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本編

32話 幸せなお裾分け その3

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「まだー、まだー」

食堂でミナがバタバタと走り回る、

「はいはい、今行くから、サンダル持った?」

「持った、ミナのも、レインのも持った、後、メロンも持った」

「茸はー」

「レインが持ってる、早く、早く」

「はいはい、お待たせー」

厨房からソフィアがサンダルを手にして入ってきた、

「遅いー、早くー」

ミナが今にも駆け出しそうにしてピョンピョン飛び跳ね、レインは干し茸を入れた籠を手にしてめんどくさそうにしている、

「慌てないの、じゃ、行くわよ」

ソフィアはミナの頭に手を置いて撫でつけると、何とかミナの興奮が治まりを見せ、3人は階段へ向かった、

「ユーリは戻ってる?」

3階ではサビナの丸っこい背中がさらに丸まって見えており、

「あ、さっき来ました、で、向こうにいるから勝手に来ればだそうです」

ヒョイとサビナが振り返る、

「ありがとー、じゃ、遠慮無く」

「はい、どーぞ」

ソフィア達はサンダルに履き替えて転送室へ向かった、転送室はその名の通りとはいかず、壁際に転送魔法陣が二つ並んでいるが、その他は物置と言って良い有様である、大きな木箱がいくつも重なり、その上にはさらに雑多ななにがしかが置かれている、一月程度しか使っていないはずが妙な埃っぽさまである、

「うわっ、ねー、他に物置作ればー?」

ソフィアが叫ぶと、

「他も、一杯なんですー」

サビナも大声で答えた、

「そっか、ま、いっか」

ソフィアは見なかった事にしようそうしようと心に決め転送陣の一つを潜り、ミナとレインもそれに続いた、

「あら、来たの?」

転送陣の先も小部屋である、そちらも物置部屋と言って問題無い部屋であった、木箱が詰まれ中身が不明の麻袋が転がり、積年の埃と泥汚れの香りが鼻に付く、戸口は転送陣のすぐ脇にあり開け放たれていた、そこを覗くと部屋の主であるユーリが事務机に座って木簡を手にしている、転送先は学園の教師用の個人部屋である、研究室はその機能の全てを寮へと移しており、以前まで使用していた研究室からは追い出され、教師用の事務室が新たに割り当てられたらしい、故にその部屋には研究用途の品は殆ど無く、また研究室と比べて狭く部屋数も少ない、事務用のその部屋と物置部屋があるのみである、その為、その部屋にあるのは教師用の資料と教科書の類だけのようであった、ユーリはその事自体には不満は無いとの事であったが、微妙に扱いが変わったようで居心地が悪くなったと愚痴ってはいた、

「来たわよー」

「ユーリだー、お仕事?」

ミナがソフィアの隣を走り抜けて事務机に貼り付いた、

「お仕事だよー、何だ大荷物だなー」

「そうなの、そうなの、えっとね、お裾分けなの、あと、ガクエンチョーセンセーにお礼なの」

ミナは机に顎を載せてニマーと笑う、

「そっか、何持ってきたの?」

「メロンだよ、あと、干し茸」

「へー、メロンかー、美味しかったもんなー、えーでも、上等過ぎるだろー、私の分はまだあるよねー」

「うんとね、みんなの分はまだあるよ、ユーリの分は知らなーい」

ミナが意地悪そうに微笑む、

「えー、どういう事よそれー、ソフィアー、ミナが虐めるよー」

「えー、虐めてないー、ユーリだからいいんだよー」

「何だよそれー、いじめっ子がいるよー、ソフィア助けてー」

「違うよー、虐めて無いー、ユーリが変な事言ってるー」

ユーリが木簡を投げ出して泣き顔で立ち上がり、ミナは慌てて取り繕う、

「あー、ミナ、ユーリは大事なお友達でしょ、仲良くしなさい、ユーリもミナをからかわないの」

「でも、ミナがー、ミナがー」

ユーリが両手で顔を隠し、泣き声を上げた、

「やー、何もしてないー、ユーリ泣くなー」

ミナがあたふたと慌て始め、ソフィアは二人の遣り取りにやれやれと溜息を吐く、

「ほら、ミナ、ユーリに謝りなさい、メロンならユーリの分もあるでしょ」

「あるけどー」

ソフィアはミナの頭を撫でつつ諭す、

「でしょう?美味しい物は皆で食べればもっと美味しいのよね」

「そうだけどー」

「なら、何て言うの?」

ソフィアが腰を下してミナの目線に自分のそれを合わせる、

「むー、分かったー」

ミナは渋々とユーリを見上げ、

「えっとね、メロンはあるから、ユーリの分もあるから・・・だからみんなで食べよう」

「ホント?」

ユーリは顔を隠したままでか細い声である、

「うん、大丈夫だよ、あとね、スイカもそろそろ良い感じだから、ね」

ミナがそっとユーリの足に手を触れる、

「ホントに?」

「うん」

「じゃ、もう虐めない?」

「虐めてないけど虐めない」

ミナも頑固である、そこは認められないらしい、

「あとね、おばさんって呼ばない?」

「むー、わかった、言わない」

「ホント?」

「ユーリおねえさんって呼ぶ」

「ホントに?」

「うん」

ミナが不承不承であるがコクリと頷いた、途端ユーリはニヤーと下品な笑みでミナを見下ろすと、

「ふふん、ミーナー、言ったなー、もうおばさんとは呼ばせんぞー」

「あー、やっぱり嘘泣きだー、ユーリの癖にー、ユーリの癖にー」

「なんだよそれー、私だって虐められて傷ついたんだぞー」

「嘘だー、絶対嘘だー、ソフィー、ユーリは嘘つきだー」

「あはは、もー、ミナは可愛いなー」

「むー、可愛くないー、ユーリなんか嫌いだー、フンッ」

ミナはポカポカとユーリを叩いて鼻を鳴らしてソッポを向く、

「もー、ほら、行くわよ、先に事務室かしら?今日は忙しいってダナさんが言ってたけど」

「そうねー、卒業の何やらかにやらで忙しくなる時期ねー、それと新入生の対応もあるからね、じゃ、事務室ね」

ユーリが先に立ち、

「ミナ、ほら、機嫌直して、意地悪するからそうなるのよ」

「むー、意地悪してないもん、からかっただけだもん」

「そうねー、でも、みんなの分はあってもミナの分は無いって言われたら、ミナだって嫌でしょう?」

「でも、でも、ユーリだし、大人だしー」

「ユーリでも大人でも駄目よ、私だって可愛いミナからあんなふうに言われたら傷付いちゃうかしら?それに大事なお友達から言われたらミナだって嫌でしょ」

「・・・分かった、気を付ける」

ミナは何とか非を認めたようである、

「そう、なら、いいわよ、じゃ行きましょう」

ソフィアはミナの手を優しく握るとユーリを追って部屋を出るのであった。
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