266 / 1,050
本編
31話 スイカとメロンと干しブドウ その17
しおりを挟む
「では、新しい文化の創出と平時の王国を祝して、乾杯」
オリビアとテラが店舗の締め作業を終えて合流すると、パトリシアは率先して杯を掲げ、皆楽しそうに乾杯を復唱した、杯は当然のようにソーダ水である、故に皆針仕事の疲れもあってかゴクゴクと飲み干し追加のソーダ水を求め水差しへと手を伸ばした、
「ふー、やはりこの広場は良いですね、涼しくて見晴らしも良いですし、なにより落ち着きます、やはりこの大樹のお陰なのかしら」
パトリシアは優しい笑みで精霊の木を見上げる、
「全くです、外だというのに居心地が良いのですよね、不思議です」
アフラも嬉しそうに手足を伸ばす、
「ふふ、あなたのそれはどうです?見た目はとても美しいですが、苦しくない?」
「そうですね、背筋が伸びる感じで良いですね、それになんだか自分が女性である事を自覚できます」
アフラは自身の胸に視線を落とし、
「私もエレインさんの同盟に入れて頂かないといけないのですが、ふふ、こう、なんというか女性である象徴を身に着けた感じで、なんとも、はい、嬉しいようなむず痒いようなそんな感じです」
「そうね、あなたは顔は綺麗だしスラリとしているのに筋肉も多いから、もてそうでもてないですもんね、こうなったら早く相手を見付けないとね、いつまでも独り身では私の方が気を使いますよ」
「まぁ、リシア様が他人を気遣うなんて、えっと、雨雲はどこかしら?」
アフラがキョロキョロと空を見上げる、
「ま、あなた本当に今日は遠慮が無いわね」
「勿論です、こちらに来たら遠慮はいらないとのおおせでしたので」
「それにしたって、少しばかり辛辣過ぎますわよ」
「そうでしょうか?恐らくあれです、加減が難しいのです」
「そういう事にしておきましょうか、あ、向こうも始まりましたわね、お腹が空きました、遠慮無く頂きましょう」
パトリシアとアフラは仲良く溶岩板の並べられた木箱へ向かった。
「そっかー、外でも使えるんだもんね、薪もいらないし、便利だねー」
ジャネットが溶岩板に並べられジュージューと良い音を立てる鶏肉を見つめて呟いた、
「そうよー、ついでに言えば、雨でも使えるしね、嵐の時は難しいだろうけど」
サビナが冗談めかして笑った、
「そうだよね、あ、そうだ、これで暖も取れる?出来たら便利だなって思うけど」
「あー、どうだろう、出来ない事は無いかなー、火力を最弱にして抱いて寝る感じかしら?それとも懐炉みたいに懐に入れる?そっか、うーん、そういうのもありなのかなー、ほら調理器具として作っているから火力を上げる方向でしか開発して無かったけどね、そっか、暖房か・・・」
ジャネットの発案にサビナは新しい方向性を見出しつつうんうんと悩んでいる、
「この間ねー、実習の時にねー、夜寒くてさー、湖の側で、山からの風が冷たくて、で、見張り番で交代で起きるもんだからゆっくり寝れなくて、これを抱いたら少しは楽になれたかもって思ってみたりして」
エヘヘとジャネットが笑う、
「なるほどねー、所長ー、早速実習の効果が出てますよー」
サビナが楽しそうにユーリを呼びつける、
「なに?何かあった?」
ユーリがフラリと近寄る、
「ジャネットさんが、これで暖房器具を作れないかって、実習の時に夜寒かったらしくて」
「あー、確かにねー」
「そうですよ、先生も寒い寒いって言いながら天幕を襲ってたじゃないですかー」
「え、襲ったって何したんです?」
「別に何も、だって見張り番はたてるわけだし、それで寝てる所を襲われるって事は見張り番が仕事してないって事じゃない?うん、良かったわね私で、これが魔物や夜盗だったら全滅よ」
「あ、そういう事ですか」
「そうだけどさー、だってさー、昼はボロボロになるまで動いて、夜はあれじゃ休まる暇も無かったですよー」
「そりゃそうよ、そういうもんだし」
ジャネットの非難の声もどこ吹く風とユーリは涼しい顔である、
「うん、そういうもんだと思うよ、冒険者の友達が宿屋の有難みとか夜の怖さとか、よく話してるしね」
「でしょー、それに夜盗からしたら若い冒険者なんて良い獲物よ、少ないだろうけど現金は持ってるし、装備は売れるし、女だったら尚更ね、何されるか分かったもんじゃないわ」
ユーリは杯を傾けつつ物騒な事を言う、
「うへー」
ジャネットは呻き声で感情を表した、
「うん、こちらは良い感じに焼けたかな?そっちはどう?」
サビナが隣りで焼きに専念するカトカを見る、
「こっちも良い感じですね、美味しそうです」
「うん、お肉焼けてきましたー、取り皿を持って来て下さーい」
そうして本格的に食事が始まった、
「ほら、レイン、野菜も食べなさい」
「むー、分かっておるわ」
「あ、この葉っぱ美味しい、何か辛いけど美味しい」
「そうなの?」
「それで肉を巻いても美味しいのですよ」
「へー、凄いね、さっき摘んだやつだよね」
「このタレってどうやって作っているんです?魚醤ですよね、でも、臭みが無いですね」
「そうですねー、あれです、魚醤に果物の果汁と沸かしたワインと黒糖とゴマですね、配分は秘密です」
「まぁ、でもそれでこんなに芳醇な味わいになるのですね、これは素晴らしい」
「これ何の肉ー?」
「そっちは鶏肉で、こっちはイノシシの肉ですよー」
「イノシシの肉、美味しー」
「うん、美味しいよねー、あ、それ焼けてないぞ、こっちだ」
「むー、ありがとう」
「外で食べるのって楽しいですねー」
「そうだねー、御屋敷だと中々できないからねー」
「あの、裏の中庭で出来ないかな?」
「どうだろう、リシア様、どうですか?」
「そうね、裏ならやってもいいかしら・・・うん、今度クロノスに聞いてみるわ」
「リシア様、それはどうかと・・・」
「何よ、主がいいって言ったらいいでしょうが」
「そうですが、屋敷の従業員を全員呼ぶとなるとかなりの大人数ですよ、呼ばないとなると軋轢を生みますし・・・」
「あー、そうですよねー、すいません、リシア様、軽率でした」
「もー・・・でも、お茶会程度はできるでしょう、そうね、女だけって事にすれば軋轢とやらも少ないでしょうし」
「そうですが、そうなると男共の嫉妬がまた、めんどくさい事に・・・」
「まったく、人が多いのも問題よねー、みんなで楽しくやるのが楽しいのに」
「それには同意しますが、難しい事は難しいかと」
パトリシアとアフラと側仕えの一人がやれやれと首を振った。
「そうだ、今度従業員を集めてやりたいんですが、どうですか?」
「従業員?生徒達は良いとしても奥様方よね」
「はい、いっその事子供達や旦那さんとか呼んでもいいのかなって、ほら、旦那さん達は職場が一緒なんでしょ」
「なるほどねー、そうなると、リューク商会の方達も呼んでもいいかもね、あ、そうなるとあれかクロノス様にもお声がけが必要になるかしら?」
「あー、そこまでいくと大事ですよねー、あくまで従業員の家族だけって事でどうでしょう?」
「そうね、そういうのも面白そうよね、ま、各家庭でいろいろと事情もありますし難しいかもですが」
「もしやるなら寒くなる前にとも思いますし、場所もここでは申し訳ないかなとも思いますが」
「そうねー、でも事務所では狭いしね、それに御主人様方が来るとなるとお酒が必要になるでしょう」
「それも問題ですね」
「うん、まぁ今の所は仲良くやれてますからね、そうね、機会があれば考えてみましょうか」
「そうですねー」
「イノシシ肉を食べると合宿思い出すわー」
「あー、分かるなー、美味しかったよねー」
「えっそう?私のは妙に硬くてさー、みんなしてこうガジガジしながら食べてたよー」
「え、そうだったの?捌いたのソッチなんだから美味しい所貰えば良かったのに」
「そうだけどさー、先に配り始めちゃってそっちに忙しくてさ、残り物が手元に有ったって感じだったな」
「さすが、医学部は奉仕の精神ですか?」
「いや、段取りが悪いだけだと思うよ、先生達もあたふたしてたし、合宿で普段通りだったのユーリ先生だけじゃない?」
「うーん、あれを普段通りって言っていいのかしら?」
「確かに、寮ではあんなに気さくな人なのにねー」
「うん、鬼だったよね」
「うん、でも、いかにも古強者って感じだったね」
そこかしこで楽し気に食事が進んでいる様子である、笑い声が時折上がり、用意した肉も野菜も底が見えて来ている、
「はいはい、それでは、こちらの品もどうぞー」
ソフィアは頃合いと判断して木箱の上にドンと大きなボールを三つ置いた、中身はシロメンである、茹でて井戸水で締めてあり、氷と共に入れられよく冷やされている、
「初めて食べる方は食べ過ぎに注意です、塩を振るかタレを付けて御賞味下さーい」
「まぁ、あれは美味しいですわよ」
パトリシアが反応し、
「はい、なるほど、冷たいシロメンですか、良さそうです」
アフラも興味津々である、
「へー、なんでしょう、白くて長くて・・・パンの生地みたいですね」
「そうですねー、パンを焼かないで茹でたものとお考え下さい、はい、どうぞ」
ソフィアが小皿に盛り付けて木箱の上に並べていく、
「4本フォークをお使いくださいねー、食べやすいですからー、あ、そうだ、野草を刻んだものを載せても美味しいと思います、そちらはお好みで」
「まぁ、それは美味しそうですわね」
「ふふ、リシア様、これは本当に食べ過ぎに注意です、私やユーリ先生は動けなくなるほど食べてしまいましたのよ」
エレインが嬉しそうにシロメンの皿を手にした、
「まぁ、そんなに美味しいの?」
「はい、なによりも食感と食べやすさが良いのです、ですので、そうですね、その点注意です」
エレインは塩をパラパラと振り掛け、フォークで器用に巻いて口に運んだ、側仕え達はその様子を興味深げに観察している、
「うふ、冷たくて美味しいですわ、焼きシロメンも美味しかったですがこちらもまた格別です」
「あら、では早速」
パトリシアも皿に手を伸ばし、アフラ達もそれに続く、そして思い思いに口に運ぶと、
「まぁ、確かに、冷たくて柔らかくて、なのに弾力もあって不思議なお味です」
「そうね、独特の甘味がありますし、なんでしょう、パンとも小麦の団子とも違いますし」
「これは美味しいです、食べ過ぎるのも分かりますね、ツルツルと入っていきます」
「ふふ、こちらも素晴らしいですね、しかし、冷たくても美味しいとは素晴らしい品ですわね」
「そうですね、じつは暖かいスープで食べても美味しいのですよ、それはまた今度に」
ソフィアはニコリと笑い、パトリシアはまぁと驚いて、
「スープですか、それも興味深いですわね」
「寒くなったら作りましょう」
「ふふ、待ちきれませんわね」
パトリシアは嬉しそうにシロメンをツルツルと口にする、
「さて、では、もう一品、ミナー、レインー、こっちおいでー」
ソフィアはシロメンをカトカに任せると別のボールを取り出した、
「なにー?」
ミナが駆け寄り、その勢いのままソフィアに抱き付く、
「わ、危ないなー」
「えへへ、ごめんなさーい」
ミナは楽しそうに謝罪を口にする、
「うん、じゃ、メロンを切るからね、ミナからみんなに配ってあげて」
「うん、分かったー」
ミナが元気に飛び跳ねる、
「イチゴも添えますからねー、冷たくて美味しいわよー」
「えへへ、楽しみー」
ソフィアは氷水に漬けられたメロンをボールから取り出して食べやすい大きさににカットしていき、皿に並べるとイチゴはヘタを取ってその側に並べた、ミナはその作業をニコニコと眺め、遅れてきたレインも、
「良い色じゃな、これも美味いぞ」
「ホント?この前のより美味しい?」
「それは、どうじゃろうのう、でも、同じくらいに美味しいぞ」
「そっかー、楽しみー」
ミナとレインは小さな皿の上で宝石のように輝く二種の果物をうっとりと見つめる、
「はい、出来たわよ、一皿ずつゆっくりと持っていくのよ、リシア様から、どうぞって」
「うん」
ミナはソフィアから皿を受け取り慎重にパトリシアに近付くと、
「リシア様、メロンとイチゴだよ、えっとね、ミナとレインで育てたの、美味しいよ」
「まぁ、そうなんですの、凄いですわね」
パトリシアは満面の笑みで皿を受け取り、
「素晴らしい輝きですわね、それになんて芳醇な香り、美味しそうね」
「えへへ、あのね、とーーーーっても、美味しいの、幻の一品なの、ね、食べてみて、食べてみて」
「まぁ、分かりましたわ、では、メロンから」
パトリシアはシロメンの皿を木箱に置くとフォークでメロンを突き刺すと口へ運んだ、
「んーー、これは凄いですわ、何ですの、この甘さ、香りも素晴らしいです、メロンの独特の清涼感もあって、なによりこの冷たさが良いですわ、これは素晴らしいですわ」
「えへへ、やったー」
パトリシアの歓声とミナの歓喜の声が夕刻の裏山に響き渡る、アフラと側仕え達も驚いて二人をみつめ、ソフィア達は暖かい笑顔となるのであった。
オリビアとテラが店舗の締め作業を終えて合流すると、パトリシアは率先して杯を掲げ、皆楽しそうに乾杯を復唱した、杯は当然のようにソーダ水である、故に皆針仕事の疲れもあってかゴクゴクと飲み干し追加のソーダ水を求め水差しへと手を伸ばした、
「ふー、やはりこの広場は良いですね、涼しくて見晴らしも良いですし、なにより落ち着きます、やはりこの大樹のお陰なのかしら」
パトリシアは優しい笑みで精霊の木を見上げる、
「全くです、外だというのに居心地が良いのですよね、不思議です」
アフラも嬉しそうに手足を伸ばす、
「ふふ、あなたのそれはどうです?見た目はとても美しいですが、苦しくない?」
「そうですね、背筋が伸びる感じで良いですね、それになんだか自分が女性である事を自覚できます」
アフラは自身の胸に視線を落とし、
「私もエレインさんの同盟に入れて頂かないといけないのですが、ふふ、こう、なんというか女性である象徴を身に着けた感じで、なんとも、はい、嬉しいようなむず痒いようなそんな感じです」
「そうね、あなたは顔は綺麗だしスラリとしているのに筋肉も多いから、もてそうでもてないですもんね、こうなったら早く相手を見付けないとね、いつまでも独り身では私の方が気を使いますよ」
「まぁ、リシア様が他人を気遣うなんて、えっと、雨雲はどこかしら?」
アフラがキョロキョロと空を見上げる、
「ま、あなた本当に今日は遠慮が無いわね」
「勿論です、こちらに来たら遠慮はいらないとのおおせでしたので」
「それにしたって、少しばかり辛辣過ぎますわよ」
「そうでしょうか?恐らくあれです、加減が難しいのです」
「そういう事にしておきましょうか、あ、向こうも始まりましたわね、お腹が空きました、遠慮無く頂きましょう」
パトリシアとアフラは仲良く溶岩板の並べられた木箱へ向かった。
「そっかー、外でも使えるんだもんね、薪もいらないし、便利だねー」
ジャネットが溶岩板に並べられジュージューと良い音を立てる鶏肉を見つめて呟いた、
「そうよー、ついでに言えば、雨でも使えるしね、嵐の時は難しいだろうけど」
サビナが冗談めかして笑った、
「そうだよね、あ、そうだ、これで暖も取れる?出来たら便利だなって思うけど」
「あー、どうだろう、出来ない事は無いかなー、火力を最弱にして抱いて寝る感じかしら?それとも懐炉みたいに懐に入れる?そっか、うーん、そういうのもありなのかなー、ほら調理器具として作っているから火力を上げる方向でしか開発して無かったけどね、そっか、暖房か・・・」
ジャネットの発案にサビナは新しい方向性を見出しつつうんうんと悩んでいる、
「この間ねー、実習の時にねー、夜寒くてさー、湖の側で、山からの風が冷たくて、で、見張り番で交代で起きるもんだからゆっくり寝れなくて、これを抱いたら少しは楽になれたかもって思ってみたりして」
エヘヘとジャネットが笑う、
「なるほどねー、所長ー、早速実習の効果が出てますよー」
サビナが楽しそうにユーリを呼びつける、
「なに?何かあった?」
ユーリがフラリと近寄る、
「ジャネットさんが、これで暖房器具を作れないかって、実習の時に夜寒かったらしくて」
「あー、確かにねー」
「そうですよ、先生も寒い寒いって言いながら天幕を襲ってたじゃないですかー」
「え、襲ったって何したんです?」
「別に何も、だって見張り番はたてるわけだし、それで寝てる所を襲われるって事は見張り番が仕事してないって事じゃない?うん、良かったわね私で、これが魔物や夜盗だったら全滅よ」
「あ、そういう事ですか」
「そうだけどさー、だってさー、昼はボロボロになるまで動いて、夜はあれじゃ休まる暇も無かったですよー」
「そりゃそうよ、そういうもんだし」
ジャネットの非難の声もどこ吹く風とユーリは涼しい顔である、
「うん、そういうもんだと思うよ、冒険者の友達が宿屋の有難みとか夜の怖さとか、よく話してるしね」
「でしょー、それに夜盗からしたら若い冒険者なんて良い獲物よ、少ないだろうけど現金は持ってるし、装備は売れるし、女だったら尚更ね、何されるか分かったもんじゃないわ」
ユーリは杯を傾けつつ物騒な事を言う、
「うへー」
ジャネットは呻き声で感情を表した、
「うん、こちらは良い感じに焼けたかな?そっちはどう?」
サビナが隣りで焼きに専念するカトカを見る、
「こっちも良い感じですね、美味しそうです」
「うん、お肉焼けてきましたー、取り皿を持って来て下さーい」
そうして本格的に食事が始まった、
「ほら、レイン、野菜も食べなさい」
「むー、分かっておるわ」
「あ、この葉っぱ美味しい、何か辛いけど美味しい」
「そうなの?」
「それで肉を巻いても美味しいのですよ」
「へー、凄いね、さっき摘んだやつだよね」
「このタレってどうやって作っているんです?魚醤ですよね、でも、臭みが無いですね」
「そうですねー、あれです、魚醤に果物の果汁と沸かしたワインと黒糖とゴマですね、配分は秘密です」
「まぁ、でもそれでこんなに芳醇な味わいになるのですね、これは素晴らしい」
「これ何の肉ー?」
「そっちは鶏肉で、こっちはイノシシの肉ですよー」
「イノシシの肉、美味しー」
「うん、美味しいよねー、あ、それ焼けてないぞ、こっちだ」
「むー、ありがとう」
「外で食べるのって楽しいですねー」
「そうだねー、御屋敷だと中々できないからねー」
「あの、裏の中庭で出来ないかな?」
「どうだろう、リシア様、どうですか?」
「そうね、裏ならやってもいいかしら・・・うん、今度クロノスに聞いてみるわ」
「リシア様、それはどうかと・・・」
「何よ、主がいいって言ったらいいでしょうが」
「そうですが、屋敷の従業員を全員呼ぶとなるとかなりの大人数ですよ、呼ばないとなると軋轢を生みますし・・・」
「あー、そうですよねー、すいません、リシア様、軽率でした」
「もー・・・でも、お茶会程度はできるでしょう、そうね、女だけって事にすれば軋轢とやらも少ないでしょうし」
「そうですが、そうなると男共の嫉妬がまた、めんどくさい事に・・・」
「まったく、人が多いのも問題よねー、みんなで楽しくやるのが楽しいのに」
「それには同意しますが、難しい事は難しいかと」
パトリシアとアフラと側仕えの一人がやれやれと首を振った。
「そうだ、今度従業員を集めてやりたいんですが、どうですか?」
「従業員?生徒達は良いとしても奥様方よね」
「はい、いっその事子供達や旦那さんとか呼んでもいいのかなって、ほら、旦那さん達は職場が一緒なんでしょ」
「なるほどねー、そうなると、リューク商会の方達も呼んでもいいかもね、あ、そうなるとあれかクロノス様にもお声がけが必要になるかしら?」
「あー、そこまでいくと大事ですよねー、あくまで従業員の家族だけって事でどうでしょう?」
「そうね、そういうのも面白そうよね、ま、各家庭でいろいろと事情もありますし難しいかもですが」
「もしやるなら寒くなる前にとも思いますし、場所もここでは申し訳ないかなとも思いますが」
「そうねー、でも事務所では狭いしね、それに御主人様方が来るとなるとお酒が必要になるでしょう」
「それも問題ですね」
「うん、まぁ今の所は仲良くやれてますからね、そうね、機会があれば考えてみましょうか」
「そうですねー」
「イノシシ肉を食べると合宿思い出すわー」
「あー、分かるなー、美味しかったよねー」
「えっそう?私のは妙に硬くてさー、みんなしてこうガジガジしながら食べてたよー」
「え、そうだったの?捌いたのソッチなんだから美味しい所貰えば良かったのに」
「そうだけどさー、先に配り始めちゃってそっちに忙しくてさ、残り物が手元に有ったって感じだったな」
「さすが、医学部は奉仕の精神ですか?」
「いや、段取りが悪いだけだと思うよ、先生達もあたふたしてたし、合宿で普段通りだったのユーリ先生だけじゃない?」
「うーん、あれを普段通りって言っていいのかしら?」
「確かに、寮ではあんなに気さくな人なのにねー」
「うん、鬼だったよね」
「うん、でも、いかにも古強者って感じだったね」
そこかしこで楽し気に食事が進んでいる様子である、笑い声が時折上がり、用意した肉も野菜も底が見えて来ている、
「はいはい、それでは、こちらの品もどうぞー」
ソフィアは頃合いと判断して木箱の上にドンと大きなボールを三つ置いた、中身はシロメンである、茹でて井戸水で締めてあり、氷と共に入れられよく冷やされている、
「初めて食べる方は食べ過ぎに注意です、塩を振るかタレを付けて御賞味下さーい」
「まぁ、あれは美味しいですわよ」
パトリシアが反応し、
「はい、なるほど、冷たいシロメンですか、良さそうです」
アフラも興味津々である、
「へー、なんでしょう、白くて長くて・・・パンの生地みたいですね」
「そうですねー、パンを焼かないで茹でたものとお考え下さい、はい、どうぞ」
ソフィアが小皿に盛り付けて木箱の上に並べていく、
「4本フォークをお使いくださいねー、食べやすいですからー、あ、そうだ、野草を刻んだものを載せても美味しいと思います、そちらはお好みで」
「まぁ、それは美味しそうですわね」
「ふふ、リシア様、これは本当に食べ過ぎに注意です、私やユーリ先生は動けなくなるほど食べてしまいましたのよ」
エレインが嬉しそうにシロメンの皿を手にした、
「まぁ、そんなに美味しいの?」
「はい、なによりも食感と食べやすさが良いのです、ですので、そうですね、その点注意です」
エレインは塩をパラパラと振り掛け、フォークで器用に巻いて口に運んだ、側仕え達はその様子を興味深げに観察している、
「うふ、冷たくて美味しいですわ、焼きシロメンも美味しかったですがこちらもまた格別です」
「あら、では早速」
パトリシアも皿に手を伸ばし、アフラ達もそれに続く、そして思い思いに口に運ぶと、
「まぁ、確かに、冷たくて柔らかくて、なのに弾力もあって不思議なお味です」
「そうね、独特の甘味がありますし、なんでしょう、パンとも小麦の団子とも違いますし」
「これは美味しいです、食べ過ぎるのも分かりますね、ツルツルと入っていきます」
「ふふ、こちらも素晴らしいですね、しかし、冷たくても美味しいとは素晴らしい品ですわね」
「そうですね、じつは暖かいスープで食べても美味しいのですよ、それはまた今度に」
ソフィアはニコリと笑い、パトリシアはまぁと驚いて、
「スープですか、それも興味深いですわね」
「寒くなったら作りましょう」
「ふふ、待ちきれませんわね」
パトリシアは嬉しそうにシロメンをツルツルと口にする、
「さて、では、もう一品、ミナー、レインー、こっちおいでー」
ソフィアはシロメンをカトカに任せると別のボールを取り出した、
「なにー?」
ミナが駆け寄り、その勢いのままソフィアに抱き付く、
「わ、危ないなー」
「えへへ、ごめんなさーい」
ミナは楽しそうに謝罪を口にする、
「うん、じゃ、メロンを切るからね、ミナからみんなに配ってあげて」
「うん、分かったー」
ミナが元気に飛び跳ねる、
「イチゴも添えますからねー、冷たくて美味しいわよー」
「えへへ、楽しみー」
ソフィアは氷水に漬けられたメロンをボールから取り出して食べやすい大きさににカットしていき、皿に並べるとイチゴはヘタを取ってその側に並べた、ミナはその作業をニコニコと眺め、遅れてきたレインも、
「良い色じゃな、これも美味いぞ」
「ホント?この前のより美味しい?」
「それは、どうじゃろうのう、でも、同じくらいに美味しいぞ」
「そっかー、楽しみー」
ミナとレインは小さな皿の上で宝石のように輝く二種の果物をうっとりと見つめる、
「はい、出来たわよ、一皿ずつゆっくりと持っていくのよ、リシア様から、どうぞって」
「うん」
ミナはソフィアから皿を受け取り慎重にパトリシアに近付くと、
「リシア様、メロンとイチゴだよ、えっとね、ミナとレインで育てたの、美味しいよ」
「まぁ、そうなんですの、凄いですわね」
パトリシアは満面の笑みで皿を受け取り、
「素晴らしい輝きですわね、それになんて芳醇な香り、美味しそうね」
「えへへ、あのね、とーーーーっても、美味しいの、幻の一品なの、ね、食べてみて、食べてみて」
「まぁ、分かりましたわ、では、メロンから」
パトリシアはシロメンの皿を木箱に置くとフォークでメロンを突き刺すと口へ運んだ、
「んーー、これは凄いですわ、何ですの、この甘さ、香りも素晴らしいです、メロンの独特の清涼感もあって、なによりこの冷たさが良いですわ、これは素晴らしいですわ」
「えへへ、やったー」
パトリシアの歓声とミナの歓喜の声が夕刻の裏山に響き渡る、アフラと側仕え達も驚いて二人をみつめ、ソフィア達は暖かい笑顔となるのであった。
0
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~
夢・風魔
ファンタジー
高校二年生最後の日。由樹空(ゆうきそら)は同じクラスの男子生徒と共に異世界へと召喚された。
全員の適正職業とスキルが鑑定され、空は「空気師」という職業と「空気清浄」というスキルがあると判明。
花粉症だった空は歓喜。
しかし召喚主やクラスメイトから笑いものにされ、彼はひとり森の中へ置いてけぼりに。
(アレルギー成分から)生き残るため、スキルを唱え続ける空。
モンスターに襲われ樹の上に逃げた彼を、美しい二人のエルフが救う。
命を救って貰ったお礼にと、森に漂う瘴気を浄化することになった空。
スキルを使い続けるうちにレベルはカンストし、そして新たに「空気操作」のスキルを得る。
*作者は賢くありません。作者は賢くありません。だいじなことなのでもう一度。作者は賢くありません。バカです。
*小説家になろう・カクヨムでも公開しております。
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜
楠ノ木雫
ファンタジー
孤児院で暮らしていた女の子リンティの元へ、とある男達が訪ねてきた。その者達が所持していたものには、この国の紋章が刻まれていた。そう、この国の皇城から来た者達だった。その者達は、この国の皇女を捜しに来ていたようで、リンティを見た瞬間間違いなく彼女が皇女だと言い出した。
言い合いになってしまったが、リンティは皇城に行く事に。だが、この国の皇帝の二つ名が〝冷血の最強皇帝〟。そして、タイミング悪く首を撥ねている瞬間を目の当たりに。
こんな無慈悲の皇帝が自分の父。そんな事実が信じられないリンティ。だけど、あれ? 皇帝が、ぬいぐるみをプレゼントしてくれた?
リンティがこの城に来てから、どんどん皇帝がおかしくなっていく姿を目の当たりにする周りの者達も困惑。一体どうなっているのだろうか?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
異世界で趣味(ハンドメイド)のお店を開きます!
ree
ファンタジー
波乱万丈な人生を送ってきたアラフォー主婦の檜山梨沙。
生活費を切り詰めつつ、細々と趣味を矜持し、細やかなに愉しみながら過ごしていた彼女だったが、突然余命宣告を受ける。
夫や娘は全く関心を示さず、心配もされず、ヤケになった彼女は家を飛び出す。
神様の力でいつの間にか目の前に中世のような風景が広がっていて、そこには普通の人間の他に、二足歩行の耳や尻尾が生えている兎人間?鱗の生えたトカゲ人間?3メートルを超えるでかい人間?その逆の1メートルでずんぐりとした人間?達が暮らしていた。
これは不遇な境遇ながらも健気に生きてきた彼女に与えられたご褒美であり、この世界に齎された奇跡でもある。
ハンドメイドの趣味を超えて、世界に認められるアクセサリー屋になった彼女の軌跡。
いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!
果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。
次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった!
しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……?
「ちくしょう! 死んでたまるか!」
カイムは、殺されないために努力することを決める。
そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る!
これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。
本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています
他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる