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本編

32話 幸せなお裾分け その1

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翌日、六花商会の給料日である、前日、事務仕事を全く出来なかったエレインとオリビアは夕食後、テラを巻き込んで大急ぎで給与計算をし、現金をまとめてから就寝する事となり、本日も朝からエレインとテラは再計算と照合に時間を取られた、

「おはようございます」

店舗は休日とした、いつもよりもやや遅い時間に婦人部の面々が集まり、噂で聞いていたのであろう、エレインとテラの容姿の変化に口さがない奥様方は遠慮無く二人を囲んであーだこーだと言いたい放題となる、

「こうなる事は分かっておりましたから、まったくもう」

エレインは少々疲れた顔をしてそう言うと、

「そうですね、生徒達も絶対に欲しがるので、今の内に材料を買い込んでおきましょうか、本日は簡単な打ち合わせと支払いを終えた後に皆さんで作りましょう」

エレインの理解ある言葉に婦人部の面々は歓喜の声を上げ、

「テラさん、一緒に行って材料の助言をお願いします、生徒部さんの分も買って来て下さい、勿論、皆さんの分も、あまり高価な品は選ばないように」

エレインの優しい心遣いにさらに大きな歓喜の声が上がり、テラも嬉しそうに了承して婦人達は連れ立って買い出しに向かった。



「という事で、えっと、みなさんちゃんと聞いてます?」

生徒達が合流して会議の時間となる、テラが正式に商会勤務となった事、ガラス店舗の進捗状況等をエレインが説明し、それにより人員を増やすこと等を報告するが、やはりというか、当然というべきか従業員達の関心は新しい下着を身に着けた者達へ集中している様子である、婦人達はテラの立ち姿をじっくりと観察し、生徒達はオリビアとエレインは勿論、下着を着ける事でより愛らしくなったケイスやパウラに自然と視線が向いてしまう、

「もー、みんな、浮き足立ってない?集中しないと駄目だよー」

「そうそう、折角エレインさんが材料も用意してくれたんだぜ、ここは辛抱しなきゃ」

ジャネットとアニタがあまりの雰囲気の悪さに苦言を呈し、

「そうですよ、気持ちは分かりますが、しっかりやりましょう」

ケイスが従業員を一睨みして、一同は何とか落ち着きをみせたようである、

「はい、では、次に新商品、これは軽食の方ですね、現在、ほぼこれで良いかなと思える品が2種類、開発中の物が1種、これらは涼しくなってくる秋祭り以降に販売していきたいと考えます、できれば今日講習をしておきたかったのですが、そういう感じではないですね・・・ま、仕方がないかと思います」

エレインは大袈裟に溜息を吐くと、

「ですので、別途、次回の会合日に行いたいと思います、それと、こちらは軽食ではないのですが、調理方法を記した木簡を販売しようかと画策しております、こちらもまだまだ構想段階ですが、泡立て器と合わせて料理に使う品として提供していきたいと考えます」

エレインは何か質問はありますかと問い掛ける、

「はい、えっと、その木簡というのは具体的にはどういった品なんですか?」

生徒部の1人が手を上げた、

「そうですね、実際の品が・・・あ、これですね」

エレインは事務机に向かいゴソゴソと木簡を探して、全員に見えるように掲げて見せた、

「カトカさん・・・フォルダー研究所の協力を頂きまして実際に作ってみたのがこれです、これは焼き菓子の作り方、こちらがマヨソースの作り方ですね、見てみて下さい」

2枚の木簡をテーブルの中央に置き、従業員は席を立ってそれを覗き込む、

「このような形で料理の作り方が書かれた木簡を販売したいなと、特に簡単に作れて美味しいものですね」

「なるほど、これは良いわねー、マヨソース?は良くわからないけどこの焼き菓子は想像できるなー、美味しそうねー」

「そっか、もしかして、あれですか?ホイップクリームとカスタードクリームとかもこんな感じで?」

「はい、そのように考えてます、それとソーダ水ですね、皆さん御存知のようにソーダ粉末が必要ですが、その粉末の拡販もできるかなと、それと調理器具ですね、先程も言ったように泡立て器ですとか、大きさを統一した調理用のスプーンですとか、ボールとかもですかね」

エレインの解説に皆一様に頷いて、

「それは嬉しいですね、家でも作りたかったです、泡立て器欲しかったんだよなー」

「そうね、うん、あ、もしかして、コンロとか溶岩板のプレートも販売するんですか?」

「はい、それも現在構想中ですね、コンロは難しいみたいですが、溶岩板の方は研究所さんの方で家庭用の品を開発中です、そちらはもう少し時間がかかるかな?量産できる品では無いようで、ただ、研究所さんでも売り出す事には前向きみたいなのでゆっくり待ちましょう」

「わー、それは嬉しいかもー」

「あー、でも高そうだなー」

「でも、薪がいらないのよ、便利じゃない?薪代かからないし」

「あ、そっか、そう考えると安いのかしら?」

「うー、私、魔力が無いから使えないわー」

「それもあるわねー」

「実家に欲しいなー、弟達にもブロンパン食べさせたいなー」

「自分で食べるんじゃなくて?」

「そりゃ食べるけどさ、ブロンパンだけでも美味しいじゃない、都会の味を教えたいかなーって」

「へー、優しい所あるじゃん」

「あれって、肉とかも焼けるのかしら?」

「あ、先日焼いたよ、うん、野菜とかも焼けたから、普通に使えるみたい」

「え、そうなの、それは凄いなー、便利だねー」

「そうなると、コンロより便利じゃない?」

「うーん、それぞれに利点があると思うなー、ほら、溶岩板だとお湯沸かすのは難しくない?」

「そう?・・・そう言えばそうね」

「調理方法かー、これ私の自信作のも売れるかしら?」

「へ、あんたそんなに料理好きだっけ?」

「そりゃ、人並かもだけどさー、旦那が褒めてくれた料理の一つや二つはあるんだから」

「お世辞じゃない?それか御機嫌取り?」

「あ、ひどーい」

姦しくも前向きな雑談が暫くの間飛び交った、

「はいはい、では、こんな感じです、皆さんには、こういった品の販売は勿論ですが、木簡の作成等で仕事が増えていくと思います、その際には御協力お願いしますね」

エレインがそこで話題を切り上げ、木簡を回収しつつ、

「では、給与の支払いと、そうですね、下着の作成に入りますか、どうせ、待ちきれないんでしょう?」

エレインは意地悪そうにニヤリと笑い、わざとらしく胸を張る、一同もいよいよかとソワソワと落ち着きがない、

「はい、では、オリビアと私は給与の方を、テラさんとパウラさん達は下着の指導をお願いします、試着は2階か厨房を使って下さい、見せたければここでもいいですけどね、皆さん、指導者の話しを良く聞いて作成して下さい、自分の身体に合わないと苦しいだけのようですから」

エレインの忠告が終わるか終わらないかで一同はそれぞれに動き出していた、

「テラさん、で、どういう事なんです?」

「そうそう、服も変えてあるの?」

「アニタもジャネットもカッコイイけど、やっぱオリビアのは凄いよねー」

「そう?私、パウラくらいのがいいなー、どうなってるの?」

「ふふん、まぁ落ち着くのだよ皆の衆」

どうやらジャネットが率先して音頭を取り始めたらしい、それにより落ち着きを取り戻しつつ、作業が始まったようである。
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