窘めるが、

「えー、でも、でも」

ミナは引っ張る力を緩めようとはしない、

「ほっほ、大丈夫じゃよ、どれ、見せて貰おうかのう」

国王はミナの力に合わせてたどたどしく歩を進め、

「あのね、お皿に絵を描くの、ニャンコは絶対なのよ」

「ニャンコか、ニャンコは猫の事か?」

「そうだよ、そうだよ」

正に好々爺といった笑顔を見せる国王と、物怖じを知らないミナの取り合わせはなんとも微笑ましい、

「あー、なんか本当の孫見たいだねー」

「そうだねー、あれだね、訓練には丁度いいんじゃないですかー」

ソフィアが苦笑いで二人を見送り、居場所を無くしたブノワトがソフィアの隣りに立った、

「あら、ブノワトさん、緊張してない?大丈夫?」

「大丈夫です、なんか、ミナちゃんのお陰ですねー、肩の荷が下りたというか、無駄な力が抜けたというか・・・」

「そっか、それは良かったわ、ま、抜きすぎは駄目だけど、硬くなりすぎても駄目だしねー」

「はい、その辺はあれです、社会人の緊張感は維持します」

ムンと胸を張るブノワト、ソフィアはそうねと言って微笑んだ。
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