271 / 1,062
本編
32話 幸せなお裾分け その5
しおりを挟む
「だから、レインをいじめないでって言ってるでしょう」
「別にいじめてないでしょ、聞きたいことが山ほどあるだけで」
「それがいじめてるのよ」
「むー、そうだー、ユーリはレインをいじめるなー」
「なんだ、ミナ、仕返しかー」
「仕返しじゃないー、レインをいじめちゃダメなのー」
「なら、ミナをいじめようかなー」
「むー、ソフィー、ユーリがいじめるー」
「もー、こんな可愛いミナをいじめるなんて、やっぱり、ユーリは駄目ね」
「駄目ってなんだよ、いじめてないだろー」
「いじめたー、ユーリは駄目だー、駄目な奴だー」
「だ、駄目はいいけど、奴ってのはどうなのよ」
「じゃ、駄目なおばさん」
「ムキー、おばさん言うなー」
「やだー、ユーリは駄目なおばさんだー」
「なにをー」
やれやれと呆れるレインを尻目に三人はギャーギャーと騒ぎながら、放課後の人気の少ない学園内を闊歩する、一般の生徒達は帰宅し、教師は担当する研究室か自身の事務室へ引き籠っているか、こちらも既に帰宅した者が大半なのであろう、時折人影がよぎるが遠慮なく騒ぐ3人に驚きつつも積極的に近寄る者はいない、
「えっと、ここでいいんだっけ?」
ソフィアが重厚な扉の前で足を止めた、
「そうよ、失礼しまーす」
ユーリが扉を叩き呼び掛ける、やがて、どうぞーと小さい声が聞こえ、ユーリは扉を開いた、
「失礼します」
ユーリも立派な社会人である、どれだけはしゃいだ後でも最低限の礼儀は忘れないらしい、静かに頭を下げて入室する、
「おう、ユーリ先生、どうかしましたか?」
部屋の主は事務机に向かっていた、大量の木簡と羊皮紙が積み重ねられた中に埋もれている、
「お疲れ様です、えーと、ソフィアさんとミナとレインが御挨拶?に来てます」
ユーリは振り返りサッと避ける、
「失礼します」
ソフィアが明るく挨拶し、
「あ、ガクエンチョーセンセーだー、こんにちわー」
ミナがソフィアとユーリの足の間を潜って室内に駆け込んだ、
「あっ、こら」
ソフィアが止める間もない、
「おう、ミナちゃんか、レインちゃんもおるな、急にどうした」
学園長は笑顔で立ち上がり、嬉しそうにミナを出迎えた、
「えっとね、えっとね、お裾分けに来たのー、さっきね、ジムチョーセンセーにもあげたの、それとね、オジギソーのお礼なの」
「そうか、そうか、それは嬉しいのー」
学園長はニコニコとミナの頭を撫で回した、
「えっと、そういうわけなので、ほら、ミナ、レインも」
「うん、あのね、あのね」
ミナは革袋を床に置くと座り込んでメロンを取り出し、
「これがお裾分けのメロンなの」
「ほう、これは立派なメロンじゃのー」
「でしょ、でしょ、あのね、すんごい美味しいの、ミナとレインで育てたの、力作で自信作なの、幻の一品なのよ」
どうやらその文言がお気に入りとなった様子である、
「それは凄いな、流石、実践派のミナちゃんじゃのう、うん、良い香りじゃ、二つもか良いのか?」
「うん、勿論、あのね、リシア様も大絶賛なの、えっと、オーサマ?にも食べさせたいってすんごい褒めてたの」
「ほう、それは凄いのー、そんな良い品を頂けるとは光栄の至りじゃな」
「えへへ、でね、でね、よく冷やして食べるといいの、とっても甘いのよ」
ミナは満面の笑みで学園長に差し出し、学園長は、
「では、遠慮なく頂きますぞ」
とソフィアに目礼しつつ受け取った、
「おう、ズシリと重いのう、なるほど、これは美味しそうじゃ」
学園長の反応をミナは嬉しそうに見上げている、
「ミナ、もう一つあるでしょ」
「そうだ、あのね、干し茸が出来たと思うの、でも、まだ食べてないの、でね、オレーなの、えっと、あ、レイン、レイン」
ミナはワタワタとレインを探し、
「そう慌てるでない」
レインはソフィアの背後からノソリと表れ、
「これじゃな、出来具合を見てほしいのじゃが、どうだろうのう?」
手にした藁籠の蓋を開いて学園長に見せた、
「ほう、これも良いの、うん、うん、十分に乾燥しておるし独特の香りも出ている、嗅いでみたか?ん?」
学園長は干し茸の一つを取ってしげしげと観察し、鼻に押し当てると大きく香りを吸い込んだ、
「そんなに変わるかの?」
「うむ、やはり違うのじゃ、生の茸はあまり臭いはせんじゃろう、しかしの、乾燥させると独特の香りが立つのじゅな、芳醇で奥深い香りじゃぞ」
「へーへー、ミナもいい?」
「勿論じゃ」
学園長が干し茸をミナに渡し、ミナは学園長を真似て鼻に当てる、
「むー、ホントだ、なんか、良い匂いなのかな?埃っぽい感じがするー」
「ほっほっほ、埃っぽいか、かもしれんのう」
学園長は笑い、レインは籠に顔を突っ込んで臭いを嗅ぐ、
「うむ、確かに生とは違う香りだのう」
「そうじゃろう、これも良い出来じゃ」
「そうなの?良かったー」
ミナはピョンと飛び跳ねる、
「どうやって料理するのか伺っても宜しいですか?」
ソフィアがミナの肩を抑えて3人の会話に入った、
「おう、いいぞ、そうだのー、ほれ、座って話そうかの、おーい、茶菓子は・・・」
学園長が嬉しそうに奥に声をかけるが、
「そうじゃ、事務室に戻ったんじゃったな、ほれ、お客人は座っとれ、何か有ったはずじゃ」
学園長はメロンを机に置いてソフィア達を応接スペースに座らせると、奥の部屋に入り、
「何も無いのう、茶しか無かったわ、すまんのう」
「いえいえ、こちらこそ急にお邪魔しましたから」
ソフィアは遠慮し、
「じゃ、私が入れますよ、学園長は座っていてください」
ユーリがスッと腰を上げる、
「それはすまんの、慣れない事をするとまた茶器を割りそうじゃ」
「ええ、聞いてます、事務室では笑い話になってましたよ」
「そんなにか、まったく、茶器も割れないとは不自由じゃのう」
「いやいや、普通は割りません、それも3回も」
「むー、そういうでない」
学園長が苦笑いで席に着いた、
「あら、そんな事があったんですか?」
「む、そんな楽しそうに聞くもんじゃない、なに、たかがコップを3度割っただけじゃ、こう、考え事をしながらな、茶をいれていたらなテーブルから落ちたのじゃ」
「それを、不注意というのですよ、コップって、陶器でしょ、安いものではないでしょう」
「ソフィアさんまでそう言うかのう、形あるものいずれ壊れる、早いか遅いかの違いじゃ、それだけじゃ」
学園長は鼻息を荒くしてしかめっ面となる、
「はいはい、それで、茸の料理方法を教えて頂けます?」
ソフィアは苦笑いで問い、ミナとレインは応接テーブルの上に乱雑に積まれた本へと手を伸ばした、
「そうだったの、えっとな、基本的にはの干し茸は保存食なのじゃな」
学園長が嬉しそうにその知識を披露し、ソフィアはうんうんと傾聴する、茶を持ってきたユーリもその会話に加わり、ミナとレインは楽しそうに書物をとっかえひっかえしていた、
「ま、そういう風でな、で、あれだ、茸の栽培というものも出来るがどうだ興味はあるか?」
「栽培ですか?」
「茸の?」
「うむ、そうじゃのう、収穫できるようになるまで時間がかかるがの、茸が生えるようになれば安定して収穫できるようになるようでの、基本的には放っておけばよいだけじゃからな楽と言えば楽、しかし安定しないようでの、その点で忌避されとるが、うん、あの裏山なら可能かもしれんなぁ」
「へー、どう、レイン、やってみる?」
ソフィアがレインに問うと、レインはフイッと顔を上げ、
「興味深いが・・・ふむ、確か・・・」
レインが思い出したように口を開き、ユーリの視線に気付いて黙り込む、そして、
「うむ、資料があればやぶさかではないぞ、のう、ミナ」
誤魔化すようにミナへ話しを振った、
「ん、なに?なに?」
魔法陣の書かれた書物に夢中となっていたミナは、驚いてキョロキョロと大人達を見上げる、
「茸の栽培じゃ、興味あるじゃろ?」
学園長が優しくミナに問う、
「茸?サイバイって、育てるの?菜園みたいに?」
「そうじゃの、こう、短く切った木に傷をつけてな並べておくのじゃ、それだけなのじゃが、上手くいくと茸がモサモサ生えてくるぞ」
学園長が大袈裟な手振りで説明し、
「へーへー、茸かー、面白そう、出来るかな?」
ミナはソフィアを見上げ、レインを見る、
「そうね、木を切るのは難しそうだけど、何とかなるんじゃない?」
「そうだのう、確かに裏山なら可能かものう」
「そっか、うん、なら、やる」
ミナは元気に宣言し、
「ほっほっほ、ミナちゃんは気持ちがいいのう」
学園長は機嫌よく笑い声を上げた、それから学園長は書類の山の中から栽培手法をまとめた手記を掘り出してソフィアに手渡し、さらに、
「これも進呈しようかの、欲しがっておったじゃろ、博物学の続きじゃ、これが魚類、こっちが鉱物じゃ」
分厚く重厚な革表紙の本を2冊ミナとレインの前に置く、ミナは歓声をあげ、レインはほう、これがそうかと嬉しそうである、しかし、
「え、いや、学園長これは高価すぎますよ」
「そうですよ、玩具ではないのですから」
ソフィアは遠慮し、ユーリは非難する、学園長はそんな二人を冷ややかな視線で一瞥すると、
「人との出会いは縁と言うな、儂はの、書物との出会いも縁だと思っておる、ミナちゃんとレインちゃんの元に先の2冊があるのであれば、残りの2冊もいずれ近寄ってくるであろう、縁とはそういうものじゃよ、さらに、その後の風俗と文化・・・今、執筆しているがな、それもやがて手にするじゃろう、そういうものじゃし、そうであって欲しいと思っておる」
違うかの?と学園長はニヤリと笑い、
「その上で、書は読まれなければならない、そういう存在なのじゃ、であろう?壁に飾って富を自慢するものではないし、革の装丁を並べて楽しむものでもない、人の想いと経験とそれから知識を記した、読まれるべく生まれた品物じゃ、読まれなければいけないし、そうでなければ寂しいものじゃろう、二人はの、しっかりと読んでくれておるからな、著者としては嬉しい限りじゃよ、そうだのう、ユーリ先生は一度でもあの書を開いてくれたかのう?」
学園長はジロリとユーリを睨み、ユーリは乾いた笑いで誤魔化した、
「であろう、なに、ユーリ先生も忙しいからの、それは仕方が無いとも思うが、二人は楽しんでくれておるのだろう?それが何よりも嬉しい、であれば、手にする資格があるというものじゃ、じゃろう?」
訥々と話す学園長にユーリは押し黙り、ソフィアはそういうものなのかな等と考えている、
「ま、腐るものではないからの、大事にして欲しいのう」
学園長がミナに微笑むと、
「うん、勿論、大事にする、宝物にする」
「そうか、そうか、宝物か、嬉しいのう」
学園長は正に好々爺といった笑顔を浮かべ、ミナは魚類の本を胸に抱き、レインは鉱物の本をペラペラと捲って、
「ほう、加工技術も載っておるの、そうだ、錆びない鉄を知っておるかの?」
「錆びない鉄?」
学園長が驚いてレインを見る、
「うむ、タロウが言っておったのじゃが、錆びない鉄があるらしいのじゃ、聞いた事がないかのう?」
「いや、それは初耳だのう、錆びない鉄・・・金でも宝石でも無くてか?」
「うむ、あるらしいのじゃ、お、真珠をこちらに載せるとは難しい所じゃのう」
「そうなのじゃよ、真珠を宝石類としたのじゃが、あれは鉱物では無いと儂も思うのじゃ、何せ貝の中から穿り出すものじゃからな、しかし、その扱いはダイヤと比肩する品じゃからの、宝石類として扱わないとどうにも文化的側面から不適当と思うてな」
レインと学園長があーだこーだと学問的な話題に興じ始め、ユーリはその様を悪い笑みを浮かべながら観察する、ソフィアはどうしたものかしらと困った顔となり、ミナは嬉しそうに魚類の絵を眺めるのであった。
「別にいじめてないでしょ、聞きたいことが山ほどあるだけで」
「それがいじめてるのよ」
「むー、そうだー、ユーリはレインをいじめるなー」
「なんだ、ミナ、仕返しかー」
「仕返しじゃないー、レインをいじめちゃダメなのー」
「なら、ミナをいじめようかなー」
「むー、ソフィー、ユーリがいじめるー」
「もー、こんな可愛いミナをいじめるなんて、やっぱり、ユーリは駄目ね」
「駄目ってなんだよ、いじめてないだろー」
「いじめたー、ユーリは駄目だー、駄目な奴だー」
「だ、駄目はいいけど、奴ってのはどうなのよ」
「じゃ、駄目なおばさん」
「ムキー、おばさん言うなー」
「やだー、ユーリは駄目なおばさんだー」
「なにをー」
やれやれと呆れるレインを尻目に三人はギャーギャーと騒ぎながら、放課後の人気の少ない学園内を闊歩する、一般の生徒達は帰宅し、教師は担当する研究室か自身の事務室へ引き籠っているか、こちらも既に帰宅した者が大半なのであろう、時折人影がよぎるが遠慮なく騒ぐ3人に驚きつつも積極的に近寄る者はいない、
「えっと、ここでいいんだっけ?」
ソフィアが重厚な扉の前で足を止めた、
「そうよ、失礼しまーす」
ユーリが扉を叩き呼び掛ける、やがて、どうぞーと小さい声が聞こえ、ユーリは扉を開いた、
「失礼します」
ユーリも立派な社会人である、どれだけはしゃいだ後でも最低限の礼儀は忘れないらしい、静かに頭を下げて入室する、
「おう、ユーリ先生、どうかしましたか?」
部屋の主は事務机に向かっていた、大量の木簡と羊皮紙が積み重ねられた中に埋もれている、
「お疲れ様です、えーと、ソフィアさんとミナとレインが御挨拶?に来てます」
ユーリは振り返りサッと避ける、
「失礼します」
ソフィアが明るく挨拶し、
「あ、ガクエンチョーセンセーだー、こんにちわー」
ミナがソフィアとユーリの足の間を潜って室内に駆け込んだ、
「あっ、こら」
ソフィアが止める間もない、
「おう、ミナちゃんか、レインちゃんもおるな、急にどうした」
学園長は笑顔で立ち上がり、嬉しそうにミナを出迎えた、
「えっとね、えっとね、お裾分けに来たのー、さっきね、ジムチョーセンセーにもあげたの、それとね、オジギソーのお礼なの」
「そうか、そうか、それは嬉しいのー」
学園長はニコニコとミナの頭を撫で回した、
「えっと、そういうわけなので、ほら、ミナ、レインも」
「うん、あのね、あのね」
ミナは革袋を床に置くと座り込んでメロンを取り出し、
「これがお裾分けのメロンなの」
「ほう、これは立派なメロンじゃのー」
「でしょ、でしょ、あのね、すんごい美味しいの、ミナとレインで育てたの、力作で自信作なの、幻の一品なのよ」
どうやらその文言がお気に入りとなった様子である、
「それは凄いな、流石、実践派のミナちゃんじゃのう、うん、良い香りじゃ、二つもか良いのか?」
「うん、勿論、あのね、リシア様も大絶賛なの、えっと、オーサマ?にも食べさせたいってすんごい褒めてたの」
「ほう、それは凄いのー、そんな良い品を頂けるとは光栄の至りじゃな」
「えへへ、でね、でね、よく冷やして食べるといいの、とっても甘いのよ」
ミナは満面の笑みで学園長に差し出し、学園長は、
「では、遠慮なく頂きますぞ」
とソフィアに目礼しつつ受け取った、
「おう、ズシリと重いのう、なるほど、これは美味しそうじゃ」
学園長の反応をミナは嬉しそうに見上げている、
「ミナ、もう一つあるでしょ」
「そうだ、あのね、干し茸が出来たと思うの、でも、まだ食べてないの、でね、オレーなの、えっと、あ、レイン、レイン」
ミナはワタワタとレインを探し、
「そう慌てるでない」
レインはソフィアの背後からノソリと表れ、
「これじゃな、出来具合を見てほしいのじゃが、どうだろうのう?」
手にした藁籠の蓋を開いて学園長に見せた、
「ほう、これも良いの、うん、うん、十分に乾燥しておるし独特の香りも出ている、嗅いでみたか?ん?」
学園長は干し茸の一つを取ってしげしげと観察し、鼻に押し当てると大きく香りを吸い込んだ、
「そんなに変わるかの?」
「うむ、やはり違うのじゃ、生の茸はあまり臭いはせんじゃろう、しかしの、乾燥させると独特の香りが立つのじゅな、芳醇で奥深い香りじゃぞ」
「へーへー、ミナもいい?」
「勿論じゃ」
学園長が干し茸をミナに渡し、ミナは学園長を真似て鼻に当てる、
「むー、ホントだ、なんか、良い匂いなのかな?埃っぽい感じがするー」
「ほっほっほ、埃っぽいか、かもしれんのう」
学園長は笑い、レインは籠に顔を突っ込んで臭いを嗅ぐ、
「うむ、確かに生とは違う香りだのう」
「そうじゃろう、これも良い出来じゃ」
「そうなの?良かったー」
ミナはピョンと飛び跳ねる、
「どうやって料理するのか伺っても宜しいですか?」
ソフィアがミナの肩を抑えて3人の会話に入った、
「おう、いいぞ、そうだのー、ほれ、座って話そうかの、おーい、茶菓子は・・・」
学園長が嬉しそうに奥に声をかけるが、
「そうじゃ、事務室に戻ったんじゃったな、ほれ、お客人は座っとれ、何か有ったはずじゃ」
学園長はメロンを机に置いてソフィア達を応接スペースに座らせると、奥の部屋に入り、
「何も無いのう、茶しか無かったわ、すまんのう」
「いえいえ、こちらこそ急にお邪魔しましたから」
ソフィアは遠慮し、
「じゃ、私が入れますよ、学園長は座っていてください」
ユーリがスッと腰を上げる、
「それはすまんの、慣れない事をするとまた茶器を割りそうじゃ」
「ええ、聞いてます、事務室では笑い話になってましたよ」
「そんなにか、まったく、茶器も割れないとは不自由じゃのう」
「いやいや、普通は割りません、それも3回も」
「むー、そういうでない」
学園長が苦笑いで席に着いた、
「あら、そんな事があったんですか?」
「む、そんな楽しそうに聞くもんじゃない、なに、たかがコップを3度割っただけじゃ、こう、考え事をしながらな、茶をいれていたらなテーブルから落ちたのじゃ」
「それを、不注意というのですよ、コップって、陶器でしょ、安いものではないでしょう」
「ソフィアさんまでそう言うかのう、形あるものいずれ壊れる、早いか遅いかの違いじゃ、それだけじゃ」
学園長は鼻息を荒くしてしかめっ面となる、
「はいはい、それで、茸の料理方法を教えて頂けます?」
ソフィアは苦笑いで問い、ミナとレインは応接テーブルの上に乱雑に積まれた本へと手を伸ばした、
「そうだったの、えっとな、基本的にはの干し茸は保存食なのじゃな」
学園長が嬉しそうにその知識を披露し、ソフィアはうんうんと傾聴する、茶を持ってきたユーリもその会話に加わり、ミナとレインは楽しそうに書物をとっかえひっかえしていた、
「ま、そういう風でな、で、あれだ、茸の栽培というものも出来るがどうだ興味はあるか?」
「栽培ですか?」
「茸の?」
「うむ、そうじゃのう、収穫できるようになるまで時間がかかるがの、茸が生えるようになれば安定して収穫できるようになるようでの、基本的には放っておけばよいだけじゃからな楽と言えば楽、しかし安定しないようでの、その点で忌避されとるが、うん、あの裏山なら可能かもしれんなぁ」
「へー、どう、レイン、やってみる?」
ソフィアがレインに問うと、レインはフイッと顔を上げ、
「興味深いが・・・ふむ、確か・・・」
レインが思い出したように口を開き、ユーリの視線に気付いて黙り込む、そして、
「うむ、資料があればやぶさかではないぞ、のう、ミナ」
誤魔化すようにミナへ話しを振った、
「ん、なに?なに?」
魔法陣の書かれた書物に夢中となっていたミナは、驚いてキョロキョロと大人達を見上げる、
「茸の栽培じゃ、興味あるじゃろ?」
学園長が優しくミナに問う、
「茸?サイバイって、育てるの?菜園みたいに?」
「そうじゃの、こう、短く切った木に傷をつけてな並べておくのじゃ、それだけなのじゃが、上手くいくと茸がモサモサ生えてくるぞ」
学園長が大袈裟な手振りで説明し、
「へーへー、茸かー、面白そう、出来るかな?」
ミナはソフィアを見上げ、レインを見る、
「そうね、木を切るのは難しそうだけど、何とかなるんじゃない?」
「そうだのう、確かに裏山なら可能かものう」
「そっか、うん、なら、やる」
ミナは元気に宣言し、
「ほっほっほ、ミナちゃんは気持ちがいいのう」
学園長は機嫌よく笑い声を上げた、それから学園長は書類の山の中から栽培手法をまとめた手記を掘り出してソフィアに手渡し、さらに、
「これも進呈しようかの、欲しがっておったじゃろ、博物学の続きじゃ、これが魚類、こっちが鉱物じゃ」
分厚く重厚な革表紙の本を2冊ミナとレインの前に置く、ミナは歓声をあげ、レインはほう、これがそうかと嬉しそうである、しかし、
「え、いや、学園長これは高価すぎますよ」
「そうですよ、玩具ではないのですから」
ソフィアは遠慮し、ユーリは非難する、学園長はそんな二人を冷ややかな視線で一瞥すると、
「人との出会いは縁と言うな、儂はの、書物との出会いも縁だと思っておる、ミナちゃんとレインちゃんの元に先の2冊があるのであれば、残りの2冊もいずれ近寄ってくるであろう、縁とはそういうものじゃよ、さらに、その後の風俗と文化・・・今、執筆しているがな、それもやがて手にするじゃろう、そういうものじゃし、そうであって欲しいと思っておる」
違うかの?と学園長はニヤリと笑い、
「その上で、書は読まれなければならない、そういう存在なのじゃ、であろう?壁に飾って富を自慢するものではないし、革の装丁を並べて楽しむものでもない、人の想いと経験とそれから知識を記した、読まれるべく生まれた品物じゃ、読まれなければいけないし、そうでなければ寂しいものじゃろう、二人はの、しっかりと読んでくれておるからな、著者としては嬉しい限りじゃよ、そうだのう、ユーリ先生は一度でもあの書を開いてくれたかのう?」
学園長はジロリとユーリを睨み、ユーリは乾いた笑いで誤魔化した、
「であろう、なに、ユーリ先生も忙しいからの、それは仕方が無いとも思うが、二人は楽しんでくれておるのだろう?それが何よりも嬉しい、であれば、手にする資格があるというものじゃ、じゃろう?」
訥々と話す学園長にユーリは押し黙り、ソフィアはそういうものなのかな等と考えている、
「ま、腐るものではないからの、大事にして欲しいのう」
学園長がミナに微笑むと、
「うん、勿論、大事にする、宝物にする」
「そうか、そうか、宝物か、嬉しいのう」
学園長は正に好々爺といった笑顔を浮かべ、ミナは魚類の本を胸に抱き、レインは鉱物の本をペラペラと捲って、
「ほう、加工技術も載っておるの、そうだ、錆びない鉄を知っておるかの?」
「錆びない鉄?」
学園長が驚いてレインを見る、
「うむ、タロウが言っておったのじゃが、錆びない鉄があるらしいのじゃ、聞いた事がないかのう?」
「いや、それは初耳だのう、錆びない鉄・・・金でも宝石でも無くてか?」
「うむ、あるらしいのじゃ、お、真珠をこちらに載せるとは難しい所じゃのう」
「そうなのじゃよ、真珠を宝石類としたのじゃが、あれは鉱物では無いと儂も思うのじゃ、何せ貝の中から穿り出すものじゃからな、しかし、その扱いはダイヤと比肩する品じゃからの、宝石類として扱わないとどうにも文化的側面から不適当と思うてな」
レインと学園長があーだこーだと学問的な話題に興じ始め、ユーリはその様を悪い笑みを浮かべながら観察する、ソフィアはどうしたものかしらと困った顔となり、ミナは嬉しそうに魚類の絵を眺めるのであった。
0
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
悪行貴族のはずれ息子【第1部 魔法講師編】
白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン!
★第2部はこちら↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/450916603
「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」
幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。
東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。
本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。
容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。
悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。
さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。
自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。
やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。
アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。
そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…?
◇過去最高ランキング
・アルファポリス
男性HOTランキング:10位
・カクヨム
週間ランキング(総合):80位台
週間ランキング(異世界ファンタジー):43位
隠密スキルでコレクター道まっしぐら
たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。
その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。
しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。
奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。
これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる