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本編

33話 王様たちと その7

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「取り合えず、一皿完成です、如何でしょうか?」

エレイン達が合流すると、早速調理が試演された、調理テーブルにはパトリシアのみならずメイド達と料理人達迄もが参集して、

「なるほど、これは美しいですね、絵画のようです」

「はい、その上、ニャンコの可愛らしいこと」

「その紫大理石と溶岩板はどのような品なのですか?」

「イチゴの飾り切りとは、考えましたなー」

「えへへ、私、頂きました、美味しかったですよー」

「え、食べたの?」

「ほら、先日パトリシア様にお供した時に」

「えー、私も行きたかったなー」

ワイワイと楽しそうに皿を覗き、調理器具を観察する、

「はいはい、そこまで、こちらの品は今日の為に特別に考案された一品なのですよ」

パトリシアがメイド達を黙らせ、

「ふふん、どうかしら、不自由は無いですか?」

どこか得意気にエレインへ確認する、

「はい、大丈夫ですね、あとは、そうですね、お客様の視線を受けて緊張しないようにしないとですね」

エレインは微笑みつつオリビアとテラへ視線を送る、二人は生真面目に頷き返答とした、

「であれば、そうですね、もう少し作ってもらって、先に試食させて貰いなさい、特別に許可致します」

「え、宜しいんですか?」

料理人であろう男性が驚いて声を上げる、

「そうね、あくまで、試食です、材料は足りますか?」

パトリシアがオリビアに問い、

「はい、余裕を持って用意しております」

静かに答えるオリビア、

「そうね、じゃ、練習も兼ねてお願いできます?」

「はい、喜んで」

オリビアとテラはニコリと微笑み、忙しく手を動かし始め、メイド達と料理人達は小さく歓声を上げるのであった。



「失礼致します」

会場に繋がる控室に出席者が集まり休憩している所へ、一人の執事風の男性が顔を出す、

「あら、ヨリック、お疲れ様」

パトリシアが席を立ち、一同もお喋りを止めて静かになった、

「はい、陛下の準備は済んでおります、出迎えの用意をお願い致します」

執事は恭しく頭を垂れ、

「はい、承りました、皆さん、本番ですよ、アフラ、メイド達の用意を、リンド、全体の指揮をお願いしますね、クロノス様、ほら、腰を上げて」

パトリシアは楽しそうに指示を飛ばし、

「うむ、やれやれ、やっぱりこういう儀式は慣れなくてな」

クロノスは愚痴りながら席を立つ、

「あら、貴族出身だから平気なんじゃなかったの?」

ソフィアがチクリと嫌味を言うと、

「何年前の話しだよ、まったく、あの頃は気楽で良かったよ」

クロノスはやれやれと溜息を吐いた、

「さ、皆さんは私の後ろに、アフラ、体裁を整えて、クロノスは前でしょ、何を隠れておりますの?」

「いや、今日は、お前が主催だろ」

「そういうわけにはいかないんですのよ、ほら、こちらに立ちなさい」

会場の中、大きく開け放たれた扉の側にクロノスとパトリシアが並んで立ち、その斜め後方にエレイン達が整列し、さらにその背後にメイド達が並ぶ、アフラは一人離れその様を検査すると、

「はい、十分かと思います、ヨリック様、お願い致します」

会場外で待つヨリックに耳打ちした、

「了解致しました」

ヨリックは表情を強張らせると一礼し、転送陣を潜る、やがて、

「おう、アフラか久方ぶりだの」

野太い男性の声が響き、会場内の面々に緊張が走る、ニコニコと楽しげなのはパトリシアのみで、クロノスすらなんとも複雑な面相であった、

「まぁ、こちらもだいぶそれなりに見えるようにはなりましたわね」

「そうですよ、母上、だから一度遊びに来ようとお話ししましたでしょう」

「そうですが」

「招かれないと難しいものなのですよ」

「そうは言いますが、では、姉様にはもっと頻繁に招待するように言わなければなりませんね」

男性の後には姦しい女声が響く、やがて、声の主の姿が扉から覗き、エレインはサッと頭を垂れオリビア達もそれに倣って静かに腰を折る、

「ようこそ、いらっしゃいました、お忙しい中玉体をお運び頂き光栄に存じます」

クロノスの恭しい挨拶である、皆神妙に控えているがソフィアだけがその肩を小さく揺らした、

「うむ、ロレンシア公、お招き頂き感謝する」

「は、恐縮であります」

「陛下、御機嫌麗しゅう」

続いてパトリシアの声である、エレイン達は顔を伏している為、賓客達の表情を伺う事は難しかった、

「パトリシア、身体はどうだ、順調か?」

「はい、陛下、すこぶる順調です、皆が必要以上に気をかけてくれますので息が詰まるほどですわ」

「そうか、そうか、それは良かった、お前の事だ、すぐに無理をするからな、息が詰まるほどでやっと普通の淑女と言えるな」

「まぁ、それはどういう意味でしょう」

「そのままじゃよ、なぁ」

鷹揚で大きな笑い声が会場に響いた、

「それで、今日はなにやら見せたいものがあるとの事だが、王妃達まで呼び出すとは余程の事なのであろうな」

「勿論です、陛下、きっとお楽しみ頂けるものと確信致しております」

「ほう、そなたが言うのであれば確かかもな、うん、楽しませてもらうぞ」

再び鷹揚な笑い声が響き、

「さて、後ろの者は?」

「はい、私の友人です、御紹介しても宜しいですか」

「うむ、顔を上げよ、遠慮はいらん」

「ありがとうございます、では、皆さん、楽にして良いですよ」

パトリシアの許しを得て一同は姿勢を正す、パトリシアとクロノスの前にはニコニコと微笑む老人の姿があった、背は高く横幅もある、実に健康的な顔色で、長い白髪を後ろ頭でまとめている、しかし、最も目を引くのは紫色のローブであろう、まだ暑い季節である為薄いそれであるが、その色を纏えるのはこの国では唯一人、国王のみである、さらにその背後には二人の淑女が立ち、その隣りには見た顔が一つだけあった、ウルジュラである、

「こちら、エレイン嬢、ライダー子爵家の御令嬢ですわ」

パトリシアが簡単に紹介し、エレインは優雅に腰を折ると、

「デルフト地方、ライダー子爵家に連なる、エレイン・アル・ライダーでございます、お会いできて大変光栄に存じます」

「うむ、良き友が出来たとパトリシアから聞いている、末長く頼むぞ」

「もったいないお言葉です、身命を賭して永遠の友情を誓います」

エレインの異様に固い返答に、パトリシアは、まぁと驚き、嬉しそうに微笑んだ、

「そうか、そうか」

「では、私から紹介させて頂きます、隣りに控えるのが、オリビア、それとテラでございます、本日は私の従者としまして引き連れました」

エレインが姿勢を正し、オリビアとテラが頭を垂れた、

「その隣りにいるのが、鍛冶職人で私の友人であります、ブノワト嬢」

ブノワトがぎこちなく頭を垂れ、

「そして、その隣りが・・・、えーと、どう紹介するべきか・・・」

エレインが困った顔でソフィアを見る、

「あー、大丈夫よ」

ソフィアはあっけらかんと言い放ち、

「お久しぶりです陛下、ソフィア・カシュパルでございます、お元気そうでなによりです」

ニコリと笑って小さく腰を折る、

「ん?・・・おお、ソフィアか、なんだ、久しぶりだのう、なんだ、どういう事だ」

国王は少しばかり驚いてソフィアを見つめ、

「クロノスに呼ばれたのか?またどういう理由で?」

「何とも・・・そうですね、奇縁が重なってこうなりました、下賤の身でありますが、末席を汚させて頂ければ幸いと思いますわ」

「何を言っている、お前達を冷遇するなどありえん話しだ、それなのに、まったく、クロノス以外の連中はとんと顔を出さんからな、報告は受けているがな、薄情な連中だ」

国王は破顔しつつ、

「いや、懐かしい顔だ、元気そうでなによりだ、少し縮んだか?いや、服のせいか、鎧を来ていないとオナゴだのお主も、お主がいるとなると、あれか、タロウとミナであったか、一緒なのであろう?」

「そうですね、ミナはお邪魔しております、タロウは放浪中です」

「なんと、あいつも良く分らん男だな、ミナはどこだ?」

「はい、海を見たいと、城の見学に行っております」

「そうか、そうか、大きくなったか?」

「そうですね、そのうち、フラッと顔を出すかと思います」

ソフィアと国王の急に始まったなんとも緊張感の無い会話に、エレイン達は勿論、背後に控えるメイド達も驚いたらしい、ポカンと不思議そうにソフィアへ視線が集まった、

「はっはっはっ、そういう事か、これは楽しいの、うむ、客人達もそう固くなる事はないぞ、人を獲って食う趣味はないからな、そうだの、ユラとは面識があるのであったな?」

今度は国王が機嫌良くパトリシアに問う、

「はい、以前、祭り見物に」

「そういう事なら、儂からじゃな、国王じゃ、下々の者は陛下と呼ぶぞ、そう呼んでおけば失礼には当たらんらしい、じゃから、そう呼ぶようにの」

国王はそう言ってエレイン達を見渡した、エレイン達は続けてポカンとした顔をしてしまい、慌てて頭を下げる、

「じゃから、いちいち、頭なぞ下げんで良いわ、での、第2王妃のエフェリーン、第3王妃のマルルースじゃ、それと、ウルジュラじゃな」

国王から何とも雑な紹介を受け、背後に控える二人の淑女がこちらも困った顔で会釈をし、ウルジュラは笑いを堪えて小さく手を振った、

「そうか、そうか、で、パトリシア、どういう趣向じゃ?久しぶりに悪戯にかかってやるぞ」

「まぁ、陛下、それでは、中へ」

パトリシアが国王一行を会場へ招き入れ、エレイン達もその後に続いた。
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